ミキータがいるので、バレンタインの話はこうなります。
で、今年もバレンタインネタを書くということで去年のを見返してたらですね、もうナミのしおらしいことしおらしいこと!
あんな時期もあったんですねぇ……(遠い目)
「「「「あ」」」」
サニー号のキッチンにて。普段はこの船専属の凄腕コック専用室となっているこの部屋で、今日、四人の女性が鉢合わせた。
一人目はナミ。
二人目はミキータ。
三人目はロビン。
四人目はペローナ。
要するに、主であるイリスを外した嫁ズ四人組であった。
「あんた達も?」
「そういうナミちゃんも?」
「フフ、みんな考える事は同じようね」
「なんでお前らも居るんだ……クソ」
現在の時刻は昼の3時。新世界の予測出来ない波を幾度となく乗り越え、ようやく食糧調達の為の無人島へと辿り着き、島に降り立って各々の仕事を開始したのだ。とはいえ、食糧調達に一味全員で取り組む必要はなく、そうして彼女達がやって来たのがこのダイニングキッチンであり、同じ事を考えていたのが4人居ただけのこと。
ちなみにイリスはゾロと外で修行だ。イリス自身もゾロをいじるのは2年前から嬉々としてしているし、ゾロとしても強くなったイリスと手合わせ出来る事は自分にとってプラスに繋がると考えている様で、ここ最近は良く二人で打ち合っていた。それ以外の面子は無人島に乗り込んでいる。特にルフィなどは大いにはしゃいでいる様子だった。
「幸いキッチンは広いし、みんなそれぞれ干渉しないで作りましょ?」
「当たり前だろ、誰が好き好んでお前らと仲良くオリョーリなんてしたがるんだ」
満更でも無さそうだが、口ではそう言ってしまうのがペローナという女の子だった。イリスを前にすると更に攻撃的になって、そして更にデレデレになる特徴があるが。
「キャハ、待っててイリスちゃん!最っ高に美味しい“チョコ”を作るわ!!」
チョコ。
勿論、小鳥が歩く擬音ではなく、チョコレートの事だ。
というのも、明日は世間一般ではバレンタインデーなのである。海賊である彼女達に世間一般のアレコレはあんまり関係のないものだが、ことバレンタインに関してはそうもいかない。
何故ならその日は、女の子が好きな女の子にチョコを渡す日だからだ。と彼女達は認識している。やはり世間一般とは色々かけ離れた思考回路をしていた。
「ミキータのチョコレートか、それなら多めに作って私にもくれ」
「あなたがそういう事を言うなんて珍しいわね、ペローナ」
「深い意味はねェぞ。単にこいつの作るチョコが美味いってだけだ」
ロビンの疑問にペローナがそう答える。
確かにその通りで、この中で……どころか、あのサンジと比較してさえも、こと“チョコ作り”に関してはミキータに軍配が上がるのだ。
イリスもミキータの作るチョコレートはお気に入りである。
「イリスちゃんのチョコを作った後でもし余るなら、みんなにも作ってあげるわ」
「お前……そんなに材料用意して余らないなんて事あるのか?どんだけ作る気だ」
「私からイリスちゃんへの愛を送るには普通のじゃ足りないのよ!だから作るわ、等身大イリスちゃんチョコを!!」
「頭おかしいだろ……お前……」
ペローナから言わせればあり得ない事も、当のミキータはどこ吹く風、既に自分の世界だった。
そんな彼女を呆れた様に見るペローナだったが、不意にナミとロビン2人に視線を配らせて軽く頷く。
ペローナとのアイコンタクトを終えたナミが、こほん、と軽く咳払いを1つ。そしてミキータに何の気なしに風で話しかけた。
「ミキータ、それならちょっとお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「キャハっ、イリスちゃんへチョコ……!!……あ、ナミちゃん?何かしら?」
「ミキータが作るチョコってかなり大きいんでしょ?だったらイリスが私達のチョコを受け取りやすい様に最後に渡して欲しいんだけど、良い?」
