「うおおおおーーー!!アーロンパークが落ちたァーーー!!」
「俺たちは自由なんだーー!!!」
「はは、みんな嬉しそうだね」
周りのお祭り騒ぎに、既に瓦礫の山から降りてる私も嬉しくなって頬が緩む。
「イリス…ありがとね、あんたのお陰で村は救われたわ」
「嬉しいけど、私はナミさんが欲しかっただけだから…。それで?もう私のお嫁さんだよね?」
「…もう、分かったからそう何度も嫁嫁って言わないでくれる?」
ぷい、とそっぽを向くナミさん。
私はその言葉で、本当に好きな人を手にする事ができた喜びに胸が高鳴った。
「おーい、お前らー!」
「バカ!ルフィ今は行くなっ!」
ルフィと一緒に一味全員が同じ場所に集まってきた。
「ご、ごめんナミさん、イリスちゃん、俺からこいつには言い聞かせておくから…」
「や、大丈夫だよ、ありがとう。それより仲間になってくれたんだね、サンジ」
「!あぁ、これからよろしく、イリスちゃん」
改めてサンジとも挨拶しておく。
アーロンを倒したこともあってか、最初に会ったときのような子供扱いは無くなっているし、ナミさんと私のことを気遣ったり、中々優しいコックが仲間になってくれたようで嬉しい。
「イリス、お前あんなでっけェ城作れんのか?後でメリー号にも作ってくれよ!」
「沈むわアホ!」
びしー、とウソップの突っ込みが刺さる。そもそもアーロンパークの複製だし、10分後には無くなるけど…。
「そこまでだ貴様らァ!!チッチッチッチッチ!」
「…もうちょい強く蹴っとくべきだったか」
突然、大量の海兵を引き連れてネズミが現れた。
懲りないなァ…と思っていると、本当に懲りないことを言い出した。
「最初はどうなることかと思ったが、今日はツいてる!戦いの一部始終を見せて貰ったが…チチチ、まさか貴様等の様な無名海賊に魚人どもが敗けようとはな」
「それで?何か用なの?」
「チチチ…このアーロンパークに貯えられた金品は全て私の物となる!全員武器を捨てろ!貴様等の手柄、この海軍第16支部大佐ネズミが貰ったァ!!」
「何いってんのこいつ」
冷めた目で見てやるが、ネズミはどこふく風。臆した様子は見られない。
「チチチ、貴様は確かに強いが、アーロンとの戦闘で満身創痍。他の奴らも魚人どもとの戦闘後だ、まともに動けるとは思えん。さぁいけお前ら!瓦礫の中をくまなく捜索しぐほおォ!!?」
「大佐ァ!?」
ルフィの腕が伸びてネズミの顔に綺麗に入った。うわ、あれは痛い。
「とりあえず殴っといた」
「あと千発くらい行っていいよ」
パシ!と戻ってきた腕をぐるぐるするルフィ。一方の大佐は鼻を押さえて狼狽えていた。
…まぁ、普通は消耗してると思うよね、でも残念な事に私以外で魚人に苦戦した人なんて居ないよ。精々ミホークから受けたダメージがハンデになってたゾロくらいじゃないかな。
「ルフィ、急に殴るな!」
「でもそいつナミさんを泣かせた関係者でもあるんだよね」
「てめェゴラァ!!」
「ブヘァ!!?」
サンジの蹴りで更に吹っ飛ぶネズミ。
そこから私達と海兵達との戦闘…というか一方的な蹂躙が始まってしまったのだけど、そのすぐ後には足元に海兵達とネズミが転がっていた。
…まぁ、
「ナミさん」
ボールのようにネズミを蹴って、ナミさんの前に転がす。
「ええ、ありがと」
ナミさんはしゃがんで、ネズミにぼそっと呟いた。
「ノジコを撃った分と…ベルメールさんのみかん畑をぐちゃぐちゃにしてくれた分」
そう言って棍でネズミの顔面を強打して海へ殴り飛ばした。
何とか海から這い上がってこようとするネズミの髭を引っ張りながらナミさんは続ける。
「あんた達はこれから魚人達の片付け!アーロンパークに残った金品には一切関与しないこと!あれは島のお金なの!それと私のお金奪ってるなら返して!」
「がえすっすがえすっす…もうどうでもいいっす…」
ナミさんはその言葉を聞いて手を離した。
ネズミはその隙に遠くへ泳ぎ逃げていく。
「憶えてろこの腐れ海賊ども!!ガキんちょ!名前をイリスと言ったな!お前が船長なんだな!?」
「船長はこっち」
「俺はルフィ」
「はァ!?…ぐ、まぁいい!忘れんなてめェら!凄いことになるぞ!俺を怒らせたんだ、復讐してやる!!」
そういって海兵達と一緒に泳いでいった。
そこ海なんだけど、どこまで泳ぐつもりなんだろうか…。まあいいか、ネズミのことなんて。
「凄い事になるってよ」
「そりゃそうでしょ、何たって未来のハーレム女王だよ」
「いやそういう意味じゃねェよ!」
そうして、完全にこの島は、そしてナミさんは救われた。
この報せは島全体に広がり、すぐにアーロンやその他の魚人達によって潰された村の復興に取り掛かっている。
