ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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修行編
136『女好き、修行開始』


「はぁ…っ、はぁ…!」

 

ーーー今、私なにしてると思う?

 

「し、死ぬ…!冗談抜きで…!!」

 

ここ、無人島なんだよね。どうも凪の帯(カームベルト)の中にあるヤバいとこらしくて、弱い猛獣からやべぇのまでわんさか居る島なんだけど…。

 

「ち、力も出ないし…!」

 

そこで私ーーーーサバイバルしてます。

 

 

…海楼石入りの腕輪つけて。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

時は戻り、1日前。

 

 

「……ん」

 

むくり、と体を起こして辺りを確認する。…どこだろここ…船の中、かな。

 

外が騒がしい…でも嫌な騒ぎじゃないね、どんちゃん騒ぎって感じ。

 

怠い体を起こして部屋を出れば、時間的には夜なのか月明かりが私を照らす。

心地よい風が頰を撫でて、新鮮な自然の空気を肺一杯に取り込んだ。

どうやらここは…どこかの島の様だ。沖に船を止めて浜辺でキャンプファイヤーでも焚きながら宴をしているのだろう。

 

「ふわぁ〜…」

 

寝起きの覚束ない足取りで船を降り、ガヤガヤと騒がしい場所へ向かえば1人の男が大きく手を上げて私を出迎えた。

 

「お!主役がようやくお目覚めだよい!!ありがとう!逃げ…いや、イリス!聞いたよい!お前がエースを助けてくれたってな!!あっはっは!!」

 

「え?う、うん…あはは…」

 

酒臭い〜…!かなり酔ってるみたいだけど、この人、確かあの青白い炎の能力者の…!

 

「がーっはっはっは!!めでてェ!オイ!座れよ女王!!」

 

「え?いや…」

 

他にも錚々たる顔ぶれだ…白ひげの隊長達だっけ…。白ひげ本人も居るし、エースもその中には居た。

それだけじゃない、あの戦争には居なかった面々も居る。…その中にはシャンクスの姿も。

多分見た事ない人達は赤髪海賊団かな。

で、ここに居る人達全員に言える事だけど…全員が酔ってた。

 

「嬢ちゃん!別嬪なのに強いなァ!酒注いでくれ!」

 

「えー……」

 

酔っぱらい過ぎでしょこの人達。強いなぁ、酒注げ!ってどういう脈絡だよ。注いだけど!

 

「ありがとよ嬢ちゃん!エースもオヤジも無事だったのはお前のお陰だ!!」

 

何かむず痒い…さっきから感謝の言葉を周りからポンポン言われて恥ずかしくなってきた…。

 

「グララララ…!お前も飲め、イリス!」

 

「あ、私お酒はダメだから」

 

「オヤジの酒断んなよ〜!」

 

この楽しい雰囲気をぶち壊してもいいなら飲むけど!私だって気を使って言ったんだからね!

 

「…はぁ。…あの」

 

「ん?」

 

まだ比較的酔ってなさそうな人に近付いて話かける。

ちょっと現状が理解できない為に把握したいからだ。酔っぱらい共は当てになりそうもない。

 

「状況が知りたくて…、今って何日で、これはどういう流れで宴になったの?」

 

「ああ…。今はあの戦争から丁度5日目の夜…この宴は見ての通り、お前が成し遂げた“火拳”奪還を祝う宴だ」

 

「…私は最後に後押ししただけで、それまではルフィが頑張ったんだから私ばっかり持ち上げるのはやめて欲しいんだけどなぁ。…ていうか5日?寝たなぁ…私」

 

道理で体が怠い訳だ。

反動どうこうでめっちゃ痛かった体は治ってるからいいけど…。

 

「俺達も驚いたぜ…マリンフォードに向かってる最中、目的の島から人が飛んできた時はよ。なァ、ルウ」

 

「オウカだろ!エース抱えて飛んできたんだよなァ。そういやオウカは?」

 

「あ、王華を知ってるって事は赤髪海賊団の人達?彼女なら“ここ”に居るよ」

 

とんとん、と私の胸を叩けば、ルゥと呼ばれた人は申し訳なさそうに顔を曇らせた。

 

「悪い事を聞いちまったか…」

 

「何か勘違いしてる様だけど、死んでないからね?…ん?死んでるのか?ややこしいな王華」

 

「「?」」

 

私の説明の仕方が悪かったのもあるし、2人にはキチンと説明しておいた。

まぁ、キチンとと言っても、私の中にもう1人別の人格が居て、私の能力で外に出せるってくらいの簡易的な内容だが。

 

