ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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イリスが抜けた後のコロシアム決勝戦の話です。


182『女好き、コロシアム決勝戦』

イリスがミキータと合流する少し前の事、コロシアムでは今まさに決勝戦が行われていた。

叶は自分と同じリングに立つ4人を見て苦笑いを浮かべる。コロシアムの決勝戦へとコマを進めた覇者は以下の5名だ。

 

『グリーンビットの魔女』叶。

 

『コリーダコロシアムの英雄』ディアマンテ。

 

『謎の強戦士』ルーシー。

 

『人食い』バルトロメオ。

 

『火拳』エース。

 

(…原作ではあなたの能力を奪い合っていたというのに…ふふ、奇妙な巡り合わせですね、これもあの()が起こした奇跡なんでしょうか…)

 

この場の景色を、まるで尊い物を見るように目を細める叶に躊躇なく攻撃を仕掛けたのはディアマンテだ。

本来であれば彼はこの決勝戦でレベッカと戦い、そこで過去の真相を語る。だがその役目はトレーボルに取られており、今の役目は“『異界の実』を誰にも渡さない”というシンプルなモノのみである。

つまり自分が優勝する事が彼に与えられた使命だが…だからこそディアマンテは焦っていた。

直前で決まったグリーンビットの魔女の参戦も彼を狼狽えさせるには十分な出来事であったが、そこにまさかの『女王』『火拳』『麦わら』も加わったのだ。最早彼の手に負えるレベルではなく、何とか魔女と女王を同じブロックに入れて潰し合わせる策だけは功を奏してくれた。

 

とはいえ、女王が居なくなれば楽になるかといえばそんな訳がない。そもそも今の今までドフラミンゴがこの国に対し直接的な危害を及ぼせなかったのは魔女の存在があったからだ。その為に水面下で慎重に事を進める必要を迫られる程には『魔女』の力は絶大だった。

既に異界の実を喰らっている身でありながら何故まだ求めるのか、ディアマンテは状況の理不尽さに胃を痛めながらもこの場に姿を現し、勝ち目などないと分かっていながらも主の命に応えるべく、こうして不意を突いて魔女に攻撃を仕掛けたのだ。

 

「『プロテクション』」

 

「ぐっ…!?」

 

だけど、哀しいかな、気合いで縮まる実力差ではない。

叶が軽く振るった杖はディアマンテを囲うように膜を生み出し、『ウォーター』で膜内を満たした。

イリスですらも危うくやられかけた対能力者への特攻を持つ初見殺し技にまんまと引っかかったディアマンテは、そのまま息をするかのように軽くノックアウトされたのだった。

 

「…創作であるONE PIECEならまだしも、現実であるここであなたの行いを許す訳には行きません。少し眠っていて下さい。『ファイア』」

 

プロテクションを解き、水に呑まれて危うく死にかけたディアマンテが息も絶え絶えと言った風に膝を突く。

ただ数秒水に浸けただけと言えばそうであるが、能力者にとってはそれだけで体の自由が効かなくなるのが普通だ。おかしいのはあのメイド女王なのだ。

そんなディアマンテに炎弾を追撃で喰らわし、意識も刈り取っておく。戦意が喪失していようと容赦は無かった。

 

「…ああ、そうですね、『ウインド』」

 

それから思い出した様にディアマンテの体に風を纏わせ、そのまま空に放ってどこか遠くへ飛ばした。

狙ったのは『ひまわり畑』、叶は別に原作であるONE PIECEとこの世界をシンクロさせようなどとは思っていないが…レベッカの為、そしてキュロスの為にもあの男はひまわり畑で待機しておくべきだと判断した。

もし、仮にこのまま原作通りに進むのだとすれば、レベッカにもロビンにも傷をつける事になってしまう。

そうなればイリスに怒られるのだろうか、と考えて軽く笑った。

 

「さぁ、次は誰ですか?」

 

「…へへ、ったく、化け物しか居ねェのか四異界ってのは」

 

「それより俺はイリスをお前に紹介したかったんだが…どこ行ったんだアイツ…」

 

ルーシーとエースが軽口を叩きながらも構えを取る。バルトロメオはルフィの兄であるエースと対面した事で涙を流していた。

 

「イリスは何やら急用が出来たみたいです。…ああ、あなたの正体は私に隠す必要はないですよ、知っていますので」

 

