110『女好き、初?の人魚と出会う』
「…来た」
「くぅ〜…感慨深いね、ナミさん!」
「ええ…何だか懐かしくも思えるわ」
「とうとう来たんだ、ここまで!!」
スリラーバークを発ってから数日後、私達の目の前には巨大な見渡す限りの絶壁、『
これで
「私は
「…へへ、でもその時と違って、今は私達の仲間だもんね!」
ロビンににひひ、と笑いかければ彼女も珍しく満面の笑みで応えてくれた。美しい可愛さ…二刀流…!?
「キャハ、私も
「なんだお前もか?私も生まれは
「
それにしても、やっぱりペローナちゃんにとってモリアは親みたいなものなのか。きちんと挨拶出来て良かった良かった。
「世界をもう半周した場所でこの壁はもう1度見る事になる。…その時は、おれは海賊王だ!!ししし!」
「じゃ、私はその夢の道を補佐しながらハーレム女王になるよ!」
「補佐っつーかお前、気が変わって海賊王になりたいとか言い出せば誰も止められねェだろ」
「何を言っとるかねウソップ君。私にそんな気は無いし…仮にその気持ちが芽生えたとしても、海賊王になる為の道でルフィと戦ったって私は勝てないよ」
逆にルフィがハーレム王になるとか言い出しても、私は絶対負けない。
本気で目指してる夢がある人は強いからね。
「それで、こっからどうすんだ、魚人島は海底にあるんだろ?」
「ええ…
「それなら、良いのがあるじゃねェか」
フランキーの言葉に、私は首を傾げた。
ーーーーーーー
「そういえばあったね、これ」
海中に沈んでいく『シャークサブマージ3号』を見ながら私は呟く。
確かサニー号初日にフランキーがソルジャードックシステムの説明をしてくれて、その時に見た“潜水艦”だ。
これで海底を探索して魚人島への入口を見つけようって腹である。
潜水艦に乗っているのはルフィ、ロビン、ブルック。
くじで決めた事とはいえ、潜水艦に能力者が3人も乗るというヤバい事態になってしまった。せめてロビンだけでも私と代わってもらおうと思ったけど、ロビンにやんわりと断られてしまったのだ。無念…。
「あー、心配だなぁロビン…」
「そんなに心配なら私が海に落としてやろうか?ホロホロホロ…」
「キャハ、始まったわ、ペロちゃんの口だけ威嚇」
「いい加減、お前にも私の恐ろしさを味合わせてやらないとな!!ネガティブ…」
ぺしん、とナミさんがペローナの頭を軽く叩いて中断させる。
「て、てめェ!誰の頭を…ひ!」
「ペローナ、ここはもう「海軍本部」と世界政府の聖地、“マリージョア”のすぐそばよ。…騒いじゃダメじゃない」
言葉は柔らかいけど顔が怖いよナミさん!
ペローナも速攻で「ごめんなさい!」と謝り、胸を押さえて深呼吸していた。うーん、だけど嫁達の絡みは何を見ても癒されるなぁ…眼福眼福。
「そっちはどお?ロビン」
『ダメね…真っ暗で』
『真っ暗だー!うひゃー!おいおいアレ今なんか光ったぞ!』
『うわーっ!怪物の目玉では!?死ぬーっ!!って、私もう死んでました!ヨホホホホ!!』
ナミさんの持つ電伝虫から騒がしい声が聞こえて、ナミさんの額にぴしっと青筋が浮かび上がった。
「まぁまぁナミさん、ロビンが居るから大丈夫だよ」
「そうよね…、良かったロビンが居てくれて。魚人島への手がかりを探しに出た筈がとんだ深海冒険になる所だったわ…」
「愛しのプリンセス方〜♡スリラーバークに生ってたホラー梨のタルトが美味しく出来たよ♡」
お、サンジのおやつか。
スリラーバーク産っていうのが怖いけど、サンジが調理したなら心配要らないよね。普通に美味しそう。
「けど、困ったね。…あむ、美味しいー!」
サンジって何でも作れちゃうよねぇ…。私的にはこの前食べたパイユ、あれをもう1回食べたいなーって思ったりしちゃったり。
「また空島の時の行き詰まり再来だな」
「そうね…進むべき方角はわかっても到達の手段が分からない。どうやって行くの?“魚人島”」
確かにナミさんの
「ペローナは知ってるんじゃない?モリアって新世界に行ったことあるんでしょ?」
「私がモリア様に拾われたのは
まぁ、そうだよね。モリアに話を聞いてるなんて事も無さそうだし、こりゃほんと参ったな…タルト美味しい。
「出たぞ〜〜!!あー面白かったーー!!」
「あ、おかえりー、どうだった?」
