ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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208『女好き、禁句の言葉』

サンジが手紙を残して1人ビッグマムの所に行ってしまった。

それを聞いた私達は眉を寄せて頭を捻る。

ナミさんが言うには、何やらサンジの様子がおかしかったらしいのだけど……。

 

「積もる話もあるだろうが、ゆティア達は私達の恩人だ。宴の場も用意しているので着いて来てくれないか」

 

「宴!?肉はあるか!?」

「酒は?」

「静かで雰囲気のいい暗い部屋はねェのか」

 

宴と聞けばルフィ達が黙っている筈もなく、対照的にうんざりとした感じのペローナちゃんも内心ではどうせ私達とまた会えてほっとしているのだろう。だってペローナちゃんだし、ほんと可愛い。

 

案内されたのは奥にある他の建物より大きい家で、まぁ家といっても巨大な木の枝からぶら下げられたパイナップル状の形をしているので、果たしてこれを家と呼んでもいいものかは甚だ疑問ではあるけどね。

そこへと案内された私達の目に飛び込んできたのは、ワンダが言っていた通り準備が既にされていた宴の場だった。

何の肉かは分からないけれど、船長が肉好きだという話を聞いたのか大きなテーブルの上には肉がメインで置かれている。お酒類も樽丸ごと部屋の隅に何個も置かれている様でそれを見たゾロが嬉しそうに軽く上唇を舐めていた。

 

「あ、そういえばロー、ベポがくじらの森で待ってるって言ってたよ」

 

「そうか、なら俺はまずそこへ向かう。落合場所は決めておくか?」

 

「別にいいんじゃない?探せば良いんだし」

 

私達の行動範囲もそんなに広くないし、ローの行き先も分かってるんだからそこまで気にする事もないだろう。

最悪分からなくなれば探すしね、女王化使って。

そんな訳で、宴には参加せずに去っていったローを見送って私達はそれぞれ美味しそうな食材が置かれたテーブルの前に座った。

 

「イリスー!ガルチュー!」

 

「!!?」

 

私の隣に腰掛けたキャロットがいきなり頬擦りをぶちかましてきた。

ガル、ガルチュー?なにそれ!?

 

「多少の文化の違いは大目に見てくれ、ミンクシップは友好の証なのだ」

 

固まっている私を見て緊張か不快感を覚えていると勘違いしたのかワンダがそうフォローに回った。

ほほう、友好の証とな……?

 

ちらりと視線を周りに向け、この場に居るミンク族を瞬時に把握して歓喜した。だって、凄く可愛い子が沢山居るんだもん!!ミンクシップは友好の証なんでしょ?どこまでが許されるの?キスは大丈夫なの!!?

 

「大体何を考えているのかは分かったが、お前はいつも文化に関係なく迫ってくるじゃねェか」

 

「のんのん、合法だと言うのがまた良いんだよペローナちゃん。非合法のスリルを味わうのも一興だけど、許された範囲で事を始めるのも堪らないんだよ!!ガッルチュー!!」

 

「わっ!」

 

思いっきりキャロットを抱き締めて頬をすりすりしてみる。さらさらとした動物の毛が肌に擦れて気持ちいい。どさくさに紛れてぽよんも触っておこ。犯罪?ハッ、私は既に犯罪者だもんね!!

普段よりもテンションが上がっている事を自覚しながら立ち上がり、可愛いミンク族の人に狙いを定めてガルチュー爆撃を開始した。

 

「あーーーっ!!み、み、皆さ〜〜〜ん!!!」

 

「ガールチュー!!……ん?あ、ブルック?」

 

キツネのミンクかな?少し尖った耳にふわっとしてる尻尾の娘が可愛すぎてガルチュってたら勢いよく家の扉が開かれてブルックが入ってきた。

 

「新聞読みましたよォ!無事で何よりです!」

 

「そっちも元気そうで何より……って言いたい所だけど、何かあった?」

 

私達の無事を喜んでくれてる割にはブルックの方がボロボロになっていて、骨の部分に欠けなどは見当たらないけど身につけているコートの裾や袖、ズボンなどが何かに齧られた様に傷だらけだった。

 

「これは色々とありまして…!それよりも皆さん、サンジさんの件本当に申し訳ない!合わせる顔がありません……!!元々顔面無いんですけど!」

 