「?イリスちゃんはそんな事気にしない────」
「ミキータ、お願いね?」
「ええ……?」
ナミかららしくない提案をされたと思えば、今度はロビンも念を押す様に同意を求めてくる事実にミキータは今度こそ首を傾げた。
「……はァ、お前のチョコは味もそうだが、形も大事なんじゃねェのか?私達より先に渡してしまえば、それこそアイツが私達のチョコを受け取ってる間に溶けるぞ」
「む、それは、そうね……」
「それにここは夏島だ。余計に溶けやすいだろうな。私はそれでも構わねェが……ホロホロ」
「た、確かに……っ!!」
ごくり、とミキータは唾を飲み込んだ。その事実に気付かず真っ先にチョコを渡していたら、イリスがそのチョコを食べる頃には最愛の人の顔がドロドロになってしまったホラー感満載のゲテモノになっていただろう。
その光景を想像してぶる、と身を震わせた。
「きゃ、キャハ……!ありがとう、みんな。渡すのは最後にしておくわ!」
風情は無いが、このキッチンで渡すのが良いだろう。ここなら冷蔵庫から出して最速でイリスに渡す事が出来る。とミキータは考えた。
本日の夕飯と明日の朝食は無人島で得た食材を使う筈なので、明日の昼までは冷蔵庫の中をサンジなどが見る事もない。
そんな風に納得するミキータを見て、3人は満足気に頷くのだった。
そして、後日。
***
「ん……っ」
丸い小窓から、夏島特有のカンカンと照りつける朝日に顔を襲われて目を覚ます。
昨日はあの筋肉剣士に1日中修行に付き合わされたせいか、少し体が重い。私が20倍縛りしているのに気付いてからのゾロの剣幕はとんでもなかったから、二度と奴には手を抜かないと誓った。
「……あれ?」
いつもなら感じる温もりが無く周りを見れば、そこには誰も居なかった。あのペローナちゃんでさえも、だ。
「ああ、そういう」
とはいえ、疑問はすぐに解ける。私は鈍感系じゃないから、今日がバレンタインデーだということにはすぐ気が付いた。ていうか、バレンタインなのは知ってたけど。
2年前のバレンタインはナミさんとチョコを送り合ったんだよねぇ。みかんの木に身を隠して、いちゃいちゃ……ぐふふ。
……ま、今回のバレンタインはもうどう過ごすのか決めてるんだけど。
今日は大事な日だから、いつまでも布団ではいられない。のそりと体を起こし、まずは顔を洗いに向かった。
「あれ、ペローナちゃん?」
「ふわ……ぁ、……女王か」
そこで、明らかに寝起きですって感じのペローナちゃんを見つける。
朝起きて、洗面所の前で歯磨きしているペローナちゃんか……レアだね。
「……ん」
「ん?」
目を合わせる事なく、歯磨きの途中でペローナちゃんから綺麗にラッピングされた四角い箱を手渡された。
ちょっと突然過ぎて驚いちゃったけど、これはまぁアレだろう。
「ありがとう、すっごく嬉しい!」
「いちいち大袈裟なんだよ、お前は」
「そんな事ないよ、私の為にペローナちゃんが作ってくれたチョコだから嬉しいんだよ」
「……うるせェんだよ、バカ……」
もはや見慣れつつある赤面ペローナちゃんだけど、やはりいつ見ても可愛いなぁとほっこりする。
早々に顔を洗い終えてその場を後にするペローナちゃんを見送って、私も口の中を洗い流した。
私もみんなに渡すチョコ取りに行こうっと。
2日前に作り終えて冷蔵庫に入れてるから、とりあえずキッチンに向かえばいいかな。
冷水を両手に含んで顔にかけ、少し残ってた眠気を完全に飛ばして目的地へと向かう。道中で、壁にもたれかかる様にして本を読んでいたロビンと目が合った。
「あら、おはようイリス、やっぱり起きてたのね」
「おはよう、ロビン。やっぱりって?」
「さっきペローナがいつもの顔で歩いていたから。またイリスにやられたのだと思っていたわね」
「はは……言い方を変えて欲しいなぁ、なんて」
別に私はペローナちゃんをやったつもりはない。ペローナちゃんが打たれ弱いだけだと思う。まぁ、そんな所も含めてちょー可愛いんだけどね?
