ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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200『女好き、レイの覚悟』

安城さんの食べた悪魔の実、それが司るのは“累乗”というぶっ壊れアビリティだった。

その後、私と叶はとりあえずレイの話は全て信じてみる事にした。というか、私は既に信じていたのだけどね。

理由は単純で、その情報が嘘でも問題無いからである。何故なら、目の前に居るのが身も心も“安城 零”でただ私達を揶揄って出鱈目な情報を流しているだけだとしても、その情報を掴まされたからと言って何も困らないからだった。というのも、今回レイが私達に伝えた安城さんの能力は“ジョウジョウの実”。しかもその性能は私達の知る中でもトップクラスなのだ。

わざと能力の効果を低く見積もった情報を流し油断させるというのなら分かるけど、今回の内容は最大限警戒させるだけでしかないものである。

つまり、私達はこの情報を信じ、更に詳細な事まで聞き出した方が得策だという結論に至った訳だった。

あ、勿論これは殆ど叶の考えですけどね!私と王華は「ほー」「へー」しか言ってなかったし!叶も説明の後半は額に青筋を浮かべてたなぁ。でもこうやって頭の中で整理出来たくらいだから理解はしてるんだよ?うん。

 

そんな流れもあって私達はレイから幾つもの話を聞き出す事が出来た。

まず、ジョウジョウの実の詳細だ。

安城さんが使用していた中で最大の底と指数は、どうやら底が『3』、指数は『6』であるらしい。つまり3の6乗となり、およそ700倍だ。

それだけならまだ良かったけど、どうやら安城さんはレイにも実力を隠しているそうだ。意識の底にまで追いやられているレイには外の様子を上手く伺う事が出来ないそうだし、恐らく安城さんも意図的に見せない様にしているのだろうとの事。

その話から察する事が出来るのは、安城さんの力は700倍が最大ではないだろうという事。累乗は指数の数字が1つ上がる度に数が跳ね上がる。仮に3の7乗が使えるとすればそれだけで2100倍となってしまうのだ。正直想像したくはなかった。

 

更に、ジョウジョウの実は他者にも効果を発揮させる事が出来るらしい。デリンジャーや民衆の強化はそれで説明がつくけど、なんとも厄介な能力だと思う。

というか、それってつまり能力が覚醒しているのでは?と思わないでもない。

 

そこまで話を聞くと、今度は民が操られていた事などが気掛かりとなってくるよね。シャルリアは暴徒と化した民衆に追いかけ回されていた訳だけど、“ジョウジョウの実”は流石に洗脳能力なんてないはずだし。

なんて思っていればそれについてもレイが説明してくれた。なんでもレイには4人の直属の配下が居るらしく、その内の1人である『リリー』という名の女が精神干渉系の能力者だとか。

 

その4人は安城さんと違い表には姿を見せておらず、世界政府や海軍も存在を認識していないとか。

レイもその4人についてはそんなに知らないそうだけど、私と叶はその内の1人の名前を聞いて目を見開いた。

 

精神干渉系の能力者『リリー』

無精髭の男、名前は分からない。

無精髭とは違って、身嗜みは綺麗な眼鏡の男。

 

そして、煌めく赤の髪と瞳の、4人の中でも最強の戦闘力を誇る人物。

────ミサキ。

そう、あの美咲である。

 

「そんな……美咲が、安城 零の所に居るというのですか……?」

 

「……」

 

そりゃあ、美咲の情報が掴めない訳だ。だって安城さんが意図的に隠していたのだから。

美咲が安城さんについている理由については簡単だ、恐らく操られているんだろうと思う。なんたってあの美咲だ、王華を苦しめた元凶に自分の意思で手を貸すなんて有り得ないと私でも断言出来る。

丁度リリーとかいう名の能力者も居るらしい事から、相手が美咲を操れる可能性は十分にある事だし。

 

という訳で、私……というか王華と叶の中では既に美咲救出が最優先事項として今後の目的に組み込まれた様だ。この事は叶から沙彩にも伝えるらしい。

 

次に、現在のレイの状態に関して。

彼女の中に安城さんが入り込んでしまったのは彼女が5歳の頃、丁度誕生日を迎えた後日だったそうだ。

その時には既に安城さんは今の様な人格だったらしく、レイは為す術も無く安城さんに意識の奥底へと追いやられる事となった。

レイの体なんだからそう簡単に乗っ取られたりとかしないだろうと思うかもしれないけど、良く分からない狂ったナニカが突然自分の中へと入り込んで来るのだから、当時5歳のレイでは恐怖で竦んでしまったとしても誰も責める事なんて出来ない。

それに、問題はここからだ。

安城さんは、乗っ取った体の前に現れた悪魔の実、“ジョウジョウの実”を食らい、規格外の強さを得てしまった。

実験台としてレイの住んでいた村の人達は皆殺しに遭い、その時に両親も亡くしているそうだ。

 

なんともない様に話す彼女だけど、声は震えていた。

安城さんを殺して欲しいという願いは、レイ自身が安城さんを憎んでいるから、という理由もあるんだろう。

だけど主導権を取られた彼女では自殺すら出来ないらしく、行使出来る能力も安城さんより低いレベルでしかないらしい。

 

「わたしが、話出来るの、は、これくら、い」

 

「いや、十分過ぎるよ。ね?叶」

 

「はい、貴重な情報です。……が、レイ、安城 零を殺すという事は、即ちその肉体を滅ぼすという事になります。……当然、あなたも死ぬ事になると、分かっているんですか?」

