ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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177『女好き、始まるDブロック』

「い…一騎当千の女王……!!?」

「嘘だろ…なんでそんな奴がここにいるんだよ!!」

 

私の正体に気付いただけで、さっきまで強気だった観客達は皆ざわざわと慌てふためいていた。

騒動の原因…って訳でもないけど、当のレベッカちゃんも私を見て目を見開いている。

 

「…そうか、お前は一騎当千のイリスだったんだな!」

 

「うわ!」

 

まだ試合は始まっていないにも関わらず、誰かが急に後ろから斬りかかってきた。殺気がだだ漏れだったから避けるのは簡単だったけど…。

 

「って、キャベンディッシュか」

 

「そうだ、僕だ!お前はまたしても僕の人気を奪った…!やはり、殺すしかない!!」

 

「えぇ…奪ってないけど…」

 

「いいや、お前は僕が華麗に登場する直前、自らの正体を晒し、会場全体の視線を一気に攫って行った!!誰よりも美しく、そして華麗に登場した僕には誰も見向きもしない!!正に2年前…お前達最悪の世代が僕から人気を奪った時と同じ様に!!」

 

すっごい逆恨みだけど!?

ここまで吹っ切ってる人はあんまり嫌な気にもならないし、逆に応援したくもなる。だけど殺されるのは嫌だからなぁ。

 

そんな感じで絶賛大荒れ中のキャベンディッシュに絡まれていると、ひしめき合う選手達の中から叶が姿を見せた。

叶が通る道を開ける為に、屈強な戦士達が横へズレていくのはなんだか異様な光景だ。それだけ叶の…四異界の肩書きは大きいのかな。

 

「…遠慮はしません。この勝負で、私なりにあなたの事を見極めます」

 

「手加減するなって言ったのは叶じゃなかったっけ?…私だって、“この状態では”手加減しないから」

 

少し含みのある言い方に、叶が目元をぴくりと動かして追求しようとしたその時、ゴォォンーーー…!と開戦のゴングが鳴った。

知らないうちに開始時刻になっていた様だ、周りに集まっていた選手達も皆散り散りになり、誰を狙うか見極めていた。

 

「女王ォ!その首、この僕が貰い受ける!!」

 

「悪いけど、それは嫌かな」

 

シィッ…と鋭く抜かれた首を狙う剣撃をしゃがんで躱し、ガラ空きの足元を掬うように蹴り払う。

当然両足を地面から離されたキャベンディッシュは空を飛べる訳でもないのでこのままだと体勢を崩し倒れてしまうが、そこは流石と言うべきか、剣を地面に突き立ててくるりと周り、後方へ飛び退いて体勢を立て直す。

 

「でも、私の前でそれは致命的なスキだよ!」

 

「ッく!!」

 

“後方へ飛び退く”だけの時間があれば、私が相手との距離を詰めるには充分過ぎる程の隙が生まれる。キャベンディッシュが顔を上げた時には、既に私の拳が目の前まで迫ってきていた。

 

「まだまだァ!」

 

咄嗟に上半身を後ろに倒したキャベンディッシュが、その勢いのまま宙返りをする様に蹴りを放って来た。それも悪手だけどね!

 

「はい、捕まえた!」

 

「な…!?く、離せ!デュランダル!!」

 

「おっと!」

 

蹴りを片手で掴み動きを封じ、剣の突きは首を傾けて最小限の動きで躱す。私個人としては、彼がそう悪い人だと思っちゃいないから嫌いではないんだけど…流石に命を狙われてるんだから、それなりの反撃はしないとね!

 

「その顔が自慢なら、キチンとガードした方が良いよ!!10倍灰(じゅうばいばい)大旋回(だいせんかい)!!」

 

キャベンディッシュの足首を掴んだままぐるぐる周り、軽く竜巻を起こした。そんなに強くない人達はこの竜巻に巻き込まれて場外になってゆき、当のキャベンディッシュ本人も苦しそうに顔を歪めていた。

 

「この…!僕を武器の様に扱うな!!」

 

「分かった、ほい」

 

「あ、おい、今手を離したらーーー…!!」

 

パッ、といきなり手を離した事で、キャベンディッシュはかなりの勢いで場外まで吹っ飛び、壁にめり込んで動きを止めた。なんなら気絶もしてるみたいだし、もう動けまい。

………いや。

 

10倍灰(じゅうばいばい)覇銃(ハガン)!」

 

更に壁へめり込んだキャベンディッシュへと追撃をかけ、動き出す前にもう1度意識を刈り取った。

…なんか今、気絶した筈のキャベンディッシュからとてつもない圧を感じた。壁に埋まってたお陰ですぐに行動出来なかったみたいだけど、覇銃を撃つのが少しでも遅れていたら復活していただろう。

別にそれでも負ける気はしないけど、面倒になるのは間違いないし、結果としては気付けて良かった良かった!

