ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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17『女好き、本気の想いを届ける』

数時間後ーー。

 

「お姉さんに村を出るって言ったものの…みんなどこに居るんだろう…。」

 

ルフィ達はまだこっちに来てないのかな?いやでもクリークって言い訳ばっかりしてたイメージあるからあんまり強くなさそうなんだよなぁ。

 

「…んー?やば、ここどこだろ」

 

知らない道をぐるぐるしてたら迷子になっちった。てへ。

いやね、他県どころか私他世界だからね?しかも他世界の他島な訳、わかる訳ないよね。

…私も結構言い訳ばっかだな。

 

「それにしても、凄いみかん畑!いい匂いー」

 

ここがどこだか知らないけれど、素人目にも分かるほど美味しそうなみかんを作れる人が近くにいるのはわかった。

…よし、出て行く前にせめて一個だけでも貰って行こう。

 

「誰かいませんかー、と。…お、家発見っ」

 

辺り一面のみかん畑を抜けると、ようやく家を発見した。

 

「でも、村からだいぶ離れてるね、みかん畑の為の家なのかな?とにかくお邪魔します!」

 

こんこん、とノックをする。

暫く反応はなかったが、やがてゆっくりと扉が開かれて家の住人が出てきた。

 

「はいはい、誰よこんな時に……。げっ」

 

「えっ」

 

出てきたのはまさかのナミさんだった。あまりにも突然すぎてお互い顔を見合わせて固まる。

 

「…はっ、ナミさん、その左手…」

 

「っ、何でもない」

 

咄嗟に手を後ろに隠すナミさんだけど、間違いなく怪我をしていた。

それも巻いた包帯の上に滲んだ血が見えるくらいの出血量だ。切り傷程度じゃないのは確かだった。

 

「…いい加減にしてよ」

 

「えと、でも今回のは本当に知らなかったと言いますか…」

 

「そんなの関係ないわよ!!あんたも!!…ルフィも!何でそうも私に拘るのかわかんないっ!!いい加減私の前から消えてよ!この島から出てってッ!!!」

 

ルフィ…はもうこの島に来たのか。

この言い方は、ルフィ何かナミさんを怒らせたのか?まぁルフィに島を出て行けなんて言っても聞くはずないし…。

 

「はい、一旦出ていきます。だからナミさん、お金が貯まって村を取り返す事が出来たら…また、メリー号に乗ってくださいよ」

 

「……!!あんた…なんでその事…」

 

「ナミさんの迷惑にならないように、今だけは出て行きますから。だからお願いです…また、私と一緒に居て下さいよ!」

 

「な、何で…」

 

ナミさんの瞳が揺れる。もうここしかない。私の気持ちを全力で伝えるんだ!冗談なんかじゃない、本気で好きだって事を!

 

「私はっ……!」

 

「!」

 

ふと、気配がして周りを見る。

邪魔をされた怒りが湧いてくるが、遠くから近づいてくる人影がゲンさんと海軍だと分かった瞬間に怒りは疑問へと変わった。

 

ゲンさんは案内役、か?海軍…?なんだ、私やルフィがばれた?それともアーロン…?

 

「チチチチ…私は海軍第16支部大佐ネズミだ。君かね、ナミという犯罪者(・・・)は」

 

出会い頭にそう紹介したネズミと言うらしい奴は、名前通りネズミのような髭をして、海軍の隊服もネズミ仕様に改造している男だった。

 

「…犯罪者、そうね、海賊だから大犯罪者よ。ただし私はアーロン一味の幹部。大佐程ともなればよくわかると思うけど、私に手を出せばアーロンが黙っちゃいないわよ、それでも何か用?」

 

「チチチチ…何を言ってるのかよくわからんな……海賊?そんな情報は私の所に届いていない。君には手を出さんよ!ただ君が…“泥棒”であるという知らせを受けてね」

 

「っ!!?」

 

そのネズミの言葉に、何故だか無性に違和感と…とてつもないほどの嫌な予感を感じた。

 

「聞く所によると君は海賊から宝を盗むらしいな。まァ相手が海賊なんだ、君を強く咎めるつもりはない。ーーーーしかし、泥棒は泥棒、罪は罪だ」

 

心臓がうるさい。何だ、こいつは何が言いたい?私の前世の記憶は、何故こんなにも嫌な予感を発してるんだ…?

