「…何て突拍子のねェ話だ、俺ァ長く生きたつもりだったが、お前みたいな事を言う奴は初めて見たぜ…。エース救出は失敗する?ティーチがこの場に居る?未来が分かる?グラララ…!!…状況は分かった。だがどうする?」
「突拍子が無いとか言いながら簡単に信じるね、私が言うのも何だけどそう簡単に頷ける内容だった?」
「俺は自分の目を信じてるだけだ。お前がそういう下らねェ嘘をつく様な人間には思えねェ…なら、答えは1つだろう」
なんだこの包容力の塊は。これであの実力?そりゃ四皇にもなりますわ。
「エースは…一旦死を偽装する。エースという存在は死んだんだと世界を騙す」
「…そうか。…確かに今のエースを救った所でウチは疲弊している…もう1度攻めて来られりゃァ…危ねェな…」
「で、死を偽装する方法は私の持つこのパレットセットと、この人」
「ヒイィイイ!揺らすな女好き!白ひげの近くに居るだけでも寿命が縮む思いなんだガネ!!」
「この人の能力を利用させて貰う。まぁ…見ててよ。で、黒ひげの方は…とにかく不意をついて倒す」
奴が初撃を慢心してモロに喰らうのはルフィ戦でも感じた事だ。
私の全力を叩き込めば倒す事は出来る筈…!
「!見て…王華の言う通り、エースが赤犬と向き合ってる!」
「バカ息子が…!俺が逃げさせられているのに何を突っ立ってやがる…!」
「あーもうごめんて!逃げないのが誇りだったんでしょ!聞いたよさっき!」
王華もそんなエースを見て私に視線で合図を送り、私の隣に居る白ひげを見て吹き出し、すっごい驚愕の顔を浮かべて一直線にこっちへ走ってきた。
「ちょ、ちょちょちょ…!!イリス!?白ひげなんでここに居るの!?」
「何でって…殿務めそうだったからやめさせて連れてきた」
「やめさせた!?白ひげを!?え、逃げ傷ついちゃうかもだけど良いの!?」
「良くねェな…人の誇りより命を大事にしやがれと喧しい小娘に引っ張ってこられただけだ…」
いや、だってそうじゃん…どんなカッコいい死に様より、やっぱり生き抜く事が大事だよ。悲しんでくれる“家族”が居るのなら特に。
「…まぁ…いいけどさ。でも白ひげ、もし傷治ったらその羽織ってるマント抜いで「逃げ傷1つ無し!」って言ってね」
「いや、王華も何言ってるの?それより、急ごう!そろそろエースと赤犬がぶつかりそうだよ!」
…ていうか、ぶつかった…!でもやっぱりダメだ、エースの今の力じゃ赤犬に対抗は出来ていない!能力の相性も良くないんだ…勝てそうにもない…!
「じゃあ白ひげ、後は任せて!あなたは家族とその辺の軍艦でも奪って避難して!!適当にマリンフォード壊しながら進めば完璧!」
「グララララ…!指示を出されたのなんざ何10年振りだァ…?つくづく面白ェ小娘だ…死ぬんじゃねェぞ」
死んでたまるか!どうせ死ぬならナミさんの胸に埋もれて死にたい!!
「Mr.3、さっきの話聞いてたよね!エースの蝋人形よろしく!!」
「本当に上手く行くのカネ!!」
「うるさいな、失敗した時の事なんて考えても始まんないよ!やってから考えればいいでしょ!」
「や、やっぱりイカれてるガネ…!」
そうは言いつつも蝋人形を作り始めたMr.3を担いでエースと赤犬の元へ走る。
…!アレは…赤犬が標的をエースからルフィに変えた…!?そうか…それでエースがルフィを庇って…!!