 

「う、ん」

 

レイは迷いなくそう頷いた。その瞳に恐怖の色は無く、奥深くに見えるのは怒りと憎しみ、そして、諦め。

そんな彼女の態度にどうしようもなく腹が立つ自分が居る事に気付いた。開き直る訳じゃないけど、仕方ないよね?いや、これは開き直ってるのか。

だって、彼女は5歳の時に安城さんに体を奪われ、本当の意味で()()()で両親や友達を殺されている。その後10数年と囚われ続け、いつしか彼女は自分を諦めてしまったのだろう。

憎しみや怒りは積まれど、それを発散する機会は訪れる事はなく、安城さんに力があるせいで死ぬ事も出来ない。

 

……死ぬ事も出来ない、か。

自ら“死”を望む事は悲劇だけど、当事者にとっては何よりの救いになる。

 

だけど私は、

 

「……流石に、エゴが過ぎるんだけどさ」

 

「……?」

 

悲しい救い(そんなもの)は……嫌いなんだ。

 

「叶、安城さんは私達で倒そう」

 

「元よりそのつもりですが……どうかしましたか?」

 

「そうだね、どうかしてるかも。……夢物語かもしれないし、都合の良過ぎる理想を語るけどさ……安城さんだけ倒して、レイは救ってしまおう」

 

「「!!」」

 

2人の瞳が驚愕で見開かれる。

私の言っている事を理解しているからこそ、その荒唐無稽な理想に呆れているというのもあるかもしれない。

要は、安城さんはブッ倒す!でも、レイの命は救う!という事はだし。

 

「……それ、は、無理だ、よ。アンジョウとわたし、は、繋がってるか、ら。だからアンジョウ、も、わたしを体から追い出さない、の」

 

「無理かどうかなんてやってみなきゃ分かんないじゃん!案外安城さんを倒せばその体から逃げていくかもしれないよ?」

 

「そうほいほい魂だけで移動なんて出来ないでしょう?」

 

「普通はそうだと思う。だけど、例外もある」

 

魂だけを外に放出させる方法はある。それこそが“女王・倍加(クイーンインクリース)”、所謂『王華顕現』である。

あれは私の中にいる王華を一時的にとはいえ体外に放出させる技だ。私自身詳しいメカニズムとかは分かんないけど、とにかく出来るには出来る。

なら、その効果を永続的に発揮させる方法もあるかもしれない、そう希望を抱くのは何もおかしくはない。というか、私は王華を解放してあげようと前からそういう事を考えていたのだし。

 

「ね?なんとかなりそうでしょ?」

 

「……方法は未だ不明ですけど、実例がある以上は可能性はゼロじゃない」

 

「そうだよ!だからさ、レイ、その命を諦めるにはまだ早いんじゃない?」

 

「……っ、あなた、は、良い人だ、ね。凄く眩しく、て、暖かい、太陽の様、な」

 

レイは俯き、私からはその表情が見えなくなってしまった。そして──

 

「でも、ダメな、の。わたし、は、死ななきゃいけないか、ら。ママも、パパも、妹も、友達も、みんな、わたしがこの手で殺したか、ら。わたし、は、生き永らえたくない、の」

 

「でもっ、それは安城さんがやった事じゃん!!」

 

「それで、も、わたし、は、わたしが、許せないか、ら……。あなたもそうじゃない、の?大切な人を、その手で何人も、何人も、殺してしまったら……生き残りたいって、思える、の?」

 

「……っ」

 

言葉に詰まってしまった。

本当はここで、無理矢理にでもレイを言いくるめるべきだったのだろう。だけど、レイの覚悟や想い、そしてその心を蝕む呪いとも呼べる過去(きおく)に押し負けたのだ。

きっと彼女は何を言った所で引かないのだと分かってしまったから。

 

「あなた、は、優しい人。だから、キチンと守り通して、ね。周りに居る、大切な人達、全員、を。アンジョウは甘くない、から、きっと、手段なんて選ばな、い。……そろそろ、アンジョウが起きるか、ら、わたしはもう帰る、ね」

 

「っ……この、バカ!人の心配ばっかりして、あなただって優しい人なのに、どうして死ななきゃいけないの!?」

 

「……ふふ、ありがとう、ね。もし、生まれ変わる事が出来たのな、ら、あなたの近くが良いか、も。……なん、て。それじゃあ、ね」

 

それだけ言い残してレイはその場から姿を消した。

 

……レイのおかげで、安城さんの能力や周りの戦力はかなり把握出来た。勿論詳細までキチンと理解出来た訳じゃないけど、何も分からなかった昨日までに比べれば雲泥の差だ。

でも……その情報は全て私達がレイを“殺せる”為のモノで……。

 

「……介錯を頼まれてしまいましたね。正直、面白くないですけど」

 

「うん……」

 

レイの事を、安城 零が私達を騙して揶揄う為に演じているだけだという考えはとっくに微塵も残ってなかった。

だって、あの覚悟は本物だったから。

本物だからこそ、私達の心に深く刺さってしまったのだ。

 

……とにかくまずは情報の展開だね、色々と知れたのは事実なんだし、レイの事は一旦後回しにするしかない。

考える事から逃げてるだけかもしれないけど、どうせいつかは向き合わなきゃいけない問題なんだ。今くらい、目を背けたって良いと思う。

 

 

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