「……俺のことか?何で知ってるんだ、ってのは突っ込まない方が良いのか?」

 

「深く聞かれたとしても、知っているから、としか言えませんが」

 

当初はルフィがルーシーとしてこの大会に潜り込んでいたが、今は兜の中の人は交代している。

詳細は省くが、死んだと思われていた、エースとは別のルフィの兄…サボがルーシーとしてここに居るのだ。

色々あって革命軍に所属し、その組織のNo.2として力を振るっている。そして叶がその事情を知っているのは当然原作知識から来るものだ。

 

「では、行きます」

 

コツン、と杖で床を叩いて音を響かせる。更にもう2回、連続で床を叩いて何やらブツブツと唱え出した。

明らかに長い溜めに、サボとエースは深く考えず叶へと突っ込んでいく。バルトロメオは叶の行動を警戒してバリアを張ったが、2人にはその様な防御手段がない。つまりは何か行動を起こされる前に仕留めるしか無い。

 

「竜の鉤爪!!」

 

「火拳!!」

 

「っ…!」

 

実力者2人の技を『プロテクション』で防ぐも、真正面から受けたそれらの威力を完全に防ぎ切れる筈もなく叶は後方へ弾き飛ばされた。

しかし、そこでも叶は詠唱を止めない。更に床を杖で叩き、パキ…とリングに亀裂が走った。

 

「『コールドムーン』!!!」

 

そして、遂に技が発動された。リングに注意を向けていた3人は、突如として頭上から降ってくる巨大な氷月(ひょうげつ)を発見する。

 

リングを杖で小突いたり、軽く亀裂を入れたのは上へ注意を向けさせない為のブラフだったのだ。

やられた、と、引っかかってしまった事に苦笑を浮かべるサボだが、だからと言って負けてやるつもりもない。

元は別の要件で訪れたこの国で、2年前からずっと行方を絡ましていた兄弟達とようやく再会できたサボの心は晴れやかだった。その上今、末っ子は居ないまでもエースとはこうして会えなかった分の語らいを拳でする時間すらも得た。まだまだ終わらせるには早すぎる、と自分を鼓舞する。

 

頭を悩ませているのはバルトロメオも同じだった。

頭上から迫る氷月に当たれば、まず間違いなく負ける。自分は良いとしても、何としてもルフィの兄である2人を負けさせる訳にはいかなかった。

といってもバルトロメオのバリアとてそこまで万能ではない。自分を捨ててサボとエースだけにバリアを張ったとして、氷月(アレ)が降ればリングは崩れ落ちるだろう。そうなれば飛行能力のある叶の勝ちが確定してしまう。

…ならば、リング全域にバリアを張るしかない。と決意を固めた。

 

再三言うが、バルトロメオのバリアは万能ではない。ただの武装色程度であれば、仮に大陸を叩き割る様な一撃だったとしても彼のバリアなら耐えてみせるだろう。だが、“内側”に衝撃を伝える武装色などは防ぎ切れないだとか、精神干渉系は守れないだとか、一度に出すバリアの面積には限度があったりだとか、抜け道はあるのだ。

今回はその面積が問題であり、この巨大なリングを全て囲う程のバリアとなるとその大きさはかなりのモノになる。

それで何が起きるかといえば、氷月からリングを守り切れる代わりに自分が無防備になる、という事だ。そうなればバルトロメオに叶の攻撃を防ぐ手段はない。

だけど彼はバリアを展開した。自分の勝利よりもルフィの関係者を守り通そうとする意思は何よりも彼らしい。

 

「これ、バトルロワイヤルじゃないんですか?なんだか、私が悪の親玉みたいになってるじゃないですか」

 

「そのデタラメな強さだけで言やァ十分親玉だろ」

 

「褒め言葉として受け取っておきます。『サンダー』」

 

「あばばばばば!!?」

 

叶はエースの言葉に軽く返答する。

バルトロメオの捨て身の守りに敬意は表すが、勝負は勝負だ。チャンスは逃すまいと無防備なバルトロメオを一撃の元に沈めた。

落ちる氷月はバルトロメオが意識を失う直前にバリアへと直撃し、大轟音と大量の霰を辺りに撒き散らして終わる。観客席は阿鼻叫喚という感じだったが、コロシアムの観客席が危険なのは彼らも百も承知だろう。

同時にバルトロメオも気絶した事でリングを覆う巨大なバリアも消失した。

 

