ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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19『女好きvsアーロンー決着編ー』

「いくよ!」

 

ダッ!と地面を蹴ってアーロンに接近する。

アーロンはさっきまでの速さとは比べ物にならない私に一瞬驚くが、すぐに対応してパンチをかわす。

 

(トゥース)ガム!!」

 

十倍灰(じゅうばいばい)去羅波(さらば)!」

 

お互いの攻撃で相殺し合い、アーロンは砕けて使えなくなった歯を捨てた。

 

「てめェがいくら自分を強化しようが…反応出来なければ意味ねェ話だ。所詮水に入ることの出来ないてめェには、この技を止める手立てはねェってわけだ」

 

そう言ってまた水の中に消える。

確かにこの技は厄介で、いくら全・倍加(オールインクリース)で強化しようとも反応速度はかわらない私としては防ぐ手立てはない。

 

「でも、だったら反応できる距離まで離れればいいだけでしょ、どうだ!」

 

軽く跳躍を繰り返してしてアーロンパークの最上階に立つ。

この位置なら、アーロンが水中から飛んできても反応出来るだろう。

 

(シャーク)・ON・DARTS(ダーツ)!」

 

「やっぱり、距離があると弱いよその技!だァーーーッ!!」

 

飛んできたアーロンの顔に踵落としを喰らわして落とす。

最上階から一気に地面に落とされたからか、流石にダメージが入ったようで血を吐いていた。

 

「うっし!油断なんてしないからね、ここで待つ!」

 

叩きつけられたアーロンは、ゆらりと起き上がると目を見開く。

 

「下等な人間がァ…!」

 

え…なんか目つき変わった?

 

「ありゃ海王類がブチ切れた時に見せる目と同じだ…!今の攻撃で奴の怒りが頂点に達したんだ…!」

 

既に戦いを終えてほぼ無傷で勝利しているサンジが説明してくれた、ありがとう。

 

「魚人の俺に…何をしたァ!!」

 

アーロンパークに腕を突っ込み、壁を貫く。

次に腕を引き抜いた時にはその手に大きなノコギリのような形状をした剣が握られていた。

 

「“キリバチ”!」

 

ナミさんが叫ぶ。そうか、あの武器はキリバチっていうのか…。

 

…ってナミさん!いつから村の人達に混じってるの!

これは尚更情けない所見せられないね…!

 

「がァ!!!」

 

鬼気迫る表情で私の待つ最上階まで上がってくると、手に持ったキリバチを上段から一気に振り下ろしてきた。

 

「くっ」

 

後ろに飛んでかわし、振り下ろした隙を突くつもりがアーロンは振り下ろした勢いを利用してキリバチを支えに体を大きく前方に一回転させ、隙なくキリバチを振り下ろしてきた。

背後はもう壁なので、近くにあった窓に突っ込んで部屋の中に逃れる。

 

「当たったら終わりだね…、ここは?」

 

壁の向こうはアーロンパーク内部だ。つまりここは最上階の部屋の中。

辺り一面に紙が散らばっていた。

 

「紙ばっかだねこの部屋…ん?海図?」

 

「その通り、これはただの紙じゃねェ」

 

私を追って窓からアーロンが入ってくる。

他の場所はDARTS(ダーツ)やキリバチで壊すのに、この部屋に関しては律儀に窓を通ってきた所を見るにこの紙は余程大事なんだろう。

 

「これは全部、8年間かけてナミが描いた海図だ。魚人(おれたち)にとって海のデータを取ることは造作もねェが、問題は測量士…世界中を探してもこれ程正確な海図を描ける奴ァそういるもんじゃねェ……!!あの女は天才だよ」

 

「ほーー…」

 

ふと近くに落ちたペンを拾えば、そのペンには血が染み込んでいた。

 

「…私、これ知ってるな」

 

「ここで海図を描き続ける事が、ナミにとって最高の幸せなのさ!!俺の野望の為にな!その海図で世界中の海を知り尽くした時!俺達魚人に敵は無くなり、世界は俺の帝国となる!!その足掛かりがこの島であり東の海(イーストブルー)という訳だ!!てめェにこれ程効率よくあの女を使えるか!!?」

 

ここは、見た事がある。

勿論前世での話だ。あの時は、ルフィがアーロンの“使う”って言葉にキレたんだっけ。

 

「はは」

 

「どうした?気でも狂ったか?」

 

「ははは!いや、でも笑うなって言う方が難しいよ!」

 

アーロンの“使う”発言には、ルフィじゃなくても怒りが湧いてくる…。

だけど、私はそんな言葉以上にイラつくことがあるんだ。

 

ーーー知っていたくせに、今日まで忘れてナミさんと接していた自分が許せない…っ!