「王華が話してくれてると思うけど、この度は厄介になります」

 

「それは気にするな、うちの船長が決めた事だ。それに俺達としても…あの戦争を白ひげの勝利へ導いたお前の手腕は気に入っている」

 

だからそれは私だけの功績ではないんだと…。もう言い返すのはやめとこう…。

 

「改めて自己紹介といこう。俺の名はベン・ベックマン」

 

「おれはラッキー・ルウ」

 

「私はイリス。夢はハーレム女王!」

 

ベックマンにルウか…。気軽に接してくれてるけど、この人達からは凄い強者のオーラがぷんすこする。

ていうかここに居る人全員からするけどね…シャンクスとかヤバい。白ひげと変わんない威圧感だよ…酔ってるクセに。

 

「海賊なのに海賊王を夢見ねェたァ勿体ねェな!イリス!」

 

「あなたは?」

 

「俺か?俺はヤソップ…狙撃手だ!」

 

ヤソップ…。…いやいや、まさかそんな…、顔似てるけど、まさか…ハハハ。

 

「所でウソップって知ってる?」

 

「お、そりゃ俺の息子の名前だな」

 

うそーん…。

ウソップあなた…お父さん四皇のクルーじゃん…。しかもポジション幹部クラスじゃん!

 

「…ふふ、越えるべき壁は高そうだね、ウソップ」

 

「あん?何か言ったか?」

 

「ううん、あなたがウチの狙撃手に抜かれる日が楽しみだなって」

 

何だソリャ、とまたクビクビ酒を呷り出したヤソップは宴の輪の中へ戻っていった。あれ、父親なのにウソップが私達の一味に居るのは知らないの?…って、そういえばウソップの顔が写ってる手配書ないもんね。

 

…ていうか、さっきから思ってたけど白ひげ…あなた何で酒飲んでるの?

 

「オヤジが元気なのが気になるか?」

 

「…誰だっけ」

 

「ビスタだ。花剣のビスタで世界には通ってる」

 

むぅ…この人からも強者のオーラが…。

さっきからヤバい人とばかり絡んでて流石の私も緊張してきた…。

 

「白ひげだけじゃねェ、お前のボロボロだった体もとある海賊に診てもらったんだ」

 

「とある海賊?」

 

ベックマンの言葉に首を傾げる。あの状態の白ひげをここまで回復させるんだから、そりゃ相当な腕なんだろうけど…物好きな人も居るんだね…誰だろ?

 

「ソイツの名は…トラファルガー・ロー。お前と同じルーキーだ」

 

「ロー?…あー…そういえばそんな人居たっけなぁ」

 

シャボンディ諸島で会った覚えがある。ニット帽の男が確かそんな名前だった筈だ。

 

「俺達はオヤジが治療を受けるとは思わなかったが、あっさりとオヤジは奴に体を診て貰うのを承諾した。以前は治療器具を体に付けているだけで鬱陶しがって外していたというのに…一体どんな心境の変化なのか…」

 

「……ま、まぁそれは良いじゃん、助かったんだからさ。で、そのローは?」

 

「奴は麦わらのルフィの治療も行っていたからな。オヤジとお前の体を診てすぐ、また何処かへ向かったようだ。話によれば女ヶ島がどうとか…」

 

ルフィを匿う為にハンコックが一肌脱いでくれたんだね。確かにエースと一緒でルフィも今は見つかっちゃマズいし…女ヶ島なら政府の目も届かないだろう。

それにしてもローはなんで私や白ひげ、それにルフィの治療をしてくれたんだろう…彼に何のメリットが…?ただの良い人なのかな、そんな感じには見えなかったけど…人は見かけによらないってやつ?

 

「ああ、そうだ。これを見てもらおうと思っていたのを忘れていた」

 

「?…新聞?」

 

ビスタが差し出す新聞を手に取って開ける。

…おうおう、頂上戦争の事が色々書かれてるね。…うん、ちゃんとエースも死んだ事になってるっぽい。

 

「良かった…作戦が上手く行ったようで」

 

「そうだが…見て欲しいのはそこではない」

 

ビスタに促されて新聞を捲る。次のページもまだ頂上戦争の話か…ハハ、見開きでルフィが写ってやんの。

 

「……ってルフィ!?何で!?」

 

な、何してるのルフィ…これ頂上戦争の写真じゃないよね!?隣に居るのは…ジンベエとレイリー!!またマリンフォード行ったのか…無茶し過ぎだよほんと…!

