ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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137『女好き、2年間の修行』

「く、くそ…!どこだここ!」

 

狼っぽいのから逃げてたら迷った…!

その狼も私が撒いたというよりは突然現れたバカでかいゾウにびびってどっか行っただけだし、そのゾウは私に興味を示していなかっただけだ。

開始早々運で乗り越えてるようじゃ…この修行を終わらせるなんて無理な話…!

 

…それに、分かってはいた事だけど自分がいかに能力に頼り切った生活をしていたのかが分かった。

例えば今、私は夜のジャングルの中で迷うっていう1歩間違えれば即死の状況に陥ってる訳だけど、いつもなら身体能力を倍加して木に登れば高い所から現在の場所を把握する事くらいは出来た。

 

だけど素の私は本当に小学校低学年並みの力しかないし…暗闇でこんな大木よじ登れる訳もない。

運良く登っても降りられないのが目に見えてる。

 

「そうなんだよね…暗いんだよねぇ…」

 

最近では暗くても暗闇耐性を倍加していたから視界に不便は無かった。色んな所で能力が使えない弊害が出てるというか…。非能力者で化け物並みに強い人ホント凄い。

 

「とりあえず歩くか…。…お腹も空いたなぁ」

 

5日間も何も食っていないというのを今思い出した…。そんな事を気にしてる暇もない様な状況の変化に頭が空腹を忘れていたんだね。

 

幸い無人島生活で得た知識をフルに活かせば食べられる物の見分けはつくだろうけど…ただこうも暗いと分からないな…。

 

「…とりあえず、どっか安全な場所で朝を待つか。……ん?」

 

なんか右腕がむず痒い。森の中というのとあるし、草かなんかがひっついて来たかな?

 

と思って腕を上げて見る。

…うーん、暗くて分かんないな。

 

顔を近づけてみる。

…あ、見えた見えた。忙しなく動く触覚2本とこんにちは、暗闇の中でも黒光りを忘れないその姿!いやー……いや……はは。

 

 

「い…っ、ギャアアアアアアアアアア!!!!!」

 

で、出たァァァァ!!!!は、走る!とにかく走るぅ!!

 

あーーーー!!!!

 

あーーーーーー!!!!!

 

あーーーーーーーー!!!!!!!

 

 

「オオオオオオオ!!!!アアアアアアア!!!!」

 

どっか行け!どっか行け!!!

 

「ぶへッ!!」

 

一心不乱に走っていたのもあり、足元を見ていなかった私は顔から地面に突撃する。

いたい…ッ!…ハッ……み、右腕は……。

 

「…ごくり。……そーっと、そーーっと……い、居ない……。……、はぁ〜…!もー…!いきなり奴は勘弁してよぉ…」

 

お陰で余計道が分からなくなったじゃん…!ここドコ…。

 

ていうか私、この島の大きさすら知らないんだけど…逆の浜辺って一体どれだけ距離あるんだろ…。1日あれば着く距離なのかな…?

 

「…とりあえず、ここで休憩しよう…。Gが出ないのを祈って!」

 

ふぅ、と座り込んで近くの木に凭れかかった。…あ、アマダケとミズダケが生えてる。

アマダケって言うのは、その名の通り甘いキノコだ。ワライダケと違って表皮を剥かなくても水で洗えばすぐに食べられる素晴らしいキノコである。ただし水で洗う工程は必須で、アマダケの表面に付いている胞子成分を取り除かない事には食えた物ではないのだ。水で洗う前のアマダケが美味しいと言う人も居るらしいが…これはサンジに聞いた事だけど。

ミズダケは水分をめっちゃ吸収するキノコで、無人島では水の保管に使っていた。水を吸う事でかなり大きくなるんだよね…キノコの傘に乗って小型のボート代わりになるくらい。雨の日なんかは見つけやすいキノコだった。

 

「川とか、どこかにあればなぁ…」

 

無人島に居た頃は、聴覚倍加を使って微かな水のせせらぎを拾い、川や滝などを探したモノだ。

…今は滝があっても絶対近づかないけどね。滝壺で死ぬ。

 

「ガルルル…」

 

「あー、お腹すいてそうな声。私もペコペコなんだよね…」

 

「ギャオッ!」

 

「お、また違う声!さては獣の群れだなぁ?………退散っ!」

 

急いで立ち上がって振り返る事もなく走り出す。勿論アマダケとミズダケは握りしめて!これが生命線だもん!!