「そんな事、させ…るかァああああああ!!!!!だぁあああああッ!!!!!」
ドォン!!と地面を抉る様に踏みつけ、辺りに砂埃を蔓延させる。
「まだまだ…倍加!!」
発生させた砂埃の規模を倍加させ、かなり広範囲で視界を遮った。
Mr.3の蝋人形も出来上がっている…!もう時間がない…!頭部だけキチンと塗って…体は適当だ!!
「〜〜〜っ!!よし!王華!!」
「受け取ったよ!!」
完成した蝋人形を王華に託して、私はMr.3を連れてこの場を離れる。
…どうなったのかは、この砂埃が晴れない事には私にも分からない。
………。
やがて、砂埃が晴れ始めた。
私達を追っていた海軍も、逃げていた海賊達も…どの様な結末を迎えたのかと固唾を飲んで見守っている。
「……エー…ス…?」
尻餅をついているルフィの前に転がるのは…エースの首。
首から下は赤犬のマグマとは思えない程の高温な熱拳で溶け落ち、その辺り一帯は血が夥しい程飛び散っていた。
「……嘘だろ…エース…!」
「フン…!次は貴様の番じゃ…!!」
赤犬はそんなルフィの前に立ち、残った1つの首も煮え滾る脚で踏み潰して跡形もなく溶かしてしまった。
「………!」
……!!くぅう…!
よおぉぉし…!!……成功だ!!!
あの首は私が塗った物で間違いないし、血は赤色の絵具を倍化したもの…!!
という事は、つまり…エースを救えたんだ…!!!
…だけど喜ぶのは後だ。
今私だけが喜んじゃ不自然過ぎる。自然に…自然に徹しなきゃいけない。
「エース…!赤犬……貴様ァ!!!」
「想像よりもモロかったのォ…!貴様も逃がさん!逃げ足ィ!!!」
そりゃ、蝋ですからね。貴様ァ!なんて言ったことないんだけど違和感無かったかな?
ルフィは自分の目の前に落ちてるビブルカードが燃え尽きていない事実と、目の前で実際起きた事実に混乱している様だ。とにかく動けない事に変わりはないだろう。
けど、近くにはジンベエも居るし今は放っておこう。私には私の成すべき事がある。
「Mr.3…ありがとう。あなたは…そうだね、あそこに居る人の海楼石の錠でも外してきて」
Mr.3には最初青キジを止めてくれた青白い炎の能力者を解放するよう頼んだ。いつの間に手錠を付けられていたのか、あんな強い人が満足に動けないなんて勿体ないにも程がある。
「…さて、黒ひげはどこだろうね」
海賊達のエースの名を呼ぶ声がいくつも響き渡る。
騙して申し訳ないって罪悪感に押し潰されそうだ…!でも、必要な事だから許して欲しい…!
作戦を伝えていた白ひげにだけ視線で合図を送り、軽く頷く。本当は手伝って貰いたいけど…無理もして欲しくない。
「王華はどこに行ったのかな…!まぁ、いいか…!黒ひげは……!!」
「ティーチはどこに居る?」
「ああ、それが分かんなくて…ってええ!?なんで戻ってきたの白ひげ!」
なんかいつの間にか背後に居て怖い!!
「なんだ、ようやく黒ひげとやり合うのか?」
「青キジ!?ちょ、ちょっと待ってよ!今あなたと戦ってる暇なんて本当に無いんだからね!!」
どーなってるの私の周りは!
逃げてくれない白ひげに謎にフレンドリーな青キジ!特に青キジ!平然と隣に立つな!あなた大将だからね!一応!!!そりゃ2人とも、黒ひげ討伐に協力してくれるなら喜んで受け入れるけどさ!
「時にイリス、火拳は本当に死んだのか?」
「え?……くっ…!救いたかった…!」
「やっぱり生きてんのか…」
「は!?何でそうなるの!?」
「分かり易すぎだアホンダラ…」
ぐぬぬ…!それがバレちゃ意味ないじゃん!!作戦が…!