 

なになに…!

 

『麦わらのルフィ、海軍本部で亡き兄を追悼か!!?』

 

…何だコレ。

…オックス・ベルを「16点鐘」…?広場に残る戦争の傷痕に花束を投げ込み堂々たる「黙祷」?

……ビックリするくらいルフィらしくない。…なんかあるなコレ。

 

「…んー……あ、これか」

 

写真に写るルフィは静かに黙祷をしており、麦わら帽子を右手で胸に当てている。

見るべきはその右の二の腕…身体中包帯を巻いているのにも関わらず、そこだけは包帯を外して“3D2Y”と文字を書いてあり、ご丁寧にも『3D』の文字の上にはバツ印があった。

 

王華から聞いていたけど…こんな形でみんなに報せたんだ、ルフィ…考えたね。…いや、考えたのはジンベエかレイリーかな?

 

つまり…3日後じゃなくて2年後…!

 

 

「2年後に、シャボンディ諸島で…!」

 

 

ぐしゃ、と新聞を持つ手に力が入る。

2年間修行をするって分かってはいた事だけど…実際にルフィからこうして“指示”を貰ったらやる気が湧いてくるというか……なんか、燃えてきた。

 

「イリスは意味分かるのか?」

 

「まぁね、…仲間に向けたメッセージだよ。鐘を鳴らしたのとか黙祷は全部ミスリードだね」

 

ルウにそう返し、私はシャンクスの元へ歩いていく。

…この新聞は、1日前のもの。だったら…私以外の仲間達は…もうどこかで修行を積んでいる筈だ…!!

 

私だけがモタモタしてられるか…!頂上戦争で何度も力が足りない思いは味わった。レイっていう厄介な敵も増えた…!だから私は…強くならなくちゃいけない。

 

仲間を…大事な嫁を…守り通す為に…!!手の届かない範囲ってのを、無くす為に!!

 

「シャンクス…!!」

 

「お、イリスか!」

 

…この人も酒くさっ!

楽しそうな雰囲気の中邪魔するのは申し訳ないけど…私だってもう時間を無駄に使えないから…。

 

「王華から聞いてるかな、修行の話」

 

「ああ、勿論聞いている」

 

シャンクスはそういうとポケットをガサゴソ漁って私に取り出した物を投げた。

 

おっとっと…!何…?…う…!力が…。

 

「そいつァ海楼石の手錠の鎖を取って腕輪にした代物でな、“新世界”ワノ国で使われている少し効果が薄い海楼石の錠なんだ」

 

…だからこれに触っても力は抜けるけど体を動かせるのか。

能力はやっぱり全然使えないけど。

 

「コレをお前とエースにやろう。これから俺が良いと言うまではその腕輪を必ず付けておけ」

 

「…そういう系かぁ。…ていうかどこでこんなモノ手に入れたの…」

 

まぁ四皇だし…入手するルートはそこそこありそうだけど。ていうかワノ国にも行ったことありそうだし。

 

「その腕輪を付けたまま後ろのジャングルに入り、こことは真逆の浜へ辿り着いた後、折り返して帰ってくるまでがまず1番初めの修行だ」

 

「…因みに、この森…獣とか…」

 

「さっき見てきたが、うじゃうじゃ居るよい」

 

うじゃうじゃって…。

まぁ…付けるし、行くけどさ…。

 

「ちょっと待ってくれ。悪ィ、今いいか?」

 

「え?うん…いいけど」

 

急にエースが話しかけてきて、親指でクイッと岩の陰を差した。2人で話したいって事かな。

特に断る理由もないので頷いてその場まで歩いていく。ちょっとお酒の匂いはするけど…エースはそんなに飲んでないみたいだった。

 

「…まず、これだけは言わせてくれ。…今回の戦争、色々迷惑をかけた…!俺が不甲斐ねェからルフィも危険に晒して…オヤジもみんなも死ぬかもしれなかったってのに…。少なくとも俺はお前が居なきゃ死んでいた、その事でお礼を言いたかった」

 

結構真剣な目で見つめてくるから一体何事かと思えばそんな事か。

 

「ありがとう、助かった」

 

「…って言う割には、なんか納得行ってなさそうな顔だけど?」

 

「い、いや…何でもねェ、気にすんな」

 

