「ほい」
ズガン!!と研究所の壁を蹴破って中に侵入する。毒ガスは叶の…えっと…エレ…えー…まぁそんな感じの技で大半は吹き飛んだし、別に穴を開けたって問題ないだろう。ジェット部隊もシーザーの本性をバッチリ理解出来たみたいだから、いつまでもここに居座るなんて事は無いだろうし。
軽く見聞色で様子を探ってみれば、中々に面倒な事になっているっぽかった。お、ハーピー美女も起きてるね。気配だけじゃイマイチ良く分かんないけど、大人しくしているみたいだ。ゾロの近くに居るから下手に動けないってとこかな。
「研究所内に毒ガスは入ってるのかな」
外のガスが無くなったとしても、既に屋内に侵入しているガスに影響はない筈だ。変わらず猛威を奮っている事だろう。
とりあえずナミさん達と合流しよっと。
「こっちだね」
もうお構いなしに壁をぶち抜いて先へと進んでいく。一直線に進んでいるから、みんなを見つけるのもあっという間だった。
「いたいた、おーい!みんなー!!」
「イリス!!」
「イリスちゃん!!」
ガバッと私の方に勢いよく振り向いた嫁達が私に大きく手を振る。走ってるワニタウロスの上に座っているみたいだ。ナミさん、ミキータ、ペローナちゃん、ロビンに、サンジとウソップが居るっぽい。ちゃんとハーピー美女も近くに座らされている。
ゾロとブルック、そしていつの間にか身体が元に戻ってる侍…錦えもんはその前を全力で走っていた。
というかミキータ達、体元に戻ってるじゃん!いつの間にぃ!
「女王!!」
「あ、あなた達も無事で何より!」
「それはこっちのセリフだ!」
その後ろからジェット部隊が追いかけてきて、モモの助はジェットが担いでいるようだけど、だいぶ体調が悪いのかぐったりとしていた。そりゃ断食10日もすればそうなるよ…。
とりあえずワニタウロスの隣について走り、みんなに今の状況を確認した。ちなみに、たしぎちゃんとスモーカーの入れ替わりも元に戻っているとの事。
「あんたと分かれてから色々あってね。毒ガスだとかシーザーだとか…」
「あと女王、その女は
「え!?そうなんだ…ごめん!そうだと知らずに預けちゃって…、怪我とかない!?」
「ええ、それは大丈夫よ」
そうだ、彼女は体が冷たかった、あれは能力の影響だったんじゃないのかな…だとしたら私はバカ過ぎる、自分から嫁を危険に巻き込んじゃ世話ないっての。
「…何変な顔してんだ、対処はロロノアがした。お前を責めたくて言ったんじゃねェ」
「ペローナちゃん…えへへ、ありがとう」
珍しく慰めてくれたペローナちゃんにお礼を言うと、白い肌を分かりやすく赤に染めてそっぽを向いた。
言ったら絶対否定するだろうけど、ペローナちゃんも私の事、好きでいてくれてるんだなぁって思った。嫁になってくれた経緯が経緯なだけに、ペローナちゃんがそういう気持ちを抱いてくれているのは素直に嬉しい。
「そうだ、毒ガスなんだけど、もう研究所内に入ってくる事は無いと思う。さっき外で色々あったから」
「色々…?さっき物凄い爆発音と揺れがあったけど、もしかしてあんたの仕業なの?」
「私じゃないけど…それも後で話すよ、大事な事だから。で、その爆発で外の毒ガスの殆どが吹き飛んで無くなったから大丈夫だよって事」
物凄い威力だったし、最初に毒ガスを凍らせたりもしていたからね。
仮にまだあの毒ガスが残っていたとしても少量だろうから、毒ガスと敵に挟まれるなんて事もないだろう。
「今俺達は、そのガスから逃げる為に走ってたんだが…この棟に1つしかない扉が閉まりかけてるんだ!それも大丈夫なんだな?」
ウソップが念を押して確認してくるのを頷いて返した。平気も平気、ガスが無ければ閉じ込められたって壁を壊せば先には進める。
ガスがあるから壁を壊して先に進むって選択肢が取れなかったんだろうけど、もう気にすることもない。
「じゃあ斬るぞ、この扉」
チャキ、と刀を構えたゾロが瞬時に一閃を放った。それだけで閉じかけていた巨大な扉を盛大に叩っ斬り、先の道が開く。
「ちょっと剣術かじったから分かるんだけど、ゾロって剣の使い方上手いよね」
「その言い方だと今までは思ってなかったのかてめェ」
「脳筋ゴリ押しマリモだとばかり」
「他の誰を差し置いてもてめェにだけは言われたくねェな、そのセリフ…」
冗談だけど。2年前から思ってはいたけど、自分も剣術を勉強してからより強く実感出来る様になったというかね?うん。
「そういえばイリスにはまだ言ってなかったわよね、実は…」
「ちょっと待て!天井に何か居るぞ!」
「何だ!?あの生物は…!!」
周りのガラの悪い海兵達がそう言うので天井を見れば、確かにそこには小型の竜が飛んでいた。モモの助とはまた随分違った見た目だし、あれら明らかに能力者ってより始めの方に見た竜と同じく、ただの野生の竜だろうね。
…いや、野生で竜がいる時点で相当おかしいんだけどね?
