一応何が起こるか分かったモンじゃないから、女王化は解除せずにそのままで空を駆ける。
当然100倍以下は使えないという事もあってただ空を駆けるだけでもかなりのスピードだ。
すーーーーっごく加減した力に100倍を付与しているからまだマシだけど、全く遠慮が無くなったら風圧でシャルリアを苦しめかねない。
そんなシャルリアは現在、体験した事のない空の散歩を少し怯えながらも楽しんでいる様に見えた。
「…良かった、暴徒にされたこの国の民達は、あそこに居た者達だけだった様ですわね」
「そうだね、それもこれもシャルリアが囮になってくれたからだよ」
「……ぅう」
自らの善行を褒められ慣れてないせいか、私の言葉に頰を赤くして呻く。…うーん、可愛い。ドレスローザに来てほんと良かったです。
でも、冗談じゃなくて本当に良かった。空から見たドレスローザの街中では、オモチャから戻った人達がそれぞれの大事な人達と抱き締め合ったり、幸せそうに言葉を交わし合ったりしている。
…オモチャになった人達って、普通に自我あったのかな?だとしたら、シュガーの能力はかなり恐ろしいモノだと思う。効果時間とかは分かんないけど、もしシュガーが倒れるまで永続的に続くのだとしたら……。こ、怖っ!
「それにしても、さっきから気にはなっていたけど、アレ、なんだろうね?」
「…私も、気になっておりました」
アレ、というのは、このドレスローザを丸ごと覆う様に囲っている白い鳥籠の事だ。
縦格子の1本1本がかなり狭い間隔でまさしく檻の様になっており、子供1人、ねずみ1匹も通り抜けられないだろう。
まぁ…状況を見るに閉じ込められてるって事なんだろうけどね。誰がやったのかは知らないけど、これだけ大規模な能力の行使だ、かなりの実力者なのは簡単に想像出来る。
私が“地上”に出た時には無かったから、デリンジャーとの戦闘中に発生した物だろう。
いや、私も幹部塔を飛び出した時はほんとビックリしたよ。何せそこは日の光が届かない地下だったし、貿易港っぽくも見えたからだ。
どうせ碌な貿易はしてないんだろうけど、急いでいた私は即地下の天井を殴って蹴って覇銃を撃って撃って、そうして地上への直通ルートを作り上げたのだ。
…いや、ホントミキータなんで私の居る場所分かったの?発信機みたいなの取り付けられたりしてる??
「……っ!?ちょっと…なんか、また街の様子が可笑しくなってない!?」
「…!!」
様子が可笑しい、みたいな可愛い表現をしていいのかすら分からないが、私の視界に映っている光景は悲惨なモノだった。
街に居る海兵が民家に銃を放ち、先程まで仲睦まじく話をしていた人達が殴り合い、海賊達は腰に提げている各々の武器を掲げて人々を襲い始めている。
暴徒と化していた者達とは違い、今回、暴れ出した彼らは泣き叫んでいるみたいだった。体が勝手に動いていると、誰か止めてくれと必死に訴えている。
「…っ、酷い…!!」
唇を噛んで、思わずと言った感じで声を漏らしたシャルリアに頷く。せっかく彼女が守った光景を、こんな最悪な形で蘇らせるなんて…惨いにも程がある…!!
しかも、私が地下でチラッと見た工場の様な大きな建物が地下を突き破って地上に出てきたり、王宮の様な壮観な建物が石の土台ごと独りでにどこかへ移動し始めた。まるで石が生きているみたいだけど、訳が分からないからそっちは考えないでおこう。まずは暴れてる人達をどう鎮めるか…!!
『ドレスローザの国民達…及び、客人達』
「ん!?」
何?街中のスピーカーからドフラミンゴの声がするんだけど…!
その上、至る所に設置された映像電伝虫が映像を映し出し、その画面にはドフラミンゴの顔が映っていた。
…このタイミングでのコレか…となると、今街で起こってる出来事や“鳥籠”関連は奴の仕業か…?
『別に初めからお前らを、恐怖で支配しても良かったんだ…』
「…ドンキホーテの…」
腕の中のシャルリアがそう呟く。
やっぱり彼女でも七武海であるドフラミンゴの事は知ってるんだ。いや、彼女の場合は2年間旅を続けたからかな?
『真実を知り、俺を殺してェと思う奴もさぞ多かろう!だからゲームを用意した。
……?
『俺は王宮に居る。今しがた、俺のファミリーが動かしたどでかい宮殿にだ。当然だが、逃げも隠れもしない!この命を取れれば当然そこでゲームセットだ!!…だが、もう1つだけゲームを終わらせる方法がある…!今から俺が名前を挙げる奴ら、全員の首を君らが取った場合だ。その上1人1人に賞金も付いている!』
うーわ…流れ読めたよコレ。あれでしょ、それでルフィとか私とかの名前を挙げる気でしょ。
でもそんなのこの国の人達が成し遂げられる訳が無いから、結局はドフラミンゴを討つしかないし、そんでドフラミンゴを討つのも国民達には無理な話。結局、いずれはドフラミンゴの手によって…最悪は皆殺し、良くて国民全員が奴隷…だろう。
そしてその過程で間違いなく大勢の人が死ぬ。…ほんと、どれだけ性根が腐ってればこんな方法を取れるの……!