「心配すんな、誰にも言やしねェよ。俺が今ここに居んのもお前に手を貸す為だ。どうだ?戦力が増えて良いだろ」
「不安しかないわ!罠か!?いきなり何で!?」
「いきなりも何も…もし本当にお前達がここまでやる様なら、黒ひげ討伐にも手を貸そうと思っていただけの話だ。お前が倒した方が良いと言うのなら、そうなんだろう」
「変に小娘の肩を持つじゃねェか、小僧」
「あー…あんたも魅せられたクチでしょうに。その女は麦わらのルフィと同じで…周りに居る人間を惹きつける才能がある」
なんか良く分かんないけど、とにかく青キジは信用して良いって事!?
…てことは、黒ひげ海賊団相手に私と白ひげ、青キジで対抗出来る訳か…!
…流石にオーバーキルかな。
「小娘、ティーチが現れるのは処刑台側か、海側かどっちだ」
「うーん…王華もあんまり覚えてはないみたいだったけど、処刑台側だったと思う」
「そうか…なら、ちょっと離れてな」
何をする気かは分かんないけど、私と青キジは白ひげの言葉通り少しだけ距離を取る。
…ていうか青キジ、あなた私達と行動してて立場とか大丈夫なの?
「ぬゥん!!!!」
「へぁ!?」
ちょぉおおお!!白ひげさん!?何地面叩き割ってんの!?
あああああ…!広場が真っ二つに割れてみんな海側の向こう岸に行っちゃったよ…!私達海軍側に取り残されたけど!?
「息子達を逃がす為には必要な事だ…俺達は後で帰ればいいだろう」
「こんな海兵だらけの中どう帰れと?…まぁいいや、その時考えようか」
とにかく今は黒ひげだ。…どこに…、
「え、おい、何だありゃァ!本部要塞の影に何か居るぞォ!!!」
「あ、見つかっつった」
「は…?」
本部要塞の影って…その本部要塞がどれだけ大きいと思ってるの!?それと同サイズの人間が影から顔を覗かせてるんだけど!
「それだけじゃない…!処刑台の上に居るのは誰だ…!!?」
「……!!」
バッと処刑台に顔を向ける。
…居た…!良かった…処刑台側で間違いなかったみたい。
「おお…やっと気付きやがった」
「…てめェ…」
隣に居る白ひげから低いドスの効いた声が漏れ出る。
…確か、あいつは白ひげ海賊団で仲間殺しをして逃げたんだっけ。それは…白ひげが許す訳ないか。
「黒ひげ海賊団!!!」
海兵の誰かがそう叫んだ。遂に最後のミッションターゲットも出てきた事だし…全力で片付けて私達の世界を平穏な物にしてやろうか!!
「ゼハハハハハハ!!!久しいな!!死に目に会えそうで良かったぜオヤジィ!!!」
「ティーチ…!!」
「…ありゃァ間違いなくレベル6の死刑囚共じゃねェか、1人1人がとんでもねェ悪事を働いて、その存在自体を抹消された世界最悪の犯罪者…ん?あの女は知らねェが…」
あの女…?どっちだ?
…多分、髪が紫の方だ。もう1人は確かカタリーナ・デボンとかいう名前だった筈。
「………」
その女はインペルダウンの時と変わらずぼーっと私を見つめていて、その漆黒の瞳は何もかもを吸い込んでしまいそうな程美しく…不気味だった。
長い紫の髪を無造作な垂らし、ストレートヘアーと言うよりはただ手入れをしていないだけの様にも見える。
そしてその真っ白な肌はもはや病的だ。痩せ細ってはいないが、どう見ても健康には見えない。胸はある。胸はある!!…やっぱりインペルダウンで見た時と同じ人で間違いない。
「ティーチィ〜〜!!!」
「…!」
白ひげが腕を振り、いつもの構えを取ったのを見て走り出した。
勿論技に巻き込まれないように少し横に逸れて走っている。青キジも私とは逆側から攻めていた。
ドォン!!!!