海面からサブマージ3号が浮上して、上部のハッチが開いて3人が出てきた。
「ダメだ、全然海の底も見えねェや。本当にあんのか?魚人島!」
「空島があったんだから絶対あるよ。ルフィが疑っちゃダメでしょ」
「そりゃそうだ、悪ィ」
…とはいっても、手がかりがこれで潰えた事は確かだよね。
どうするか…この際
「あれ、ルフィ…その付けてるバンドどうしたの?お洒落?珍しいね」
「これか?これはスリラーバークの財宝だ、ナミが良いって言うから貰ったんだ」
ナミさんが?あ、それ宝石じゃないからかな。
その時、水中からぶくぶくと泡が出ている事に気付いたルフィが「ん?」とそこを見る。直後、その真下からウサギのようなワニのような大きな生物が飛び出してきた。
「うおー!?ついてきてたのか!?」
「海兎!!?」
でも、ちょっと前にオーズを見たからか、そんなに大きいって思わないな。常識的に考えればこの兎は規格外の大きさなんだろうけど。
ナミさん達に危害を加えられたらたまったもんじゃない、早々にご退場願おう。
「
「ゴムゴムの〜、
大きな口を開けて私達を食べようとした海兎の腹を2人で殴って吹き飛ばした。
その際口から空へ何かを吐き出した様だけど…なんだ?降ってくる…。
「…ちょ、ちょっと待って…!あのシルエット、まさか…!!」
「ま、まさかーー!!!」
「おっと…!」
丁度私の真上に落ちてきた“何者か”をキャッチして受け止める。
ま、間違いない…!上半身は人で、下半身は魚の尾ビレ…!!なんかヒトデも居るけど今は放置で。
「あの、あなたってもしかして…」
「ごめんなさい!受け止めて貰っちゃって…!大丈夫!?」
「うん、全然平気。で、あなたって」
「わーー!!びっくりした、いっぱい人間の人!!!」
な、何というか、そそっかしいな、この
…そう、間違いない。この子は人魚だった。
受け止めた時に鱗を触ったけど、あれは本物だね、うん。
「…人魚よね」
「ま、マーメイド…!?美しい…俺ァ初めて見るマーメイドの煌めきに心が燃え尽きてしまいそうだ…」
「何言ってんだ、ウォーターセブンで…」
「それ以上言うな」
サンジが暗い顔で地面に手をつく。あー…ココロさんって、そう言えば人魚だっけ。
「消化されそうな所を助けてくれてどうもありがとう!私、海獣に食べられやすくって!かれこれもう20回目くらい」
もうちょっと周り警戒しようよ。
「何かお礼をしなくっちゃ!…そうだ、タコ焼き食べる!?」
「私達もあなたを助けられたのはたまたまだし、それくらいの方が良いね。あなた、名前は?」
「ケイミーだよ!タコ焼きはお1人500ベリーになります!」
え、お金取っちゃうの?と苦笑いした時、さっき無視しちゃったヒトデがケイミーちゃんに「商売かい!」と突っ込んだ。
「間違えちゃった!!」
成程天然系ね。コニスちゃんとはまた違った天然のタイプだし、可愛いから嫁になってもらおう。そうしよう。
「ケイミーちゃんを嫁に貰うのは確定としても、そのヒトデは何?喋るなんて珍しいね」
「ペットの“パッパグ”!私の師匠なの」
「へぇ…師匠でペットってなんか面白い関係だね」
上なのか下なのか…。いやーでもケイミーちゃんの上にヒトデが立つなんて無理でしょ、まず可愛さのオーラだけでケイミーちゃんが圧勝してるし。
「飼われてやってんのよ、訳あってな…ケイミーは、いつもハマグリをくれる」
餌だね。
その流れで何か歌い出したパッパグをスルーしてケイミーちゃんと話す。
今ケイミーちゃんが着てる服は“クリミナル”っていうブランドで、魚人島でも流行っているらしい。しかもそのデザイナーがパッパグで、彼女もいつかデザイナーになりたくてパッパグの弟子になったとか。
いーなーパッパグ、ケイミーちゃんみたいな可愛い弟子が出来て羨ましいなー!!
「…あ、でもこれって凄くラッキーじゃない?行き詰まってた進路を聞くのに最適な人材が…」
「おいイリス、タコ焼きが先だぞ!」
「麦わら…お前そんなんで良く船長務まってんな」
「キャハ、私達の
確かに。
目の前に食べ物があるのに我慢出来る人じゃないか。それでこそルフィって感じだよね。
「そうだね、ちゃんとお礼のタコ焼きを食べてもらいたいから!じゃあ、はっちんとどこかで待ち合わせしなきゃ」
はっちん?
