「ーーーーという訳で、エースはこの2年間死んだって事にして私と一緒に修行してたってコト」
簡単にだけど、あの戦争で起こった事とこの2年間をルフィに説明する。1発殴られるのは覚悟してたんだけど…ルフィは私を責めたりはしなかった。流石、器の大きさは計り知れない船長だ。
「エース…ッ!おれ、死んだと思って…!」
走りながら顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにするルフィにハンカチを渡す。せっかくみんなと2年ぶりに再会するのに泣き顔なんて勿体ないもんね。あんまり拭いてくれなかったけど!!
「でもねぇ…あのまま本当に死んでたらルフィの前で赤犬に殺されてたって訳だし…あの時は赤犬の挑発に乗ったエースが悪いよね?」
「そ、その話はもう良いだろ、悪かったって」
「逃げる時は逃げなきゃダメだよ」
「………」
黙るな!
全くもう…修行中もエースの『逃げない』って思想は良く垣間見えていた。
どう考えても当時の私達では勝てない様な巨大な恐竜と遭遇した時も、海楼石の腕輪付けてるのに突っ込んで行ったり…死にたいのかー!?って叫んだのを覚えてる。
「ルフィの兄貴が生きていたってのは本当に良かった、世間でも“火拳”は死んだ事になっているからその思惑は成功してる。…それよりも俺が気になってんのは…君はまさかイリスちゃんか?」
「当たり前でしょ…さっきから誰だと思って話してたの?」
「「何ィ!!?」」
ルフィとゾロがグイン!と首を向けて驚愕を顔全体で現す。コイツら…!ちょっと背が伸びただけでなんて反応をォ…!!そりゃ私だって自分の成長は喜びましたけども!!
「ふーんだ、別にいいもんね、私はナミさん達によしよしして慰めて貰うし!」
「あ、じゃあさっき覇気を飛ばしてたのはイリスか!?あれどうやんだ、教えてくれ!」
「謝ったら教えてあげるけど〜どうしよっかな〜」
「悪ィ!」
「誠意が足りないなぁ??」
「ごめんなさい!!」
「走りながらじゃなぁ〜???」
ゾロがぼそっと…「この腹が立つ感じはイリスで間違いねェ…」とか言った。聴覚倍加で聞こえてますけど??
「じゃあ俺はここまでだ」
「え、もう?」
ざ、とエースが足を止め、フードを取った。
「フード…取ってもいいの?」
「へへ、何のために修行したんだよ。…もう捕まったりしねェ。それに…もし捕まったとしてもイリスが助けてくれんなら死なねェよ」
「…フフ、ハハハ!!弱いとこ見せるの嫌いなクセに…助けてなんて言わないでしょあなたは!」
ちら、とルフィ達を見ればあっちはあっちで見送りにきたレイリーに挨拶している様だった。
ああ、ルフィってレイリーに修行つけてもらったんだっけ。
「じゃ、またね…エース。悪いけど海賊王はルフィになって貰うから」
「オヤジが引退した今、海賊王になるのは俺だ。ルフィにもそう言っといてくれ」
「ばーか。私が付いてる以上、ルフィが海賊王、私がハーレム女王になるのは決まってるから」
エースはそんな私の言葉にニッと少年の様な笑顔を浮かべ、レイリーに挨拶を終えたルフィへ手を振った。
「じゃあな、ルフィ!次に会う時は…今度こそ海賊の高みだ!」
「エース…!…ああ、“そこ”でおれがエースを待つ!!」
「…へへ、言うようになったな、ルフィ!…イリスもまたな、ルフィの事よろしく頼むよ。それにお前も無茶するなよ、お前が怪我するだけでマルコが騒ぐのは知ってるだろ?」
あなたもね。
「絶対…ハーレム女王になってやる!よーーし…!!行くよ、みんな!!」
「「「おお!!」」」
じゃあねーー!!と大きく手を振りながら走っていく。
その直後、後ろから凄まじい熱気を感じた。エースとレイリーが追いかけてくる海兵の足止めをしてくれてるんだ。
これでエースの生存が海兵にバレたのは確実…だから、あなたも頑張ってね、エース…!!2年間ありがとう!!!
