ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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13『女好き、正妻に逃げられる』

2日後、メリー号。

 

「ん?ねぇ…何か大きい船がこっち来てない?」

 

「…!嘘、あれ、首領(ドン)・クリークの海賊旗…!ということはあの船!」

 

首領(ドン)・クリーク?

ナミさんが焦った顔をしていることから、そこそこ力を持った海賊なのかもしれない。…うん、だって海賊船の規模が今まで見てきたのと訳が違うし。

 

首領(ドン)・クリークって?」

 

「あんたは知らなくても当然かもね…。いい?首領(ドン)・クリークはね、この東の海(イーストブルー)の覇者とも呼ばれる海賊のこと。別名“騙し討ちのクリーク”」

 

「騙し討ちって、覇者のわりには小物みたいな二つ名だけど…」

 

「私も詳しくは知らないけど、海軍になりすまして町に入り人を襲ったり、白旗を振って敵船に襲い掛かったり…まぁ、禄でもない方法で覇者と呼ばれるまで登り詰めたやつってこと」

 

なるほど、クズか。

 

ただ船の外観がボロボロなのが気になる。

度重なる戦闘でそうなってしまったというよりは、つい最近そうなったような傷跡だ。

 

そうして、首領(ドン)・クリークの巨大ガレオン船はバラティエに辿り着く。

メリー号とはバラティエを挟んで丁度反対方向に停船したので中から誰が出てきたとかはよく見えなかったが、…覇者もこのレストラン御用達なのかな?

 

「ちょっと様子見てくるよ」

 

「俺も行こう。ウソップ、お前はどうする?」

 

「お、俺も行こうか。なに、俺は勇敢なる海の戦士…覇者だろうが何だろうが怖くねェ!」

 

「船にしがみつきながら言われても…」

 

何とかウソップを船から引き剥がして連れて行く。

船内に入ると、何故かコックが何人も倒れており中央では金ピカの鎧を纏ったゴリラのような人が騒いでいた。

 

「俺が食料を用意しろと言ったら、黙ってその通りにすればいいんだ!誰も俺に逆らうな!!」

 

「はえー、ムチャクチャ言うじゃん…」

 

店内の騒ぎなどお構いなしに近くのテーブルに三人で腰掛ける。お、特等席。

 

そんな金ピカゴリラ…恐らく首領(ドン)・クリークの目の前に、長髭の料理長が大きな袋をどん、と置いた。

 

「オーナー・ゼフ!」

 

周りのコック達が愕然とその光景を見ている。

何のことだか、途中参加の私達にはわからないんだけど…。

 

「百食分はあるだろう……さっさと船へ運んでやれ…」

 

「ゼ……ゼフだと…!?」

 

ゼフ、という名前に驚愕しているのはクリークだ。

しかしそんなクリークの疑問はコック達の悲鳴で流される。

 

「何てことを!オーナー!一体どういうつもりですか!?」

 

「船にいる海賊達まで呼び起こしたらこの店は完全に乗っ取られちまうんですよ!?」

 

「その戦意があればの話だ。なァ“ 偉大なる航路(グランドライン)”の落ち武者(・・・・)よ…」

 

その言葉にまたコック達がざわつき出す。

言葉は初めて聞いたけど、意味は大体わかった。偉大なる航路(グランドライン)は過酷だと聞くから、恐らくその苛烈さに耐えきれなくなり逃げ帰ってきたのだろう。

 

「貴様は…“赫足(あかあし)のゼフ”!」

 

そんな落ち武者ゴリラが料理長を赫足(あかあし)のゼフと呼んだ。

クリークは語る。ゼフはコックにして船長を務めた無類の海賊で、戦闘において一切手を使わなかった蹴り技の達人だとか。

強靭な脚力は岩盤をも砕き、鋼鉄にすら足形を残すことができたという。赫足(あかあし)という異名は敵を蹴り倒して染まる返り血を浴びたゼフの靴のことらしい。義足の片足は海難事故で失ったとか。ほー。

 

赫足(あかあし)のゼフ!お前はかつてあの悪魔の巣窟、偉大なる航路(グランドライン)に入り無傷で帰った海賊(おとこ)。その期間丸1年の航海を記録した「航海日誌」を俺によこせ!!」

 

「… 偉大なる航路(グランドライン)を無傷か…」

 

いや、これって凄いことだよね。さっきコックが騒いでた時に言ってたことが事実だとするなら…クリークは50隻の艦隊を持ってたにも関わらず無様に引き返してきた。

それに引き換えゼフは無傷で偉大なる航路(グランドライン)を渡ったと。

 

このゴリラ、ちょっと身の程弁えた方がいんじゃない?