 

「わかるかね?罪人から盗んだ物ならば当然、その盗品は全て我々政府が預かり受ける」

 

「は…ぁ?」

 

「何ですって……!?」

 

「今までに貴様が盗み貯えた金を、全て我々に提出しろと言ったんだ!!」

 

ネズミの命令で海兵が家に押し入ろうとするのを私が押さえる。何人いるの!押さえるだけで手一杯だって!

ここで下手に手を出しちゃえば…ナミさんのお金が更に危くなる…どうする、一か八か暴れるか…!!

 

「…どうして…!?これが今海軍のするべき仕事なの!?もっとやんなきゃいけないことが他にあるんじゃないの!?アーロン一味は人を殺して町だって潰してる!!知ってるでしょう!!?」

 

ナミさんの訴えにも知らん顔だ。…腹立ってきたな。

 

「あいつらの支配でこの島の全員が『奴隷』にされてるのよ!?その目前の大問題を無視して“泥棒”一人から盗品を巻き上げることが政府の意向なの!!?」

 

「チチチ…!罪人が偉そうな口を叩くな小娘…!構わん、捜索を続けろ!」

 

「島中の人達はずっとあんた達の助けを待ってるのに!よくもそんな人達を素通りしてここへ来れたわね!!」

 

しかしそんなナミさんの言葉は聞かず、お金を探す作業に没頭している様子だった。

 

「汚い手でベルメールさんのみかん畑に触るな!!」

 

みかん畑を捜索する海兵をナミさんが三節棍で殴り飛ばす。

 

「私のお金はお前達なんかに渡さない!!…あのお金は…!!」

 

「この娘の金はこのココヤシ村を救う為の金だ!!それでも貴様等に金を奪う権利があるのか、海軍!!」

 

ついに我慢ならずにゲンさんが口を出す。

ナミさんはお姉さん以外には本心を悟られないようアーロンの一味を演じていた筈だったが、ゲンさんや他の人たちには最初から気付かれていたらしい。

ただ、それをナミさんが知ってしまったら逃げ出したいと思った時に自分達の期待が足を引っ張ってしまうからと知らぬフリをしていたと言った。

つまり、数時間前に見たナミさんが村に入った途端の村人達の行動も演技だったというわけだ。本心ではナミさんを労り、自分達の無力さに嘆く…お姉さんのような人達ばかりだったというわけか。

 

「君等は一体何の話をしてるんだ。要するに村中が泥棒だからみんな捕まえてくれと、そう言っているのかね」

 

「あんたら政府の人間が頼りになんないから、あたし達は一人一人が生きる為戦ってるって言ったんだよ!!」

 

「ノジコ…!」

 

お姉さんも騒ぎを聞いて急いで駆けつけてきたのか、少し息を切らしていた。

 

「村を救ってくれる気がないんならさっさとここから消えな!ぐずぐずしてるとあんたの船もアーロンに狙われるよ!?」

 

「………ほォ、アーロン氏に?それはどうかなァ……チチチチ…」

 

「…え……!」

 

「……っ、こいつら…!」

 

ネズミはお姉さんの言葉に曖昧な返事を返す。

この返事は、聞きようによっては…。

 

「まだ見つからんのか!?米粒を探してる訳じゃねェんだぜ!?1億ベリー(・・・・・)だ!!見つからねェ筈があるまい!」

 

「…なんで、あなたが額を知ってるの…?」

 

私は、嫌な予感が現実になる気がして、それでも信じたくなくてネズミに問う。

 

「ん?ああ…1億、…まァそれくらいありそうな気がしたんだ。チチチチ…」

 

腹の底から、何かが湧き出てくるような錯覚に陥る。

 

「まさかアーロンがあんた達をここへ!!!?」

 

