ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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新世界突入編
138『女好き、新たな始まり』


「もう2年か……」

 

草木が生い茂る森の中で、1人の少女が静かに佇んでいる。

周りには、何頭もの猛獣達が普段の猛猛しさなど微塵も感じられない程に大人しく座り、その少女に対して頭を垂れている様だ。

ここに来た当初は、この猛獣達に追いかけ回される日々だったな、と少女は薄く笑う。

 

「おーい!早く来いってオヤジが呼んでるから急げよー!」

 

「うん、今行く!あ、みんな、じゃあね!」

 

猛獣達に軽く挨拶をし、手を振る男に小走りで近付く少女が隣に並んで歩き出す。

男は眠そうにあくびを噛みしめ、少女はそんな男の脇腹をつついて遊ぶ。

 

ただのジャレ合いだが、一方の男は自然系(ロギア)の能力者である事からこの少女がただの可愛い女の子ではないという事は一目で分かる事だった。

150あるかないかの身長で、小ぶりではあるが確かにそこに存在する胸。肩まで伸びる髪は入念に手入れが施され、綺麗な赤の瞳が良く映えている。

髪を留めている訳ではないオレンジ色をした飾りだけのヘアピンを前髪につけて、その容姿は幼さが残ってはいるものの美しさすら垣間見えた。

 

少女の名は、イリス。

 

2年前に世界の辿る筈だった道を大きく変えた張本人で、隣を歩く男…エースの命を救った者でもある。

この2年でエースとは兄妹の様に仲良くなり、妹が居なかったエースはイリスに甘かった…というのはまた別の話になるが。

 

 

「お待たせー!」

 

「おー、全く待ったよい!」

 

「早く乗れよエース!イリス!出航するぞ!」

 

船は騒ぎを起こさない様に新調したモノに乗っているのだが、乗ってる人物は見つかれば騒ぎ所では済まない。

 

海賊をやめた白ひげや、その元船員…家族達。そして赤髪海賊団一同が同じ船に介しているのだから政府が見れば泡を吹いて倒れてもおかしくはないだろう。

 

そんな大物達が集まる船だろうとも、イリスは臆すことなく乗り込んで四皇の1人…シャンクスの隣に立った。

 

「シャンクス…改めてありがとう。私、こんなに身長伸びて幸せだよ」

 

「背が伸びたのは俺のお陰じゃないだろう。真剣な顔して何を言うかと思えば…」

 

「イリスには一大事だろ。なァイリス」

 

「そうだよ?…それにしても楽しみだなぁ…ナミさん達」

 

目を瞑って自らの嫁がどの様に変化しているのかを予想で思い浮かべていく。

 

修行中、シャンクス達はあまり島に近付いたりはしなかった。元々四皇というのもあり、ずっと船を島につけてれば怪しまれるというのもあっての事だ。

代わりに船の無かった白ひげ海賊団はずっと島に居て、イリス達と共に鍛え直している人も居た。それは白ひげが船から居なくなるからという意味も少なからずは込められていただろう。

 

「エースは白ひげ海賊団…もとい不死鳥の海賊団に残るんだっけ」

 

「ああ、やっぱり俺の居場所はここなんだ。でもルフィには会っておきてェな」

 

イリスとしてもそうしてくれると助かる話だった為、とりあえずエースにはローブを被せて一緒にシャボンディを降りる事になった。

イリスもとりあえず同じ様に被って顔バレ防止とする。本人はエースを隠す理由は分かるけど自分は別に隠さなくてもいいじゃん、と言っていたが。

実際身長も伸びているからすぐにイリスだと気付かれる事も無いかもしれないが、もし正体に気付かれれば騒ぎが起き、出航に手間取るかもしれないというシャンクス達の配慮だ。

 

 

 

かなり朝早くに出発したというのもあり、シャボンディへ辿り着いた時もまだ昼前だった。

イリスは船を降りる前、1人1人に挨拶に回る。この2年間…お世話にならなかった人物など居ない。全員に何かしら助けてもらっている、何も言わずに去るなどあり得ない。

 

今の自分があるのは、間違いなくこの人達のお陰なのだから。

 

 

挨拶を終え、白ひげに「医療機器は無理矢理外すな!」と念を押してシャボンディ諸島へ降り立った。

見送りは要らない…それをした瞬間にここら一帯は大パニックになるだろう。

 

…だが、降り立ったのだ。

 

2年前…みんなと別れたこの地に…また。

 

 

「…みんな、この2年間、ほんっっとうにありがとう!!!絶対!!ハーレム女王に、私はなる!!!」

 

船に大きく手を振ってそう宣言し、エースと共に歩き出す。

バレる訳にはいかないので全員船から手を振るだけだったが、イリスはそれだけで充分やる気が漲ってきていた。

 

「…よっし…!行くか!」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……き、っったーーー!!!!やっと着いたわ!シャボンディ!!諸島!!キャハっ!キャハハ!!イリスちゃん!イリスちゃんどこーー!!」

 