『誰も助けには来ない、この「鳥カゴ」からは誰も逃げられない。外への通信も不可能。暴れ出した隣人達は無作為に人を傷付け続けるだろう、それが家族であれ、親友であれ、守るべき市民であれ…!逃げても隠れてもこの「カゴ」の中に安全な場所など無い!「鳥カゴ」の恐怖は幾日でも続く!全員が死に絶えるが早いか!!お前らが“ゲーム”を終わらせるのが早いか!!…ああ、そしてもう1つ、この俺の親愛なる家族の1人であるモネだが、彼女の周りにも小型の「鳥カゴ」を設置してある。今これから!王宮に侵入すればこの鳥カゴは徐々に縮小し、触れるだけで鉄をも斬り裂く刃となって中の者の命は途絶える!!…どうするべきかは、お前が決めろ』
「……!!!」
ちょっと…コレ、完全に私の動きを封じに来てる…!いや、それだけじゃない、王宮に入ればって事は、誰が王宮に入っても発動するって事だ。つまり…モネの命を守る為には王宮に入られたらマズいんだ…!でもドフラミンゴは討たないといけないし…だけど奴は王宮から動かない…!
…その鳥カゴの縮小時間はどれくらいだ!?私が急げば間に合うのか!?それとも、王宮に入った時点で既に手遅れなくらいの速度なのか!?…だー!!!畜生ッ!!!面倒な事してくれるね!!
『考えろ…俺の首を取りに来るか、我々ドンキホーテファミリーと共に、俺に盾突く15名の愚か者達に裁きを与えるか。選択を間違えればゲームは終わらねェ。…星1つにつき1億ベリー!こいつらこそが、ドレスローザの「受刑者」達だ!!』
そして画面に映し出された画像は、やはりというべきか私の想像に近い面子だった。知らない人も居るけど……ん?んんん!!?誰だこの黒髪美女は!美しい!!ヴィオラ…?おお…名前まで綺麗だ…!
……さて、と、星の数とかきちんと見ておこうかな。
どれどれ……。
レベッカ☆
錦えもん☆
ヴィオラ☆
フランキー☆
ミキータ☆
キュロス☆☆
ゾロ☆☆
サボ☆☆☆
エース☆☆☆
ロー☆☆☆
リク・ドルド3世☆☆☆
カナエ☆☆☆
ルフィ☆☆☆
イリス☆☆☆☆☆
……ぶっ、いやいや、え?
『フッフッフッフッ!!各組織の主犯格は、もれなく三ツ星!!!更に、今日俺を最も怒らせた女…!お前らをこんな残酷なゲームに追い込んだ全ての元凶!!この五ツ星の首を取った奴には、当然5億ベリーだ!!その分難易度は高いがな……フッフッフッ!迷ってる時間は無いぞ、各一刻と人間は倒れ、街は燃えていく!!』
そう言うと、映し出されていた映像は消えてドフラミンゴの声も聞こえなくなった。
…私、5億ベリーかぁ。…あれ?でも良く良く考えたら普段より安いんじゃない?私って10億(ドヤ)だし?
「…いやいや、そんな事より…」
モネの事だよね…、悪知恵働かせやがってフラミンゴ野郎…!どうやって奴をぶっ飛ばしつつ、モネを救出するかが最優先だ。
きっとモネは今自分が受けている待遇に疑問を抱いてない所か、使命だとすら思っている可能性が高い…!もしかしたら自分から提案したのかもしれないし!…そんなの、許せない!命をなんだと思ってるんだ…!!絶対に死なせないから覚悟しろ!!
「私にも、何か出来る事は御座いますか?」
「ある。私の腕の中で、首に腕でも回して抱き締めて、時折首筋にキスでも落として欲しい!!」
「あ、あれ、可笑しいですわね…緊迫した状況の筈では…」
そう言いつつも私の言葉に従ってくれるシャルリア。首筋にキスは自重しているのか、大人しく頭を私の体に預けてくれているだけだが、その行為でも十分に元気出るから良し!!
…本当はシャルリアには安全な所に避難しておいて欲しいって言うのが本音だ。だけど今のドレスローザには安全な場所自体無いような気がするから、それなら私の腕の中が実質1番安全なのでは?と思い至っただけである。
さて…モネをどうするか、だね…。まず、王宮に入ったら鳥カゴが縮小するシステムが謎だよね。誰かがそこに近付いた、というのが分かる何かがあるに違いない。
…なんてね。ここに来て私はドフラミンゴの能力について大体の見当がついていた。まず、パンクハザードで見たスモーカー達につけられた切り傷。そしてこの鳥カゴに、操られている国民達。で、王宮に入った事を勘付ける何か。
…うん、糸でしょ?コレ。
糸っていうには余りにも強度が可笑しいけど、そんなモノは覇気でどうとでもなる。決定的なのは操られている人達だ。見聞色で操られている人達をじっくり観察してみれば、体内で糸の様な物に操られているのが分かる。これは今の私の状態だから分かる事で、普通はこんなの分かりっこないだろう。
そして、王宮感知システム。これは単純に周りに目に見えない細い糸を張り巡らせているんじゃないかな。この方法なら糸に気付かれて斬られようとも、王宮に接近された事実は伝わる。
…まずは王宮に近付いてみるしかない、か。うっかり糸に触れない様に、どこまで近づいて大丈夫なのかを見極めないと!