ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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209『女好き、モコモ公国の公爵様』

「……雷ぞう?知らんな、さっきも話した通り、私達はその人物に心当たりはない」

 

「証明ならばこの国の正門にでも行けばすぐ分かりますよ」

 

ワンダの震える声と叶の変わらない声が交差し、その後ろで固唾を呑んで見守ってる私達は内心ドッキドキであった。…いや、ルフィは気にしてないっぽい!たんこぶはあるけど。なんでだろねぇ(棒)

 

「こう見えても私、結構な情報通でして。あなた達ミンク族が光月家と深い関わりを持っている事も既に承知の上です。更にはイヌアラシ公爵だけではなく、この国には『夜の王』として“ネコマムシの旦那”というもう1人の王が居る事も知っています」

 

「!……確か、カナエと言ったか?」

 

「え!?ちょ……!」

 

()()()とか、また面白い言い回しをしてるなぁって思ってたらいきなりワンダが剣を抜いて叶の顔前に剣先を突きつけた。その瞳には敵意こそ“まだ”無いものの、明らかに私達に対する警戒心が多く宿っている。

 

「どこでその情報を手に入れた?ネコマムシの旦那はともかく、私達と“光月家”の繋がりは関係者以外知る筈が無い事だ……!詳しい事は私にも分からないソレを、どうしてゆティアが知っている……?」

 

「……ごめんなさい、私がその事を知っている理由は置いておいてくれると有難いです。ただ、嘘は言っていません、侍は私達と共にこの地へ雷ぞうを迎えに来ています。…そうですね、10秒だけ時間をくれませんか?」

 

「……良いだろう、ゆティア達にはこの国を救って頂いた恩がある、その少ない時間で私を納得させる材料を揃える事が出来るのなら、待とう」

 

「ありがとうございます。では──『テレポート』」

 

シュン、と叶の姿が私達の目の前から掻き消えて、ワンダは目を見開いてきょろきょろと首を動かし、やがて諦めた様に構えていた剣を鞘に納めた。

 

「はぁ……恩人を相手にこの様な態度を取ってしまって申し訳ない、私達にとってデリケートな話なんだ、色々確認は取る必要があるのでな」

 

「はは……なんかごめん」

 

恐らく叶はテレポートで錦えもんとカン十郎を連れて来るつもりなんだろうけど、察する事が出来る私達と叶の能力を全く知らないワンダとでは目の前で起きた出来事に対する脳内処理に大きく差が出た筈。

恩人の仲間だけど知る筈も無い情報を知っていて疑わざるを得ない相手が、自分の常識を覆す力を目の前で使ってみせたのだ。最悪のパターンとして私達と争う事まで考えていたに違いないワンダにとってはもはやため息を吐くしか無いという訳で……うん、素直に同情してしまうよね、これは。

 

「──お待たせしました」

 

と、宣言通り10秒程度で帰ってきた叶の隣にはやっぱりと言うべきか錦えもんとカン十郎、あとなんかオマケにちっちゃな猿のミンクも付いてきていた。

 

「カナエ殿、どうもかたじけない!さァカン十郎!雷ぞうを探そうぞっ!!」

 

「うむ、まずは基本の聞き込みからでござるな!!」

 

「あわわわわ、た、大変でごサル!侍でごサル……!!」

 

「……は?」

 

流石のワンダもこの展開は予想していなかったのか、彼女らしからぬ呆然とした表情で口をあんぐりと開けさせている。

そりゃあ、まさか本当に10秒かからずに自分を納得させられる材料を揃えられるとは思っていなかっただろうし、仕方ないだろう。

 

「おォ、ルフィ殿達も一緒でござったか!む?モモの助はどこでござるか?」

 

「モモの助なら体調が優れないからってゾウに着いた時からさっきの右腹の砦にある建物に籠りっきりよ。親なら様子くらい見てきてあげたら?」

 

「重ねてかたじけない!カン十郎、雷ぞうを頼んだでござる!」

 

「相分かった!必ずや雷ぞうを探し出してみせるでごさるよ、安心せい!」

 

そう言う訳で、錦えもんは案内役のブルックと共に私達が来た道を引き返して右腹の砦へと向かって行った。

 

「……紹介する間も無かったですけど、さっきの彼が錦えもん、そしてこの人が黒……じゃなくて、カン十郎です。見ての通り侍ですけど、まだ信用出来ませんか?」

 

「…いや、正しくそティア達は侍に違いない。バリエテ、まだ鐘を鳴らす必要は無い、少しだけ待って欲しい」

 

「わ、分かったでごサル……」

 

猿のミンクはバリエテと言うらしい。ワンダの発言からして門番役を務めていたのかな?その小さい体躯を活かして忍者みたいに隠密行動とかしたり?

