「おお……ここが海軍の支部かぁ」
「大声は出さないで下さい、一応敵地ですので」
叶の『テレポート』で海軍
すぐに出動出来る様にか基地は海岸近くに建っているので、今も嗅ぎ慣れた潮の匂いが鼻を擽っている。
そんなに大きな島ではないけど無人島って訳でもないみたいだ。奥へ行けば村とかあるかもしれないけど……今はいいや。
私達が近くまで来たとたしぎちゃんに知らせる為に電伝虫を1コールだけかけてすぐに切り、他の海兵達に気付かれない様暗闇に身を潜める。
「ていうかさ、敵地っていうけど叶は立場だけで言ったら海軍寄りでしょ?」
「前までは、ですけどね。私がこちら側についたのは藤虎にも見られている筈です。恐らくまだここまで連絡は届いていないでしょうけど用心するに越した事はないですし」
「藤虎って盲目の人だよね?あれ、叶の事認識出来てたの?」
「それも分かりません。藤虎は目を頼らない分、感覚や聴覚などが鋭いですから。あの時藤虎の近くで迂闊に行動したのは結果としては間違いだったかもしれませんね……」
これ以上話すのは危険だと言う様に叶は口を閉じる。私達も倣って大人しく待っていれば、Gー5基地からたしぎちゃんが歩いてくるのが気配で読み取れた。
「『インビジブル』」
ぽつりと叶がそう呟けば、気配だけ残して叶の姿が目に見えなくなった。身を完全に隠す魔法か、私達に施さなかった所を見るにどうやら自身にしか効果がないみたいだけど、相変わらず汎用性の塊みたいな能力だ。
叶はそのままたしぎちゃんの近くまで歩いて行き、驚くたしぎちゃんの腕を引いて私達の元まで連れて来た。
見聞色があれば分かるから叶の動きは探れるけど、これ覇気が使えない人からすれば脅威だろうなぁ。偵察とかにも使えそうだし。
「や、パンクハザードぶりだねたしぎちゃん」
「どうしてカナエさんがあなた達と共に行動しているんですか……あ、どうも。そちらは運び屋と……えっと」
「シャルリアです。以後お見知り置きを」
「あ、ちなみに彼女は元天竜人で、今は私の嫁だから」
「は?」
唐突に舞い込んだ情報にたしぎちゃんから素っ頓狂な声が漏れた。何度も私とシャルリアを交互に視線を彷徨わせ、やがて大きなため息を1つ溢しジト目で私を睨んでくる。
「あなたって人は……一体どこまでその手を伸ばすつもりですか?抱え込める量を測り違えばその身を滅ぼす事になりますよ」
「心配してくれてるの?大丈夫、私の腕は世界中の美女を囲う為にあるから」
「……そうですか」
もう何を言っても無駄だと感じたのかもう一度ため息を吐いたたしぎちゃんが、基地の向こうに広がる森を指さした。
「とりあえずあちらに移動しましょう。この森を越えてしまえば1つ大きな町がありますが、それさえ気を付ければ大丈夫でしょう」
そうして歩き出したたしぎちゃんから少し離れて私達も移動を開始する。それにしてもこの森、獣の気配とかも結構感じるね。たしぎちゃんだけじゃなく、シャルリアの訓練にも良さそうだ。
森に足を踏み入れ、それとなくシャルリアの動きを観察してみた。
……うん、足運びとか凄く滑らかで心配する点は1つも見当たらないね。狩りとかしてたって言ってたし、こうやって森を歩く術も自力で身につけたのだろう。
自慢だけど、私は森の中でも問題なく体を動かす事が可能である。まぁ、海賊になるまでは無人島暮らしだったし、修行中も大体森の中だったから、木の根や上からぶら下がる蔦などは私にとっては動きを加速させる装置でしかないのだ。ドヤ。
やがて私達は川沿いの開けたスペースへと辿り着いた。結構歩いて来たから流石にここがバレるなんて心配はしなくても大丈夫そうだね。
腰掛けるのに丁度いい岩もその辺に埋まってるし、魚とか捕まえてキャンプ気分味わうのもいいかも。今回はそこまでする時間は無さそうだけど。
「それで女王、今回はどんな要件でここに?」
「流石だね、特訓だけじゃないって分かったんだ」
「それだけなら、そちらの者達まで連れてくる必要はありません」
ミキータとシャルリアの事かな?シャルリアはともかく、ミキータが来たのは本人の希望があったからだから、たしぎちゃんの読みは正確には外れてるんだけどね。
でも結論は合ってる訳だし、細かい事を突っ込むのはやめておこう。
「じゃあ率直に言うけど、私達、狂神とぶつかろうと思ってるんだよね」
「……狂神と?なるほど、つまり、私達海軍のパイプを使って協力を要請してほしい、と言う事ですか?」
「え、すご……まさにその通りなんだけどさ」
今度こそ、たしぎちゃんの読みは一寸の狂いなく正解を指す。
私の言葉にたしぎちゃんは考える様に腕を組み、眉を寄せた。
「正直、難しいと思います。狂神が暴れていると報告があれば私達も駆けつける理由にはなりますが、場所の特定が出来ません。女王から救援要請が届いても現場まで辿り着くまでに時間がかかる可能性があります」