 

やっぱりGから逃げる時に大声出したのがダメだったか…!獣を呼び寄せちゃったみたい…!

突然後ろから涎が落ちる音と唸り声が聞こえた時は心臓が飛び上がったよ…今もバクバクだけど!

 

「はぁ…はぁ…っ!」

 

逃げてばっかだな…私…。やっぱり…能力が無きゃただの雑魚じゃん…。

いつもなら拳1つあれば充分な場面も、今の私にとっては命をかけた逃走劇になる。…こんなんじゃ、いつまで経っても変わらない。

 

「だけど…!」

 

そうは言ってもどうする事も出来ない…!気持ちだけで後ろの獣達をどうにか出来るなら今すぐ振り返って戦ってみせるけど、そんな事をすれば二度と朝日は拝めまい。

情けなくても、弱くても…まずは逃げ切る事を考えないと…!ただでさえこの腕輪で動きも制限されてるんだ、頭も使わないとただ死ぬだけだ!

 

「どうする…どうする…!…ッがぁ!?」

 

〜〜〜ッ!!!!せ、背中引っ掻かれた…!爪…!?なんだ…また狼とか、虎とかそんな系統の獣なの!?

 

「…ッ…つぅ…!」

 

傷はそんなに深くは無いハズ…!だというのにズキズキと焼ける様に痛い!貧弱過ぎる体を恨むよ…!

 

「…あ…!!この、音…!!」

 

これは、水が高所から落ちる音!つまり……滝だ!

近くにある…そこまで行ければ、まだ逃げ切るチャンスは残されてる!滝は怖いけど…どうせこのままだとやられちゃうんだから!

 

「ッうぐ!」

 

ドンッ!と背中から突撃されて前に倒れた。コイツ…!しっかり背中を踏んで起き上がれない様にしてやがる…!

…やっぱり予想通り虎みたいな獣だ…!それが群れを為して私を追ってたんだ!私を押さえ込んでるコイツはボスか…!?コイツの前には誰も出ようとはしない…付け入る隙はそこにある!

 

「おっもい…な…!これでも、食ってろ!!!」

 

持ってるアマダケを虎の口に放り投げる。虎はそれをムシャムシャと咀嚼し、直後に口から火を吹いた。

 

「ハァ…!バーカ!アマダケの胞子は真逆の激辛成分たっぷりだってーの!!」

 

その辛さで怯んで拘束が緩くなった隙を付いて走り出す。滝…滝…!!

 

「だぁー!もう復活したの!?」

 

私を追う足音がまた聞こえ出した。しかもさっきより力強い…!怒ってらっしゃる!

 

「間に合って…!頑張って私の貧弱体〜ッ!!」

 

見えた!滝…!!

上流から流れて来た水が滝となって下流に流れてるんだ…!それなりに勢い強いね…。

 

「…飛び込んだら死にそう。…でも飛び込まないと結局死ぬんだ…!頼むよミズダケ!!」

 

大きく息を吸い込み、ミズダケを握りしめて川に飛び込んだ。

着いてこれるモノなら来てみろ!私だって入りたくないよこんな勢いの強い川!!

 

「…ぁあ…」

 

海楼石の腕輪なんか比じゃない程の脱力感が私を襲う。

だけどこのミズダケだけは離せない…いや、離すな…!死んでも!!

 

水位もそれなりに高いのか、足は付かない。

そのせいか水に流されるスピードも洒落にならない…既にかなりの大きさとなっているミズダケを離した瞬間にこの荒波に揉まれて水死体となる事は火を見るより明らかだった。

 

「っ…!う、そでしょ…!」

 

今でもギリギリだってのに、この先また滝あるじゃん…!