夜には島をあげた盛大な宴を開き、それは何日も続く。奪われていた自由を噛みしめるように…。
「ナミさんどこ行ったんだろ…」
一方、私は宴中ナミさんとはぐれてしまったので探していた。
「ここかな…ん?」
ベルメールさんの墓へ足を運ぶと、先客が居たようだ。
帽子に風車を付けてるこの人は、確かゲンさん…ゲンゾウさんと言ったか。
「…お前は、イリスだな」
「そ、そうですけど」
この人と話すの緊張するんだよね…、何と言ってもナミさんやお姉さんの父親代わりだから、私の立場からすればちょっと…。
「ハーレムが夢だとか言う女にナミを任せるのは、実を言うと不安もある。…だが、それがナミの幸せなら私も何も言うまい。ただ、これだけは言っておかなければいけない事がある」
ゲンさんが私に視線を合わせるので、更に緊張してきた。
でも今の、認めて貰えたってことでいいの!?
「もし、お前がナミの笑顔を奪う様なことがあったら…私がお前を殺しに行くぞ!」
「…!はい!必ず、一生幸せにしてみせます!」
左胸に掌を当てて決意表明する。
「それでですね、ついでと言っては何ですけど、お姉さん、ノジコさんも私に下さい」
「お前にはナミもノジコもやらーーーんッ!!!」
「うわァーーーーッ!!?」
鬼気迫る表情で襲いかかってくるゲンさんから逃げる。
…でも、お姉さんとも話はついてるんだけどな。
数時間前ーー
宴の中心からは外れた所で、ナミさんと二人でご飯を食べていた。
楽しそうな声が遠巻きに聴こえてくるここは、中々いいスポットだ。
「ねぇイリス、あんたハーレム女王がどうとか言うわりに、あまりナンパとかしないわね、どうして?」
「え?うーん、何でだろ…カヤには私ってあまり強引に行くタイプじゃないって言われたし、それもあるかも」
首を捻って結論を出すと、ナミさんは深々とため息をつく。
「あんたねェ…ハーレム女王が聞いて呆れるわよ。私はともかく、カヤみたいな良い子なんて今後そうは現れないわよ!あんたがもっとガンガン攻めなきゃ、どうやってもその夢は叶わないの!」
「そ、そうは言っても…」
こんな身長でガンガン言っても笑われるだけだと思うんだけど…。
「…ふぅ、ちょっと私の言う通りに行動してみなさい。恥ずかしがらずに、自信を持ってやるのよ」
「え、何か嫌な予感が…」
そう言って私はナミさんにある所へ連れて行かれた。
それはベルメールさんの家で、ナミさんとお姉さんの家でもある所だった。
「いい?イリス」
ーーーーー
「…本当にうまく行くんだろうか」
どうやら中にはお姉さんがいるらしく、ナミさんの言う通りに落としてこいとのことだ。
「あのー」
「んー?誰?…あんたは…えっと…イリス…だよね」
ナミさんの指示で
「そうですよ、急に尋ねてしまってすみません」
「いや、良いんだよ、何せあんたはこの村の英雄、何もない所だけど出来るだけもてなすよ」
「じゃあ、ちょっと失礼」
ぐい、とお姉さんの腰を引き寄せガッチリ抱きしめて離さない。
…本当に行けるんだろうか。
「な、何を…!?」
「お姉さん…いや、ノジコ」
「…っ」
抱き締めた体を少しだけ離して、くい、と顎を持って私と視線を合わせる。顎クイなんて初めてやったよ。何せ戦闘以外で
「初めて見た時から、美しいと思っていた…、私の女になってほしい」
「え…う、ん。…って、違う!あんたにはナミが」
どん、と私を押して離れる。
「ごめんなさいノジコ、諦めて♡」
「な、ナミ!?」
その直後に私の後ろから現れたナミさんに困惑するお姉さん。
何が起きてるのか把握できないようだ。…いや当たり前だけど。
「ノジコ、今うんって言ったでしょ?うん言ったわ、これでイリスのハーレム入りね」
「え!?こんなので!?」
「ちょ、ちょっと待ってナミ…!何が何だか…」
流石にナミさんも突然過ぎたと思ったのか、お姉さんに全て話す事にした。私のハーレム女王の下りは呆れた目で見られたけども、ナミさんの話にはうんうんと頷く。
「そういうことなら、いいよ。私もあんたのハーレムに入れてよ」
「ええっ!?いいのォ!?」
「ほらね?」
びっくりして目玉飛び出るかと思った。
ちょっと話が飛び過ぎて何が何だかさっぱり分からない。
「まず、普段のあんたは確かにちんちくりんだけど今のあんたは見た目も良いし、それで迫られたら大半の女は落ちると思う」
「そうよね、私も初めて見た時は驚いたわ」
「で、でも三分しかこの姿では居られないんだけど…」
「小さいのもそれはそれで可愛いの、あ、ノジコでも正妻は譲れないから」
「取る気ないから…」
いやでも、私ってこの姿になったら本当にモテモテになれるんだなぁ。
……元からこれくらい成長してよ!!
