アイランドクジラ達とも別れ、私達は大荒れの海を突き進んでいた。
とんでもない悪天候だ…前世の船なら大破転覆死亡セットで確実だねこりゃ。
「見ろ!あの島で火山が噴火した!」
「ちょっとルフィ!まさか行こうって言うんじゃないでしょうね…!?あの島は3本ある指針がどれも指してないの!異常な「新世界」においても異常よ!!」
「何でもいいから上陸するぞ!だって見えてんだぞ!?もう指針なんかどうでもいい!」
「あ、じゃあ私あの島行ってこようか?私なら海が荒れてるとか関係ないし。凍らせるし、何なら飛べるし」
手を上げて、どうかな?と提案したらナミさんにギロリと睨まれたので大人しく引き下がっておく事にしよう…。危ない事はするなバカ野郎って事ですね…。
「あの島の周りは火の海よ?意味が分からない!あんたが海面を凍らせてもすぐ溶けるわよ!飛んだって安全かは分からないじゃない!」
「うーん…まぁあそこには美女はいなさそうだね…」
ルフィには悪いけど、ナミさんが言うならあんまり強く出れないのが私だから…。尻に敷かれてる?そういうんじゃないから。…え、ないよね?
「おいルフィ、残念な知らせがある。せっかく釣って来た深海魚…切り出した分を除いて海で全部丸コゲに」
「えェ〜〜ッ!!?」
「海で丸コゲって凄いね、サニー号は平気なの?」
「サニーはスーパー敗けねェ、大丈夫だ!」
…でもこれ、ルフィはあの島が気になってるワケだし…何がなんでも上陸しそうだけどね。結局ナミさんも船の進路についてはルフィの決定に従うんだし。
『プォッホーーホホホーーー!!プォッホーー!!』
「うぇ!?な、なに!?」
いきなりダイニングキッチンの方から声が聞こえて来た。何…?この聞いたことのない声…。
一体何なのかと船内に向かうと、部屋の隅にある机の上で電伝虫が泣き喚いていた。
あれ、電伝虫なんて私達持ってたっけ。
「あると便利かと思って、子電伝虫と一緒に何個か持ってきたのよ、寝室にも置いてあるわ」
「へぇ…流石ロビン、用意周到だね」
「そして、今のソレは「緊急信号」…だけど「緊急信号」の信憑性は50%以下よ。海軍がよく使う“罠”の可能性が高い。出て盗聴されれば、圏内に私達が居るとバレるわ」
そんな風に補足してくれたロビンだけど、ルフィはビッグ・マムの時の様にずかずかと電伝虫に近付いて受話器を取った。
「もしもし、おれはルフィ!海賊王になる男だ!!」
「早いし喋りすぎだァ!!」
アホ!!とウソップの突っ込みが入るけど、別に今更海軍が来たって怖くないんだけどね。なんなら新世界初の戦闘って事でウォーミングアップにもなるかも。あ、それは魚人島で済まして来てるか。いやでも…ウォーミングアップになったっけ?
『助けてくれェ!!!…ああ…寒い…!ボスですか…!?』
「いや、ボスじゃねェぞ、そこ寒いのか!?」
『仲間達が…次々に斬られてく…!!サムライに殺される〜〜〜!!!』
サムライ…?侍だよね?あれかな、スリラーバークで見たなんたらってゾンビ剣士の故郷が侍の国だとか何とか…ホグ…なんだっけ、ホグなんたらが言ってた気がする。
「おい!お前名前は!?そこどこだ!!?」
『誰でも良いから助けて…!ここは…「パンクハザード」!!!…ギャアアアアアア!!!』
最後に電話の向こうでズバッ!と斬られる音がして…電伝虫の通話は途切れた。
パンクハザード…それってもしかして、あの燃える島の事かな。
「相手が小電伝虫なら、電波が届くのは精々あの燃える島との距離ね…」
「あんな環境でも人が居る事に驚きだよ。あれ?という事は美女が居る可能性もあるよね!?よーし、行こう!」
「おう!今の奴助けに行くぞ!!」
いや、さっきの声は男だったからそれはいいかな…美女を探すついでに助けるのは賛成だけど。
とはいえ、こうなってしまえばルフィは考えを曲げないだろう。サンジもそう思ったのか、早々に弁当を作り始めた。
「…はぁ、分かったわよ…ったく人の話を聞かないんだから!でも、ルフィとイリスだけには行かせらんないわ、誰かあと3人、ついていく人をクジで決めましょう」
ここで別に2人でも大丈夫だよ、なんて言っちゃった日には怒髪天喰らうのは目に見えているから黙っておこう。うん。
そんな感じでクジを引き、私達と同行する事になったのはロビン、ゾロ、ウソップの3人だった。案の定ミキータが凄く悔しがってて彼女らし過ぎて笑っちゃったけど。
***
「ミルキーロード!」
「おお!!」
凄い!ナミさんがタクトから出した雲が道になった!それ空島のやつでしょ!
