「しらほし姫様〜!!今参ります!!」
「見ろ、扉が開いてるぞ、何事だァ!!」
「兵士達が来たみたい…!でも、私ちょっと斧投げた奴探してくる!」
「あ…お待ち下さい…!」
この際兵士に見つかっても構わないという勢いで部屋を出ようとした私と隣にいたルフィを、その大きな手のひらで掴んで背中に隠した。
直後、部屋に息を切らした大勢の兵達が入ってくる。
「しらほし姫!ご無事でありますかァ!!?尋常ならぬ姫様の泣き声、心配しましたぞ、この扉一体誰が!?侵入者でありますか!?」
…この男、竜宮城入った時にネプチューンを怒ってた人だ。多分大臣クラスの偉い人。
それにしても…しらほしちゃんか。私とルフィを庇ってくれてるんだよね…?
「…ご、ご心配をお掛けしました…!何でも御座いません、何か、悪い夢を見てしまった様で…」
「…はァ…夢…。左様ですか…何事もなければ、まァよいのですが。ーーーああそうだ、少しお耳に入れておかねばならない事が……。例の…メガロを助けたという海賊“麦わらのルフィ”の件ですが、どうにも厄介な事に…!!」
厄介…?
私が首を傾げてる間にも、その人は話を続けた。どうやら入り江の人魚達が数名攫われたとか、シャーリーの占いでルフィと私が魚人島を滅ぼすという未来が出たとか…ちなみにシャーリーはその未来を見てかなり取り乱し、今は寝込んでいるらしい。
そして何故か入り江の人魚達を攫った疑いが私達麦わらの一味にかけられているそうなのだ。私が人魚を攫う?まぁあり得なくはないけどね。
「ーーーという訳で、行方知れずの人魚の娘達を“攫った疑い”、そして未来の“不確定危険人物”として『麦わらの一味』を全員城の牢獄へ幽閉する事が決定いたしまして。先に竜宮城へ来ていた剣士は既に身柄を確保、先程到着した4人の仲間も恐らくもう拘束完了の頃…!」
ナミさん達か…拘束とかはこの人達では無理だろう。特にゾロの身柄を確保したっていうのが信じられない。あの脳筋がはいはい言って捕まってる姿を想像する方が難しいというものだ。
「しかし一緒に城内へ入った筈の船長“麦わら”や“女王”が勘付いたのかまさかの失踪…!城の何処かに潜んでいると思われますので充分ご注意を。魚人島内に居る他の仲間達も順次捕え国の安全は必ずやお守りします!せっかくのメガロの命の恩人達に宴どころかお縄を差し上げる事になろうとは残念至極…!…ああ、もう5分を過ぎました。我々はこれにて!」
そう言ってその男は兵士をぞろぞろと引き連れて部屋を後にした。…5分?姫だから面会時間が決まってるのかな?
「……もう、大丈夫でしょうか。あの、本当にありがとうございました、先程は大変な非礼を…どうかお許し下さい。メガロの命の恩人があなた様方でいらっしゃったとは…!」
「わっ…、ううん、気にしないで」
背中に隠していた手を顔の前まで持ってきて開き、私とルフィはその上に座る。うわ…間近で見てもなんて美しいお顔…ていうか私しらほしちゃんの手の平に座っちゃってる!舐めていいかな?