あれに落ちれば、死ぬ…!それまでに何とか…何とか……出来るわけないじゃん力も出ないのに!

 

「あ……ッ」

 

案の定、抜け出す事叶わず…私はそのまま滝に飲み込まれて行った。

ぐ…!こんな、所で……!!こんな所で、死んでたまるか!!!!私は…イリスだ!!未来のハーレム女王で、誰よりも強くなって、何が起きても嫁を守り抜く…!

だったら滝の1つや2つ…絶対に乗り越えてやる…!!!

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……ハァ…ハァ…!!…生きてる…」

 

滝の高さがそんなに無かったから、落下の衝撃も最小限だったのもあるだろうけど…よく無事だったな、私…。

そりゃ乗り越えてやるとは思ったけど、気持ちだけは負けないようにしようと思ってただけでぶっちゃけ死んだと感じてたのに…。

 

しかもたまたまミズダケが岸近くの木の根に引っかかってくれたのもあって、今こうして地に足ついているのだ。

 

「…食糧はないけど」

 

アマダケも使ったしね…。はぁ…目的地が本気で分からなくなっちゃった…。

 

「とにかく服を乾かそ…寒い」

 

どうせ誰も居ないんだ、裸になろうと問題ないでしょ。

こんな森の中で裸になるのはちょっと不安だけど…仕方ないよね。

 

「暗いけど、その辺の葉で服作っちゃうか」

 

ちゃっちゃと服を脱いで近くの木の枝に干し、手頃な葉っぱを見つけてさくっと服を作る。

うん…ちゃんと着れる、腕は衰えてなさそう。

 

…ふぅ。とりあえずここで休憩させて貰おうかな。ここなら獣に襲われても川に飛び込めば助かるし…その後は保証できないけど。

 

「……ナミさん達、どうしてるかな」

 

ゆっくり落ち着けば浮かんでくる当然の心配に心が騒つく。

それぞれ修行出来る環境に送られたって話だけど…私みたいに超スパルタを受けてるんじゃないよね…。

…何であれ、みんなは2年後…シャボンディ諸島に心も体もずっと強くなってやってくるんだ。スパルタだなんだと根をあげてる場合じゃない…か。

 

「こういう時はテンション上げるためにナミさん達のぽよんを思い出そう…!あのぽよんは素晴らしおっぱい…!ぽよんぽよん…ぽよんぽよん」

 

…何だか余計会いたくなって会えない事実にテンション下がったよ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーそして、スパルタ修行が始まって早3日が過ぎた。

 

私は未だに森の中を彷徨い続け、その辺に生えてるキノコとか食べられる草で空腹を凌いでいる日々が続いていた。

初日以降は獣に追われる事もなく、安全に歩を進めてはいるがこっちで本当に合っているのかは分からない。勘だ。

 

「…うん、こんなものかな」

 

ぎゅ!と木の枝と石を頑丈な草で結んで簡易的な槍を作る。

石はちまちま研いできたからそれなりに尖ってるよ!これでやっと肉が食える…かもしれない!

 

弓も作りたいけど弦となるものがないから今は諦めてる。槍さえあれば弱い獣はこれで狩れるのだ。

 

とはいえ自分からわざわざ探しに行く必要もない。あちらさんからこんにちはした場合に限ってこの槍は活用しよう。

 

「お?とか何とか言ってたら兎っぽいの発見!」

 

しかも1匹!群れからはぐれたのかな?…じゃあ悪いけど、私のお昼ご飯になって貰うよ!

 

「慎重に…」

 

こっそりと、音を立てずに兎へと距離を縮めていく。

走って距離を詰めれば逃げられて終わりだから、これくらい慎重な方が狩りは成功するのだ!

 

ーーーーーここだ!!!!

