「よっと!」
「ほっ」
マーガレット達の弓を避けながら、私とルフィは崖を登り切ってその先の景色を見る。
…というかマーガレット達、弓矢当てる気あったのかな?わざと外してた様に思えたけど…。やっぱり優しいと思う。
「なかなか壮観だね、これがマーガレットの言ってた国?」
私達が登ってきた崖にぐるりと囲まれた大きな穴の中にあるその国は、さながら要塞の様だ。視力倍加で下にある町並みを確認してみれば…うん、やっぱり女の子しか居ない。飛び込みたい。
「偉いやつってどこに居んだ?…お、あそこ偉そうだな」
「偉そうって何…ってホントに偉そうだった!」
ドン、と一際大きく、他の建物とは違い城の様な外観をした高い建物を指差すルフィに同意する。
この国は皇帝が治めてるらしいから、きっとあの建物に女帝ボア・ハンコックとやらが居るのだろう。
「…どうする?出来れば穏便に話をつけたいんだけど」
「行ってみりゃ分かるんじゃねェか?」
「だよね…行くしかないもんね」
正面から行くにしても潜入するにしても、あの城に入るのは至難の技だ。そりゃ強引に行けばやり様は幾らでもあるけど。
崖にくっついて建ってるからあの城の真上から飛び降りれば潜入自体は出来そうだけど、どうしたものか…。
「じゃ、行ってくる」
「ちょ…ルフィ!」
きちんと話し合う事も無く城の上に位置する崖まで走るルフィを追って私も走った。
そりゃ分かってはいたけどね?ルフィが話し合った上での作戦をきちんとこなさない事なんてずっと前から分かってたけど…!!
「よっ」
「もう…!」
そして更に崖から城へと飛び降りたので、もうどうにでもなれと飛び降りた。潜入ルートは確定か…ここから正面切って堂々と入場出来る様になる未来が想像つかない…なんてかなりの距離を落ちながら私は思う。
「っと…うわ!」
「どわー!脆かった!」
華麗に天守閣の屋根へ着地を決めたと思えば、思ってたよりも脆くて私とルフィは中へと落ちてしまった。シャボンディでも似たような事があったばかりだと言うのにまたコレか!潜入って言った側から厄介事を引き起こしそうな事しちゃったし…頼む…!落ちた先の部屋に誰も居ないで下さい!!逃げる時間を下さい!!
「ぶっ!…水…!?違う、お湯か…っ」
バシャン!と落ちた先はお湯の中で…足は付くから風呂場だと分かる。
湯気がそこら中に立ち込めていて……んんんん!!!?どえらい美人が居るんだけどォ!!?
「あわわわ…る、ルフィ…う、美しすぎる女性がそこに…!!」
「嫁にすりゃいいじゃねェか。…ん?おめーその背中の…おれどっかで…」
背中?…ああ、振り向いた顔にしか目が行って無かった。確かに背中に何かマークがあるね。オシャレ?
「見たな…!!」
怒気を多分に含んだ声で、その美女は背中を隠す様にしゃがみ込んだ。
「あ、ご、ごめん!裸を見ちゃった事は謝る…けど、湯気でよく見えないしセーフって事で!あとその背中のタトゥーも、意味は分かんないけどオシャレで良いんじゃないかな!うん!」
「……ッ!!!」
私の言葉に目をひん剥かせた彼女から凄まじい殺気が放たれた。やっぱり裸を見られて凄く怒ってるみたいだ、ここは誠心誠意土下座で許してもらうとしよう。ナミさんに見られたら私が下手に出るなって怒られそうだけど。
「
「
浴室の扉を蹴破る勢いで入ってきたのは、また新たな女性2人だった。あねさま?どちらにしても、この人達は目の前のどえらい美人の妹って事かな?体大きいね。
「誰だ!?…子供と……男!?」
「何故男がこの国に…!?姉様、ローブを…!一体何が起きたの…!?」
「…背中を……見られた…!!」
…背中?あのタトゥーか…?
……もしかして、私は言ってはいけない何かを言ってしまったんじゃないだろうか。だとしたら冗談ではなく、きちんと謝らなければ…!