でもやっぱり2年間も一緒に居た人達と別れるのって寂しいなぁ…なんだか胸にぽっかり穴が空いた様な…。
「やべェ、回り込まれたぞ!!」
「ん!?」
あちゃ、ちょっと挨拶に時間をかけ過ぎちゃったか…私達の前にはかなりの数の海兵が銃を構えて待ち伏せていたみたいで、あんまり大きく騒ぎを起こしたくはない私としては困った展開なんだけど…!
「ネガティブ・ホロウ!!」
「ッンン!!!?」
上空から飛んできたゴースト達が、海兵のスキを付いて体をすり抜け一網打尽にしていく。
こ、この技は…さっきの声は…!!
ああ、ぽっかり空いた穴が即満たされていく!!うっ…感動で涙が…!!
「ペローナちゃーーん!!!」
「お前ら何ぐずぐずしてんだ!早く来い!!」
「今行くー♡えへ、へへ♡」
巨大な鳥に乗って空から奇襲を仕掛けてくれた様だ。私はルフィ達を掴んで一気にそこまで飛び乗った。ああ…夢にまで見た…ていうか実際王華部屋で等身大人形を出して寂しさを紛らわせていたみんなが…今目の前に…!!
「ロビン!!ミキータ…!!!ナミさんもぉ!!!んんんんん!!!久しぶりーー!!!」
「きゃ…!え、あなた…イリス!?綺麗になったじゃない…!」
ガバッとナミさんの胸に飛び込んでその豊満なぽよんに顔を埋めた。ふーっ!ふーっ!!この、この匂い…!!たまらぬ…!!それにみんな髪型とか変わってる…!ぽよんもすこーしだけ大きくなった…!?2年の月日って凄い!
「ブッ…!」
「へ?」
ブッハァアアアア!!!
さ、さささサンジーー!!物凄い鼻血吐き出してるけどぉ!?どこまで飛んでくの!?
「危ねェ!」
咄嗟にルフィが手を伸ばしてサンジを掴み引き寄せる。
確かにナミさんの格好はかなり際どいけど…でもサンジがそこまでの反応を見せるのかと言われると違和感があるというか…。
「さ、サンジ!大丈夫か!?後で診てやるからな!」
あ、チョッパーも居たんだ!流石の可愛い生物チョッパーも、4人の美女を前にすればその存在感も薄れてしまう…!
サンジはどくどくと血を流しながらも辛うじて生きている様だ…危ない…。
「い、イリスちゃんの…!おっぱいが…ちゃんとあるわ…!!」
「ホロホロホロ、詰めてんじゃねェのか?」
「もー、じゃあいっぱい触って確かめて?みんなになら幾らでも触らせてあげる!」
「それは夜が楽しみね」
やばい…ナミさんのぽよんから顔を離せない…!…すーー…、はーーー…。
深呼吸をしないと…でも深呼吸する時にナミさんの素晴らしい匂いが鼻腔を刺激してとんでもない程の劣情を生み出してしまう…!ああ…!ナミさん…好き!!
「あ、サニー号が見えてきたぞ!」
「おお!おーーい!!みんな〜〜〜〜!!!!」
ルフィが大声で手を振っている。
ナミさんの胸に顔を埋めてても周りの状況分かるんだから見聞色って便利だよね!もうずっとこのまま生活しようかな、ぺろぺろ。
「男上げてんなァお前ら!!女性陣もスーパー綺麗になってんじゃねェか!!」
「ルフィさん!!お会いしたかった!!」
「へへっ…またみんな揃った!!」
サニー号からフランキー、ブルック、ウソップが声を上げ、私達は鳥から飛び降りてサニー号に着地した。
おおっ、なんだこれ、甲板がぷにぷにしてる!!…あ、これがコーティングって奴か!
