「それで?沙彩はどうしてここに居るの?」
3人からの言葉にほっこりする事少し、そういえばビッグマムの右腕とかなんとか言われていた彼女が何故この場に居るのか気になって尋ねてみた。
「叶から王華の手掛かりと接触したって聞いてね、ドレスローザに来れば会えるかもって言われたものだから来ちゃったわ」
「…良く分からないけど、表に出たくなくて裏で紙と睨めっこしていると噂の『超彩』が、今になってわざわざ自ら出向くなんてどういった心境の変化かしら?」
「私としても貴女が死んでいないのはどういう事かと聞きたいんだけど……、あ、違うのよ?喧嘩を売ってる訳じゃないから」
…ふむ、原作ではモネは死んでいる、という事か。
それもそっか、何たってあの時、私が居なきゃ多分シーザーはモネの心臓をナイフで刺していた。そりゃあ事情を知らない沙彩にとっては驚愕に値する事実なんだろうけど。
「モネは私の嫁だよ、誰にも殺させやしないし、今後死なせる予定もない」
「うん、それがいいわ」
あれ、予想よりもあっさりと頷くんだね…。まぁ王華の友人だし、人の良さは疑うまでもないか。
「ベビー5も王華…じゃなかった、イリスに捕まったのね」
「捕まったなんて人聞きの悪い。そりゃあ結構強引だったかもしれないけど!」
「…となると、八宝水軍はどうなるのかしら…後ウホリシアとか…サイの未来も変わってるわよね…」
「どうかした?」
「…ううん、何でもないわ。原作がどうであれ、この世界の人が選んだ未来が正しいのだから」
あー…あれかな、何かまた色々と原作との差異を生んじゃったのかな。
でもそれは仕方ないよね?ベビー5が可愛いのが悪いんだと思います!ていうかミキータとかペローナちゃんが私達の一味に居る時点でそんな事気にしてられっかー!
「話は逸れたけど、私が出向いた理由だったわね、それは当然王華に会うためよ。というより表に出なかった理由の大半は王華に会う為だから」
「え、そうなの?」
「ええ、なんたってビッグマムの娘に転生したのよ?戦場に出る回数が多くなる程死の危険性も高まる訳だし、裏方に引っ込んで安全にその時を待つのが最善だと思ったのよ。…結局、いつの間にやら『超彩』だとか右腕だとか言われる様になったのだけれど」
…ふむ?そっか、そう考えると沙彩のケースは結構レアだ。私と叶にはこの世界での親と言うべき存在は居ない。男女の交配で産まれた存在ではなく、この世界にポン、と産み落とされた形だから…言うなれば世界そのものが親なのだ。
だけど沙彩にはビッグマムという明確な親が居る。つまり転生する手段は1つだけじゃないという事だ。
となるとまだ居場所も分かっていない美咲やレイの転生手段も気になる所だけど…ま、今はいいや。
「…でもごめんね?今日はもう王華に会わせてあげられなくてさ…明日まで待ってくれるなら何とかなるんだけど」
「ああ、大丈夫よ、今日はあなたに会えただけでも十分。それに私も国を抜け出してここに居る訳だから早く戻ってあげないとね」
「良いの…?1日待てば会えるんだよ?」
「大丈夫大丈夫、どうせすぐ会えるから」
うん?どういう事?
あれかな、そう遠くない未来で私達はビッグマムに会いに行ったりするのかも。
…うん、だったら良いな。ついでにビッグマムをぶん殴って魚人島の縄張りも私に譲渡させられるし!