…端から見たら倒した相手に死体蹴りしたみたいになってるかもしれないけど、仕方ないじゃん!だってなんか圧を感じたし!!

 

『…つ、強すぎる!!一騎当千の女王!!!正に怪物、開始早々怒涛の展開だァ!!!』

 

「…この場に居るのは、イリスだけじゃないですよ。『アクアトルネード』」

 

「な、なんだ!?」

「いきなり水の渦が出て来たァ!?」

「い、勢いが…!!ぬ、抜け出せね…うわァ!!」

 

『そしてこっちでは“魔女”がその存在を示しているーッ!!まさか同ブロックに四異界が2人も揃うとは、一体誰が予想出来た!!?私も興奮してるーー!!!荒れ狂う水の竜巻が、屈強な戦士達を巻き込んで場外へ吹き飛ばして行くぞォ!!』

 

私に対抗してか、叶も竜巻を起こして人を減らして行く。レベッカちゃんは上手いこと竜巻の影響を受けない位置まで移動しているみたいで、近くに居る人達の攻撃を避けながら戦っていた。

…というかレベッカちゃん、攻撃してなくない?敵の攻撃を避けて場外の水に突き落とす…くらいしかしてないような…。

まぁ、いっか。それなら巻き込む事も無さそうだし。

 

「叶と1対1で話し合う為にも、まずは人を減らさないとね。30倍で行こうかな」

 

ぐぐ、と私の右腕が30倍巨大化し、リングを見下ろせる位置まで跳躍する。このまま攻撃まで30倍にしちゃったら余波で観客席も吹っ飛んじゃうだろうから…。

 

10倍灰(じゅうばいばい)去柳薇(さよなら)!!」

 

そのまま落下し、勢い任せにリングへと拳を叩き込めば、その衝撃でリング上の戦士達の大半が吹き飛ばされて場外となる。

リング自体も大きなヒビ割れが全方位に広がり今にも崩れそうだけど、何とか堪えてくれたみたいだ。残った戦士も、レベッカちゃん、叶、その他数人って所だ。

 

「…っ、なんて、力…!」

 

リングの隅で戦っていたからか、私の攻撃に巻き込まれなかったレベッカちゃんがそう呟いた。まぁ、その位置にレベッカちゃんがいる事を確認して私も行動したんだけどね。

叶の事は全く気にしなかったけど、それはどうでもいいからって訳じゃ無くて、彼女ならどうにでもなるだろうと思ったからだ。事実、叶は私の攻撃で発生した衝撃をリングから生み出した土の壁で防いでいる。ちなみに、叶とレベッカちゃん以外で残った数人というのはその壁の後ろにたまたま運良く居た人達の事だ。

 

『開始から数分経たず、リング上は壊滅状態だァあ!!これが四異界!!オオロンブスや首はねスレイマン、他にも名だたる各国の戦士達、悪名轟く海賊達を相手に息一つ荒げていない〜〜ッ!!』

 

「そんな言う程でも無かったけどね、強いて言うならキャベンディッシュから一瞬感じた圧が…って、今はいっか、そんな事」

 

目の前には叶が居る。私も、そして叶も、大事なのはここからだ。

 

「少し待って下さい、残りも片付けます。……『バインド』そして…『ハイト・ミーレ』」

 

「?」

 

聞き慣れない言葉に首を傾げると、レベッカちゃんを含めた残った人達の体を光の輪っかが縛る様に拘束する。

直後に、もやもやとした紫色の雲の様なモノが拘束されている人達の顔に纏わりつき……全員その場に倒れ込んだ。

倒れた瞬間に能力を解除したのか、雲の様な何かは溶けるように消えてなくなり、倒れた人達は皆眠りに落ちていた。…よく分かんないけど、眠らせる力だったって事?何その、本当に魔法みたいなの。何でも出来るって…いくら何でも出来過ぎじゃない?