美人さんの言葉を聞いた2人は目を見開いて青ざめた顔をし、私とルフィを見下ろす。
「ーーーでは、死んで貰う他ないわね」
「え!?何でだよ、背中を見たくらいで…!でも何だかな、どっかで見た事ある様な」
「…そなたらが見た背中の
コレ?どうしてマークだとか、タトゥーだとかで表現しないんだろう。
…いや、今はどうでもいいか。とにかく私は死んでも見られたくないものをオシャレだなんだと侮辱したって事だ。
「…ごめんなさい!私…そういうものだとは知らずに失礼な事…!!」
「…よい、見たもの全て墓場へ持ってゆけば水に流してやろう!メロメロ
「…っ!」
は、ハート型の光線!?あぶな…咄嗟に真横へ飛んで無かったら当たってた…!当たったらどうなるのか知らないけど、墓まで持って行けと言うセリフからとんでもない効果を発揮するのは間違いないだろうし…!
「ふん…避けるでない、小娘」
…私は今、30倍の速度で光線を避けた。だと言うのに目の前の美女は私の動きを目で追っていた。
どうやら、ただの美女じゃ無さそうだね。
「とにかく逃げるぞイリス!戦う理由がねェ!」
「逃げるのには賛成だけどね、そもそもここに来るハメになったのは誰のせいなのか今一度自分の胸に手を当てて考えてくれる!?」
「逃がさぬ!!」
そうは言われても逃げさせて貰いますよっと!出でよ分身!
「
「こんな雑な囮ある!?」
“私”を呼び出して美女に突撃する指示を出し、窓から飛び降りた。…ってうわ、“私”が速攻でさっきの光線で石にされてる…!?あの能力はまずい、当たれば1発で拘束されてしまう…!!
「逃がさぬと言ったであろう!
「ッぐ…!?」
くそー!“私”は私の分身だから美女相手だと囮にもならないって事か!!
彼女が出した2発のハート型銃弾に射抜かれた私とルフィは、空中であった為に避ける事も叶わず直撃し地面へと落ちた。私のアーマーを貫通して、ルフィにダメージを負わせている所を見るにどうやら覇気を纏った攻撃であるのは間違いなさそうだ。
「侵入者じゃ!!その小娘と男を取り抑えよ、九蛇海賊団!!」
「は、はい!…男?何故男が…!」
直ぐに落ちた私達の元へ人が集まってくる。しかも数が尋常じゃない、あの美人の命令でここまでの人を動かせるって事は…彼女が“蛇姫”…皇帝の可能性が高い、というかそうなんだろう。そうか…蛇姫で石…モチーフはメドューサだなコレ…!
「くそ、全員女か…!やりづれェなァ」
「ん?珍しいね、ルフィがそんな事言うなんて」
「イリスが居なきゃ何も気にしねェよ」
オイ。
でもまぁ、どうするか…!
私は別に女だろうと男だろうと関係ないけど、ここで抵抗して騒ぎを起こせば船を借りる道は完全に途絶えるだろうし…。
なら…ここは敢えて捕まるのもアリじゃないかな?
「ルフィ、ここは大人しく捕まろう。それでこっちの言い分を聞いてくれるならよし、聞く耳持たないなら暴れる。それでいいでしょ」
「任せる!」
「じゃ、そういう事だから手は出さないでね」
こういう事になると本当に流れに身を任せるよねうちの船長は。後先考えないというか…、まぁ、真っ直ぐやるべき事へ突き進むっていう長所で全てを帳消しにしてるから良いけどさ!
***
そんな感じで大人しく九蛇海賊団とやらに身柄を拘束された私とルフィは、周りをぐるりと観客席に囲まれたスタジアムへと連れてこられていた。
体に巻き付いてる蛇は中々頑丈で取れそうにない…ロープじゃあるまいし何この強度。
この闘技台と観客席の間には溝があり、その中はここからじゃ良く見えなかった。
「見てルフィ!客席も女の人で一杯!…ここは楽園だよ!!」
「分かったから落ち着けよ…」
さっきから私はこんなテンションである為、ルフィもやや呆れ気味にそう言った。ルフィには分からないかなー!ここがいかに素晴らしい空間かって事が!
「いい?ルフィにも分かりやすく例えるなら、周りにとーーーっても美味しそうな肉が沢山あるって状況なの、今の私は!」
「何言ってんだ、あいつらは肉じゃなくて女だろ。流石に人間は食わねェよ」
例えって言ったでしょー!?
「ーーーでは聞くが小娘、そして男よ、そなたら何の目的でどうやってこの島へ入った…!」
闘技台の周りには観客席があるが、それらとは違い闘技台から伸びる階段を登った先にもまるでVIP席の様な豪華な観戦席があった。
その舞台の椅子に、足を組んで座っているメロメロの美人がそう問いかけて来た。名前何だっけか…確かマーガレットが1回だけ言ってたよね。蛇姫様で…えーっと、ハンコック?