「それにモモの助も居なくない?一緒じゃなかったの?」

 

「あ!ちょ、ちょっと静かに!ゾウ新入りの皆さん、こちらへ!」

 

モモの助の名前を出した途端に慌て出したブルックに呼ばれてキツネちゃんから渋々離れ集合する。ナミさんとペローナちゃんも私の近くに来て、家の隅の方で丸く固まって円陣を組むみたいになってるけど、逆に目立つよねコレ。

 

「今錦えもんさんはどこに…!?」

 

「もうじき着く筈なんだけどな」

 

「──ちょっとこの国では、“侍”…ワノ国という言葉は極力控えて下さい。出来れば、言わないで。多くの人々を傷付け、“恨み”“怒り”を買うかもしれません」

 

「……どういうこと?」

 

「……」

 

要領を得ないブルックの話に自然と眉間に皺を寄せる私達だけど、ただ1人、叶だけはいつもと変わらない自然体だった。つまり今はまだ原作の流れ通りという事だよね。

 

「叶、何か知ってる?」

 

「ちょっと待ってイリス、カナエって、その娘が?」

 

ああ、そういえばドレスローザ組は色んな所で叶と共闘したりして面識あったけど、ゾウ先行組は今が初対面だっけ。

 

「初めまして、叶です。縁あって麦わらの一味の傘下となりまして、今はこうして行動を共にさせて貰っています」

 

「と言う事はイリスの事情も分かっているって事?」

 

「はい」

 

「てことは船に四異界2人乗るって事じゃねェか、流石に海軍が黙って無さそうだな」

 

「その時は黙らせるから大丈夫!」

 

そう言う事じゃねェだろ、とでも言いたげなペローナちゃんの視線をにっこりと笑顔で受け止めて今度はシャルリアへと視線を向けた。

 

「彼女はシャルリア、2年前にシャボンディのオークションに居た綺麗な天竜人の女性を覚えてる?あの人がシャルリアね」

 

「へぇ、ドレスローザに居たの?あんた、ちゃんと嫁には出来たんでしょうねぇ?」

 

「勿論!」

 

「……オイ、嫁にしたっつってもそいつは天竜人……はァ、考えるだけ無駄だな」

 

今までの人の反応と違ってナミさんとペローナちゃんはシャルリアを嫁にした事をどうこう言うつもりは無いみたいだ。流石私の可愛くて美しい嫁!!

 

「さっきの質問に対する答えですけど、色々と知っていますよ。例えば、『侍はこの地において禁句』、これがただの勘違いという事とか」

 

「ええ!?で、ですがミンク族の方々は……!!」

 

叶の言葉にブルックが少し声を荒らげた。ナミさんとペローナちゃんもブルックの懸念を肯定する様に軽く頷いている。

 

「まず事情を知らないイリス達にも分かりやすく説明しますが、ここ『ゾウ』は15日程前に襲撃を受けています。丁度私達がドレスローザでドフラミンゴ達と戦っていた頃ですね」

 

それならば私達も既知の情報だ。襲撃者はジャックという男だと言う事も、そいつの死亡記事が出たって事も。

 

「襲撃者は“旱害のジャック”、四皇の1人であるカイドウの配下です」

 

「え!?そうなのか!?」

 

「はい。ジャック率いる軍勢と戦獣民族と呼ばれるミンク族の戦いは互いに決定打を与える事が出来ないまま5日が過ぎました。普通5日も攻め続けて押し切る事が出来なければ、侵略者は体勢を立て直す為に一度引くのが定石です。地力勝負になればホームであるミンク族の方が圧倒的に有利ですからね」

 

「つまり、ジャック側には引けない理由と、引かなくてもいい切り札があったって事だね」

 

「その通りです。ジャックの目的は錦えもんの仲間である『雷ぞう』なので、雷ぞうを捕獲するまではのこのこ帰れなかったのでしょう。イリスも見ましたよね、町にあった磔台などの拷問具を。あれらで『雷ぞう』の居場所を吐かせようとしていたんです。長く続く戦は一進一退の激しい攻防を繰り広げましたが、ジャック側が生物兵器という切り札を切った事で状況は一変しました」

 