肩まで伸びた淡い金髪を黒のリボンで後頭部の下に1束で纏めてローポニーテールにし、帽子は被らず、黄色のシャツに白のジーンズを履いている美女…ミキータが顔をだらしなく緩めて走り回る。

 

「私は待った…!2年間も!!禁断症状なら飽きるほど出たわ…!私は生と死を彷徨い続けたのよ!!ダイブしたいわ!あのおっぱいに!!おしりに!!ああ、イリスちゃん…!私はここにいるわ!!」

 

ヤバイ女が走り回るその姿に、道行く常識を持つ人は避けて通る。しかし心配しなくても彼女が探しているのはイリスだけ…それ以外の人に危害を加える気など無い。

その事を知らない人から見ればただの変質者だが。

 

「ちょっとアナタ、さっきからイリスイリスとウチの主人に何か用ォ?」

 

「え?イリスちゃんを知ってるの!?」

 

キキ!とブレーキをかけ、ミキータはその女にあなたは?と尋ねた。

女は黄色のベレー帽のような物を被り、小太りで、着ている黄色のワンピースも張り裂けそうなインパクトのある見た目の人だ。

 

「私を知らないなんて遅れてるわねェ。私は『嵐の運び屋』ミキータ。懸賞金は4000万よォ?ギャハッ!」

 

「?……ああ…そういう……ふぅん。で、その主人は?」

 

目の前の“偽”ミキータがそう自己紹介した瞬間に、この女の言う主人とやらもイリスではない可能性がだいぶ高くなった事でテンションが落ちるも一応聞いてみる。

そもそもイリスは面食いな所がある。この女を嫁にするとは少々考えづらい。自分を偽るくらいだから中身も良くないんだろう、とミキータは急激に冷えた頭でそう分析した。

 

「向こうの酒場よォ?あなたも来るゥ?」

 

「キャハ…そうね…行くわ」

 

イリスに会う前に、大好きな人を偽る胸糞悪い連中をぶっ潰してから行こうと決めてミキータは自分の偽物の後をついて行った。

 

 

 

ー酒場ー

 

「ここよォ」

 

「ふーん…」

 

やはり、ざっと中を見渡してもイリスなど居やしない。

長いオレンジ髪の女性や、ピンクのお姫様みたいな女性、黒のストレートロングの女性なら居るのだが…。

 

「…って…ナミちゃん!?ペロちゃん、ロビンも!!」

 

「え!ミキータ!?うわー、久しぶり!雰囲気違うわねー!」

 

偽物に用事が出来た、と言ってカウンターで固まって座っていた3人に近付き、ミキータも近くに座る。

 

「雰囲気ならナミちゃんも…ていうかペロちゃんががらりと変わったわね!綺麗で、イリスちゃんが見たら絶対惚れ直すわ」

 

「うっせーな…別にアイツの為にやってるんじゃねェよ…」

 

ぬいぐるみを抱きしめて、ぷい、と頬を染めそっぽを向くペローナを見る限りではイリスの為でしかない様に見えるが。

 

「でもゾロを放ってここまで来たんでしょう?イリスが居るって噂になってるこの酒場に」

 

「た、たまたま入ったんだよ!酒が飲みたかったんだ!!」

 

「飲んでない様に見えるけれど」

 

「ぐぬぬ…!!」

 

ロビンに弄ばれてるペローナを見て、ミキータとナミは軽く笑い合う。こんな光景も2年ぶりで、つい笑いが溢れ出てしまったのだから仕方がない。

後はイリスが来れば、とりあえず女組は全員揃うのだが…。

 

「…で、ここに居るイリスちゃんっていうのは?」

 

「ああ、あそこよ。いつ消し炭にしようか相談していたの」

 

ミキータはナミが親指でクイ、と指差す方を視線だけで盗み見る。

そこに居たのは…麦わら帽子を被った丸々した体型の男と、その隣で偉そうに踏ん反り返っているお世辞にも可愛いとは言えない背の低い女。髪もボサボサで、瞳に関しては赤ではなく黒。

女は近くの男を呼び付けてはあれやこれやと命令をしていた。呼ばれた男はその女とは全くの無関係だったにも関わらず慌てた様に命令に従っている様だ。

 

「ちょっと、アタシが誰だか分かってんでしょォね!?“女王”イリスよ!!懸賞金10億の!!殺されたくなきゃさっさと金と男持ってこい!!」

 

「あ、あんた女好きで有名なはずじゃ…ぎゃぁ!?」

 

パン!と偽イリスが放ったピストルが男の足を貫く。

 

「女好きィ?んな訳ないでしょ!?美人連れてた方がイイ男が寄ってくるからそう名乗ってるだけだっつの!女が女を好きに!?キモいわ!!」

 

 

「ーーーーー……殺す」

 

「ペロちゃん落ち着いて、ここは一旦冷静になるのよ。殺すならまずは指を切断して、耳を引きちぎり、鼻を抉って四肢をトばしてから!!」

 

「あんたが落ち着きなさいよ、そんな事しなくても雷落とせば楽に殺せるわ」

 

「フフ、首を180度回す方が速いんじゃないかしら」

 