「目的なんて無いんだけど…。あ、強いて言うならここに居る女性みんな私の嫁にしてもいいかな?」
「貴様!姉様の前で何たる態度!!」
「何なら周りの女の人みんな嫁に来る?というかきて!」
ピキ、と蛇姫様の額に青筋が浮かび上がる。なるほど、怒った顔まで美しいと。
「…そのような態度で誤魔化されはせぬ、何が狙いじゃ」
「だから嫁ーーー」
「狙いっつーなら船をくれ!」
あ、そういえば船の交渉をしなければいけないんだった。まさかルフィに気付かされるとは…楽園に浮かれ過ぎてるのかもしれない。
「とにかくおれ達は早くここを出て行きてェ場所があんだよ!お前が1番偉いんなら頼むよ!海へ出たいんだ!」
ルフィの言葉遣いに観客が騒がしくなった。
女の私が働いた無礼ではそんなに騒がなかった所を見るに、やっぱり男に対する当たりが強いみたいだね。
…まぁ、今までずっと男子禁制だった…というか今もそうなんだから当たり前なのかもしれないけど。
「生きてここを出られると思うな、“死”は免れられぬ……!!」
「だってさ、無理そうだよルフィ、とりあえずマーガレットだけでも攫って船奪って海出る?」
「バカだなァイリス、おれ達航海術持ってねェじゃねェか」
もうマーガレットを攫うとか言ってるのに関しては完全スルーを決め込んだルフィがそう返した。
だけど相手が本気で私達の話に聞く耳を持たないと分かった以上は無理矢理にでも海へ出ないことには始まらないと思うんだけどね。王華のいうエース奪還がどのタイミングで始まるのかも分かんないし。
「お待ち下さい!蛇姫様!!」
「あ」
ばっ、と客席から闘技台に飛び降りて来たのは、噂をすれば何とやら…まさかのマーガレットだった。
彼女の額には汗が見え、よっぽど緊張しているのが一目で分かる。
マーガレットが居た場所を見ればさっきマーガレットと一緒にいた2人が慌ててマーガレットに戻って来るよう叫んでいた。
「…っ、こ、この者達は恐らく、ウソを言える様な人物ではありません!言っている事は全て本心…!この国に害を為す様な者とはとても思えません!!…あ、いえ、若干1名微妙な所ではありますが…」
「ん?」
私?害なんて及ぼさないよ!全員私の嫁になって貰うだけだし。
…ていうか、庇って貰って凄く嬉しいんだけどマーガレットは大丈夫なのかな…、この国の最高権力者に意見出来るだけの立場なら大丈夫かもしれないけど。
「護国の戦士か」
「マーガレットと言います」
「ちょ…」
初対面レベルじゃん…!何でそんな、見ず知らずの私達の為にここまで…。やっぱり嫁にしよう、マーガレットは内面も凄く美しい様だし。
「男子禁制のこの国に侵入した時点で男の“死罪”は確定、小娘もその仲間ならば同罪じゃ…何故庇う?」
「…負い目を感じています…!その2人に情けをかけ、この国の情報を与えたのは…私です」
!!…確かにそうかもしれないけど、その言い方は自分の非しか伝わらない…!どこまで正直者なの…マーガレット…!
「へ、蛇姫様!ちょ…“ちょっと待って下さいの巻”!!」
「そ、そうです!それならば同じく行動を共にしていた私達にも責任があります!」
「スイトピー…!アフェランドラ!!」
あの時の2人もマーガレットに続いて闘技台まで来てそう言った。
そんな3人の謝罪の声に、遂に蛇姫様はゆっくりとした足取りで闘技台まで階段を降りて歩いてくる。
「待って下さい、蛇姫様!男の入国を阻止できなかった罪は私1人で!!」
マーガレットはそれでも2人を庇う様に前に出て頭を下げ続けた。あくまでも責任は自分1人で負うつもりなんだろう。
「もうよい…!面を上げよ、正直なマーガレット…」
「…!」
蛇姫様は頭を下げるマーガレットの顎を人差し指でクイっと持ち上げ…、
「メロメロ…
「ッ…!!!」
マーガレットは…そしてスイトピー、アフェランドラも石となってしまった。
これは…
「……、これは、何の罰?」
「それはそなたらが1番良く知っている事じゃ…この国への侵入を許したのも罪、そしてそうなる過程も罪なのじゃ。…バキュラを闘技台へ!!」