 

「これで、1対1です」

 

「どうも。レベッカちゃんを眠らせてくれたのは助かるよ、どうやって気絶させようか迷ってたから」

 

「…私もあの子に攻撃するのは気が引けます。色々と事情を知ってる身としては、手荒な真似はしたくありませんから」

 

「そっか、じゃあ私とも平和的に解決しない?例えば…ほら、会話とかさ。他にも…」

 

周りに私の正体を晒した現状だと、会話すら必要ないくらいに簡単な解決方法はある。

その方法は勿論、女王(クイーン)化して王華を呼ぶ事だ。流石にそうなれば叶も信用するだろう。

 

女王(クイーン)化っと……王華、来て!」

 

流石に今回は寝てないでしょ…とドキドキしながら王華を呼べば、私の不安を払拭するかの様に勢いよく王華が私の隣に現れた。

 

「っ!!?…ぁ…あ、お、王華…?」

 

「叶…!…だよね?ちょっとイメチェンした?」

 

王華が叶を見てそう言うが、確かに転生前とは幾らか姿形に差異がある。

まず前世の叶は髪も目も日本人らしく黒だ。王華が特例というだけで、叶だけではなく沙彩も美咲も黒髪黒目だった。

だけどこの世界の叶は青髪青目だ。可愛らしい顔立ちは前世と瓜二つな所を見るに、変わったのは髪と目の色だけだろう。

 

「どうかな?これで私の話を信じてくれる気にはなった?」

 

「……、そ、うですね。今すぐにでも、彼女を連れて色々と話したい事が山程あります。……だけど、そこにいる彼女が幻じゃない証拠がありません」

 

「えぇ…私、流石にそんな事は出来ないよ?」

 

「…分かっています。今目の前に居るのが、王華本人だと言うことも…。けど、私はこの世界に来て、ずっとあなたを待ち続けていました。…つまり、今見えている王華の姿は、私が都合よく作り出した幻想である可能性もゼロではないという事です!」

 

「いや、ゼロだけど!?」

 

さては、いきなり王華を目の前に出されて混乱してるな?訳の分からない事を言っちゃってるよ叶さん!!

 

「王華…!私がこの人を倒して、あなたを解放します!!」

 

「おかしくない!?話の!脈略!!!王華も何とか言って!!」

 

「助けて叶!!」

 

「ちょっとぉ!!!?」

 

王華も叶と会えてテンション上がってるなコレ!なかなか攻めてる冗談だよ!問題はそのジョークをジョークと捉える事が出来なさそうな人に言っちゃった事なんだけどね!!

 

「…前回は、あなたが本当に私の敵になるのか分からなくて本気は出せませんでしたが…」

 

「え?でも確か、私の最高の技です、とかなんとか言ってた様な…」

 

「……本気は出せませんでしたが」

 

なるほど、突っ込んじゃダメって事だね。もう私突っ込まない、ちょっとこの2人のテンションについていけない。

 

「今回は…初めから全力を出します」

 

叶はそう言うと、手の平を広げて目の前に突き出す。

そこに光の球が生まれ、徐々に棒状に大きくなっていく。

やがて光は形を整えて、叶が棒状となった光を掴む事で光は弾ける様に消え去った。代わりに叶の手に握られているのは……杖だ。

先端はまるで花が開いた様な形状をしており、中央には青色の宝石が浮かんでいる。

 

「前回出した最高の技は、あの状態での私の最高の技という意味です。今の私は、甘くありませんよ」

 

「…なるほど」

 

…確かに、身に纏う覇気がさっきまでとは比べ物にならない。私の女王化の様に、叶にも強化形態があったという訳だ。

 

「プロテクション」

 

軽く杖を振れば、私達を中心にドーム状の膜がリングステージに広がっていく。私と叶、王華以外の選手達はその膜以外にも小さな膜で覆われて、風か何かでリング端に運ばれていた。便利だね…。

 

「レベッカちゃんの事はもっと丁重に扱って欲しいんだけど」

 

「出来る限り端の方が安全です。リング外に落とさないだけマシでしょう。王華はどうしますか?」

 

「私も隅の方で見てるね、気が散るでしょ?頑張って!」

 

頑張って、じゃないから!ほら見て!叶がふんすってやる気出してるから!

私が睨んでも全く効いていない様で、それでも悪いとは思っているのか口パクでごめんね、と言ってきた。

…何か考えがあるって事?いや、無いんだろうなぁ…はぁ、もう良いよ、乗ってあげる!でも、あなたの友達に攻撃したからって後で怒っても知らないからね!!

 

 


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