 

槍が届く距離まで近付き、思い切り突き出す。

完璧だ…!まだ気付いてない…兎肉は貰っ………!

 

「グオ…!?」

 

「た……!?」

 

笑えるほど最悪なタイミングで、横から虎型の獣が兎を丸呑みにしやがった。

私の槍は兎ではなくその虎の頰に刺さり、虎は槍が刺さったまま私をギロリと睨む。

 

…!!槍…!これがあればまだ…!早く抜かないと…っ。

 

「うぐ…!!」

 

力が無さすぎて中々抜けない…!

終いには刺さった槍を抜くために力一杯頭を振り始めやがった…!当然槍を掴んでる私も振り回される。

 

「うわ…!」

 

ズボ、と槍が抜け、その時の勢いで投げ飛ばされて木に激突した。

っつ…!これだけで意識が飛びそうになる程痛いってのに…!!

 

「ガルルルァ!!」

 

「ふんぬ…!」

 

刺された怒りで私に飛びかかってきた虎ののしかかりを槍の柄で防ぐも、虎の重さを支え切れる筈も無く、それはすぐに私の体へとのしかかった。

 

ぐ…ぅ…!骨が…軋む…!折れる…!肋骨イかれるって…!!

抜け出せない…!キノコなんて持ってない!槍は押さえつけられてるし、私だって身動き取れない…っ!

 

「ガッ…ぁぁぁぁあああああ!!!!?」

 

押さえ付けられたまま肩に噛み付かれ、その鋭い牙が深く刺さり、強靭な顎で抉っていく。

…!く、そ…!

 

槍から手を離して虎の頭を私に押し付ける。今1番怖いのは…引き千切られる事だ…!このまま噛み付いてくれてる方がマシなんだ…!

 

「はァ……っ、ハァ…!…っ…、この、獣風情が……ッ」

 

私を誰だと思ってるの…!未来の…ハーレム女王だよ…!!

だというのに、何…その目は…!!私を餌としか思ってないみたいな…舐めきった目は…!!

 

「こんな、所で……っ!!!こんな雑魚に殺されて、たまるか…!!夢がある…大事な人が居る…!帰りたい場所だってある!!見つけたい人も居る!!…お前なんかが…私の、未来を…ォ!!」

 

「グォ…!?」

 

「邪魔、するなァ!!!!!!」

 

「ォ……ーーーーー」

 

 

…何だ…?今、空気が震えた様な…。

…んん!?重い…!この虎…全体重かけてきやがったな…!!

 

「て…気絶してる…?」

 

ちらりと虎の顔を見れば、白目を剥いて力なく項垂れていた。

体重をかけたというより、力が抜けたのか…。

 

「うぐゥ…!いっ…!?あぁあもう!!!」

 

何とか虎を退けて、刺さった牙を抜いた。

…流石に血がヤバイ、止血しないと…!

 

ダラダラ流れる血を止める為に、葉や蔦などを使って止血していく。

とはいっても医療機器があるわけもなし、出来ることは最低限に留まってしまうけど。

 

「…これで、よし…!」

 

包帯とか欲しいけど…無いものは無い。今あるもので最高の手順を踏めば良い。

…でも血は止まらないなぁ。マシにはなったけど…。

 

「今の、冷静に考えたら覇王色…だよね」

 

この腕輪してるし、何より女王(クイーン)化もしてないのに覇気を使えた…?

…命の危機で私の才能が目覚めたなぁコレは!ふふん、どや。

 

覇王色の覇気っていうのは、発動した時オーラが見えるものだ。それを飛ばせば小さな岩くらいなら砕く事も出来るし、周りの生物の意識を奪うことだって可能。

…今の感覚、まだ忘れちゃいない。忘れない内に…!