ケイミーちゃんは背負ってるリュックから電伝虫を取り出して呼び出しをかけた。
「もしもしはっちん?こちらケイミーだよ、逸れてごめんね、今どこに居るのー?」
『…………』
…?反応がない、どうかしたのだろうか。
ケイミーちゃんも首を傾げて“はっちん”の名前を数回呼ぶ。ケイミーちゃんに何回も名前呼ばれるとか普通に羨ましい。
『おー…その声ケイミーか。モハハハ…わいが誰か分かるかい?ハチじゃないぜェ〜〜!?』
「えーー!?はっちんじゃないの〜〜!!?」
『マクロだよォ〜〜!毎度お馴染みズッコケ一味だよォ〜!』
何かトラブルみたいね、と軽く呟いたロビンに軽く頷き、みんなで静かにその電伝虫に耳を傾けた。
「むっ!どうしてあんたがはっちんの電伝虫もってんの!?」
『ハチの野郎をやっつけちゃったからに決まってんだろ、モハハハ!!』
「うそよ!はっちんがお前達なんかにやられる訳ない!」
『まァ、そうだな。いつもならわいらハチには敵わねェが、今回はなんとあの「トビウオライダーズ」と手を組んでいてねェー!モハモハハ!!』
『ニュ〜…ケイミー、無事だったか…良かった』
電伝虫の向こうで人が代わったのか、別の男の声が聞こえてきた。ケイミーちゃんがその声を聞いて“はっちん”と呼んでいるから、トラブルが起きているのは確定したようだ。
『ちょっと油断したんだ…おめーはここに来ちゃダメだぞ!ニュ…おれは一暴れしてすぐに帰るから大丈夫だ』
『モハハハハー!!おいケイミー、コイツこのまま売り飛ばしちまうぜ!タコの魚人は珍しいから高く売れる!助けに来たきゃ来るがいい。ここはシャボンディ諸島44番
『ニュ〜!ダメだケイミー、来るんじゃねェぞー!!』
『黙れコノタコ助!!』
受話器から人を殴る音が聞こえ、そして通信は途絶えた。
…タコの魚人で、はっちん。…聞いたことあるし、何なら1人頭に浮かんでる人物が居るんだけど…。
ナミさんも頰に手の平を添えて考え事をしている様だ。
「…ごめん、ルフィちん、お礼のタコ焼きまた今度でいい!?私すぐに友達を助けに行かなきゃ!!」
「ケイミーちゃんと、そこで忘れられて泣いてるパッパグだけで助けられるの?」
「それは……だけど、行かなくちゃ!!」
“はっちん”が私の思い浮かべる
それに、ケイミーちゃんみたいな良い子が無謀だと分かっていても助けに行こうとしている人だ。…案外私の思い違いかもしれない。それに…私は“無謀”な人は好きだし。
「そのはっちん、助け出すのは私達に任せて貰えるかな?」
「え!?い、いいの…!?」
「勿論。…あ、自己紹介が遅れたね、私はイリス…ケイミーちゃんを嫁に貰う者の名だよ」
「え?お嫁さん?またまた〜、私、人魚だよ?」
人魚だから何だと言うのか。種族の壁?へーきへーき、この世界には巨人族とかも居るし、魚人と巨人のハーフだって居るくらいだから人間と人魚でも問題ないでしょ!
「ルフィ達も良いでしょ?私の未来の嫁が困ってるんだよね」
「おう、嫁なら仕方ねェ」
うんうん、とルフィに続いて男組が全員息ピッタリで頷いた。何か反応が引っかかるけど…まぁいいか。
「それでケイミー、場所はわかるの?」
「えーと…」
「44番
パッパグ…ただの空気ヒトデじゃなかったんだね。ぶっちゃけ人気ブランドのデザイナーとか今でも疑ってるけど、認識を改めないといけないかも。
「うん、急いで行こ!」
そう言ってケイミーちゃんが立ったまま船端まで尾ビレを使ってぴょこぴょこ移動する。癒し。
おーい、と海に向かって彼女が呼びかけると、大量の魚がそこに顔を出した。
「すご…」
「魚と話せるなんて、人魚ってそんな事も出来るのね」
海王類とも話せるのかな?だったら
「ふんふん…トビウオ達が恐いから近くまでなら先導してあげてもいいって!」
「よし来た、任せて!」
腕捲りをして力こぶを作る仕草をし、ケイミーちゃんに笑いかけた。
魚達の先導で船を走らせ、丁度いいタイミングでゾロもトレーニングルームから降りてくる。
「もう船出すんだな、魚人島へ行けそうなのか?」
「それよかコイツ見ろ、人魚のケイミー!本物だぞ、スゲーんだ!あ、でもイリスの嫁だ…気を付けろ!」
私の嫁って言葉に敏感になり過ぎでは!?あと、ケイミーちゃんはまだ嫁じゃないから!