「ギャアアア!!」
「火ィ吐いて来たぞォ!!」
「あ、あのトカゲさん、私達と一緒にガスから逃げて来た子ですよ」
「仲良いの?」
「いや」
サンジに聞いてみれば、ガスから逃げる際、走るよりもあの竜に掴まってた方が速かったから掴まって逃げて来ただけみたい。
と言う事は…危ないし別に倒しても良いって事だよね。
「待たれよ!
「え?」
あ、もう
「ごめん、何か因縁アリだった?」
「…いや、
…“その”、ね。
間違いなくモモの助の関係者だろうし、何か竜に因縁でもあるのかな?
「それで、ナミさんはさっき何を言いかけたの?」
「あっ、そうそう、それがね…」
簡単にナミさんから説明を受けた内容は、主に“同盟”についてだった。
どうやらローの『ハートの海賊団』と私達で同盟を結んだらしく、その目的が“四皇カイドウ”の首だとか。
で、カイドウを倒す為の第1歩として…なんとシーザーを誘拐しなくちゃいけないみたいなのだ。
「私、あいつ嫌いなんだけど。誘拐じゃなくてさ、ボコッて海軍に突き出すのじゃダメなの??カイドウを倒す為の第1歩?そんな面倒な事しなくても……あー…」
いや…これに私が首を突っ込み過ぎるのもおかしな話か…。ルフィの夢に関わる問題だし…。
自分の強さを過信している訳ではなく、冷静に考えても私がカイドウに負ける事は無いと思う。ONE PIECEのパワーバランスくらいもう分かってきているんだ、多少苦戦はするかもしれないけど、負ける気はない。
だからと言って…私がカイドウをブッ飛ばすのは違うかな…って話だ。
そりゃ…カイドウが私の嫁に何かしたのなら問答無用でブッ飛ばすけど。
「たしぎちゃん達とはだいぶ距離離れてるんだね」
「そりゃおれ達は茶ひげに乗ってっからな」
「たしぎちゃんだけでも乗せてあげたら良かったのに…。ていうかあなた茶ひげっていうの?なになにひげって異名の割には弱くない?ぶっちゃけ名前負けしてるよ」
「うるせェな!!」
それにどうしてこの人、文句は言いつつもみんなを乗せてるの?明らかにシーザーへの反逆行為だけど…。ジェット部隊みたいにシーザーの本性を知ったのかな。
「………!これは…!」
「!!お前ら、俺はちょっと離れる!!」
「えっ!?ちょ…イリス!?サンジくん!!」
キキーッ!と急ブレーキをかけて反対方向へと走り出した私に、サンジも同じく血相を変えてついてきた。
「ごめん!用事出来た!すぐ戻るから先行っててー!あ、ちなみにその先でチョッパーが暴れてる子供達止めてるからねー!」
「えっ!?そういうのはもっと早く言いなさいよ!!」
それだけ言ってみんなと分かれ、来た道を逆走して走る。この感じ…サンジも聞こえたっぽいね?流石紳士!
「誰だぁ!!私の嫁を…泣かせたカスはーッ!!!」
見えたぞコンニャロォ…!サンジ…悪いけど私だけで充分みたい!!
「ッ…!?誰だ…!!」
「このグラサンボウズがァ!!!」
「グッ…ボァ…ッ!?」
たしぎちゃん達が遅れてる理由は何も歩きだからって理由だけじゃ無かった…!何かよくわかんない奴に足止めくらってたんだ!
周りには血を流し倒れている沢山の海兵と、同じように倒れている…たしぎちゃん。
そして…その近くに立っていた、今私が蹴り飛ばしたグラサンボウズ。
「っふう…!やっぱ速ェなァ、イリスちゃんは」
「まぁね」
「…む、麦わらの一味…!なぜ海賊が…!」
海賊?立場とか気にしてないんだよね、私って。
「女の…涙の落ちる音がした」
「私はたしぎちゃんの嗚咽が聞こえて」
倒れるたしぎちゃんに近寄り、しゃがんで状態を確認する。
「…ぐ……女王…!」
「………、頬に、殴られた痕があるけど…」
「何?そりゃ許せねェな…レディに手ェ出しやがったのか今の野郎は」
しかも腫れてるから、結構強く殴ったんだろうな。…一体どういう思考回路してたら、たしぎちゃんみたいな美人を殴る事が出来るんだろう。
……理解が出来ないし、する予定も無い。
ただ…沸沸と心の底から怒りが湧き上がって来る。当然だ、一体この男は誰に手を出したと思っているんだろう。無事で済むと思っちゃってる訳じゃないよね?