「うおおお!!フ…!フ…!!フランキーお前ェ〜!!」
ルフィがフランキーを見て目を輝かせている。なんか全体的にゴツくなったというか、ロボっぽさが増したなぁ。
「イリスさんもお綺麗になられて…!あともう少し成長すれば、パンツ、見せて貰ってもよろしいでっぶグハァ!!」
「ブルック…張っ倒すわよ」
「張っ倒してから言うなよナミ…。そ、それよりルフィ!軍艦がすぐそこまで来てるらしいぜ!急がねェとマズい事に…ってうおっ!砲弾飛んできた!?しまった…もう撃ち込める距離に!!」
ウソップが言うように、もうそこまで軍艦がやって来ていた。…でも一隻か、丁度いい…新世界に行く前の肩慣らしでもしとこうかな。…ん?
「
「あ!」
軍艦から更に撃ち込まれた砲弾をハートの矢が射抜き、石にして海へと落とした。
あの技は…!!
「あれは、九蛇のマーク…」
「くじゃ?」
「“七武海”「海賊女帝」の統べる屈強な女人海賊団よ」
「七武海!?何じゃあの絶世の美女は!!」
ロビンの説明にウソップとブルックが望遠鏡で船を見てあんぐりと口を開ける。サンジは…ありゃ、固まっちゃった。
くぅ〜!!海軍にハンコック達と私の間に関係があるってバレちゃ迷惑かけるし…!手を振るだけにしとこう…!!ありがとうハンコック!!また会おうね!!
マーガレットちゃんもまたねー!!
軍艦からは見えない様にぶんぶんと手を振ってハンコック達に全身全霊のお礼を体で現せば、ハンコックからウインクで返事が返ってきた。
くぅそぉ…!ハンコックも連れて行きたかったなぁ…!!
「お前まさかあの女帝も嫁に!?」
「うん、可愛いよ、ハンコック」
「七武海だぞ!?」
そんな事言われても。
「よし、じゃあ今のうちに出航だ!フランキー!」
「オウ!バルブ開くぞ!船底のエアバッグから空気を入れる!」
「おお」
仕組みはわかんないけど、ぷにっとした感触のコーティングが膨らみ始めた。
それは最終的にサニー後を包み込み、大きなシャボン玉の屋根を作る。
「みんないい?コーティング船は色々な圧力を軽減する力を持っているの!つまりコーティングした船は浮力が足らなくなり、今船底を支えてる「浮き袋」を外すと船は海底へ沈んでく。そういう仕組み」
「分かんないけど分かった!」
「まぁ…そうね、とにかく沈むの。今フランキーが浮き袋外してるから、みんなすぐに帆を張って!」
帆を?と首を傾げれば、ロビンがコーティング船は海流を風の様に受けて動かすと教えてくれた。
なるほど、沈むだけじゃないんだ。
「ほんじゃ野郎共!!ずっと話したかった事が山程あるんだけど、とにかくだ!!2年間もおれのわがままに付き合ってくれてありがとう!!」
「今に始まった我儘かよ」
「全くだ!お前はずっとそうなんだよ!」
ルフィはサンジとウソップの返事に満足気に頷いて、2年間越しのこの言葉を、全力で息を吸い込んで叫んだ。
「出航だァ〜〜〜〜〜!!!!」
『オオオオオオオ〜〜〜!!!!』
「行くぞォ!魚人島ォ!!」
んんんん!!昂ってきた!!よし!ロビンの胸に飛び込もう!!
「ロビンのぽよん、失礼します」
「どうぞ」
あああああ!!良い!!このハリ!弾力!!そしてナミさんとはまた別の良い匂い…!