火銃(ヒガン)!!」

 

「『プロテクション』」

 

息をつく暇も与えないという様なエースの猛攻を、正面に膜1枚張って防ぎ真横へ跳ぶ。叶の使用する『プロテクション』は、発動は即座に行えるものの耐久性は心許なく、現に今もエースの火銃を一瞬食い止めただけに止まりすぐ破壊された。

それを読んで真横に逃げた叶だが、そこには既にサボが腕を構えて待ち構えていた。

 

竜爪拳(りゅうそうけん)!」

 

「っ!」

 

「竜の鉤爪!!」

 

他の四異界はともかくとして、叶は見た目通りに打たれ弱い。攻撃力には自信があるが、打たれ弱さに関してだけ言えばこの1発を貰うだけでかなりの大ダメージになってしまうくらいだろう。

 

(プロテクションでも間に合わない…!流石のコンビネーションですね…っ)

 

今から出来る事といえば、咄嗟に眼前へ杖を持ってくるくらいしか無かった。

ドォオンッ!!!と、この世界にやってきてから今まで感じた事のない程の衝撃と痛みが杖を介して叶に伝わる。咄嗟に杖でガードしていなければ死んでいたのではないかと思う程の威力に、持っていた杖も弾き飛ばされて叶本人も呆気なくリングを転がって行く。

 

「いった…ぁ…!!」

 

前世の死因は落下死、当然、痛みを感じる暇もなく死んだ彼女は、この時初めてキャパシティをオーバーする痛みを感じていた。

舐めてかかっていた訳ではないが、自身の能力を過信していた所もあったのだろうと即座に反省して弾かれた杖を『ウインド』で手元に戻す。

とはいえ、さっきの衝撃で両腕とも骨が粉々に砕かれている。なんなら叶よりも技を放った本人の方が慌てている始末だ。恐らく『四異界』と呼ばれている程の実力者がこれ程打たれ弱いとは思ってもいなかったのだろう。

そういった事情もあり、手元に杖が戻った所で握る事は出来そうもなかった。風の魔法は継続させて体の横に杖を浮かべておく。

 

「…ふー…っ、ふー…!…『ヒール』」

 

光を纏った治癒魔法が叶の腕を包む。骨が砕けようが、四肢が千切れようが意識さえあれば元には戻せるのだ。当然時間はかかるし、治療中も痛みは消えないが。

 

「サボ!しっかりしろ!相手は『魔女』だ!」

 

「っあ、あァ、悪い!」

 

驚きはしたが、確かに対峙しているのは『四異界』の1人…『グリーンビットの魔女』。

舐めてかかっていい相手な筈がない。と気を引き締め直して再び叶を見据えたサボは、エースと頷き合って再び駆け出した。

次は意識を奪う一撃で、回避出来ない技で。それだけに意識を集中させたサボの腕をエースが生み出した炎が包み込んだ。

かなり熱いが、やろうとしている事を理解してその焼ける様な痛みを我慢する。

 

「うォォおおおおお!!!『火炎』!“竜王”ォォ!!!」

 

「おォォおおおおお!!!大炎戒(だいえんかい)!!竜炎帝(りゅうえんてい)!!!!」

 

それは、メラメラの実とサボの技である竜の鉤爪の合わせ技と、エースがサボの技を吸収して得た新技。

サボの方は竜の鉤爪に灼熱の炎を纏わせ、エースの方は遥かに巨大で強大な炎の竜を生み出して放つ。それはさながら、一頭の炎竜がその牙で、爪で叶を打倒せんと迫り来る様だった。

 

「…ふふ、これは、良いモノを見せて頂きました」

 

その様子を見ても、叶はまだ笑みを深める。

メラメラの実を食さなくとも、彼はその技を使用してしまうのか、と呆れているのか。それともこの状況で臨機応変にも新技を生み出した彼を称賛しているのか。

 

「…『リベラシオン』!」

 

まさかまさか、と叶は再び口端を持ち上げる。まさか同じ四異界じゃない人達に、このステージまで解放させられるとは思ってもいなかったからだ。

 

リベラシオン…解放を意味するその言葉を叶が口にした数分後。

 

リング上に立っていたのは、叶だけだった。

 

 

 

 




『リベラシオン』
効果は解放。
解放時間は30秒が限界で、その後は簡単な魔法しか扱えなくなる。

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