 

体の奥底から、自分の存在を、圧を、力を沸き立たせる様なイメージ。

誰かが言っていたけど…覇気とは意思の力…私の心が成長した時、それは更に強くなる。

 

「ーーーーふん!!!」

 

全力で覇王色の覇気を発動させてみた。

…オーラは見えないけど…目の前の木は少し抉れた。つまり成功したんだ…!…でもこれって本当に覇王色……?なんか違うような…ま、いっか。

これの扱いがもっと上手くなれば、他者を傷付けずにただ圧だけを発したり、私が良く使う様な体に纏って身体能力を強化したり、今みたいに物を破壊したりと使い勝手も良くなる…!

 

オーラが見えないのは単純に私の覇気が弱々しいからだろう。私の能力で100倍まで倍加していたからあれ程の規模の覇気を扱えていただけで、素の状態ならこの程度…。つまり、この素の状態でまともに覇気が使える様になったその時…!!

 

「……私は、格段にパワーアップする!!」

 

…くぅ〜!!シャンクスめ、これを狙ってたんだね!?流石四皇…私の覇気を目覚めさせてくれるなんて…!

 

そうと分かれば、後は武装色と見聞色だ!待ってろ2年後…!!待っててナミさん達…!!

 

 

私はもっともっと強くなって…ハーレム女王に相応しい女になって帰るから!!!

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「…あれからもう2ヶ月か」

 

「まだ帰ってこねェな、イリスとビスタ」

 

森の中を見て言うシャンクスの呟きに、後ろで昼食の肉を齧っていたマルコが反応する。

イリスとエースが森に入ったあの日から早くも2ヶ月が経過しており、1ヶ月前にはエースが往復を終えて帰ってきていた。

 

やはり素の力だけでもエースはそれなりに戦えて、その辺の木の棒で獣を狩っては腹の足しにしつつサバイバルを終えたという流れだ。

 

「グラララ…なかなか骨があるじゃねェか…!一体どうやって生き抜いてやがるのか…心配か?エース」

 

「気にはなるが、心配はしてねェよ、オヤジ。アイツは強い」

 

エースの顔には言葉通り心配の色は見えなかった。ただこの2ヶ月…どうやって生き延びているのか、それだけが気になっているのだ。

 

白ひげもイリスに言っておきたい事があり、他の面子は全員イリスの身を案じながら帰りを待っていた。

 

「…、この気配は…!」

 

ぴく、とまず最初にシャンクスが反応する。その次に白ひげが深い森の奥を見据えてニヤリと口角を上げた。

 

「こりゃ…予想外じゃねェか、赤髪の小僧…!」

 

「…参ったな…、修行のステップを何段も飛ばす必要がありそうだ」

 

パキ…と木の枝を踏む音が、草木の生い茂る影の向こうから聞こえる。

その足音は徐々に大きさを増していき、やがて足音の主が影から出て、陽の光に当たって眩しそうに瞳を細めた。

 

「…やった。往復出来た」

 

その少女は、森へ入った頃とは打って変わって疲れ切った表情を浮かべていた。

薄汚れ、よれよれになった衣服を見に纏い、背中には葉っぱや蔦で作ったのかカゴを背負い、手には獣の牙を刃にした槍を持っている。

ただ、その眼の奥だけに…ギラギラと燃え尽きない炎を宿して。

 

「…うぅうう…!!やったーーーー!!!!…うにゅ」

 

両手を上げて叫んだと思えば、よろよろと倒れそうになる少女を後ろから現れたビスタが支えた。

 

「グラララ…!やるじゃねェかイリス…!オイ、誰か手当てしてやれ」

 

白ひげの為に集めた精鋭の医者達が、ビスタに凭れ掛かりながら気を失っているイリスを船の中の医療室へと運んでいく。

シャンクスはそれを目で追いながらビスタに「様子はどうだった」と聞いた。

 

「恐らく赤髪も、オヤジも驚くだろうが……森に入って3日程で武装色が扱える様になるまで成長した」

 

「な…!?」

 