 

「己の無力さに気付いた人間は、怒ることも嘆く事もなく笑うと聞くが…いくらてめェが自らの過ちに気付いたところで、もう手を引いてはやらねェがな」

 

「うん、私も引くつもりはないし、無力でもない」

 

近くにあった机や本棚を蹴り飛ばし、壁ごと蹴り抜いて外に落とす。

 

「な…!?てめェ何のつもりだァ!!」

 

「情けないけどね、これは受け売りだよ」

 

次々と部屋中の海図や物を手当たり次第に外へ飛ばす。

私のすべき事は決まった…。この部屋を、アーロンパークを潰すんだ。

 

ナミさんに会って、好きになって…でもそんな人の苦しみにすらずっと気付いてあげられなくて、それなのに私はそのことを実は知っていて…。

 

「そして最後には、こうして先人の知恵頼りだ!!!」

 

「やめねェか!!」

 

「ぐ…ッ!?」

 

キリバチの横薙ぎに直撃してしまい、咄嗟に左腕でガードしてたのだが、体は部屋の隅に飛ばされて辺りに埃が舞い視界が悪くなる。

いくかガードしたとはいえ、左腕には深々とキリバチの刃が突き刺さり血が溢れ出た。

 

「っ…がはッ…。う…、だ、けど…!それでも私は、ナミさんが好きなんだッ!!絶対に負けられないんだァ!!!!」

 

 

 

 

痛みを忘れるように決意を叫んで、埃から飛び出して拳を突き出す。

 

十倍灰(じゅうばいばい)去柳薇(さよなら)ァッ!!」

 

「てめェ…!この部屋にある海図に、一体どれだけ価値があると思ってやがる!!」

 

私の拳とキリバチが衝突して衝撃波が生まれ、それらが更に海図を飛ばす。

 

「ぬぅ!?」

 

「価値…っ!?こんな物に何の価値があるんだッ!!」

 

去羅波(さらば)を連続で放って海図を両断する。

その最中もアーロンのキリバチで身体中が裂かれるが、それでも気にせず周りの物を破壊し続けた。

 

「ナミさんが描きたい物にこそ価値は生まれるんだ!!ナミさん自身にこそ価値があるんだ…ッ!!お前は、ナミさんの魅力を押さえ付ける、ただの半魚野郎だろうがァーーーーーッ!!!」

 

ガンッ!!と迫ってくるキリバチを踏みつけると、その威力に耐えきれずついに剣は砕け散った。

 

「そいつを壊したからと言っていい気になるんじゃねェぞ、元々俺の武器はこの強靭な体に他ならねェのさ!!」

 

「さっきからそんなに通用してないけどね!」

 

「これでもそんな生意気な口が叩けるか!?(シャーク)・ON・歯車(トゥース)!!」

 

アーロンが口を大きく広げて歯を剥き出しにし、体を回転させその勢いを利用して突進してきた。それはさながら高速回転する刃。当たれば間違いなく肉は弾け飛び、当たりどころが悪ければ一撃で死ぬ。

狭い部屋の中、体の大きなアーロンの全身を利用したこの攻撃を避けるのは至難の技だ。迎え撃つしかないっ!