「いいよ、それでも。狂神を倒すなら海賊とか海軍とか言ってられないかもしれないし、手を取り合えとは言わないから、対狂神の時だけは同じ敵を見よう」
「……ですが、私の発言力はそう高くは無いですよ?スモーカーさんならどうにかなるかも知れないですが……。それに、狂神は今や四皇の一角、政府がどう判断するかも不明です」
そうだよね…そう簡単にOKを出せるお願いでもない、か。でもいざと言う時に海軍側から応援が来てくれたなら、それはとても助かる話なんだよねぇ。
とはいえ、たしぎちゃんに無理をさせたい訳でも無いし……仕方ないか、一応話は通したんだし、上手く行けばGー5の人達だけでも来てくれるかも知れないし。
「無茶はしなくて良いから、お願いしま……、あっ」
「女王……?」
と、その時、私の見聞色レーダーに1人の気配が引っかかった。
私を警戒してか極力気配を押し殺して近づいて来た様で、私が探知する頃には既に手遅れだったんだけど……。
「隠れてコソコソ何をやっていやがるのかと思えば、お前が海賊と仲良くお喋りとはな、たしぎ」
「す、スモーカーさん……どうしてここが……!?」
持ち前の十手を握り、だけど敵意はそれ程見せずにスモーカーが私達へと近づいて来た。
相手に戦う気は無さそうだけど、一応まだ戦闘員ではないシャルリアを背後に回して動きを探る。
「どうしてもクソもあるか、てめェに隠し事は向いてねェよ」
……うん、まぁ大体分かった。きっと私としていた連絡に関してスモーカーに問い詰められたりでもしたんだろう。そしてその時に挙動不審な対応でもしてしまったのかな?いや、スモーカーとたしぎちゃんは付き合いも長いし、単純に隠し事が出来る関係じゃないってだけかもね。……羨ましい!!
「で、どうするの?私達を捕まえる?」
「当然だ。……と言いてェが、腹が立つ事に俺ではお前らに敵わねェ。逆に聞くが、お前らは何故ここに居る?どうしてたしぎを呼び出した?」
「……分かった、話すよ。だけど、たしぎちゃんが私達海賊と会ってた事を見逃してくれるならね」
「元よりそんな事で目鯨立てるつもりもねェ。こいつがてめェらに会うって事ァそれなりの理由があるって事だ」
たしぎちゃんは、私と会う事で特訓が出来るからと今夜会うのを受け入れてくれた筈だ。たしぎちゃんにとって強くなると言う事は海賊である私に教えを乞う程に重要な事。つまり、スモーカーの言う様に“それなりの理由”はあった。
まぁ、それと今から私が話す事は全く関係ないんだけど。
そんな訳で、私はスモーカーにも説明をした。
話を聞いたスモーカーはたしぎちゃん同様に難しそうな表情を浮かべたけど、返ってきた答えは意外な事に前向きだった。
スモーカー曰く、安城さんを私が叩くのは大歓迎なんだとか。というのも、当然安城さんは弱く無いから戦いは苛烈を極めると思われる。つまり漁夫を狙うぞという話だった。
本人である私を目の前にして漁夫狙い発言、知ってはいたけどスモーカーって中々肝が据わっているよね……。
「ま、それで協力してくれるなら別にいいけどね。私が疲労困憊の所を背後から突いてくれても構わない。まずは狂神に勝つ事を考えないと」
「……その話は分かりましたけど、女王、その人がロズワード・シャルリアという話は本当ですか?」
「は?」
シャルリアに視線を向けてそう言ったたしぎちゃんにスモーカーが思わずといった様に声を漏らした。
「こんな事で嘘なんか付かないよ、でもロズワード・シャルリアじゃあないよね、でしょ?シャルリア」
「はい、私は2年前に家名を捨て、現在はただのシャルリアとしてイリス様のお側に置かせて頂いております」
要するに嫁にしたって事!と力強く頷けば、スモーカーは呆れた様に1つため息を吐いた。シャルリアを嫁にするのってそんなにおかしいかな?優しくて美人ってよく考えなくても最高だと思うんだけど。天竜人?そんなのどうだっていいよね、シャルリアはシャルリアだし。
「……じゃあ、シャルリア宮……いえ、シャルリアは麦わらの一味にも加入したのですか?」
「まぁね、私に付き添う形だけど、一応ルフィの船に乗る訳だし」
「てめェらの
「だから狂神と起こすつもりだってば」
「そういう事を言ってるんじゃねェよ!」
ええ……私からすれば、そんな事言われてもって感じなんだけど……。
「そうだ、スモーカーも特訓していく?」
「特訓だと?」
「うん、私も叶もミキータも居るし、相手には困らないよ?」
協力の申請もしたし、シャルリアの事も一応説明はした。ここからはたしぎちゃんとの約束である特訓を始めようかと思うんだけど、スモーカーも居るなら幅が広がりそうだよね。
シャルリアにとっても良い経験になるだろうし、ミキータもスモーカーと模擬戦闘をやってもいいんじゃないだろうか?
スモーカーは断りそうだけど、折角の機会だしなんとか参加して貰えないかなぁ。