「だから私はこの辺で帰るわね。…あ、そうそう、デリンジャーだけど、海楼石の手錠を付けてやったらあの強化状態?みたいなの解けたわよ。そこから一方的にボッコボコにしてやったから当分は起き上がって来れないと思う」
「あ、うん、ありがとう」
ボッコボコて…。うーん、あの状態のデリンジャーを相手に海楼石の手錠を付ける事が出来るんだから、やっぱり沙彩って強いんだなぁ。
「私が戦う前からダメージを負ってたみたいだけど…何かあったのかしら?」
「あー…」
やっぱり結構効いてはいたんだね、100倍パンチ。
…でも、いくら海楼石で効果は切れると言ったって、あの強化は厄介だ。
デリンジャーの元の実力を知らないから何とも言えないけど、七武海であるドフラミンゴとは圧倒的な実力差がある筈。なのに私が100倍を解放せざるを得ない程の力を奴は得ていた…。
あんなのを四皇クラスに使われたら、それこそとんでもない化け物が生まれてしまうだろう。…流石にそうなっちゃったら、私が全力を出しても勝てるか怪しい所だね。
まぁ、仮にそれで嫁に危険が迫る様なら何が何でもぶっ潰すけどさ。
「それじゃあ、またね」
そう言って沙彩は目の前から姿を消した。やっぱり見えない…速すぎて。
「えーっと…」
色々とあったけどデリンジャーの脅威が去ったのは僥倖だった。となると次に私がすべき事はなんだろう?ドフラミンゴはルフィとローだけで十分だし、花畑の決闘も同じ事。
これより下の台地に関しても、2段目の台地に居た幹部連中をベビー5以外全員私がぶっ飛ばしたからか戦局は安定してこちらが有利だし、遠くの方で見えるエース達の戦いも今の所手助けは必要無さそうだ。というか、戦闘してる相手から本気でエース達を叩き潰そうとする意思が感じられないっていうか…。
…あれ、これ、もしかしなくても私暇なのでは??
***
「────ギア、
ゴイン!
ゴイン!
武装色とゴムの性質によって張り膨らんだ筋肉で、碌に地面に立つ事すら出来なくなったルフィが目の前のドフラミンゴを見据える。
多少図体が大きくなったからなんだ、その体ではもうこの戦闘のスピードについてこれまい。と高を括っていたドフラミンゴは、次の瞬間目の前に現れた拳によって空高く打ち上げられていた。
(速い…ッ!?)
「ゴムゴムのォォ!!」
ギリギリ…と丸太の様に太く強靭になったルフィの黒腕が、まるでバネの様に圧縮されていく。
ゴムと覇気の力で再現されたスプリング構造の腕は、一体何トンの力で押し潰されているのかという程までに圧縮され続け、やがてその黒腕にズボッと埋まった。
つまり、それ程までに圧縮された力が解き放たれるということは…、
「
「──ッ!!!?」
腕に埋まる程まで圧縮されたルフィの拳がドフラミンゴを捉えた。
ドフラミンゴとて弱くはない。そう何度もモロに喰らってはやらないと腕でガードをするも、そんな防御に意味などないとばかりにぶち抜かれてドレスローザの街まで吹き飛ばされる事になった。
1対1ならば自分が敗北する様な事は無いと確信していたのに、今の一撃だけでその確信に疑問が生じてしまう。
それだけの強化、威力、脅威。
ドフラミンゴの頰に冷や汗が伝った。それは今もまた、“ゴムの弾力で空を飛ぶ”などというふざけた芸当を見せる麦わらの小僧を見てしまったのもあるが、それだけが理由ではない。
モンキー・D・ルフィを相手にするのならば、自分にはまだ“悪魔の実の覚醒”という切り札で対抗出来る。
だが問題は、敵がルフィだけではない事だった。
(面倒な事になった…!デリンジャーは負けたのか…!?)