 

「航海日誌は渡すわけにはいかん。あれはかつて航海を共にした仲間達全員との誇り、貴様にやるには少々重すぎる!」

 

「ならば、奪うまでだ!!確かに俺は偉大なる航路(グランドライン)から落ちた!だが腐っても最強の男首領(ドン)・クリーク…高々弱者共が恐れるだけの闇の航路など、渡る力は充分にあった!兵力も!!野心も!!ただ一つ惜しむらくは「情報」!!それのみが俺には足りなかった!!」

 

「ねぇ聞いたゾロ、情報だって。知らなかったから無理だったんだって…あれ?負け犬の遠吠えに似てるね」

 

少々声が大きかったのか、クリークがこちらをギロリと睨む。

 

「ガキだからと許して貰えると思うなよ。ゼフの航海日誌を手にあれ、再び海賊艦隊を組み上げた時… ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)をつかみこの大海賊時代の頂点に立つのは俺だ。その前に、貴様は殺してやろうか?」

 

「ちょっと待て!海賊王になるのはおれだ!!」

 

私とクリークで戦闘が起こるかという時、ルフィも我慢ならずに入ってきた。まぁそうだよね、自分の目指す物の障害が今彼の前にはあるんだから。

 

「おい引っ込んでろ雑用!殺されるぞ!」

 

「引けないね、ここだけは!!」

 

「…何か言ったか小僧。聞き流してやってもいいんだが」

 

「ちょっと、私の時と対応が違くない?」

 

「イリス、ゾロにウソップもいたのか」

 

ルフィが私たちを見る。

 

「戦闘かよルフィ、手を貸そうか」

 

「いいよ座ってて」

 

なるほど、確かにルフィの喧嘩なんだから、手を出すのはおかしいよね。

 

「…ハ、ハッハッハッハ……ハッハッハッハ!!そいつらはお前の仲間か!随分細やかなメンバーだな!!」

 

「何言ってんだ!あと二人いる!」

 

「おいお前、それ俺を入れただろ…」

 

サンジが呆れたように言った。あれ、もう勧誘はしてるんだ。

 

「ナメるなよ小僧!情報こそなかったにせよ、兵力五千の艦隊がたった7日で壊滅に帰す魔界だぞ!!」

 

「高々弱者共が恐れるだけの闇の航路でしょ、あなたは弱者でも私達は違うから心配いらないよ、弱者さん」

 

「…フン、なかなか肝の据わったガキだ。…いいか、そこのガキ含め貴様ら全員に一時の猶予をやろう。俺は今からこの食料を船に運び部下共に食わせてここへ戻ってくる。死にたくねェ奴はその間に店を捨てて逃げるといい…俺の目的は航海日誌とこの船だけだ」

 

そう言ってクリークは出て行った。

 

残ったのはクリークの手下のような男一人。

その人はギンと言うらしく、クリークをここに連れてきたことを泣いて謝罪していた。

バラティエのコック達に料理長が裏口から出ていけと促すが、コック達は逃げる気などさらさらないらしく皆武器を手に応戦する気満々だ。

 

「そういえばギン、お前偉大なる航路(グランドライン)のこと何もわからねェって言ってたよな、行ってきたのにか?」

 

ルフィの疑問は最もだ。7日もいて何もわからないというのもおかしな話である。

 

「わからねェのは事実さ、信じきれねェんだ… 偉大なる航路(グランドライン)に入って7日目の、あの海での出来事が現実なのか…夢なのか。まだ頭の中で整理がつかねェでいるんだ。…突然現れた… たった一人(・・・・・)の男に50隻の艦隊が壊滅させられたなんて…!!」