「さァねェ…私達はただ政府の人間として、泥棒に対する当然の処置を取っているだけだ」

 

「……、」

 

私は、海兵を押さえていた力を緩めた、いや、力が抜けたんだ。

それと同時に家に海兵が雪崩れ込むが、今の私にはそれをどうこうするだけの判断が出来ない。

 

ただ、どうしようもない怒りだけがそこにあった。

 

「出て行ってもらえ、捜索の邪魔だ」

 

「「はっ!」」

 

ネズミの言葉に海兵達はこちらに銃を向け、容赦なく発砲した。

私の油断で、まさか撃ちはしないだろうと、甘い考えでいたせいでその弾はお姉さんの脇腹に当たってしまい、お姉さんはその場に崩れ落ちる。

 

「ノジコ!!」

 

銃声で村の人たちが続々と集まってくる。

 

「…ごめんなさい…!私が、油断したせいで」

 

「…まだここに居たの!?あんたとは関係ないっ!!いつまでいるつもり!?さっさと島から出てって!!」

 

私を突き飛ばしてナミさんは走っていく。

どこへ、なんで聞くまでもない、アーロンの所だろう。

 

「大佐!ありました!」

 

「チチチチ…よくやった。しかし、あの女もバカだね…ま、我々のパーティーに使える資金が…おっと、軍資金が増えたと思えば有り難い事だ」

 

「…今、なんて?」

 

「ん?何だこのガキは、おい、誰か摘み出せ」

 

私の手を掴んだ大柄な海兵が歩き出そうとしてピタッと止まる。私の力に負けてその場から動くことが出来ないでいるからだ。きっとこの海兵からすれば、岩を引っ張っているような感覚だろう。

 

「手を、離してくれないかな?今はとても冷静で居られる気がしないんだよね…。間違えて握り潰しちゃったらどうするの?」

 

ゴキッ、と鈍い音が私を掴んだ海兵の手から響いた。

それと同時に私を引っ張る力は無くなったので離してやるとその場で尻餅をついて後ずさっていく。

 

「ナミさんをバカな女って、言ったよね?死に物狂いで集めてきた金を、遊びで溶かそうとしてるんだよね?」

 

足を一歩ネズミに踏み出すと、地面が割れる。

もう一歩、更に割れる。

そしてもう一歩…。

 

「あ…ああ…」

 

「どうしたの?震えてるだけじゃ何言ってるのかわかんないよ」

 

足が震えて立てなくなったのか、尻餅をつくネズミ。私はそんなネズミの顔に近づく。

 

「私、今凄く怒ってるみたい。自分でも戸惑ってるよ。……ねェ、なんか喋ってよ」

 

「い……や、こ、これはその、違うんだ…!そうだ、この1億は返そう!私も諦めて帰るとしよう…!」

 

「…返す?元々ナミさんのでしょ?……舐めてんの?」

 

耳元で言うと分かりやすく肩を跳ねさせて怯え始めた。

こいつは許せない。どれだけナミさんをバカにすれば…決意を踏みにじれば気が済むんだ…。

…それから、アーロン…ッ!!

 

「お前の顔は見たくない、そこで大人しく寝てて」

 

顔面を蹴り飛ばして意識を刈り取っておく。

 

「お、イリスこんなとこにいたのか!あれ?ナミは?」

 

後ろからルフィの声が聞こえたので振り向くと、彼は私の顔を見てぎょっとした。

 

「ルフィ…やっぱり来てたんだね、クリークは倒したんだ。サンジは?」

 

「お、おう!ぶっ飛ばして仲間になった!」

 

その言い方だとクリークが仲間になったみたいじゃん…。

 

「私、ちょっとアーロンパークに用が出来たんだよね、ルフィもくる?」

 

「決まってんだろ、行く!」

 

バシ!と掌に拳を当てるルフィ。

 

「じゃ、行こう。…村の人たちは、…あれ?みんなどこに?」

 