それが火の海の上を滑らかな曲線を描いて通り、島へと続いていく。
「空島でしかムリみたいな話だったのに…凄いねナミさん!」
「えへへ、雲だから安定してる内に早く通って!」
…えへへって何えへへって。私が言う分には普通だけどナミさんが言ったら破壊力ヤバイからね普通に。死人出るよ、私とか。
「ホラ、深海魚弁当だ」
「うほ〜!楽しみ〜〜!!」
サンジからも弁当を受け取って、私達はフランキーが出してくれたミニメリー号に乗り込み雲の道を進んでいく。
「じゃあ、ちょっと行ってくる!!」
「気を付けなさいよ!あんたらもイリスとロビンをしっかり守るのよ!」
「守る必要あんのかよ…特にイリス」
「ちょっとゾロ、私もか弱い女の子なんだけど?」
ゾロが何言ってんだこいつ…みたいに見てきた。私も一応女なんですけど?見た目だってか弱そうじゃん!!…か弱“そう”って自分で言っちゃった時点でアレかな……ぐすん。
「火の海越えられるぞ!」
「お、それになんか門もあるよ!あそこから島の中に入れそう!」
「で、でもよ!やっぱりこんな所に住めるわけねェ!さっきの電伝虫もどっか遠い島から受信しちまったんだ!」
「残念ウソップ、門に『パンクハザード』って書いてる」
ニヤリと笑って言った私の言葉にウソップはムンク顔をし、ルフィとゾロは意気込む様に小さく笑う。
さて、ミニメリーが雲の道を進んで島に辿り着くまでまだもうちょっと余裕あるから今の内に弁当食べちゃおうか。燃え盛る炎を見ながら食べるのもまた乙ってモンだよね。
「なんでお前弁当食ってんだよ!」
「ウソップは食べないの?」
「今ノド通らねェよ!!」
私は耐性倍加で熱さも暑さも感じないから、食欲は普通にあるんだよね。
でもルフィもゾロも、ロビンですら食べてるけど。
「ああ…2年前の持病がまさかの再発だ…おいお前達、実はおれは「島に入ってはいけない病」なんだ…!!」
「知ってるよ」
「知ってるなら引き返してくれ〜ッ!!」
それは無理かなー…美女が居るかもしれないのに引けない!!
***
そして、私達を乗せたミニメリー号は島へと辿り着いた。
雲は不安定って言ってたから、ミニメリーはきちんと島にあげておこう、燃えちゃったら大変だ。
「おお…なんか科学って感じの門だね」
パンクハザードと書かれた門は鉄網で覆われ、その周りには何を流しているのかパイプ管が沢山あった。
「この島立入禁止だぞ!コレ見ろ…ほら!「世界政府」と「海軍」のマークだ!」
門の中央に大きくその2つのマークがあり、その下にKEEP OUTと書かれていた。世界政府ねぇ…だったら尚更この門ぶち破って侵入してやりたくなるよ。
「それにこの門硬く閉ざされてんぞ!他に入れそうな入口はねェし…!」
「斬りゃあ良い」
ゾロが刀を抜き、上段から一気に振り下ろして門を真っ二つに叩っ斬った。
おお…良い剣筋。私もシャンクスに色々教えてもらったけど…流石に剣術でゾロには勝てそうにもないなぁ。
「たまたま門空いてるみたいだから入っちゃおうか!」
「たまたまっつーか斬ったろ今!犯罪だぞコレ!あ、海賊も犯罪者か…」
中に入れば外より更に暑くなったのか、ルフィもゾロもウソップ上着を脱いで上半身裸になり、ロビンも薄着になっていた。
私はこのままメイド服で行こーっと。炎をバックに佇むメイドってカッコいいよね、どう?…身長は、まぁ…見逃して下さい…。
「尽く燃えてんな…」
「元々が燃える島という訳じゃなさそう…災害?事故…?」
しばらく前へ進めば、溶けて原型を保っていない建物が沢山並ぶ場所へ出てきた。
流石にあの建物に人は住んでないよね…。
「恐らくこれは民家じゃない…ここには以前、政府の施設があった様ね…。この島を
「おーい!さっきの奴いねェか〜〜!!助けに来たぞ〜〜〜!!!!」
…うーん…。
「ねぇ、さっきの電伝虫さ…「寒い」って言ってなかった?」
「ああ…おれもそれが気になってたんだ」
パンクハザードなのは間違い無いとしても…寒いってどういう事?だってこの島そこら中が燃えてるんだよ?天邪鬼的な人だったって事かな。
「グルルル…!!!」
「あれ、ゾロ、いつの間にそんな唸り声出す様になったの?」
「あん?俺じゃねェぞ、ルフィだろ」
「え?今のロビンの腹の音じゃねェのか?」
「ブッ飛ばすぞルフィコラ」
……いやいや、という事はなんなの?こんな灼熱の地に耐える“何か”が…今私達の後ろにいるって事!?
