198『女好き、ゴーイングルフィセンパイ号』
「……はれ?」
ぱちくり。
目を覚ませば、目の前には見た事のない天井が広がっていて。
周りを見渡して状況を確認してみると、なんだか凄い事になっていた。
私の左腕に抱きついているのがミキータ、私の胸の中で静かに寝息を立てているのがシャルリア、そして右手をぎゅっと握っているのがロビン。ちなみに私も含めて全員裸だった。
「あー……そういえば」
意識を落とす前、私はお酒を飲んだんだっけ。じゃあこの状況にも納得だ。ていうか、普通に酔ってる時の記憶あります。
とりあえずみんなには謝っておこう。王華ももう私の中に戻ってるみたいだし……後でお礼しないと。
「……それにしても」
酔ってる私、テクニシャンだなぁ……。普段ならどうやってもミキータを相手にすれば押し倒されてるというのに、昨夜はずっと私のターンだった気がする。シャルリアとか鳴きっぱなしだったよね……やばい、思い出したら興奮してきた。
隣で眠るシャルリアを改めてまじまじと見つめてみれば、やっぱり美人だなぁ、と思う。長い睫毛とか、シュッと整った鼻筋、鮮やかな薄い唇、……くちびる。
……よし、キスしちゃお。
「では失礼して」
身動きは取りずらいけどなんとか顔を寄せてシャルリアの唇に吸い付いた。寝ている相手にこっそりするというのも、なんというか背徳感を唆られて良い。
気分を良くした私は、そのまま舌を口内に割り込ませた。綺麗に並んでいる歯をなぞる様に舐めとり、次に脱力しているシャルリアの舌を探して無理矢理絡め取っていく。
「んっ……ふ、……は……っ」
「っ……?ふぁ……、んぅ……?」
「っはぁ……ふーっ、ごめん、起こしちゃった?」
そりゃあ起きるよね、とは思いながらも一応謝罪の言葉はかける。寝込みを襲われていたシャルリアはというと、軽く頰を染めるだけで怒ってはいないみたい……というかむしろ嬉しそうだ。
「お気になさらないで。私は貴女様の所有物ですわ、どうぞ如何様にもお使い下さいませ」
「……そういうの、ベッドの上で言うのやめてくれない?」
普段なら、自分をモノ扱いするなーとか言ってるかもしれないけど……状況が状況だし、普通に興奮します、はい。
モンモンと湧き上がる情欲を堪えていると、不意に後ろから腕を回されて抱き締められた。どうやらミキータも目を覚ました様で、シャルリアの向こうを見ればロビンも妖しく微笑んでいた。
……ん?妖しく??
「おはよう2人とも、でもちょっと待って!ミキータ待って、どこ触ってるの!?」
「キャハ、おはようイリスちゃん。どこって、それは勿論イリスちゃんの」
「い、言わなくていいから!」
「なら私は前から攻めようかしら」
「ロビン!?せ、攻めなくていいからね!?」
マズい……!この2人が攻めに回ってしまえば私じゃ止められない!
私だってまだまだみんなとくっついていたいけど、ナミさん達をゾウに先行させているという事実もあるからね、ゆっくりし過ぎる訳にはいかないから。やる事やっといて説得力ないけど!!
「シャルリアとはキスしたのに、私達には無しなんて酷いわよっ、イリスちゃん!」
「……だってミキータ、ベッドの上でキスすると絶対最後までするじゃん」
「嫌?」
「嫌じゃないからダメなの!ゾウに行かなくちゃいけないんだから我慢!キスだけなら起きてから何度でもするから、ね?ロビンもそれでいい?」
ロビンとミキータは渋々といった感じではあるが諦めてくれた様で、ベッドから降りた。
どうやらこの部屋は浴室付きらしく、私達はまず昨晩の汗とかその他諸々を洗い落とす為にお風呂に入ったのだった。
……余談だけど、お風呂ではすんごいキスされた。だけど私の言葉をしっかりと守ってキスだけだったから、逆に私の方が色々と爆発しちゃいそうだったけど必死に我慢した、うん。ナミさんやペローナの顔が脳裏に浮かばなきゃやっちゃってたね、あれは。
***
そうして、私達はオオロンブスにお礼を言ってずっと待機していたバルトロメオの船に乗り移った。
その際、傘下となった彼らはルフィのビブルカードを少しずつ千切って持っていった、なんなら傘下になってないベラミーですらも。
あと、バルトロメオの船は凄かった。何が凄いって、まず船首像がルフィだったのだ。こいつら頭おかしい。
メインマストはちょっと生意気な表情のメリーの頭から生えているし、船の名前は『ゴーイングルフィセンパイ号』だし、船体の側面にはチョッパーの角を模した飾りも付けてるし、なんならみかんの木も船尾の方に植えてある。
「痛車ならぬ痛船ってやつ?」
「原作だと内装はあまり描写されてなかったんですけど、この調子だと中も凄い事になってそうですね」
それに、バルトクラブ(バルトロメオの海賊団)の船員はみんな麦わら一味のファンみたいで、全員バルトロメオと同じノリなのだ。私がちょっと前を通る度に叫び声を上げられる始末である。
女の人も何人か居たけど、叶はその事に首を傾げている様子だった。どうやら原作にはバルトクラブに女海賊は居なかったとかなんとか。
まあ、私だけじゃなくてミキータやペローナも居るんだし、女性ファンが入ったって事かなぁ。
可愛い子ばかりだったから嫁にならないかと尋ねた時は、「死んでしまうのでやめて下さいっ!!」と必死の形相で叫ばれて思わず頷いてしまったものだ。……そんなに拒否しなくてもいいじゃん。
「それにしてもこの船、甲板にソファーを置いてるなんて珍しいね、バルトロメオ達の分はないの?」
「め、滅相もねェべ!そのソファーは中から引っ張りだしてきたオレ達のやつです!!心配なさらず!しっっかりと汚れは落としてありますべ!!」
「そ、そうなんだ……」
ちょっと申し訳なく思ったけど嬉しそうだから良しとしよう。
私達が座っているからバルトロメオ一派はさっきから立ったままなのだ。
あと、当然だけどもうメイド服ではない。
「ん?おい、ルフィ、どうやら俺達懸賞金上がってんぞ」
「えー!本当か!?」
新聞を眺めていたゾロが少しだけ弾んだ声でそう言った。チラリと覗き込み額を確認して、とん、と肩に手を置きドヤ顔を決める。
「ハッハッハ!まだまだだね小僧!精進をしっ!!」
「てめェ……!上等だ、叩っ斬ってやる!!」
「その懸賞金額でー?私と7億くらい差があるけどー??」
「そんなてめェを斬り倒せば、んなちっぽけな差なんざすぐに埋まるだろ!」
「うわ!本当に斬ってくるやつがいる!?」
ゾロの居合いを小太刀で受け止めて、みんなから離れている船の前部デッキへと飛び退いた。ゾロも額に青筋浮かべて追ってきたし、今回はちょっと煽り過ぎたかも……なんてね!私はゾロを弄るのが好きなんだよ!!