 

「う、おおおおおおおおおッ!!!!十倍灰(じゅうばいばい)!!去柳薇(さよなら)ァーーーーー!!!!」

 

私の大技とアーロンの大技がぶつかり合う。

もう既に部屋の海図は大半が外に飛ばされ、アーロンも攻撃に気を使っていないからかその威力はさっきまでのとは比べ物にならない物だった。

 

「シャーッハッハ!!逃げなくていいのか!?このままじゃ腕が消し飛ぶぞ!!」

 

「上等…っ!!私の腕が無くなろうが…最後に勝つのは、私だァ!!!」

 

まるで大岩同士を高速でぶつけ合わせたかのような重低音の衝撃が響き渡り、それでも腕を引く事はない。

 

そしてーーーーー。

 

 

 

「………」

 

「シャハハハ…ッ、認めてやろう、まさか人間がここまで俺を追い込めるとは思ってもなかった」

 

立っているのは、自慢の鼻こそへし折れてはいるがアーロンだ。

 

私は部屋の隅で壁にもたれ掛かるように倒れ、右肩から先は今の攻撃で綺麗に消し飛んでしまった。

 

「…そりゃ、どうも」

 

「ほう…?まだ息があるとは…。てめェは今ここで、必ず殺さねェといけねェ人間だ」

 

アーロンが私に近づいて、砕けて戦闘では使えなくなったとはいえ、無抵抗の私を殺すくらいなら訳ないくらいの刃は残っているキリバチを手に持つ。

 

「そうそう…、最後に、ちょっといい?」

 

「いいだろう、俺をここまで怒らせ、追い込んだ褒美に何でも言うだけ言ってみるがいいさ。殺し方が変わるかもしれねェぜ?」

 

そんなアーロンの言葉に私は口角を上げる。

こんな状態で笑う私を、アーロンは気でも狂ったのかと怪訝そうにするが……残念、私は気など狂ってはいない。

 

「私はね、アーロン…あなたにだけは絶対に負けたくない理由があるの」

 

一つ。

 

「あなたはナミさんの自由を奪ったし」

 

二つ。

 

「ナミさんを孤独にした」

 

三つ。

 

「ナミさんを泣かせたし」

 

四つ。

 

「そして何より、あなたに勝たないとナミさんが私の嫁になってくれない」

 

「…シャーッハッハ!!いきなり何を言い出すかと思えば、全部ナミの事じゃねェか!」

 

「そうだよ、私があなたと戦ってる理由は全部ナミさんにある。そんな私が負けちゃったら、ナミさん、絶対に責任を感じるよね」

 

「つまり、てめェはこれからのナミの一生を死ぬことによって縛るつもりか、中々考えることがエゲツねェじゃねェか、人間」

 

「何を馬鹿なこと言ってるの、だから半魚野郎なんだよあなたは」

 

ぴく、とアーロンの眉が動くが、私の態度に疑問を抱いてもいるのだろう。すぐに逆上して攻撃してくる事はなかった。

 

「私は、こう言いたいだけだよ。私は絶対にあなたにだけは負けない。何が起ころうと、何が来ようと…そして、どんな手を使おうと(・・・・・・・・・)!!」

 

その瞬間、今までの攻防に耐えきれなくなったのか部屋の天井が崩れてきた。

アーロンは軽く腕で跳ね除け、私は残った左腕で弾く。

 

「それで…今のは攻撃のつもりか?」

 

最後の足掻きも無意味だったとでも言いたそうなアーロンが勝ち誇ったかのように笑う。

私はそんな彼の言葉を無視して、上を指差した。

 

「アーロン。天井が崩れて、今は陽の光に照らされる筈の私達だけど……、なんか“暗いね”?」

 

「……?…、な…ァ…!?て、てめェ…、あ、れは…いや、あの城は……一体何だァーーーッッ!!!?」

 

確かに周りが薄暗いことに疑問を抱いたアーロンが上を見ると、彼は顔を驚愕の色に染めた。私達の真上…、その宙に浮いている物体は、常識ではとても考えられない物だったからだ。

 

「見覚えない?アーロンパークだよ」

 

「ッ!!?」

 

「私の能力は、倍加。流石にここまでの質量となると作るのに時間がかかったみたいだけど…」

 

元となる物の近くなら、どこにでも複製した物を出現させられる。

私はその特性を使って宙にアーロンパークを作ったのだ。

だけど、その特性は作ってる途中の話。アーロンパーク程の大きさだから作るのに時間がかかってるし、何より私の能力容量的にも限界なのだが完成すればそれはアーロンパークとなって私の能力からは制御を離れて地に落ちる。

つまり、私達のいる、オリジナルアーロンパークへと落下するのだ。

 