視界の端に映るのは、王の台地で何やら話をしている女達。その内の1人は知らない顔だが、残りの4人は嫌でも知っている。
モネ、ベビー5、女王、そして…『超彩』。
デリンジャーが追っていた筈の女王は今も五体満足で生きており、訳が分からない事にあの超彩までこの地に居る。
拘束もされていないのに付き添っているモネとベビー5を見るに、ドフラミンゴにとって良い事は起きていないのは明白だった。
「何がどうなってやがる…!!」
狂神は言っていた。
“デリンジャーを強化すれば、まず麦わらの一味に負ける事は無い”と。
“今回はお試し期間で、力を強化してやるのはデリンジャー1人。そして、おまけで国民を暴徒化してやる”とも。
だが実際はどうだ?負ける事は無いどころか一味の1人も撃破出来ていない。それに暴徒共はどこぞの“物好き”によって束ねられ、そこを突かれ鎮められてしまった。
狂神の後ろ盾さえ得れればどうにでもなる、と甘い考えを抱いていた訳では無い。ただ、いくら何でもこの現状はどうかしている!とドフラミンゴは頭を抱えて大声で叫び出しそうになる。
あの女王を抱えた麦わらの一味。
グリーンビットの魔女。
先程存在を確認した革命軍のNo.2。
何故か居る“火拳“。
裏切った幹部連中。
そして…『超彩』。
(…バカげてやがる)
自分の手に負えるレベルはとっくに越えていた。ここで麦わらを倒そうとも、背後にはそれ以上の戦力が控えている。
『超彩』の立ち位置は分からないが、今も女王と無防備に話をしているのだから敵対しているのではないのだろう。つまり、居ても事態は好転しない。むしろ女王と手を組んでいるのだとすれば最悪だ。
「ゴムゴムのォォォォ!!!!」
そもそも、目の前の敵を倒せるかどうかも分かっちゃ居ないのだが。
遠くで拳を構えるルフィを見て、ドフラミンゴは油断なく構えを取った。相手はゴム人間、離れていようとも攻撃手段は幾らでもある。
(だが、それは遠すぎる…まだその力を使いこなせていねェのか)
その距離ならば、幾ら速かろうとも拳は避けられる。見てからでも余裕だ。
そう思うが、当然隙など見せはしない。じっくりと相手の動きを見定め、最小限の動きで、確実に躱して────、
「
「グゥッ!!?」
ドォンッ!!!
ドフラミンゴの体が再び宙を舞う。鮮血が飛び散り、視界がチカチカと明滅する。
何が起きたのか理解が出来ない。拳を圧縮し、ゴムの弾力を利用する構えまでは先程と同じ。だからドフラミンゴはそこから腕が伸びてくる物だとばかり思っていた。
だが、実際に飛んできたのは拳でも脚でも無い。
──覇気だった。
実際に拳で殴るよりも遥かに速度が出ている弾丸が、ルフィのパンチ分の威力を上乗せする形で顔面に直撃したのだ。
ドフラミンゴは知るよしもない事だが、原作のルフィにこの様な技は無い。いや、仮に似た様な技を使うとしてもまだ先であるし、この様な威力も無い。
…そう、この技はイリスの受け売りであった。
少し時間が空いていた時、ルフィは軽くイリスに“
素のイリスを大きく上回る程に馬鹿げた覇気量を持つルフィの覇銃はそれなりの威力ではあったが、実戦で投入するには心許ない、ハッキリ言って直接殴ればいいじゃんレベルだった。だが、それを持ち前の閃きでさっきの技に昇華させたのだ。
要はイリスみたいに撃つのではなく、“殴り飛ばす”感覚。これがルフィの戦闘スタイルにピッタリとハマったのだ。
ドフラミンゴはまだ覚醒を残していると考えているが、正直に言えばそれは甘い考えというもの。
“
だが、それは結果的な話。
ドフラミンゴとて、そんじょそこらの新世界レベルの海賊ではない。その実力は七武海の中でも上位に入り、持ち前のカリスマでこの地位を獲得している。
戦いは、必然的に長引こうとしていた。
***
「…ん?」
ルフィとドフラミンゴが戦い始めて数分、遠目で眺めていてもルフィが優勢だったのだが、いきなり状況が反転した。
ルフィの使用していた新しい強化形態、その効果が切れたのだ。
…私と違って持ち前の等倍覇気しか使えないのに、どうしてあそこまで濃密な覇気を身に纏えるのか不思議でしょうがない。2年間ルフィが積んだ努力が目に見える様だけど、今はそうも言ってられないみたいだ。
「ごめん!モネ、ベビー5、シャルリアを頼んだ!私は向こうの応援に行かなきゃ!」
「!ええ、…女王…いえ、イリス、もし若様と話をする事があるならば、こう伝えておいてくれないかしら」
走り出そうとした時、モネからそう声がかかって慌てて振り向いた。
その表情には決意が表れていて、これを無下にするのは誰であろうと出来ないと思う。
「…ん、ばっちこい」
「ありがとう…。……『嫁ぎ先が決まったのでファミリーを抜けます。今までお世話になりました』と」
「…ふ、ふふ、随分ハッキリ言っちゃうんだね、ドフラミンゴもビックリするかもよ?」
「ふふ、若様がなんて言っていたかくらいは後で教えなさい」
任せて、と親指を立てて、軽く手を振ってから今度こそ走り出した。
…さーて、10倍縛りのフラミンゴ討伐、いっちょやっていくよ!!