「おっと…!余波だけでも凄いな…!」
白ひげが黒ひげ海賊団へと放った一撃は処刑台を塀ごと崩し、黒ひげ達を広場へ落とす。
相変わらずブッ飛んだ火力…!頼もしい爺さんも居たもんだ!
「…!容赦ねェな…!ある訳ねェか!!」
思い切り空へ飛ぶ。今の私を見る事が出来るのは、それこそあのバカでかい人間くらいのものだろう。
みんな白ひげに集中しているだろうし、私もその間、空で集中させて貰う…!
下では白ひげと黒ひげが戦闘を始めている所だった。…黒ひげは確か能力者の能力を無効に出来るんだっけ。確かに、白ひげの地震を起こす能力は黒ひげの手から生み出された闇の渦に飲み込まれて不発に終わっていた。
「ゼハハハハハハ!!!どうだ!もう地震は起こせねェ…、っ、オ!!…ゴワァアア!!!」
能力が使えないと分かった途端、手に持つ薙刀で直接肩を斬り付けていた。確かに軽率、過信が弱点なのは間違いない。
…じゃあそろそろ私も行くよ!!
「…もう1度だけ、無茶するからね、私の体!…ふゥ…ッ!……ギア……2!!!
終わらせてあげるよ…何もかも!!これから先あなたが起こす事件も!!ONE PIECEが辿る筈だった未来も!!…全て、ここで変えていく!!!
「う、ォオオオオオオオオオ!!!!!!」
そのまま真っ逆さまの体制で宙を蹴り、隕石の様なスピードで落ちる私にようやく黒ひげも気付いた。だけど今更気付いたってもう遅い…!決着は早々に着ける予定だった…頼んだよ白ひげ!
私の攻撃を避けようと動き出した黒ひげの顔面を掴み、白ひげは思い切り地面へと潰す様に容赦なく押し付ける。更にそのまま能力を使って頭を後頭部から地面にめり込ませていた。
…なるほど、あの闇に触れなきゃ能力は解除されないんだね。…だったらこの技も…当たるよね!!
「危ねェ船長!!お前ら、あの女を止めるぞ!!」
「させる訳ねェだろ。
「なァ…!?あ、おキジ……!?」
黒ひげの仲間は青キジが止めてくれた。だったら後は…船長だけだ!
「
「ーーーーーッ!!!!」
直前に白ひげは後方へ跳び退避し、遥か上空から勢いを付けて高速で落下した私の巨大な拳は、それはもう綺麗に動けない黒ひげへと落ちてこのマリンフォード全体を揺らす。
黒ひげの体からはバキバキと嫌な音が響き、中身が飛び出ていないか心配になる程だ。
その地に大きくクレーターを作り上げ、私は近くで何が起きているのか理解していなさそうな海兵を指差した。
「ハァ…ふぅ…!…そこの海兵!さっさと海楼石の錠!!!まだ起き上がってくる可能性はあるよ!!」
「ーーーえ?は、はい!!」
何で敬語?
…随分呆気ないな。まぁ原作より白ひげのダメージが少なく、青キジも参戦して、私も居るんだからこんなものなのかな?
黒ひげには念のため白ひげがもう1発能力で振動をぶち込み、青キジが
何ならあの後すぐ持ってきた海楼石の錠もつけたわけだし。
「…黒ひげ海賊団はこれで全員お縄か。サンファン・ウルフには逃げられたが…ま、すぐ見つかるだろう」
「黒ひげ以外の奴らはどうするの?」
全員今は氷漬けにされてるけど、中にはすぐ割って出てこれる奴もいるんでしょ?
