「おお、本当に建造物がある〜!」
「キャハっ、ちょっとはしゃいでるイリスちゃんも可愛いわ!」
読み通り大した苦労も無く到着した私達の前に聳えるのは、どう見ても人の手が入っている大門や物見櫓。
その門に『MOKOMO DUKEDOM』と文字が彫られている事から、きっとここがゾウの背中で栄える国の正門なんだろう。
「文字は何て読むのかな…えーっと、もこも……どっけどむ!」
『そんな訳ないじゃん。もこもだうくどむでしょ!』
「だうくどむ?ふっ、“だ”ならでぃーとえーにならなきゃおかしいでしょ?つまりどっけどむ!」
『その考えじゃあづけどむになるよ?もこもづけどむ?』
「それだ!“もこもづけどむ”だ!ふふ、流石王華、やるね!ねえシャルリア、合ってるでしょ?」
「……はい!素晴らしいです、イリス様」
「いやいや、何も素晴らしくないですから!!」
私達の完璧な解答に叶は不満を抱いているらしい。そもそもこれはどう見たってもこもづけどむだし……あ、あれか、叶からしてみればこの程度は読めて当たり前だから、づけどむって気付くなんて普通だよって事か!
「はぁ……いいですか?あれはづけどむでもどっけどむでもなく、『デュークダム』と読むんです」
「はぇ?でゅ?……え?」
なんで!?だってでぃーおーえむだよ!?どむじゃん!!でぃーえーえむじゃないじゃん!!
中で王華も同じ様に混乱しているみたいで、なんで?なんで?と回らない頭を回して考えている。
「“
「聞いた事はある!」
『同じく!』
「そちらは王が治る国なのに対して、今回の『デュークダム』は公国、つまり貴族が治る国なんですよ」
「貴族が……」
うーん、正直、現代日本人の価値観から言えば“貴族”という言葉に関わりが薄いせいでイマイチピンと来ない所はあるよね。デュークダムとか言われてもよく分かんないし、ダムって言うと水を貯めるアレしか頭に浮かばないし。
ていうかキングダムって王国って意味だったんだ……。なんか凄い煌びやかで王様っぽいダムの事かと思ってた……。
「なんか良く分かんないけど、公国って無断で入るのはまずいかな?」
「気にしなくても大丈夫でしょう。元より王華達は海賊ですし、不法入国を気にする立場でもない筈では?すでに指名手配されている身なんですから」
た、確かに。
今更どうこう気にする事でもないというのはその通りだし、勝手に入るとしよう。ていうか、不法入国は今更だった。
そうと決まれば早速ナミさん達を探すとしよう。
「よっ、と〜!」
せっかく物見櫓があるんだからと大きく跳躍して櫓の上に飛び乗る。そうして前を向き、門の向こう側に広がる景色を視界に納めて感嘆の息を漏らした。
すごい……本当にゾウの背中に島がある……!
森があって、町があって、川も流れてて……!
本当に生き物の背の上なのかと疑ってしまう程の光景についつい目を奪われ、もっと良く見てみたいと視力倍加を使用して国の建築物へと視線を向けた。
「欲を言えば美女も居て欲しい所だけど……、……ん?」
視力倍加を使用した事で遠目では見えなかった部分も良く見えるようになり、そのお陰、と言っていいのかは分からないけれど無視できない光景が視界に映った。
この国はローの話を聞く限りでは栄えてるとの事だったけど、今私の目に映っているのは……酷く破壊された、既に滅んだ後の国の姿。
人影すら無さそうだけど、視力倍加を使ってるとはいえ近くに行ってみない事には詳しい事が分からない。それに、もし仮にこの破壊が最近のモノだとしたらナミさん達が心配だ。勿論シーザーの事は心配してない。
とりあえず櫓から飛び降りて門の前に着地する。この門の近くにはこじ開けられた鉄製の扉が転がっているから、やっぱり何者かがこの国を襲撃した可能性は高い。
「それに、破壊の跡もまだ新しいし……叶」
「なんですか?」
「叶はこの先の出来事とか知ってるんだよね?」
「はい。……原作通りなら、ですが」
ドレスローザでも原作とは違った出来事が幾つか起きていたみたいだから、原作知識は参考にするまでで留めておいた方が良いと叶は言う。
「じゃあ参考までに。この破壊の跡ってつい最近のものだよね?ナミさん達は無事なの?」
「ローの仲間とナミやサンジ達は共に居ますし、その仲間のビブルカードは無事でしたので恐らくは」
「…うん、分かった、ありがとう」
油断は出来ない状況だけど、一先ずナミさん達は無事である可能性が高いって事は分かった。ならもう私から言う事は何も無い、しっかり周りを警戒してナミさん達を探そう!
という訳で、みんなを近くに集めてゆっくりと進行を開始した。別にロー達を待っても良かったけど、今はナミさん達が優先だし!