これはあれだね、赤犬に殺されかけて、その上ルフィの仲間である私に助けられたってのがちょっと情けないって思ってる顔だ。私も良く情けないなって思うから分かる。

 

「大丈夫だよ」

 

「…?」

 

「次、勝てばいい」

 

真っ直ぐにエースの瞳を見つめ返し、拳を前に突き出した。

弱い自分と無理矢理向き合わされて辛くても、情けなくて潰れそうでも…次があると思えばそれだけで頑張れるから。

 

「エースは死んでないし、まだまだ強くなれる。だから…これから先もっともっと強くなってさ、次会ったときにぶっ飛ばせば良いよ。だから、えっと…そう!今回のは戦略的撤退!勝つ為の逃げ!…で、どうかな…?」

 

「…勝つ為に、逃げるか。…ハハ、そんな事、考えた事も無かった…俺はアイツのアニキで、オヤジの船の2番隊隊長だって誇りもあったからかもしれねェが…」

 

逃げる事は負けに繋がる事もあるけど、勝ちに繋げる為の逃げだってある筈だ。伊達に逃げ足なんて言われてないもんね!

ちょっと自信無かったけど、エースも納得してくれた、かな?

 

「…俺はまだまだ強くなれる。弟に助けられてる様じゃ兄貴としての立場がねェ…!そうだろ?イリス」

 

こつ、と私の突き出す拳にエースの大きな拳が当てられた。

 

「!…うん…!…ていうか、私の名前覚えてたんだ」

 

「弟の仲間を忘れるかよ、それにお前は戦争でもかなり暴れてたじゃねェか」

 

あー…エースから見ても目立ってたか。これは逃げ足って異名が無くなるのは確定だねぇ、ふふふ…!!

 

「じゃあ、戻ろっか、修行開始だよ」

 

「丁度いい酔い覚ましにはなるか?」

 

「海楼石付けてるのに強気だね…」

 

グルングルン腕を回すエースに若干引く。思考回路はやっぱりルフィの兄ちゃんだった、酔い覚ましのスケールがでか過ぎる。

 

私達はシャンクス達の元へ戻り、詳しい説明を受ける。と言ってもそう多くはなかったが。

 

「制限時間は特にない。後は…そうだな、この程度で死ぬようなら自分はその程度だって諦めるんだな。俺達は誰もお前らを助けにはいかない。…さァ、行け!もう修行は始まっている!」

 

「じゃあ俺は先に行くぜ、イリス」

 

「…これ死んだかも」

 

 

…こうして、地獄のスパルタ修行が始まったのである。

能力の使えない子供みたいな私を夜のジャングルに放り出す四皇……鬼が可愛く見えてくるよ…。

 

で、入った瞬間に狼の様な獣に追われて冒頭に至る訳だね。…はぁ…助けて…ナミさーーん…。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「グララララ…!!なかなか名演技じゃねェか…!頼んだぜ、ビスタ」

 

「ああ、分かったぜオヤジ、イリスの護衛(・・・・・・)は任せてくれ」

 

「じゃあ俺はエースにつくか」

 

エースとイリスがジャングルに入ってすぐ、ビスタとヤソップも草木が生い茂るそこへと飛び込んでいった。

 

シャンクスは死ねばその程度とは言ったが、本気でそう思っている訳じゃない。むしろ…エースはともかくとしてイリスが往復してここまで帰ってこれるとはとてもではないが思っていないのだ。

 

ただでさえあの子供のような体に、普段から能力に頼り切った生活(王華談)、その上に海楼石まで身に付けているのだ。まず不可能だろう。

 

今回の修行での狙いは、素の能力向上、ただそれだけである。

海楼石を身に付ける事で身動きも制限され、能力者には厳し過ぎる環境へと身を投じさせる…だからこそ乗り越えた時に得られる対価は大きい。

 

とはいえ失敗するのを分かっていて1人ジャングルに放り込む訳にも行かなかったので、ああして護衛をこっそり付けたという訳だ。

 

「俺達は宴の続きと行くか!」

 

「さてはお頭、宴したいから面倒みなくて良いこの修行方法取ったな!」

 

「イリスがいつ音を上げるか賭けるか!」

 

「最初だからな、1時間保てば良い方じゃねェか?」

 

やいのやいのと楽しい雰囲気の宴は続く。

この宴自体、森に入ったイリスが焚かれている火などでここの居場所を見失わない様にと行っているものではあるが…そこまでシャンクスが考えているということは、獣から逃げ回るイリスが知る由もない事であった…。

 

 

 


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