「誰が能力者かも把握出来てねェ、とりあえず全員に海楼石の錠をつけるべきだ」
「じゃあ、急がないとね」
青キジがより強固な氷を張り直して、片手だけを溶かし海兵に指示を出して錠を付けていく。
中には能力者ではない奴もいるだろうから、早いとこインペルダウンにブチ込みたいと青キジは言った。
「輸送には戦力を固めておいた方が良いかもね、青キジだけでインペルダウンに連行して、万が一があってもアレだし」
「なんだ、心配してんのか?」
「…まぁ…一応…今回は助かった訳だからさ」
黒ひげを倒せたのも、白ひげ、青キジ、この2人の協力があったからこそだ。今の私じゃ1対1で黒ひげには勝てないし、周りのクルーを全員相手取るのも無理だった。
「じゃ、逃げるか!」
「なんだ、もう行くのか」
「ここ、私からしたら敵地だからね?」
海楼石の錠を付けるのも、残すはあの女の人だけっぽいし。
とりあえず最後まで確認しては行こうかな。…あの人、氷漬けにされてるのにずっと私の事見てるの怖いんだけど。
そうして、最後の1人…紫髪の女の片手の氷を溶かして海兵が手錠を入れようとした時ーーーー
その海兵が、泡を拭いて倒れた。
「!!…バカな…!」
「ッ…!これ、は…覇王色…!?」
女の氷はピキピキと割れ目を増やしていく。
何だこの人…!?原作に存在しない上に、覇王色まで…!!?あ、それは私もそうなんだけど!!
「イリス!こっちは何とかなったよ!…って…これは…!」
王華もこちら側の岸まで飛んできて、今目の前で起きている事に目を見開いている。
やがてその氷は粉々に砕け散り、女はまたぼーっと私を見て……そして、王華を見た。
「ーーーーーーーーあ」
女の口が小さく動く。
眼孔が開かれていく。
口角が吊り上がっていく。
王華を見た瞬間…その女は…まさに“狂気”と呼ぶに相応しい表情で笑い出した。
「フフフ…」
「く…!捕らえろ!所詮女1人だ!!」
「ばっ…!」
その女を捕らえようと動いた海兵数10人を呼び止めるも既に遅く、彼らも同じ様に覇王色で倒れていく。
ずっと私を見ていた女は、王華が現れた事によって私への興味の一切を無くし…ただ狂気に満ちたその瞳で王華を鋭く射抜いていた。
「…フフ、ハハハ……っ、アハハ!!ヒッヒヒ!!ハーッハハハハハ!!!!フー、フー…!!ハー…!!!……“上等”…!!」
「……!!」
覇王色の覇気を撒き散らしながら笑うその女は、まるで隙だらけだ。いつでも攻撃して下さいと言わんばかりに隙しか存在していない。…だからこそ、ある程度実力を持った者は皆、逆に仕掛ける事が出来なかった。
隙だらけ故の隙の無さ…加えて奴から湧き出るあのドス黒いオーラ…、様子を見ない事には動く事すら出来ない。
「“上作”…“上智”……“上昇”!!…アハ…♪“上・々”!!!」
「う…ッ…!?」
な、んだ…!?目眩が……っ、これ、覇王色…か……!?
青キジは、私の覇気をなんて言った…?四皇よりも規模は上?…じゃあ…… 目の前の
私の覇気なんか、比べ物にならない規模じゃん…っ!!
「見つけた…♪やーっぱりこの世界に居たのね…入州さん」
「…!何で、私の苗字を…」
その言葉には王華だけじゃなく、私も目を見開く。
この世界に来て初めての…私以外の転生者…!それも、同じ世界から…!