一見獣道に見える、元は整備されていたであろう破壊の限りを尽くされた道を進んでいく。足場がゾウの背中だからぶにぶにと歩きづらいし……しっかり気を張っておかないと不意な戦闘で足を取られましたじゃあ笑い話にもならない。
「イリス様、微かにですが火薬とガスの匂いが漂っています。何らかの科学兵器が使用されたのかもしれません」
「……ほんとだ」
嗅覚倍加を使用すれば私にも感じ取る事が出来た。というかシャルリアって経験が浅いだけで色々とハイスペックなんじゃないだろうかと最近思い始めてきたんだけど。
それにこの匂い、頂上戦争の時と似てる。という事はやっぱり戦争が起きたんだろうね、しかもつい最近に。
でも、こんな事言うのは良くないんだろうけど……死体が1つも無いのはどうしてだろう。これ程の破壊の跡なんだから、誰と誰が争っていたのかは知らないけど双方共に甚大な被害が出た筈。
町の方に行けば何か分かるのかも知れないけど……。
「!」
「……?イリス様、どうかされましたか?」
私の見聞色に何者かの気配が引っかかる。その気配はジッと私達の様子を伺っていて……っ、来た!!
「キャハっ、ここは私に任せて!」
気配の主が突っ込んでくるのに合わせてミキータが前へと躍り出た。
襲撃者の速度はかなりの物で、素の状態の私では動きを捉える事が難しいレベルだ。だけどそんな相手にもミキータは臆した様子も無く、冷静に相手の動きを見極めてギリギリまで引きつけ、飛びかかって来た瞬間にその足から“嵐”を発現させた。
瞬間的にとてつもない加速度を得たミキータの脚が襲撃者の胴体目掛けて横薙ぎに払われる。相手は飛びかかって来た事もあって当然空中に居るから避ける事も出来ない……筈だったのだけど。
「っな…!?」
ミキータの蹴り薙ぎ払いが襲撃者を捉える直前、空中で更に体を浮かせて背後へと回り攻撃を避けてきた。月歩でもなく、自然にふわりと浮かび上がった様に見えたけど……能力者?
ていうかちょっと待って!その襲撃者ウサ耳あるんだけど!!良く見たら外見ウサギっぽいんだけど!!!可愛い〜〜っ!!
なんてはしゃいでる間にも攻防は続いていて、予想外の動きに一瞬戸惑ったミキータだったけど、すぐに右手のグローブから風を噴射させてくるりと方向転換し再度蹴りを放つ。
それを迎え撃つ様にウサギっ娘も獣手のグローブを突き出して──。
「『プロテクション』」
バチィンッ!!
「えっ、電気!?」
丁度ミキータの脚とウサギっ娘のグローブがぶつかる瞬間に、両者の攻撃を拒む様に叶が『プロテクション』を張った。
ミキータは瞬時に上手く風を調節して寸止めしたけど、ウサギっ娘の反応が少しだけ遅れて『プロテクション』へと直撃し電撃の火花を散らす。
「…キャハっ、ありがとうカナエ、痺れる所だったわ」
「気にしないで下さい、それよりも……あの人がローの言っていたミンク族です。生まれながらにして戦獣民族、弱者は1人も居らず、赤子から老人まで皆護身術の心得がある者達。特に彼らミンクの種族特有である『エレクトロ』や『空中浮遊』などには気を付けて……と言っても、敵対する事は無いと思いますが」
「ふぅん?」
敵対する事は無い、か。それは良い情報だよね、私もこんな可愛いウサギっ娘と事を構えたくないし。
「ゆティア達はレッサーミンクだよね!?門の前に居た筈のバリエテをどうしたの!?」
「ゆティア?えっと……ごめんね、そもそもバリエテって何?」
敵対しないといいつつも何だか敵対しそうな雰囲気だよね、これ……。
チラリと叶を見れば、『バリエテ……?』と首を傾げている。
『バリエテはちっちゃな猿のミンク族だよ。ルフィ達が登ってる時に上から落ちてくるんだけど、何で落ちて来たのかは不明なんだよね……』
ああ、じゃあ私達とはすれ違って会わなかったって事?
『そういう事。バリエテは侍組を巻き込んで下に落ちてくから、錦えもん達よりルフィ達の方が先にここへ来るからね』
……く、詳しい。流石はONE PIECE好きだと言うだけはある。叶がバリエテを知らなかったのもただマイナーキャラだったからってだけだろう。名前は分かんないけどどんな見た目かは分かる、とか。
「えっと、私達ここに来るまで誰とも会ってないんだけど、逆にこっちから質問していい?私の嫁と仲間がここに来てる筈なんだけど知らないかな、ナミさん、ペローナちゃんって名前なんだけど」
「!それって……!もしかしてゆティア達、麦わらの一味!?」
おお、良く分かんないけど話が早くて助かるよ!
私は頷いて肯定し、完全に警戒を解いて無防備に相手へ近付いた。これでこのウサギっ娘も少しは私達を信用してくれるだろう。
「私はイリス、そしてこっちに居るのがミキータ、ロビン、シャルリア、叶だよ」
みんなも一言ずつ自己紹介をし、最後にウサギっ娘の名前を聞いてみた。
もう少し警戒されるのかと思ってたけど、私達が麦わらの一味だと知ってからは寧ろ友好的な態度を取っている。ナミさん達が彼女と知り合いになってくれてるのかな?
あと、ウサギっ娘はキャロットと言うらしい。ボソッと嫁にしたいなぁって呟いたら叶に呆れた視線を向けられてしまった。
いやでもね、可愛いじゃん、キャロット。……よし、嫁にしよう!