面倒だなぁ…と思いながら振り向いた時、最初そこには足しか無かった。というのも、体が大きすぎて足しか見えなかっただけなので視線を上に向ける。
…ふーむ、鋭い牙、堅そうな鱗、そしてその巨体に見合う程の巨大な翼、そして2本のツノ……わぁお。
「これ、この世界には存在するの?」
「いや…空想上の生物だ!存在する訳ねェ…!」
「だけどこの姿…そうとしか思えない……!!
ドラゴン…こうやって実際に動いてるのを見るとテンション上がるなぁやっぱり!空島で見たペガサスが…まぁ…あんなだったから、今回のはキチンとドラゴンでバッチリ!
「何奴だ……」
「えっ」
しゃ…しゃしゃ…喋ったぁ!?いやでも、前世の創作でも喋ってるドラゴンって結構多かったし?1番有名な創作ドラゴンだって願い叶えてやるよっつって喋ってるし?
「どう見ても空想上に伝わる姿そのもの…!」
「新世界って凄いね!」
「って言ってる場合か!!」
しかもこのドラゴン、かなりヨダレ垂らしてるし…私達をエサとしか見てないな?
コンニャロ…つまりロビンを殺す気で居るんでしょ?だったら私の敵だよね。
「グロロロ…」
ボボ…っとドラゴンの口内から炎が漏れ出た。
ルフィ達はそれを見て火を吹いてくると読んで横に回避する。
「イリス!危ねェぞ!」
「私は平気。知ってるでしょ?」
そして、ドラゴンは口を開いて炎のブレスを勢いよく吹いてきた。
なかなかの威力…でも残念、私には届かない!
「倍…」
右の手の平を前に出し、生み出した空間にブレスが吸い込まれていく。
焼け焦げろデカ竜!
「返し!!」
ゴォオ!!っと威力が倍になってブレスはドラゴンを飲み込んだ。
…あー、でも効いてないっぽいね、流石に自分のブレスでは倒れてくれないか。
「仕方ない、ここは私が直接…」
「待てイリス!おれもやる!ゴムゴムのォ…!」
ルフィが腕を後ろに伸ばしながらドラゴンに向かって走り、顔の横に跳躍した。
「
腕を戻す時の力を利用してドラゴンを殴る…が、ルフィが思ってたより硬かったのかダメージは通っているものの致命傷にはなっていなかった。
「あ…つくないブ…!涼しいブ!」
「また喋ったぞ!!」
なんかやせ我慢してるし!
…うわ、飛んだ!やっぱり空も飛べるんだ!
「ブ!お前達も“七武海”の仲間か!?」
「七武海…!?」
また火吹いてきたし…学習してよね!
迫りくる炎はさっきと同じ様に倍返しで跳ね返し、小太刀に手をかけた。
「待てイリス、コイツは俺にやらせろ!ブッた斬る!」
「そう?じゃあ任せるね」
「ほんじゃ、おれが叩き落として来る!!」
ロケットでドラゴンまで飛んだルフィが、落とそうと噛み付いてくるドラゴンに自分の翼を噛ませて逆に落とす事に成功する。
落ちて来るドラゴンに向かって、ウソップが生み出した「トランポリア」というまんまトランポリンみたいな植物を踏んで跳躍したゾロが刀でドラゴンの首を一刀両断し…あっさりとドラゴン退治は終了したのであった。空想上の生物弱くない?
「…涼しい…!炎が涼しいブ!」
「え?」
落ちてきたドラゴンがまだ喋ってる…首斬られたよね??
まさかまたゾンビみたいなそんな感じ…?
「…いや、違うか。なんか刺さってる」
「人…?じゃあ、喋っていたのは…」
まだ生きているのかと思って落ちてきたドラゴンの頭部に近づけば、下半身しか見えない何者かが頭からドラゴンに突き刺さっていた。
ブって言う特徴的な喋り方も一致するし…間違い無い、さっきからしてた声と同一人物だろうね。
「抜くぞ!」
流石にそのままにしておくのは可哀想過ぎるし、ルフィの提案に私達は全員頷いた。
でも感じから女の子じゃないし…テンションは上がんないかなぁ。
「おい!何奴だ、手を放せブ!!」
「抜いてやるんだ、じっとしてろ!せ〜〜のっ!!」
そして、スポ、と何者かの体をドラゴンから抜く事に成功した。
……下半身だけ。
「ぎゃあ〜〜!!ちぎれた!ごめ〜〜ん!!」
「バカ!ゴメンで済むか!殺しちまったァ〜!!」
「…いやでも待って、ドラゴンの方には体が千切れた後なんてないよ?」
どういう事だろう…やっぱり喋っていたのはこの人じゃ無かったのか…。下半身だけで喋れるわけないし…。
「おお!離れられたでござブ!」
「喋ったァ!?ゾンビか!?」
ドラゴンに動く下半身、そこら中が燃えている環境といい…どうなってるんだこの島!まず普通じゃない……燃えてる時点でそれはそうなんだけど!!