叶曰く、その兵器の名は『KORO』と言ってシーザーのばかちんが生み出したかなり危険な毒ガスらしい。その威力、効果は絶大で、ずっと互角にジャック達と争っていたミンク族を一気に壊滅まで追い込んだ程だと。

今この地にその毒ガスの残滓すら残っていない理由は、発明者であるシーザーが『KORO』に対する中和剤、『ROKO』を使用したから。

もしナミさん達がこの地に辿り着くのがほんの少しでも遅れていれば、それだけでこの国の全員は為す術なく毒ガスの猛威によって生を奪われていた。ほんと、シーザーってロクでもないね。

 

「でもナミさん達が無事で良かった、ビッグマムの船に襲われてたんでしょ?」

 

「ええ、まぁこっちにはサンジ君も居たし、相手がペローナの能力を理解してなかったからそれ程撒くのに苦労はしなかったわね」

 

「それでも凄いよ、やっぱり私の嫁は最高だよね!そうは思わない?ウソップ」

 

「なんでおれに振るんだよ!それ肯定するまで同じ問いかけする気だろ!!」

 

こそこそ話してた筈が既に騒ぎになりつつあり、ワンダを始めとするミンク族の面々も首を傾げて私達を見ている。

と、そこへ1人のミンク族が慌てて家に飛び込んで来た。

 

「みんなー!公爵様がお目覚めになられたよ!!」

 

「えっ!?本当か!?」

「良かった…っ!このまま目覚めないかと……!!」

 

公爵様か。つまりこの国の王でしょ?私達も挨拶くらいはしておいた方が良いかも。

 

「ワンダ!イヌアラシ公爵がぜひ恩人達にお会いしたいと…!」

 

「あァ…!すぐに!」

 

お、丁度いいね。

なんというか私達って行く先々でトップの人と顔を合わせてる気がするなぁ……。ルフィの持ってるコネって良く考えなくてもとんでもない事になってそう。

 

公爵様が目を覚ましたという事で、私達よりも先に慌ててチョッパーが現地の医者を引き連れ目的地へと向かって行ったのを見送り、私も食べ損ねていた料理を幾らか拝借して移動を開始する。

『右腹の砦』と言うらしいこの場所は、巨大な木の中をくり抜いて洞窟の様な道を作っているらしく、その枝一本一本が別の場所へ辿り着くための道となっていて知らない私達からすればまるで迷路の様だった。

今はイヌアラシ公爵の療養所へと繋がる枝の中を歩いており、道中でワンダがジャックにより齎された災害を語る。

 

叶から聞いた内容と照らし合わせれば、此度のミンク族が襲われた悲劇の大筋も見えて来た。このお肉美味しい。

まず、ジャックがゾウを襲った理由だけど、これは“雷ぞう”という1人の侍──というか忍者を求めての暴挙であった。ワンダは『居ない者を出せと言われてもどうする事も出来ない』と語り、三日三晩続いた拷問の日々を顔を伏せて語る。……なんというか、ブルックが侍は禁句と言った理由が良く分かる話だった。侍が原因で無慈悲にも襲われ、あわや国が滅びかけたのだから私達が侍と知り合いだと言えば敵対する事になるかもしれない。

こんなのどう聞いても『侍が禁句なのは勘違い』とは思えず、私はどう言うこと?という懐疑的な視線を隠さず叶をジトっと半目で睨んだ。

 

「……はぁ、まぁ、見てて下さい」

 

そう言うと叶はワンダの隣まで歩いて行き、まるでそれも世間話の1つだと言わんばかりの気安さで話しかけた。

 

「ワンダ、侍なら私達と一緒に此処へ来てますよ、『雷ぞう』を迎えに来たそうです」

 

「え?」

 

「お、おいおいお前!何言ってんだ!」

 

ウソップが顔面蒼白で挽回しようとしてるけど、流石に今の流れから誤魔化す事は出来そうもない。

もうこうなったら叶をとことんまで信用するしかないだろうから、私も腹を括るとしよう。叶ぇ……これでもし原作知識が外れてたら怒るからねぇ……!!

 

 

ちなみに私が宴の場から拝借してきた肉はいつの間にか手元から消えていました。ルフィの頰がもぐもぐ動いているから、後でちょっとしばく。


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