「オイ…あれ私にも順番回ってくるんじゃねェだろうな」
「キャハ、嫌なら寝室に戻れば大丈夫だと思うわよ?」
「は、はァ?せっかくこの綺麗な海の中を見えるって時にんなトコで籠ってられるか!」
むふふ…心配しないでペローナちゃん!後でがっつり堪能してあげるよ!!寝室に行ったって追いかけるよ!
「でも確かに絶景だ!潜水艇でもこんなワイドな窓は付けられねェもんなァ!」
「フランキーなら造れそうだけど」
「嬉しいコト言ってくれるじゃァないの!創作欲が沸いてくるってモンだ!」
「ヨホホ〜!ちょっと横見て下さいよ〜!!」
横?…おお、凄いおっきい…樹かな?いや、根っこか!それが何本も海底まで続いている姿は圧巻の一言に尽きる!
「シャボンディ諸島は大きなマングローブで構成されているというのは知識としてはあるけれど…実際にこの根が海底まで続くなんて、大きすぎて言葉にならない…」
「ふふ、ロビンは本で読むより自分で見る方が好きだもんね!」
「ええ…!やっぱりこの目で見ないと、それはただの“知識”でしかないもの」
深いなぁ。こういう時にロビンは考古学者なんだよなぁって再認識させられるよ。
「おっ、魚!掴めそうだぞ!このっ!」
「こっちにもウマそうな魚がいるな」
ガバッとシャボンに飛びつくルフィと刀を抜刀するゾロをすかさずウソップとチョッパーが殴って止めていた。割れたらシャレになんないし…流石の私もそればかりはどうしようも無い。
「ナミさん、こいつらがバカやらねェ内にコーティング船の注意事項なんかを」
「そうね、サンジ君!レイリーさんにメモ貰ってるから、じゃあみんな!説明を…」
「ブハッ…!生身の美女ォ〜〜♡」
「ええええ!!?」
またしても鼻血を吹き出させて飛んでいくサンジが、シャボンに突っ込んでぐんぐん伸ばしていく。鼻血でどんだけ飛ぶの!
「やべェ!サンジが海に飛び出た!!帰って来ォ〜い!!」
最終的にポン!とシャボンから海へ飛び出したサンジを、ルフィが腕を伸ばして引っ張ってくる。海の中だと流石に力が出ない様だ、エースも結局最後まで海楼石には慣れてなかったっけ。
「本当にどうしたんだろ…サンジ、こんなに女に弱くなるなんて…」
「キャハ、この調子じゃ人魚に会うなんて無理そうね…。当面目隠しとか?」
「根本的な解決になってねェからな…。魚人島で献血を募らなきゃ…」
あまりにも予想外のトラブルにチョッパーも困り果ててるみたいだ。そもそも人間と血液が同じなのかが分からないし。
「つまり、今のようにシャボンディ諸島のシャボン玉と特性は変わらないのね?」
「そう!基本的には同じよ、ある程度まで伸びて…それ以上は突き抜ける!極端な話、船に襲い掛かる海獣に向けて銃や大砲を撃ち込んでもシャボンは割れないんだって!」
サンジがダラダラと血を流しているけれど冷静に分析を続ける私達。
ナミさんによれば、1度に多数の穴が空いたりするのは流石にダメらしい。
つまり海獣や海王類の牙で噛まれたらアウト、岩や海溝にぶつかったりして中の船そのものが壊れても、マストや船体の割れ口でシャボンが割れててそれもアウト。という感じだ。
「気をつけるのは海の生物達と障害物ね、中からは余計な事しなきゃ大丈夫みたい」
「そうか、意外と強ェんだなァ!」
「でも、「魚人島を目指す船は到達前に7割沈没するので注意」だって」
「「何が起きるんだよォ〜!!」」
何が起きたって私が何とかするよ。こんな序盤で全滅してたまるか!
「ナミ、船はもう少し安定してんのか?」
「うん、今はまだ大きな海流に乗ってるだけだから」
「なら、まだ時間はあるな。全員に俺から話しておかなきゃならねェ事がある」
何か大事な話でもあるのか、フランキーが改まって私達を近くに集めた。
なんだなんだ?遂にフランキー人間をやめちゃったのかな?完全体ロボになっちゃったのかな!?