「私、本っ当〜に探したのよ?イリスって名前のコなら居たけど、その子はまーーーったく入州さんとは似ても似つかない容姿だったから…でも、良かった…ちゃんと見つかって♪」
「あ、なたは……?」
王華が震える声で質問する。
相手がフレンドリーに接してくるからこそ、そこに恐怖を感じるのだ。何故なら私も王華も目の前の人物を知らない。…なのに、まるで離れていた友人と再会したかの様な…。
「私の事、忘れちゃったの…?……私は、あなたの事を忘れた日なんか無かったのに…?あなたは、私を忘れていたの…?ああ、アア…ダメ、だめよ入州さん…今更自己紹介なんて…そんなの、まるで初対面じゃない…。私達はもっと深く、ふかーく繋がってる…そうでしょ?…ね?」
…何が、とは言えない。だけどハッキリと言える事が1つだけある。
ーーーーーコイツは、ヤバい奴だ。
「私は覚えてるわ…♪あなたのご友人すらも……沙彩さん、叶さん、美咲さん。…フフ、美咲さんも早く見つけてあげないと…沙彩さんと叶さんは前の世界で済ませているんだし…」
「……私の、同級生?」
「フフ、フフフ…!ヒヒヒヒヒ…!!ハハッ…ハ………本当に忘れてるの?」
……誰だ…、誰だ…!?王華の親友の誰でもないのなら、後は…!!
「………あ」
……居る。1人だけ。
だけど…どうして彼女が…?いや、違うかも知れない…だって彼女がこの世界に居る理由が…!だけど、彼女以外考えられない…!
「……安、城……」
「ーーーーーー」
ぽつり、と私が呟いた言葉に女は首だけを動かして私を見据える。
その目には先程まで王華に向けて喋っていた様な感情などまるで無く…ただひたすらなまでの闇。
「……どうして入州さんが忘れてて、あなたなんかが私の名前を?……フフ、ヒヒ…っ、でも、いいわ…!今日は気分が良いもの…。許してあげる。…入州さん…私の事…覚えてるでしょう?」
「安城……さん」
それは…王華の過去に出てきた登場人物の1人だ。
彼女のいじめが発端で、王華達4人は命を落とした。…だけど、何でこの人までこっちの世界に…?それに、前世よりもずっと狂気に満ちた性格で…。
「ヒヒ…!安心して?まだあなたを
「ッ…!安、城さん…!あなたは、何でこの世界に…!!どうしてそこまで執拗に私達を恨んで…!!」
「…つまらない質問はやめてくれる?入州さん……ヒヒ、ハハ…!!理由なんて、私から説明するだけじゃつまんないわ。…次に会う時は…しっかり叶さん達も見つけておいてね?」
「………ハッ…!!に、逃すな!!捕えろ!!!」
海兵の1人がその緊張から抜け出し、周りに指示を出す。
その声でみんなも動き出し、安城さんに向かってバズーカや銃を撃ち込んでいく。
「…ンー…やっぱり今日の私…気分…上・々♪上等で、上質で、上品!…だから、今の私にそんな物騒なの似合わない。これは返すわ♪」
「は…?」
安城さんへと撃たれた砲弾や銃弾が、何故か彼女の体の周りに出来た黒い空間へと吸い込まれていき…直後、そこから勢いよく先程放った筈の砲弾等が海兵達に跳ね返ってきた。
「能力者…!!」
「気を付けろ!敵は今見た通り、攻撃を跳ね返す能力者だ!」
「…ヒヒ…っ、今日は気分がいいから、向かってこないなら私も手は出さないのに」
「…なら、1つだけ聞かせて」
接近戦ならどうだとばかりに突撃しようとした海兵を殴り飛ばして、私は安城さんに声を掛ける。下手に手を出せば死ぬって分かんないかな、今のあなた達じゃ勝負の土台にすら立っちゃ居ないんだからジッとしてて。
それに…やっぱり私の言葉には王華と違って感情のない瞳で返してくるんだよね…一体何なの…。
「あなたは本当に、安城さん?それとも……」
「ーーーー私は、
「…そっか」
「…じゃあね、入州さん」
それだけ言うと、安城さんはフッと姿を消した。
…消したというより、超高速移動だ。ただ攻撃を跳ね返すってだけじゃないとは思ってたけど…一体何の能力だろう。
……あ、私達も逃げないとまずい!!ここ海軍側のど真ん中じゃん!!!
それに色々起こり過ぎて頭痛いよ!!
詰め込み過ぎました。