 

「「え!!?」」

 

「た、たった一人に…」

 

それは想像を絶するほどの戦慄だった。

私がオニオンやクロネコ海賊団を全滅させたのとは訳が違う。

クリークの海賊団は艦隊。1隻ではなく、50隻なんだから。

しかもそれをしでかした男はゾロが探しているという“鷹の目の男”に違いないとゼフは言う。

 

「…艦隊を相手にしようってくらいだ、その男お前らに深い恨みでもあったんじゃ?」

 

「そんな憶えはねェ!突然だったんだ!」

 

「昼寝の邪魔でもしたとかな…」

 

ゼフの物言いにギンは食いつくが、ゼフ曰く偉大なる航路(グランドライン)とはそういう場所なのだとか。

つまり、何が起きてもおかしくない…と。

 

「でもこれで俺の目的は完全に偉大なる航路(グランドライン)に絞られた。あの男はそこにいるんだ!」

 

「…ばかじゃねェのか、お前ら真っ先に死ぬタイプだな」

 

「当たってるけどな…バカは余計だ。剣士として最強を目指すと決めた時から、命なんてとうに捨ててる。この俺をバカと呼んでいいのはそれを決めた俺だけだ」

 

サンジの言葉にゾロは威風堂々と返す。サンジはそれを聞いてバカバカしいと言うが、その表情は本気で馬鹿にはしていなかった。

 

「で、これからどうするの?クリークの海賊団もお腹を満たしたら確実にこの店を襲ってくるんでしょ?」

 

「…いや、外が騒がしい、もう食ったのか。どうやら連中はよっぽど腹を空かせていたらしい」

 

ゼフの言葉に外を見ると、海賊達がバラティエに続々と侵入している所だった。

 

 

 

そしてそれは、私達がそれを見てそれぞれ戦闘態勢を取ろうとした時に起こったのだ。

 

「な…!?」

 

首領(ドン)・クリークの乗ってきた、私達の船の何倍もの大きさを誇る巨大ガレオン船が真っ二つに斬られた。船は逆ハの字に傾き、中にいた人達もあれでは無事には済むまい。

 

「う、そ…」

 

私は、まだ分かってなかったのかもしれない。

オニオンの時も、勿論クロの時だって何とかなった。だから、まさか上が…ここまで果てしなく高い何て思ってもなかった。

 

「…あ!ナミさん!!」

 

そうだ、あれ程の船を斬ったのなら、その衝撃でメリー号も危ない!

私は自身の能力をフルで使ってメリー号のあった場所へと向かう。

 

「っナミさん!!」

 

船は…ない!!まさか、もう斬られて…!!

 

「イリスの嬢ぢゃ〜ん!」

 

海を見ると、何故かその身一つで海に浮かぶ二人がいた。その近くにナミさんの姿は見当たらない。

 

「ヨサクとジョニー!ナミさんは!!?メリー号はどこ!?」

 

「それが…!もうここにはいないんです!」

 

「何?どういうことだ?」

 

後から追いついてきた三人も私と同じように怪訝そうな顔をする。

 

「ナミの姉貴は、宝全部持って逃げちゃいました!!!」

 

「「な…何だとオオオオ!!?」」

 

「…ほっ、つまり無事なんだね!!?」

 

頷く二人に一先ず安心する。ナミさんが無事ならそれでいい。宝の持ち逃げも海賊専門の泥棒何だから当然といえば当然だ。

 

…だけど、少し気になることがある。

私の知るナミさんは、この一味のことが嫌いじゃない筈なんだ。海賊は嫌いでも、私たちの事は絶対に嫌ってなかった。

 

そんなナミさんが私たちを裏切るようなことをしたんだ…。何か理由があるのは間違いない。

 

でもこれでナミさんが生きているのは確定した訳だし、良かった。

問題は私達だ…。こんな船を斬っちゃうような人相手から逃れられるのか…。

あー、こういう時に前世の知識があればな〜!!

私は真っ二つに斬られた船を見て、そう思うしかないのであった。

 

 


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