「イリス様、楽しそうですわ」
「キャハ、イリスちゃんは良くゾロとああいうやり取りをしてるのよ?ゾロも怒ってる様に見せてるけど、ああ見えて結構楽しんでるかもしれないわね」
「ぞ、ゾロ先輩とイリス先輩のお戯れだべ〜〜!!野郎共、写真を撮れェ!!」
「
「おおおォん!!どうして買ってねェんだ〜〜ッ!!?オレはバカ野郎だべ〜〜ッ!!?」
「……こっちもこっちで楽しそうですわ」
「そうねぇ……、ん?あれ……これ、どういう事かしら」
ゾロの剣撃を往なしつつ、横目でチラリと疑問の声を上げたミキータへと視線を向けた。
……ていうかゾロ、本当に剣術は化け物だ。私は能力のおかげでゾロの身体能力を遥かに上回っているけど、仮にゾロがこの実を食ってたら凄い事になってた事だろう。
まあ、それはともかく。
「どしたの?」
ゾロとの戯れを適当な所で終わらせて、ソファーに座って新聞を見ていたミキータの首筋に後ろから抱き付き、首を傾けて新聞を覗く。
さっきはゾロの金額しか見てなかったから全員分確認しておこう。
『麦わらのルフィ』懸賞金5億ベリー。
『海賊狩りのゾロ』懸賞金3億2000万ベリー。
『“悪魔の子”ニコ・ロビン』懸賞金2億ベリー。
『“鉄人”フランキー』懸賞金9400万ベリー。
『黒足のサンジ』懸賞金1億7700万ベリー。
『“正妻”ナミ』懸賞金5億ベリー。
『“長鼻”ウソップ』懸賞金6500万ベリー。
『わたあめ大好きチョッパー』懸賞金100ベリー。
『“嵐の運び屋”ミキータ』懸賞金1億4000万ベリー。
『“ゴーストプリンセス”ペローナ』懸賞金1億ベリー。
『“ソウルキング”ブルック』懸賞金8300万ベリー。
『“女王”イリス』懸賞金10億ベリー。
とまぁ、こんな感じだった。
私の『一騎当千』が無くなってシンプルになってる。いっそ手前に“ハーレム”って付けてください。
他にも気になる事が幾つかあるね。例えば、相変わらず私の嫁は懸賞金額が凄い事になっちゃってたりとか。
ナミさんとか凄いよね、まさかのルフィと同額って……。金に目が眩んでナミさんを襲おうとする奴が出て来たら慈悲なくぶっ潰してやろう。
懸賞金額は対象者の危険度で決まるっていうのなら、ペローナちゃんはちょっと少ない金額なんじゃないかなって思うけど、恐らく政府側もまだペローナちゃんの能力を把握しきれてないんだろうね。
写真も2年後のものに変更されているみたいだった。ナミさんは2年前と同じ様に私の隣で笑っているものだったり、ミキータは空を舞ってるものだったり、ペローナちゃんはゴーストを使役している場面だったり、ロビンは能力使用中の凛々しい場面だったり、とにかく言えることはみんな可愛いって事である。
で、その中でも特に気になるのがサンジだった。というのも、何故かサンジの手配書だけ“生け捕りのみ”になっているのだ。サンジ以外はみんな“生死問わず”だから、何かしらの陰謀が動いてるとしか考えられないくらい不自然だった。
私の嫁やルフィ、ローなどの例外を除けば、今回の懸賞金アップは大体一律5000万らしく、バルトロメオも5000万上がっているそうだ。だけとサンジは違う。だって今回彼は別行動をとっており、ビッグマムの船から距離をとってゾウに向かっていただけの筈だ。懸賞金が上がる様な事はしていない、と思う。
少しの間、私達は唸る様に思考を張り巡らせてみたけれど、心当たりの無いものは幾ら考えても答えなど出る筈もない。という訳で一旦意識の外へと追いやって、サンジ達と合流した時にでも確認してみようという事になった。
「……ん?どうかした?叶」
「…いえ、なんでもないです」
んー?少し歯切れ悪いし、多分サンジの事について何か知ってるんだろうなぁ。
まぁ、話さなかったって事は今更どうにもならない事か、もしくはどうでもいい事なのだろう。もし今後気になる事が出て来たらその時に教えてもらうとしようかな。