「本当は海底への案内を買って出てくれてたハチだが…あいつはシャボンディで大怪我を負い“魚人島”で療養中って話だ…!理由はデュバルと全く同じ…島に残されたサニー号を守る為の負傷だ」
ロボの話では無かったようだが…デュバルか、あの人律儀にサニー号守ってくれてたんだね。意外と義理難い人だな…。
「1年程前、サニー号の存在は海軍にバレて激しい戦いになり、2人はそこでリタイアした。なのに今日まで船が無事だったのは…戦士が
…うん、まぁくまの話については王華にこの2年で聞いたことがあった。
王華も詳しくは分からないからきちんとは言えないって言ってたけど、頂上戦争のくまは既に自分の意識はなく、Dr.ベガパンクと何らかの取引をしてサニー号を守り抜く様プログラムが設定されていたそうだ、
王華はルフィの父親がドラゴンだから、革命軍の幹部であるくまが力を貸してくれたのかもしれないって言っていたけど……いつか、くまの真意が分かれば良いね。
「実際俺達はあの時のくまの行動に命を救われた…。この2年間を生み出してくれたのはあの男だって事は間違いねェ…!今となっちゃ本人にその胸の内を尋ねる事も出来ねェが、心に留めとけ…この一味にとってバーソロミュー・くまは結果的に、“大恩人”だって事をな…そしてまたいつか出逢う日が来ても、くまはもう心無き人間兵器だ…!!」
心すらも政府の実験に売り渡して私達を助けたって事は…ルフィの生存に大きな意味があったのかもしれないけど…まぁ、この先私達がどう進むかも分からないんだし。
人間兵器となったくまを殺す…そんな苦渋の決断をルフィがしなくちゃいけない未来が来る日もあるかもしれない。
だけどもしかしたら、そんなくまをどうにか上手い方法で助けてあげられるのかもしれない。
とにかく、今の私達がどれだけ考えた所で答えが出るはずもない話…この事は一旦頭の片隅にでも置いて、今は今の冒険を全力で楽しもう…!!
じゃないと、それこそせっかく助けてくれたくまに悪いもんね!
ーーーーーーーー
ー???・裏路地ー
「…ァ…食いモン…水でも良い……分けてくれェ…!」
「何日も食ってねェ…!水が、飯が……金が欲しいィ…!!」
ここは、新世界のとある国。そして……その闇である。
“天竜人”へ納める『天上金』の高さ故、住む家すら無くしてしまった人達が集うこの路地に、1人の女が姿を見せた。
その者も周りの一文無しと同じく薄汚れた衣服を身に纏い、それでもクリーム色の綺麗な長髪の手入れだけは欠かしていないのか、まるで絹のように風に靡いている。
「これを」
女は懐から小包を取り出し、地面にそっと置いた。
その時に響いた金属の擦れるような音に、周りの飢えた人間達が群がり始めたのを見て女はその場を離れていく。
こんな事をしたって意味が無いのは分かっている。自分だってその日を暮らすのが精一杯で、ご飯もまともに食べれていないし、衣服だって綺麗に洗濯すら出来ない。
だけどこの髪は、この肌は…傷付ける訳にはいかない。“あの人”の為に…自分を磨いておきたいから。
故郷を飛び出して、色んな土地を巡って来た。
どこに行っても自分は虐げられ、ゴミの様に…いや、それ以下の扱いを受け…殺されかける事も少なくは無かった。
だけど、…いや、だからこそ…確信を持ったんだ。
あそこを出てきて、良かったと。
自分を見つめ直す良いきっかけになったと、今ではそう思えている。
…さて、次はどこを目指すとしよう。
そうだ、そういえば昨日働かせて貰った商船…次はあの地に行くと行っていた様な…。なら、せっかくだ、一緒に連れて行って貰えないか頼み込んでみよう。