驚愕で目を見開いたのはエースだった。

確かに自分はイリスより1ヶ月も早く往復を終わらせたが…覇気が使えた試しは無かった。

つまり、海楼石の腕輪をつけながら覇気を発動させるという能力者にとってはほぼ不可能に近い芸当を…彼女はたったの3日でやってみせたのだ。しかも彼女が行ったのは武装色を“飛ばす”という高等技術であり、これはそう誰にでも扱える様なレベルのモノでは無いというのにも関わらず。

 

「見聞色はその2週間後…覇王色はつい1週間程前だった。確かに運が味方をした時は何回もあった…だが俺にはそれすらもこの世界の意思の様な気がしてならない。何度も助けに入ろうとしたが…その度に自分で苦難を乗り越えていた…アレは、間違いなくこの世界を動かす程の存在となる」

 

イリスの運が良いのではなく、世界がイリスを死なせない。ビスタはこの2ヶ月間でそんな感想を抱いていた。

 

「“運”も力、アイツがそれだけの器を持っているだけの話だろう。これからどうすんだ、赤髪の小僧」

 

「本当はもう少し後にしようと思っていたが…近くにまた1つ島がある。そこはここの動物達とは比べ物にならない強さを持った“独自の進化”を遂げた動物達の島だ。そこで1年間鍛えようか」

 

 

想定よりも数ヶ月早く島を移る事となり、イリスが眠っている間にと急いで海を渡る。

 

確かにイリスの成長速度は早い。2ヶ月足らずで海楼石の腕輪をつけながら覇気が使えるようになり、それなりの大きさの島を往復してみせた。

だがシャンクス達は知らなかった。…イリスは眠っている間も修行を欠かしてなど居なかったのだ。

睡眠時には常に王華部屋で覇気や技の開発、その他諸々の強くなるトレーニングは欠かさず行い、意識の中では海楼石で縛られていようが関係なく使える能力を使って、自分の能力で出来るだろう事を片っ端から試し、糧にした。

 

結果としてイリスは起きている間に覇気と肉体の修行を。寝ている間は覇気と能力の修行をこの2ヶ月ずっと行い続けていたのだった。

 

王華ですらドン引きしていた程の過密スケジュールである。覇気をある程度自由に使える様になったら休むよ、と言って早2ヶ月なのだから誰でも引く。

 

 

 

 

そして、島を移動してすぐにイリスは目を覚ました。当然眠っている間は覇気と能力の修行を欠かしてはいない。

 

その島では、まず白ひげ海賊団の隊長達と組み手をしたり、シャンクスに覇気の詳しい説明を受けた後すぐに島へと放り込まれた。

エースは今の状態でも覇気が使える様になる為にと意気込み、イリスは更なる力を手に入れようと気合を入れる。

 

その際に…イリスは白ひげから重大な報告を受けた。別にイリスに関わりのある事ではないが…どうやら白ひげは海賊を引退するらしい。

驚いたイリスが訳を聞けば、「海賊としての俺は、あの日背を向けて逃げた時に死んでらァ」との事。

誇りってのは厄介なもので、どうもそれを割り切って海賊に戻るのは難しい様だった。

エースも同じく逃げたくない戦いから逃げはしたが、アレはイリスが助けていなければ既に死んでいる場面だったからエース自身も気持ちを新たに前へ向けたという訳だ。

 

 

そうして、1ヶ月…5ヶ月…1年が過ぎ、また1ヶ月…5ヶ月…と過ぎて行った。

 

最初の1年と2ヶ月で1個目の海楼石の腕輪は外れ、効力の弱めていない海楼石の腕輪を新たに付け直して5ヶ月…その後残りの5ヶ月を海楼石無しで過ごし、日々エースやシャンクスと拳を交える日々が続いてーーーーーー

 

 

 

 

そしてついに、約束の刻が訪れた。




修行シーンは大幅カット。もう違和感あるくらい大胆にスキップ!
ビビやカヤとも会わせようかと思ったけどカット。

全ては2年後のイリスをギリギリまで描写しないようにする為…!仕方ないのです…!!

次話は2年後になるので、4日くらい間を開けて少し休もうかと思ったんですが…普通にいつも通り投稿します(笑)

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