「…てめェ、あれが落ちりゃ…自分もただじゃ済まねェだろう!?」

 

「そうだね、流石に死ぬよ」

 

「負けねェってのは、俺を道連れにするってことか人間がァ!!」

 

キリバチで私を抉るように斬り刻む。

 

「能力者の能力は、使用者が意識を失うか死ねば解除されるッ!いくらてめェがあれを作ったところで、俺がてめェの息の根を止める方が速ェぞ!!!」

 

首、顔、胴体、左腕、両足。どれだけ斬っても、抉っても、空の城が消える兆しは見えない。私の息の根は…止まらない。

 

「…く、なんだァ…コイツァ…ッ!!」

 

このままだと確実に落ちてくる。そう感じたアーロンが外に逃げようとするが、私が足を掴んで離さない。

 

「てめェ人間がァ!!どれ程斬ったと思ってる!?何故その体で生きていられる!?てめェは一体何なんだァ!!!」

 

「私…?ただの、女好きだよ」

 

そうして城が落下を始めた。

アーロンが私の手を振り解こうとするが、これが“私”の最後の仕事。

もうアーロンがどうしても逃げられないくらいまで城が落ちてきた時、私の姿が消えた。

 

「…な……ッ!?」

 

アーロンが驚愕で目を見開いて周りを見渡すもそこに私の姿はない。

 

「この勝負…!!私の勝ちだァーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!」

 

「!!?」

 

その声は、作られたアーロンパークの最上階から聞こえた。

何故そんな一瞬であそこまで行ける?何故どれ程痛めつけようが死ななかった?

アーロンはこの最後の最後で、全てを察したのだ。

戦闘中、一度だけ埃が舞って一瞬だが視界が遮られた事があった。

その時に二人目の自分を作り出す技、神背・倍加(ヒューマ・インクリース)を使用していたのだ。

そうしてまんまと今まで分身と戦い、本体は上でアーロンパークを作り続けていた。

 

「この、俺が…人間のガキ何かに…っ、負けるというのかァーーーッ!!?」

 

「いっけえぇえーーーーーーッ!!!!」

 

アーロンの叫びをかき消す轟音と共にアーロンパーク同士は衝突し、ついにその城は崩壊した。

私は崩壊に飲み込まれないように崩れ落ちる瓦礫と瓦礫を跳躍して回避する。

 

「うわ…っ」

 

だけどやっぱりその衝撃は凄まじく、私は足を滑らせてしまい瓦礫と共に落ちていくこととなってしまった。

 

「イリスーーーーーッ!!」

 

ナミさんの悲痛な叫びが耳に届く。

そうして崩れ落ちた衝撃が収まった時、巻き込まれないよう距離を取った仲間や村人達がアーロンパークの周りに寄ってきた。

 

「イリス…ッ!」

 

ナミさんが駆け出し、アーロンパークの瓦礫を退けて私を探そうとした時、崩れ落ちた瓦礫の天辺から音がして石ころが落ちる。

 

「…っ!、はぁ、はぁ…っ!」

 

「イリス!」

 

何とか身を塞いでた瓦礫を跳ね除けた私がそこに立つ。

正直死んだと思ったけど、私が落ちたのは城の最上部からだったので瓦礫に巻き込まれるのは最小限で済んだのだ。

能力がきれて、全身は傷だらけだし、左腕からはどくどくと血が流れて止まないが…。

 

「ナミさーーーんっ!!」

 

「…!!」

 

「もう、大丈夫だから…、だからっ!また、一緒に…、私と一緒に居てよ!!!!」

 

「…っ…、うん…!」

 

「あと正妻にもなって!!」

 

「…もう…っ。…こんな、私で良ければっ…いくらでもあげるわよ!!」

 

ナミさんが泣きながら笑顔で頷いてくれたのを見て、私も静かに涙を流す。

その瞬間に、歓声が響き渡った。

私たちを祝う声もある、アーロンから解放された喜びの声もある。

何にせよ、魚人達の支配から…ナミさんもココヤシ村も解放されたのだった。

 

 




ここまで来るのは早かった…。
それもこれも読んで下さる皆様が居たからこそです、ありがとうございました!
…なんか最終話の後書きっぽくなったけどこの先もめっちゃ続きます。

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