デンジャラス☆ブライド達が殺気を隠そうともせずにそう口にするが、殺気を感じ取る実力すら無い偽物達は気にした様子も無く、逆に美人が集うこの場所へと大声で話しかけてきた。

 

「そこの女共ォ!!仲良く固まってねェでこっちへ来い!」

 

「死ね」

 

「お、オイオイ…!アンタなんて事言うんだ!あの男は“麦わらのルフィ”だぞ…!2年前の頂上戦争に突っ込んでったイカレた海賊だ!知ってんだろ!?隣に居るのは更にやべェ、あのイリスだ…!海軍大将とも渡り合えるって噂なんだぞ…!怒らせないでくれ!店が危ねェよ!」

 

小声で怯えながら言う酒屋のマスターに、ペローナは尚も不機嫌そうな顔を隠そうともせず更に舌打ちをかました。

 

「…チッ、私に死ねって言われたら逆に喜んでんのがあのアホだろうが。どこに目ついてんだカス共」

 

「あ?何だって…?お前…アタシが女王だから手は出されないとでも思ってるんじゃないでしょォね?女だろうが何だろうが関係ないわ…!アタシよりカワイイ顔してるお前らは皆殺しだ!!」

 

「だったら世界中の女を殺さなきゃいけないわね、頑張って」

 

「コノ…ッ!!舐めんじゃねェよォ!!」

 

煽るロビンにガチャ、と銃口を向けた偽イリスにため息をついて、4人はナミ達が飲んでいた飲み物の代金をカウンターに置いて歩き出す。

 

「ゴーストラップ」

 

「がァ…!?」

 

ペローナが指を鳴らした直後、突然偽イリスの持つ銃が爆発を起こして痛みに蹲った。

爆発の前兆など何も無かったのに…と偽イリスは歯を食いしばる。本当にいきなり爆発したのだ。指を鳴らしただけで…銃が弾け飛ぶレベルで。

 

「ホロホロホロ、そこで一生蹲ってろ、バァカ」

 

「こ……んの…ォ!!!」

 

「キャハ、危ないわね」

 

「んなァ…!?」

 

銃が壊れたならと隠し持ったナイフを取り出した瞬間、突風と共に目の前に現れたミキータの蹴りでナイフを弾かれて落とす。

その事で更に頭に血が昇った偽イリスは、後先考える事無く攻撃を仕掛けた。

 

「右腕のパンチ、そして左足の蹴りかしら、単調ね」

 

「え…!?」

 

自分の攻撃を分かっているかの様に避けてみせたミキータに偽イリスは目を見開く。

そんな彼女の反応を見て満足した様に笑い、ミキータは踵から突風を巻き起こして蹴りを放ち、偽イリスを店の壁まで吹き飛ばした。

 

「私達を相手にしたいのなら、せめて軍艦でも引っ張ってきなさい。じゃ」

 

最後にそうナミが短く締め、4人は店を出る。

ナミ達が去った店内は最悪の雰囲気となり、偽イリスや偽ルフィの機嫌が悪くなっていくが…それに比例して自分達の身に危険が迫っている事など、彼らが知る由もない事だった。

 

 

 

「ペロちゃん、あの技は?」

 

店を出てとりあえず目指すはシャッキーのカフェ。その道中にミキータは、さっきペローナがやった技を尋ねた。

 

「ゴーストラップだ、2年前も使ってただろ。ただ私だって2年間肌のお手入れにばっか気を使ってた訳じゃねェ…ゴーストの姿を消す事が出来る様になったんだ」

 

「つまり、本物の幽霊みたいな…!凄いわね、ペロちゃん!」

 

「ネガティブゴーストや特ホロは姿を消すってのはまだ無理だけどな。いずれそれもモノにしてやる。…お前だって成長してんじゃねェか、あれは“覇気”だろ」

 

「アレは私も驚いたわ、私も習得しようと思ったけどそもそもどうすれば良いのか分からなくて諦めたもの」

 

ナミが苦笑いして頰をかいた。

そうは言うが、彼女もこの2年間必死に修行を重ね、航海士としての知識を増やす行為にも一切の妥協をしなかった。

数ある空島の1つに飛ばされたナミは、そこで天候の科学を詰め込んできたのだ。

そして、空島に飛ばされたのはナミだけでは無かった。

 

「私は2年間空島に居たの。名をアーツ、空の武を極めようとする人達が沢山住んでる所よ。そこで私は心綱(マントラ)…見聞色の覇気と、(ダイアル)で空を駆ける戦闘の極意を叩き込まれてきたわ」

 

「だから2年前と違って動きやすそうな服なのね」

 

「お気に入りのワンピースだったのに、修行1日目で破れちゃったのよぉ…!…でもまだ持ってるわ、あの服を着てイリスちゃんのベッドに入れば襲ってもらえる筈なのよ!!」

 

「変わらないあんたに安心したわ」

 

その後、ナミ、ロビン、ペローナも自分達がどこで力を付けていたのかを伝え合い、会えなかった2年を埋めるかの様に話に花を咲かせたのだった。

 

 


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