「…ガフ…ッ…!一騎当千の、女王か……、噂に違わぬ強さだ…」
蹴り飛ばしたグラサンボウズが、フラフラとした足取りでここまで戻ってきた。
「…へぇ、一応意識は刈り取ったつもりだったんだけど、やるねぇ」
「…見ての通り、私は少々頑丈でね…」
「はぁ?いやいや、違うよ、あなたが頑丈とかどうでも良いから。私が言いたいのはさ」
フ、と姿を消し、次の瞬間には奴の目の前に現れて拳を振りかぶる。
「わざわざもう1度ブッ飛ばされに来るなんてねって意味だ、よ!!」
「ッ!!?」
私の拳は奴の腹に刺さり、体をくの字に曲げながら壁まで飛んでいく。殴られる直前に武装色でガードしてたみたいだけど…あの程度の覇気の鎧で
…そうなんだよ、
「ゲフっ…!…参ったな…まさかこれ程とは…」
「私も驚いたよ、まさか私の嫁に手を出しておきながらそんなに弱いとは思っても無かった」
「……あの、さっきから気になってたんですけど、私はあなたの嫁ではありませんが」
まだ嫁じゃなくたっていつか嫁にするんだから一緒じゃん!
「…これが何だか分かるか?」
「…?」
グラサンはもう息も絶え絶えって感じで、フラフラしながら懐からある物を取り出した。
…え、心臓?何アレ、キューブ状のボックスに心臓が入れられてるんだけど…ちょっとグロいんですけど…。
「それは…!まさか、スモーカーさんの…!!」
「いや、これはローの心臓だ」
ローの心臓だ…じゃないわ!!なんで心臓が出てきてそんな平然としてるの?あれ、私が遅れてる!?情報弱者!?
だって心臓だよ?しかもローのって言ってるし…ローは死んだの…!?
「一騎当千の女王、取引といこう。…俺はどう足掻こうがお前には勝てない。だが、これ以上攻撃の意思を見せる様ならばこの心臓を握り潰す」
「え、あれって本当にローの心臓なの?」
「…恐らく、トラファルガーと何らかの取引をしていたのでしょう。トラファルガーの能力を使えば、人体に傷一つ与える事なく心臓を取り出す事も可能です。…スモーカーさんの心臓も……っ!」
ああ、能力ね。という事はアレは一応ローの心臓なんだ。
「で?私の事をローの心臓なんかで止められると思ってるの?」
「悪いが、もう調べは付いている。麦わらの一味とハートの海賊団の同盟…つまり、ローが死ぬ事はお前達にとって不都合でしか無い筈だ」
「へぇ、耳が早いね」
「いかにお前が強くても、この心臓が俺の手の中にある内は何も出来まい。だが俺がお前に勝てる様になった訳でも無い。そこで取引だ…この心臓をローに返す代わりに…この場は引いてもらおう」
ふんふん…なるほど、そうすればローは助かる、私もたしぎちゃん達を連れてこの場を離れる事が出来る。そんでもってコイツは自分の身の安全が保証される…という訳だ。
「確かに心臓潰されてローが死んじゃったら困るんだよねぇ…恩人だし、ナミさん達と入れ替わりプレイする為に必須だし」
入れ替わり…?と首を少しだけ傾げるグラサンボウズだが、私の言葉に否定的な文が入っていなかったからか小さく息を吐いた。
「ならばーーーー」
「だけど、その取引は却下ね。私の嫁を泣かせておいて…なんで取引に応じると思っちゃってる訳?」
「は……?」
「ハハ」
隣で軽くサンジが笑った。いやいやいや、当たり前じゃん、自分がした罪の重さを理解できてないでしょ?
「……ならば、取引は不成立という事で良いんだな…!?元よりローは消すつもりでいた…今殺すか、後で殺すかの違いでしか……、…な…っ…!!?」
「あっれ〜?どうしたのかな?右手を熱心に見つめちゃってさぁ」
グラサン越しでも分かる程、瞳を目一杯開かせて“空の右手”を凝視するグラサンボウズに、ニタァ…と意地悪く笑いかけた。
「お探しの物はもしかしてこれかなぁ?あまりにも隙だらけだったから、どうぞ受け取って下さいって渡されてるのかと思って取っちゃったんだけどね。…ん?取引?え?あなた材料あるの?え?ぷぷ!!え!?ないの!?えーー!?取引材料無いのにドヤ顔で私に話を持ちかけて来たの?ねえ今どんな気持ち?ねえねえ!あーーーっはっはっは!!…おらァ!!!」
散々コケにして笑い、最後に顔面をつま先で突き刺す様に蹴り飛ばして意識を刈り取った。
取引したいのなら、その心臓を私に見せるべきでは無かったね。実力に差があり過ぎる相手との取引は、いかに相手にメリットがあるかというのを示さなければ話にならない。これは私と青キジの取引がいい例だ。
だというのにこのバカ坊主は切り札足りうる心臓をわざわざ私に見せつけた。そりゃある場所が分かれば奪えば良いのだから、取引なんぞに応じる必要はないのだ。
まぁ、まだ私の実力を甘く見ていたのだろうけど。