辺りを見渡すと、気付けばゲンさんを含めた村人全員が居なくなっていた。しまった、怒りに我を忘れるなんて漫画の世界だけかと思ってた…。

とは言え、確かに私の方も余裕はない。

すぐにアーロンパークへ向かおうと歩き出すと、すぐ向こうでナミさんが蹲っていた。

肩に入れたアーロンマークの入れ墨をナイフで何回も刺していて、何度も何度もアーロンの名前を泣きながら連呼している。

 

「…ナミさんっ!!」

 

その姿を見ていられなくて私はナミさんの腕を掴んで自傷を止めた。ナミさんは私の顔に振り向いて、また視線を前に戻し俯く。

 

「何で、よりにもよってあんたなのよ…!」

 

「ナミさん…?」

 

「私は、村のみんなも大事だけど…、あんたにだって死んで欲しくなかった!!何で、ずっと私に付き纏って…っ、好きだなんて…!!」

 

ポタポタと、血と涙で地面を濡らす。

 

…さっき言えなかった言葉は、今言えば良い。

 

「私は、ナミさんが大好きですよ。ナミさんのおかげで一人を忘れる事が出来た。甘える事の大切さと、気持ちよさを知った。…好きだから、好きって言うんです」

 

「…!だったら尚更、放って置いてよ!アーロンは強い!あんた達で勝てるような相手じゃないのよ!あんたが…イリスが、死んじゃったら…私は…っ!!」

 

「死にませんよ」

 

「っ!!」

 

ナミさんの前にしゃがみ込んで、頬に手を添える。

私の手の甲を伝って涙が落ちていく。こんな時でもナミさんは泣き顔も綺麗だ。なんて思っちゃってるんだ、もう重症だね。

 

「もうアーロンを倒さないとナミさんが死んじゃうかもしれない。…なら、私は絶対に死なずにアーロンを倒して見せる。だってナミさんは私の嫁ですからね、正妻を逃すわけ無いじゃないですか」

 

唖然とした顔のナミさんを放って話を進める。

 

「『これからは誰かと一緒にいるのを当たり前だと思えるようになりなさい、今度は一人になった時、寂しくて泣けるように』…でしたよね。私はもう…一人になった時どころか、ナミさんが居なくなるだけで死んじゃうかもしれませんよ?」

 

ナミさんのおかげで、一人に慣れていた私が誰か一人でも欠けるのを恐れるようになったんだ。

あの時の恩を…芽生えた恋心を忘れるくらいなら死を選ぶし、何より…私自身の気持ちがナミさんを離したく無いって喧しいくらいなんだ。

 

「だからさ…ナミさん。…私を信じて下さい。そして…約束して下さい。私がアーロンをぶっ倒して、村を魚人から解放した時…あなたは晴れて麦わらの一味ですって…!…あ、あと嫁になって下さい」

 

ニッと笑うと、ナミさんは泣きながら呆れた目を私に向けた後ーーー私を抱きしめた。

 

「…イリス…っ!やっぱり、私……ッ、みんなと…イリスと…っ、ーーーーー助けて…!!」

 

「……!!」

 

それは、私にとって待ち望んだ言葉に他ならない。

私は今、ナミさんに信じてもらったんだ。受け入れて貰えたんだ…!死亡フラグみたいなこと言っちゃったけど、アーロンを倒したら嫁になっても良いってことだもんね!

…やっばい、やる気が漲ってくるし…今なら誰が相手でも勝てる気がするよ。

 

「当たり前ですよ…!ね、みんな!!」

 

「え」

 

ナミさんが真顔になって周りを見ると、ルフィを含めたゾロ、ウソップ、サンジがいい笑顔で頷く。

 

「いくぞ!!魚人共に殴り込みじゃあーーーーッ!!!」

 

「「オオ!!」」

 

ナミさんは赤い顔をして見られたことを照れてるが、まぁいいだろう。

ていうか照れ顔とかレア過ぎる…。

 

何はともあれ、アーロンか。

 

…今回ばかりは、私が大物貰っちゃうか。

 

何たってこれは、私の嫁奪還戦なんだから!!

 

 


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