なんて思っていると、ロビンもペローナちゃん同様にチョコが入っているのだろう箱を取り出して私に差し出した。
「ありがとう。でもごめん、私のまだ冷蔵庫なんだよね」
受け取りながらそう言えば、「分かっているわ」と頷いてからある方向を指差した。
「ナミならそっちよ。みかんの木で待っているらしいわ」
「あ、そうなんだ。じゃあ先にナミさんに会いに行こうかな」
それにしても、わざわざキッチンへ行く為の道中をロビンが張っていたり、ナミさんの所へ誘導したり、まるで私をキッチンまで行かせたくないみたいだ。
……というか、そうなんだろう。理由も分かりきっているし。
キッチンへ向かおうとしていた足を返し、みかんの木を植えてある場所へと移動した。
前はメリーだったけど、今回はサニーのみかんの木だ。色んな場所でいちゃいちゃ出来ている事実にだらしなく頰が緩む。
そうして見つけたナミさんは、あの時同様にみかんの木にもたれて座り、まるで身を隠す様にしていた。
メリー号と違ってサニー号のみかんの木は船尾近くの一段上がった屋根の上に植えられているから、別に隠れなくとも誰も見ないとは思うけど、きっとナミさんは前回と同じ形で待っていたかったんだろうな、と思った。そういえば前回はみんなから隠れてるというか、私から隠れてたんだっけ。恥ずかしいとかで。
……恥ずかしがってるナミさん、イイね。
「おまたせ、ナミさん」
色々と雑念を振り払って、私もナミさんみたいに座って木にもたれ掛かる。
「おはよう、イリス。ゆっくり眠れた?」
「うん、昨日はみんな早く寝たし、もうぐっすり」
「そう、それは良かった」
いつもよりも簡素な挨拶。気のせいじゃなく、ナミさんは何かを堪えている様だった。
「はい、コレ。チョコレート」
「ありがとう!」
これで私の手には3つのチョコが収まる事となった。
ナミさん曰く、今年のチョコもみかんの風味を感じられるモノにしてあるらしい。
あれはナミさんの匂いに包まれて、なんだかナミさん味って気がしてかなり好きなんだよね。
「……さ!これで私の用事は終わりよ。こんな場所まで来させておいてごめん、イリス」
「謝らなくてもいいよ。今日はみんなそうなんだ、気を使ってか、あんまり私と話してくれないし」
「そうね、今日くらいは私達も自重しないと、でしょ?」
そうやって笑うナミさんに、私も感謝を込めて笑い返した。
私の夢はハーレム女王。そういう事もあって、嫁達がギスギスする事もあるかもしれない……なんて、実は最初の頃思ってたりもした。
だって、ハーレム女王っていうのは言い換えれば女を囲うという事だ。私は出来るだけ彼女達の機嫌を取りつつ、嫁間の仲が冷えない様に奔走する毎日……だってあったかもしれない。
だけど実際はどうだ、みんな、私が何をするまでもなく仲良くしてくれている。こうして自分を抑えてでも、自分じゃない嫁の幸せを願う事が出来る。
それって、かなり素敵で、そして、とても凄い事だ。
「じゃ、行ってきなさい!その代わり、明日は目一杯相手してもらうから!」
「うん、ナミさん、ありがとう!」
「あ、そうだ。私達今日、全員この島を“冒険”するから!多分、日が変わらないと帰って来ないと思うわ!」
「あ、りょ、了解っ!」
あはは……まさかそこまで気を回してくれるとは。
……これは、夜に暴走しそうだなぁ……すっごく。
***
「お待た……せぇ!?」
「キャハ!ようこそイリスちゃん!……と言っても、キッチンだけどね」
扉を開けた瞬間に、ミキータが私に飛びついて来たから慌てて受け止めた。ぽよん!と大きな双丘が鼻頭にぶつかり、私の鼻の形に沿ってそれは形を変える。
……って、下着付けてなくない!?ミキータさん!!?
「もごもご……っ、ぷはっ!ね、熱烈な歓迎だね、ミキータ」
キッチンと言っても、サニー号のキッチンはダイニングキッチンだ。それなりに広いし、いつも食事を取っているテーブルの前には既にミキータが作ったのであろう私の等身大チョコが置かれていた。
って、ちょっと待てぃ!なんかある!前世の一昔前の定番バレンタインネタみたいなチョコがある!!
「な、なにこれ、私?」
「そうよ!イリスちゃんに渡すなら、やっぱりこれしかないと思って!!」
「そ、そうなんだ。ふつう、こういう時って私じゃなくてミキータの等身大チョコなんじゃない?私が食べるんだし……」
「…………、はっ!!!?」
ピシャァ!とミキータの背後に雷が落ちた気がした直後、わなわなと震えて冷蔵庫を虚な目で見つめ出した。
「い、今から作り直す……?いえ、流石に時間も材料も……っ!でも、材料ならイリスちゃんチョコを溶かせば……っ!……で、出来るワケがないでしょう!?私が作ったとはいえ、イリスちゃんの姿を模したモノを、崩すだなんて!!そんなの、神が許してもこのミキータが許さないわっ!!どど、どうすればぁ……!!」
「はは、大袈裟だよねぇ、ミキータは。食べるならどうせ崩れるって」
ぽんぽん、とミキータの背中を叩いて、ゆっくりと体を離す。
ちょっとまってて。と冷蔵庫まで歩いて、中に保存しておいたハート型の箱を取り出して戻り、ミキータに手渡した。
「ハッピーバレンタイン、ミキータ。それと……」
くいっ、とミキータの腕を引いて膝を折らせ、無防備な唇に私の唇を押し当てた。
……んー、美味しいね。流石ミキータ。ほんのりレモンとチョコの香り!