ーーーーー
とまぁ、こんな感じであっさり夢にまた一歩近づいたわけだけど。
でも落とす為に
見た目だけじゃなくて、中身までしっかり愛してもらわないと脆いハーレムしか築くことは出来ない…!そこら辺をしっかりしないとダメだぞ…私!!
ゲンさんに追いかけられながらぐっと拳を握る私。
ハーレム女王の夢はやっぱり遠いなぁ。
そうして、出発の朝はやってきた。
メリー号を置いてある港には村中、いや島中から人が集まってきて私達を、それからナミさんを見送ってくれるようだ。
「じゃね、お姉さん」
「またいつでも寄ってって、次は体でもてなすよ」
そう言って私の頰にキスを落とすお姉さんを見て、ゲンさんが血走った目で私を見てくるので視線を逸らした。怖い。
「よ、ヨサクとジョニーはこの島でお別れなんだね、寂しくなるな」
「あっし達もっす…!またどっかで会える日を楽しみにしてるっす」
「うん、元気でね」
手を振ってメリー号に乗った。
…あれ、ナミさんが居ないな。
「何?あの1億ベリーを置いてくだと!?あれはナミが命を張って…」
「また盗むからいいってさ…」
はぁ、とため息をつきながらゲンさんとお姉さんが話してた。
「バカめ…まだ礼をし足りんのは我々の方だと言うのに…!!」
顔をしかめるゲンさん。ナミさんは本当にみんなから大切にされてるんだな。
「船を出して!!」
「ナミさん!!」
そう思った瞬間にナミさんが遠くの方から走ってくるのが見えた。
とりあえず言われた通りに船を出す準備をする。
えーと、確か帆をはって…。
「止まれナミ!礼くらいゆっくり言わせてくれ!!…あ、あいつら船を出しやがった!君らにもまだ改めて礼を…!」
そうしてる間にもナミさんは人混みを掻き分け、そして何故か真っ直ぐ走ってくることなくくねくねと人と人の間をわざわざ入ったりして走り抜けてきた。
そうして動き出したメリー号に飛び乗り、にこやかに笑う。
「…へへ、大量だね、ナミさん」
「ふふ、でしょ?」
ナミさんは走り抜ける際に盗った財布を見せつけるように落として、笑った。
「みんな元気でね♡」
「……や」
「やりやがったあのガキャーーーーーッ!!!」
「この泥棒ネコがァーー!」
「戻ってこぉい!」
「財布返せェ!」
「ふふっ」
「いつでも帰ってこいコラァ!」
「元気でやれよ!」
「お前ら感謝してるぞォ!」
「小娘!約束を忘れるな!!!」
ナミさんやみんなへの感謝の気持ちに混じって、ゲンさんが私に対して放った言葉に親指を立ててサムズアップで返した。
当然、ハーレム女王の正妻なんだ。幸せになってもらわないと私が困るんだから!
「じゃあねみんな!!行って来る!!」
そう言ったナミさんの笑顔は、本当に心の底から笑っているのが分かるくらい綺麗な笑顔だった。
…そして、この日の夜。
私達2人にとって、決して忘れる事のない夜が始まろうとしていたーーーー。
次回投稿は1日後です。