あれ、それにこの部屋メガロも居たのか、気付かなかった…。
「お名前は…ルフィ様と…」
「イリスだよ、嫁にならない?」
「イリス様…。お、お嫁さん、というのはその…ふ、夫婦になりませんか、という事で御座いますか?ですがわたくし…あなた様の事は今知ったばかりで…」
「そんな事気にしてるの?お互いのコトなんてこれから知ってけば良いんだよ。少なくとも私は、さっきの人に私達は危険だって言われてるのにも関わらず私達を助けてくれたあなたの優しさを知ったよ?」
純粋とも言えるけどね。私達が本当にしらほしちゃんを狙った海賊なら彼女の判断は間違っていたと言える。
だけどそれは結果論だし、むしろ結果論で話すのなら彼女は何も間違っていない。
「で、でもイリス様は海賊でいらっしゃるので…悪いお方なのでは…?」
「そうだねぇ…、私もルフィも海賊だから世間一般から見れば悪者だよ。それは間違いないけど、だけどしらほしちゃんにとっても私達が悪者かどうかは、それはしらほしちゃんが見て決めてね」
ああもう、本当に可愛いなぁこのコ。こんなおっきな体してるのにまったく威圧感がないどころか癒されるよ…。雰囲気がほわほわしてるというか。
「お仲間の方々はウチの兵士達に捕まってしまったと…」
「ああ…大丈夫大丈夫、お前らじゃあいつらを本当に捕まえるのはムリだ!まー、そんな事いいよ、さっきのオノ何なんだ?イリスかおれが居なきゃお前死んでたぞ」
「そもそも私達が扉を開けなきゃあのオノは飛んでこなかったけどね」
しらほしちゃんに会えたから扉を開けたのは正解だったけど。それにその犯人もすぐ見つけ出してブッ潰すし、早期発見出来たと思っておこう。
「犯人は…分かっています。バンダー・デッケンというお方で…結婚をお断りしたわたくしを恨んでおいでなのです…。その殿方は「マトマト」という悪魔の呪いを受けておられ…いつ、どんな場所からでも“的”と定めたわたくしの命を狙う事がお出来になるらしく……ですから外は危なくて、わたくしはこの「
硬殻塔…そうか、だからこの部屋の扉も壁も分厚く頑丈なんだ。
「一歩も出られないってどんくらいなの?流石に護衛付きで散歩くらいは行ったことあるんでしょ?」
「いえ…ここに来てからもう10年になります」
「は?10年??」
「その上兵士の方達がここにいられるお時間は5分とお父様が決めてしまわれて…。ですからわたくしのお話し相手はメガロだけ…大切なお友達なのです」
それでメガロを助けただけで宴までやってくれるって言ってたのか。
…バンダー・デッケンね………、……。
「お、おいイリス…覇気漏れてるぞ」
「…あ、ごめん」
おっと、危ない危ない…。覇気はどうしても相手を威圧しちゃうからしらほしちゃんを怖がらせるとこだった。
「まー…ならよ、お前もうこんな所で閉じ籠ってなくても大丈夫だろ」
最初に見た食べ物が盛り付けられてある皿が置かれてる机の上に、よっ、と飛び降りたルフィがそう言い、しらほしちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「イリスを怒らせて無事だったヤツなんて今まで見た事ねェ、だからそのワンダー・ゼッケンもイリスがブッ飛ばすだろ」
「バンダー・デッケンね。名前以外は何も間違った事言ってないけど」
バクバクと料理を食べ始めたルフィには背を向け、またしらほしちゃんに向き合う。
「しらほしちゃんってさ、人魚姫なんだよね?」
「はい、国王ネプチューンの娘です。しらほしと申します」
「ん。…バンダー・デッケンがしらほしちゃんに求婚する気持ちは良く分かるよ。だって可愛いし、穏やかで、埋めたいくらいのおっぱい。だけど手段がクソ野郎だね、嫁にするって決めたのなら殺すんじゃなくて死ぬ気で守るぞってくらいの気概を見せないと」
ヤンデレってヤツ?束縛が強いまでなら私もそうだから分かるけど、好きだから傷付けるってのはさっぱり理解できない。私とは正反対の考えだよ。
「やっぱり、わたくしにはあなた様方が悪いお方には見えません。“海賊”でしたら冒険というものをなさるのですか?“太陽”をご覧になった事がおありですか?それに…色々な種類の“お花”やお体が毛だらけの“お動物”、“お森”という緑色の場所へはいらっしゃった事がありますか?」
「ふふ、質問攻めだね。うん、ココには陽樹イブの光しかないけど、地上には当たり前の様に太陽があって、月があって、他にも沢山の星が夜空に煌めいてる。花の種類なんて数え切れないほど一杯あるし、動物だってそれは同じ事だよ。森だって色んな森があるし…なんなら空に島もあるよ?」
「まぁ…!それは…とっても素敵なお話しですね…!イリス様はお空のお島に行かれた事が…?」
おー、目が輝いてらっしゃる…。メガロしか話し相手が居ないっていうなら、こんな話を誰かからしてもらう事なんて無かったんだろうな…。