……フフ、頼み込む…か。
………、“人間”、どう変わるか分かりませんね、本当に。
次の目的地は…情熱の国ーーーー『ドレスローザ』にしましょう。
ーーーーーーー
ー???ー
「もしもし、私です」
『はい、たしぎです。…どうかしましたか?こんな時間に連絡なんて珍しいですね』
「いえ、ただもう1度念を押しておこうかと思いまして」
月夜が妖しく輝く彼の地、ジャングルの木々に覆われた場所で、まるで魔法使いの様な大きなトンガリ帽子にブカブカのマントを羽織った女が小岩に腰掛けて電伝虫に話しかけていた。
「“女王”がこっちに来て…もしたしぎが彼女を見つけた場合…すぐ私に連絡して下さいね、お願いですよ」
『はぁ…分かりました…、スモーカーさんにもそう伝えておきます。そうだ、ヴェルゴ中将にも…』
「スモーカーさんにだけで良いですよ、ヴェルゴには言わなくて良いです」
『…?そうですか…もしかして、ヴェルゴ中将の事苦手なんですか?』
マントの女は足下に転がっていた小石を蹴り飛ばし、人差し指をクイ、と動かしてその小石を宙に浮かせた。
そのまま目の前まで飛ばして来て、ヒュンヒュンと動かして遊ぶ。
「苦手なんじゃない、嫌いなんです。それより本当にお願いしますよ、大事な事なんですから」
『分かりました。…ヴェルゴ中将を嫌うなんて、やっぱりあなたはどこか変わっていますね』
女は電話越しの海兵に悟られない様、小さく笑って「じゃあ、頼みましたよ」と通話を切った。
「たしぎも可哀想に、そんなにヴェルゴの事を信頼してて裏切られるなんて…あんまりです。…あの戦争から丁度2年……、そろそろこっちに来る頃ですね。さて、確かめさせて貰いますよ。あなたは…“王華”なのか、どうか…。女王…イリス」
ぐっ、と拳を握れば、宙に浮いていた小石が粉々に砕け散った。
帽子からチラリと覗く青色の髪。そして同じく青の瞳には、一体何が映っているのだろうか。
ーーーーーーーー
ー???ー
「姉さん、またサボり?」
ここは、とある国のとある城…その天辺に配置された執務室。そこには今、2人の女が居た。
1人は煌びやかなドレスを身に纏った三つ目の美女。そしてもう1人は…緑色の髪をした、寝癖がぴょこっと跳ねてアホ毛の様になっている美女だった。
「サボりなんて人聞きの悪い、きちんとこうして事務仕事を終わらせているじゃない」
「今、ママを怒らせた国と戦争中よ?どうして姉さんがこんな所に居るのよ」
「私が行かなくたって結果は変わらないわよ、それに私はそういう理由で戦いたくないもの、下らない」
「ママのする事に臆する事無くそう言えるのは、ウチじゃ姉さんくらいね…」
戦争の理由としてはいたって単純、ただ我が国と定めていた協定、これが破られたからである。
しかしながら寝癖の女性はこの事実にため息を吐いた。
「その国を滅ぼしただけで、一体ウチにどれだけ損害が出ると思う?労働者も減れば、それこそお菓子だけじゃない…色んな貿易が止まるわ。あの国は鉱石なんかも豊富に取れていたし、その加工の技術だってウチでは真似出来ないモノだったというのに……ハァ、お菓子を納めるのが少し遅れたからなんだっていうの…」
「仕方ないでしょ、それがママなんだから。文句があるなら姉さんが止めてくればいいじゃない」
「イヤよ、ママを止めるのは大変だもの、今私は大怪我を負う訳にもいかないから」
「出来ないって言わない辺りが流石ね」