「…そっか、男子禁制、それがこの国の鉄の掟だっけ。じゃあ仕方ないね」
本当に仕方ない。あー、仕方ないねこれは。
「そしてそなたらも同じく罪人…ここは戦士の国アマゾン・リリー、強い者こそ美しい…。精一杯戦って散るがよい、わらわ達が見届けてやる」
そう言って蛇姫様は元いた場所まで戻り、その後に闘技台の足場の一部が開いて中から檻が姿を見せる。その檻の中からは巨大な黒豹が出てきて私達を見て涎を垂らし舌舐めずりをしていた。
「その黒豹の名はバキュラ。この国の皇帝に代々処刑人として仕える肉食獣…処刑後は人の骨1本も残らぬ」
「処刑人ね…」
シュル…と私とルフィを縛っていたヘビ達もバキュラを見て一目散に逃げていった。別に抜け出そうと思えばいつでも出来たけど、これであのヘビ達を傷付けずに済んだって訳だ。
「なァオイ!こいつらどうなるんだよ!元に戻るのか!?」
「蛇姫様に口答えするんじゃないわよ!!」
「やっちゃえバキュラ!!」
「弱いクセに生意気な男!!」
「バキュラ!!」
「……!!」
わーキャーと騒ぐ人達を見てルフィの顔に少し怒りの色が浮かび上がる。
…ごめんね蛇姫様、あなたは確かに美人で…嫁にしたいとは思ってる。
だけど…マーガレットも私の嫁にすると決めたんだ。それなのに手を出したって事は…分かってるんだろうね。
「ガルルルルァア!!!!」
「
飛び掛かって来たバキュラを蹴り飛ばしてやろうとした時、ルフィが私を腕で制した。
…ああ、そうだね、怒ってるのは私だけじゃ無いんだった。
ルフィはコキ、と首を回して右腕を引き…、
「ギャブッ!!!」
「……!!!」
“ゴムゴムの
「…どうかしてるぞお前ら…!あんな女に、仲間が石に変えられてんのに…!!何でお前らへらへら笑ってんだよ!!」
「!?野蛮人が私達に怒鳴ってる!!」
「信じられない、凶暴な生き物!!」
「3人は可哀想だけど、蛇姫様のやる事に間違いは無いのよ!!国の規律を破ったそのコ達が悪いのよ!!」
なるほど、これは筋金入りだ。
余程この蛇姫様は信頼されていると見えるね。
「わらわは…何をしようと許される…!何故なら、そうよわらわが…美しいから!」
「「キャ〜〜〜♡蛇姫様ぁ〜〜♡」」
「ふふ…そなたらもそうであろう…?」
私とルフィを見て妖艶な笑みを浮かべる蛇姫様は、確かに言うだけの美しさを備えているのは間違いない。
絶世の美女と言っても良いだろう、かなり完成された容姿…体格、地位、富、名声…本当に全てが揃っているんじゃないだろうか。
だけどね、蛇姫様…あなたは1つ……大きな誤解をしているよ。
「あなたは美しいし、完成されてるよ。…だけど、それだけだよね」
「何…?」
「私はハーレム女王を本気で目指してるの。…たかが美しいからってだけで、私の嫁候補を石に変えてくれたのが許される筈もない…。ここは闘技台でしょ?だったら私の前まで降りて来てよ…拳で語って、あなたを嫁にしてからマーガレット達を助けてみせる。“仕方ない”よね…嫁に危害を加えられたんだから暴れたってさ」
ぱし、と手の平を拳で殴って挑発した。
…戦闘になって彼女に攻撃出来るかと問われれば、余裕で出来る。嫁を助ける為なら私は何だってするからね。そりゃあ傷は残らない様にしますけど!
「ッ…ここまで侮辱されたのは久しぶりじゃ…ッ!マリーゴールド、サンダーソニア!そなたらは男をやれ、仮にもバキュラを一撃で仕留める男じゃ、油断するでない。娘の相手はわらわがする」
「姉様が直々に!?」
タン、と軽快に跳んで私の前に降り立った蛇姫が乱れた髪を後ろへ流す。…う、バカ!私さっき啖呵切ったばかりなんだから見惚れるな!
…いやでも美人だもん!美しいもん!!
マリーゴールドとサンダーソニアと呼ばれた2人はルフィの前へと立つ。
「蛇姫様を侮辱した女と男に極刑を!!」
「死刑!!」
「死刑!!」
「「「死刑!死刑!!」」」
「…あらら、これは凄い大歓声」
私とルフィへ向けられた数え切れない程の悪意を、私はそれでも笑って流してやった。
ちょっと当初と予定は狂っちゃったけど…仕方ないよね。嫁の為なら…予定変更くらい幾らでもしてあげるよ!!