「へェ、人魚か。…………、………初めて見た」
「消した!今記憶を消した!!」
ゾロでもこうなるくらい破壊力のあるマーメイドココロさん。…待てよ?ココロさんは確かに凄い見た目…げふん。まぁ、ちょっと個性的な外見をしておられるけど、チムニーは可愛いよね?嫁約束するべきだったのでは!?というか、チムニーこそ魚人と人間のハーフなんじゃないの?確かあの子って尾ビレ無かったよね?ぐあー!どっちにしろ勿体ない事したー!!
「…はっちんの声、随分弱ってた。きっと酷いことされたんだ…」
「まー、あいつも相当頑丈だから大丈夫だ。それよりおめェら、軽く引き受けてくれたが腕っぷしに自信あんのか?」
「うん、強ェぞ」
私も腕には自信あるね。持久力ないけど。
「先に言っとくが、この辺りにゃ“人攫い”って裏稼業の集団が何10チームも存在する!「シャボンディ諸島」という場所で、人間の売買が盛んに行われてるからだ」
「…奴隷ってやつ?」
「まァ、そうだ。中でも人魚はい〜い値で取引されるから“マクロ一味”って魚人の3人組はしつこくケイミーを狙って来る。タコ焼き屋のハチは多分…今回おれ達が海獣に食われて帰って来ねェのをマクロ一味に攫われたと勘違いして乗り込んでったんだと思う」
「そいつら下手すりゃ死ぬぞ」
私をチラチラ見ながらウソップが口にした言葉にパッパグが首を傾げた。首っていうかなんていうか…体?ヒトデだからその辺は曖昧なんだよね…。
「うん…多分そう…はっちん優しくて真っ直ぐな人だから…、私のせいだ」
「何言ってるの、こうしてマグロだのトビウオだのを壊滅させられる戦力を連れてきたんだから、むしろお手柄じゃないかな」
「イリスちん…」
後ろからナミさん達の熱い応援が聞こえてくる。「今よ、キス!」とか「押し倒すのよイリスちゃん!」とか…。そんながっついてるのは酒が入った時くらいだからね?
「…タコだのハチだのと聞くと、俺は
「もし本人なら助けやしねェ…まァ、そんな訳ねェが…」
ゾロとサンジが話している事は、私とナミさんもさっき思った事だ。
サンジはそんな訳ないって言ってるけど、恐らくはっちんはアイツで間違いないだろう。
あの時私はナミさんを救い出す事で頭が一杯だったからきちんと周りを見ていた訳ではないけど、あそこまで特徴的なやつを忘れてはいない。
「それで、トビウオライダーズって何なんだ」
「ペロちん、それは」
「お前ら私の名前をペロで区切るのいい加減にやめろ」
と言いつつも既に諦め気味なのか、語調はそれ程強くなかった。
「最近、急にここらの海でハバきかせ始めた人攫い集団の1つだ。狙われたら最後って評判さ…。ボスは「デュバル」って名の“鉄仮面”の男…!その素顔は誰も知らねェ、何でも人を探してるらしくてな、ここらを通る船全てをチェックしてるって話を聞いた」
「ふーん…でも心配いらないよケイミーちゃん!私に狙われた敵だって、最後はみんなやっつけて来たから!」
「うん…ありがとう」
少し視線を斜め下に逸らしながらほんのりと頬を染めるケイミーちゃん。およよ、これはもしかして〜??
「ケイミー、こんな子供の言葉を真に受けるのか?ただのおままごとさ、気にする必要は」
ガシ、とパッパグの体を手を倍加させて鷲掴みにした。
最近では手配書のお陰もあってか、あんまり子供扱いされなくなって来てるのにこのヒトデめ…!
「パッパグ、私はこれでも19歳。おーけー?」
「お、おーけー…!よ、よく見りゃなんて美しいお姉さん…!」
「行き過ぎたお世辞も腹立つ」
「すみませんでした!!!」
全く…人を見た目で判断しないで欲しいね。
…仕方ないとは思うけどさ、それとこれとは別だから!