「空島って言うんだけどね、雲の上に島があるの、凄いでしょ?可愛い女の子も一杯居るし…まぁ、ちょっと空気は薄いけどね。あ、でも空島にはとっても大きな森があるよ?動物だって沢山いるし」
「…わたくしも、許されるのならばいつか行ってみたいです…!」
「連れてってあげるよ?今すぐは無理だけど…私の夢が叶った後とかなら何度だって、どこへだって連れて行ってあげる」
「イリス様の夢とは、どんな物なのかお聞きしても宜しいですか?」
勿論、と頷いて私の夢の話をする。私の言葉1つ1つに聞き入る様に相槌を打つしらほしちゃんとの話は、私の夢の話が終わった後も続いた。
聞き上手過ぎる…話しててこんな気持ちのいい気分になったのは初めてだよ、私の中でのしらほしちゃんの株がぐんぐん上がってく…。
***
「じゃ、行こっか」
「もう、行ってしまわれるのですか?」
一通り私達が歩んできた冒険や出来事を話してる内にしらほしちゃんとはそれなりに仲良くなれた…と思ってる。しらほしちゃんが何話しても楽しそうに聞いてくれるモンだからつい話し込んじゃった…。
「しらほしちゃんも行くんだよ。したいんでしょ?冒険。良いよねルフィ」
丁度しらほしちゃん用に作られていたご飯を平らげたルフィにそう確認を取れば、彼は迷わず頷いてくれた。ルフィが断る訳ないけどね。
「い…いけません…!その様な事…」
「ごめんね、しらほしちゃん。私達海賊だからさ…いけない事をするのは慣れっこだよ、さっきの話でも私達がした悪事は一杯あったでしょ?それにまた何か飛んできても私や、その上ルフィも居るんだから大丈夫!絶対に守ってあげるから!」
「で、ですけど…!」
んー…まぁ10年もここに閉じ籠ってたら出て行くのにも勇気がいるか。幼い頃からずっとここを出てはいけないと言い聞かされてるだろうし。
「しらほしちゃんは自分が勝手な事をしたら城のみんなの迷惑になるって思ってるんだよね?うんうん、分かったよ。…じゃ、私が攫ってく」
「え?」
「メガロ、あなた大きいんだからしらほしちゃんを口の中に隠せない?いや、隠して。そんでここ出よう」
「シャ!!?」
無茶言ってるのは分かるけどお願い!隠して出て行った方がスムーズに事が運ぶし、城内で戦闘にならなくて済むから!
「で?私に攫われる可哀想なお姫様は、一体どこに行きたいのかな?」
「わ、わたくしは……、い、いけません…その様な事…」
「いけない?はは、しらほしちゃんはこれから私に攫われるんだよ?わるーい海賊に攫われて、その先がたまたましらほしちゃんの行きたかった場所かもしれない。…ただ自分の行きたい場所を言うだけだよ」
「………、……っ」
私の言葉の後暫く間を置いて、覚悟を決めた瞳に涙を溜め、しらほしちゃんはゆっくりと口を開く。
「…“海の森”…」
「あー、今急に海の森にしらほしちゃん攫いたくなった。海賊だから人攫いもお手の物だよ。ねーメガロ」
「シャ…」
お、諦めてくれたかね。じゃあ早速ーーーーー。
ドドォン!!
ズドォン!!
ドン!ドォン!!
「!!?きゃ…!」
「何…?凄い音…!」
部屋の扉に沢山の何かがぶつかる様な音が絶えず響く。
ーーーー……人間…か?見聞色で見れば、飛んできた何かは人間だと分かったけど…何で、人間を…?
「…なかなか音止まないね。にしても何なの?こんなに沢山投げ込んできてさ」
しらほしちゃんを怯えさせない様に、飛んできたのが人間だと言うことは伏せておいた。わざわざ教えるような情報でもないだろうし。
「あ、あの、イリス様…。わたくし、海の森にずっと行きたかったのです…。10年間…ずっと…!けれども塔の外は危険だと皆様注意して下さいますし…わたくしも外に出るのはとても恐くて…。イリス様、本当にわたくしを…攫って下さるのですか?本当にわたくしを守って下さるのですか?」
「勿論、任せて下さい。姫様誘拐の大任、仰せ付かまつりました!…なんてね。何が来たって守ってみせる、あなたは私の嫁にするんだと決めたんだから…かすり傷1つ付けさせないよ」
「……、う、うえ〜…!」
パァ、と明るく表情に花を咲かせたかと思えば次の瞬間には泣き出したしらほしちゃんに微笑みかける。
嬉しいんだよね、外に出られるのが、行きたい所へ行けるのが。
私だって境遇は違うけれど、ナミさんと初めて会った時は情けなくも大泣きしちゃったっけなぁ。
「…ん、音止んだね。じゃあ行こっかメガロ、悪いけど誘拐の共犯者になって貰うよ」
「シャー…」
そんな感じでしらほしちゃんをメガロの口の中に隠し、私達も簡易シャボンを身に纏って重い扉を開き外へ飛び出した。
…やっぱり沢山の人間…海賊達がいるね。あれ、ブルックも居る。それに縛られてブルックに担がれてるけど、さっきしらほしちゃんの部屋に駆けつけて来た大臣的なタツノオトシゴっぽい人も。
「ま、今はいいや。お願いねメガロ…!」
「お、オプ…!」
…や、ほんとごめん。もうちょっと余裕あるかと思ってたんだけど…、はは。