「っはぁ……!ごめんね、最近街とかに寄ってないから、何も用意できなくて……ミキータ、お誕生日、おめでとう」
「……あっ!」
あっ、て。
これ、私にチョコを用意するのに夢中で自分の誕生日忘れてたなぁ?そんな所もミキータらしいけどね。何よりも私を優先してくれる所って言ったらいいのかな。
「い、イリスちゃん……っ!あり、ありがとう……!すっごく、すっごく嬉しいわ……!!キャハハッ…!!」
少し涙ぐみながら、ミキータにしては珍しく吃りつつも確かにそう言葉を伝えてくれる。
「私だって、ミキータのその真っ直ぐな好意にいつも幸せを感じてるから。今日の私はミキータ専用ですっ、いつものお返しに、今日はとびきりミキータを満足させてあげる」
ぎゅ、と強く抱き付けば、ミキータも私を抱き締め返す。いっそ痛いくらいに強く抱き締められ、だけど不満は漏らさずに受け入れた。
うん、今日はミキータが何をしようとも全て受け入れる。そういう日にしよう。それが誕生日プレゼント。つまりプレゼントはわ・た・し♡
……ちょっと痛いかな。
「あっ、だけど溶ける前にチョコ食べないと!」
「そう、ね……」
まるでお預けをくらったみたいにしゅんとなるミキータに苦笑しながら、私は等身大私チョコの人差し指を引っこ抜いた。
流石に内部までは再現されていなかった様で、断面は普通にチョコで安心したと言っておく。
ちなみに、ミキータは引っこ抜かれたチョコ私の指を見て顔を青くしていた。絶対チョイス間違えてる。
「あむ。もぐ……、んっ、美味しい!やっぱりミキータの作るチョコは絶品だね!」
「きゃ、キャハっ!ありがとう!嬉しいわ!」
人の指を食べてる絵面は置いておいて、味は本当に美味しい。
ぱくぱくと食べ進めていく内に、気付けばチョコ私の右腕は無くなっていた。
む、無惨な姿になってしまったけど、仕方ないだろう、うん。それにどうせ最後は頭の先まで私の胃袋に消えるのだ。慈悲はない!
……とはいえ、流石にこの量を今日1日で食べるのは難しいから、残りは冷蔵庫に入れるけども。
「い、イリスちゃんのチョコ、食べていいかしら」
「勿論いいよ。どうぞ」
ハートの包みを開けて、その下に隠れていた同じくハート型のチョコを見てミキータは目を輝かせた。
一口サイズにしようか迷ったけど、結局大きさは私の顔くらいにした。大きい方がハートの印象が強くなるかなと思っただけですけどね!
「い、いただきますっ!」
ぱく、とチョコを口に含んで数回咀嚼。その後、なんかいきなり涙を流し始めた。
うん……私もミキータの事はそれなりに知ってるから、なんで泣いてるのかは敢えて聞かないでおこう。
「喜んでもらえてる様でなにより。じゃあ、食べ終わってからでいいから、2人でなんかしようよ。ミキータがしたい事なら何でもするよ?何たって今日の私はミキータ専よ……んっむ!?」
最後まで言葉を発する前に、ミキータのキスで塞がれた。
その上、口の中にチョコが流し込まれる。舌で歯茎や舌、歯にチョコを塗る様な動きで、キスというよりは塗装だなぁ、とかぼんやりと思う。
「ぷはっ、キャハハ……っ!キャハハ!なら!早くベッドに行くわよイリスちゃん!せっかくイリスちゃんからチョコを貰ったのだから、最高のチョコと最高のイリスちゃん、同時に味あわなきゃ損よ!!」
「ど、どういう理屈で……ひゃっ」
そっと胸に手を添えられて変な声が出た。ベッドに行くのでは!?
ブラをつけていなかった事を考えるに、元々するつもりではあったんだろうけど!
「この可愛い胸にチョコを塗って、下の方にもいっぱい塗って、塗って。そしたらそのチョコごと、美味しく頂くわ!!」
ギラギラと灼ける様な視線を送ってくるミキータに、私は大人しく体を委ねる事で全面的に受け入れる旨を示した。
彼女は会った時からずっと変わらない。とても真っ直ぐな人。
そんな所が周りを笑顔にするし、勿論、私も幸せにしてくれる。
それに対する感謝の気持ちをたった1日で全部返せる訳が無いけど、せめて今日だけは、ミキータの欲望の全てを受け入れてあげようと、そう思った。
そうしてベッドに連れて行かれた私は、この日、寝室の扉を開く事はついぞ無かった。
……ミキータ、普段でも結構抑えてるんだなぁ、と思いました、まる