戦う事は好きではない、寧ろ嫌いな方だと彼女は自分を分析している。仕方がない時だけ戦って、それで問題なく生きていけるならそれが良い。むしろ戦いが起きない世の中にしたいとさえ思っている。
争いさえ無くなってしまえば…“あの時”の様な事にもならなかった筈だから。
「……王華」
自分のせいで、きっと悲しい想いをさせてしまった人の名前を呟いた彼女の瞳は、どこまでも深い慈愛の色が見て取れた。
「…女王、イリス……ね」
ピラ、と手元にある新聞を広げてまじまじとその一面を飾っている女の顔をジッと見つめる。
これは2年前から毎日している事だ。あの戦争が起きてから…この女の知名度が一気に全世界へ轟き、自分の耳にも入ってきたその日から、ずっと。
『一騎当千の実力、海軍大将とも渡り合う海賊の誕生か!?』と大きく書かれており、逃げ足というデタラメな呼び名を変更する旨や、懸賞金額の修正を余儀無くされている事などの詳細な理由について長々と記載されていた。
「姉さん、毎日そのコの記事見てるけど…好きなの?」
「…ええ、この子と良く似てる子がね、好きなのよ」
果たしてその“好き”はどういう意味でなのか…までは自分でもまだ分かってはいない。
だけど、会えばきっと、自分の気持ちがわかる筈だから。
「…はぁ、まだ来ないのかしら…王華」
ポツリと呟かれた言葉は、宙に溶けて消えて行った。
ーーーーーーーー
ーとある島…その街中にてー
「フフ…そろそろね…。えぇ、気分上々よ、えぇ、えぇ…フフフ…。感じるわ、入州さん、あなたの気配…!!」
「………」
漆黒の瞳を輝かせ、黒に溶ける紫の髪を靡かせながら彼女は踊る。
それはもう、新しいオモチャを与えられた無垢な子供の様に。
「ね、アナタも感じるでしょう?フフフ…ああ、そうね、喋れないわね…、フフフ…っ、アッハハハハ!まだよ、まだ待つわ…!あなた達が揃うまで…しっかり待っててあげる。フフフフ…あァ…楽しみね…、入州さん、あなたの絶望に染まった綺麗な顔……フフ…!早く見てみたい…」
「…ぅ…か…」
「うん?…あら、やるじゃない、言葉を発するなんて…並大抵の精神力じゃ無理よ?…って、意識は無いわよねェ…フフ、本能だけで求めちゃってるのね、入州さんを。フフフ…良い、良いわ……!フフフフ、アハハ!…私好みの上等な展開へ、上質な絶望を…!…アハハァ…!フッフフフ!!…気分、上・々…♪」
近くで蹲り血に濡れたローブを羽織った赤髪の女が、涙を流しながら虚な瞳で声を出したのを見て、狂気に呑まれた女は楽しそうに笑い出す。
彼女もまた、全身を血でドス黒く染めているというのに…その表情には悲壮感のカケラも感じ取る事は出来ない。
女が踊るたび、チャプチャプと水たまりを踏んでいる様な音がする。だがこれは断じて水などでは無い。何故なら2人の周りには沢山の人が倒れており…夥しい量の血が流れ出しているからだ。
先程から聞こえる水音は…死体から流れ落ちる血の音だったのだ。
これ程の大量殺戮を行ったのは、勿論この場にいる2人だが…殺した動機などありはしない。
たまたまこの島に降りて、ただこの街にたまたま足を踏み入れて、その時にたまたま…殺したくなった。
「フフフフフ…!!!次は何処に行こうかしら…!ハハ…!上々気分になれるトコロなら、どこでもいいけれど!」
黒ひげという悪意を失ったこの世界は、また新たに狂気を生み出した。
まるで減った分の悪を補填するかの如く…。
気分1つで世界を破壊してしまう事の出来る程の力を持った怪物は、今もこの世界で狂った笑みを浮かべていたーーーーー。
初めて1万字越したかも…。長すぎて申し訳ありません!