 

「ゆティアがそこまでの誠意を見せてくれた所すまないが、私個人の裁量で判断は出来んのだ。このまま当初の予定通りイヌアラシ公爵様の療養所まで来てもらおう。公爵様ならば侍の見た目も私以上に詳しいのでな」

 

「錦えもんはともかく、カン十郎が行っても侍には見えなくない?私なら初見であなたを侍とは見抜けないけどね。なんか歌舞伎役者みたいな見た目してるし」

 

「その点に関しては心配ありません。この黒炭……おっと失礼。カン十郎とイヌアラシ公爵は旧知の仲、一目見ればそれだけで済む事です」

 

「カナエ…それは私も知らない情報なのだが…一体ゆティアは何なんだ……」

 

はぁ、と大きく諦めた様にため息を吐くワンダ。

ていうか、今叶がカン十郎の事を『黒炭』って言った瞬間からカン十郎の叶を見る目が怖いんだよね……。カン十郎は上手く隠してるつもりなんだろうけど、見聞色も高いレベルでマスターしてる私から言わせてみればその程度の視線の隠蔽は効果を成さない。

さっきから叶もわざとカン十郎を刺激してる様な感じだしなぁ…。

 

「なんか色々な思惑が交差してるって感じで疲れる……ナミさ〜ん…」

 

「はいはい」

 

仕方ないわね、って感じに差し出されたナミさんの腕にしがみつく様にして歩く。ああ、良い匂い…!くんかくんか。

 

やがて私達はトンネル枝の中を抜け、別の木へと繋がる橋までやって来た。その橋の向こうにはドーム状の少し大きめな建物がどんと建っていて、ワンダがそれを指差してあれが療養所だと教えてくれた。

 

「ギャァ〜〜ッ!」

「申し訳ないシシリアン様ァ〜〜!!」

 

「ん?何?」

 

療養所だと言うのに何やら騒がしく、様子を見てみれば1人のミンクが複数のミンクを木の下へと叩き落としている所だった。……うん、全く状況は分かんないけど、落とされたミンク達は痛がってはいるものの大きな怪我とかは無さそうだね、良かった良かった。

 

「シシリアン殿、何事です?」

 

「おォ、ワンダか……!」

 

全員を叩き落として息を荒げているミンク族へとワンダが駆け寄る。彼の名前はシシリアンというらしいし、立派なたてがみやその口から生えている鋭い牙などの見た目からしてライオンのミンクと予想してみた。ていうかまず間違いないでしょ?

 

「あガラ達が甘い事ばかり言うのでな、千尋の谷へ叩き落としてやった所だ!!優しさ・愛・恋・赤子・砂糖・ハチミツ!わしの前で塩気のない話を二度とするな!喉笛を食い千切るぞ!さァ、自力でここまで上がって来い!!」

 

私の夢を語ったら死んでしまいそうなミンクだなぁ…。とりあえずライオンなのは正解だったみたい。

 

「シシリアン殿、ゆティア達が麦わらの一味です」

 

「!!」

 

バッ!と勢いよく振り向いたかと思うと、勢いはそのままに私達の前まで跳躍して土下座をかまして来た。

こ、これは、生ジャンピング土下座……!!なんていうかこのシシリアンってミンク、一瞬一瞬を常に全力で生きてるって感じである意味カックイイね。

 

「この度は国を救っていただきありがとう!!この恩は一生忘れない!公爵が中でお待ちだ!!さァ中へ、グズグズするな!」

 

「はーい」

 

シシリアンが療養所の扉を開けてくれたので中へ入れば、そこにはチョッパーとゾウの国の医師、そしてベッドの上で上体を起こして湯呑みを啜っている貫禄溢れた大きな犬のミンクが居た。

身体中包帯だし、布団を被っていて今は見えないけどどうやら左足を失ってしまっている様だった。

四肢の欠損って、それはもう拷問というよりただ痛め付けているだけじゃないの……?

 

「ああ…公爵様、よくぞご無事で…っ」

 

ワンダが感極まってその巨体に抱きついている。この国の王は随分と民に慕われているみたいだ。普通、王様なら今のワンダみたいなスキンシップは取れない筈だし、心が広いというか大らかな人柄…ミンク柄?なのだろう。

 

「ゆガラ達が…“麦わらの一味”かね。何から何まで救われてしまったな、本当にありがとう」

 

「はは、私達は何もしてないけどね」

 

「いや、ゆガラ達にもさ、“女王イリス”君、“麦わらのルフィ”君」

 

あれ、私まだ名乗ってないよね?

さっき目覚めたのなら私達の名前を聞く余裕も無かったと思うけど、チョッパーが現状の説明ついでに名乗ったとかかな。

 

「おォ、イヌアラシか!久しいな!」

 

「ぬ?……なっ!?ゆガラ、カン十郎殿か!?」

 

しかもこの2人は知り合いらしく、カン十郎を見たイヌアラシはその鋭い眼を限界まで開けて驚いている。

この時点で叶の言っていた『勘違い』の証明にもなるけど、ぶっちゃけ部外者である私からすれば何がなんやらさっぱりだ。隣では叶が「名シーンが1つ無くなってしまいましたが、仕方ないですね…」ってちょっと落ち込んでる様子。

 

ところで、名シーンって?

 

『ああ、多分、“雷ぞう殿はご無事です”じゃないかな。あれだけの拷問や毒で国が滅びかけたにも関わらず、ミンク族は誰1人として“雷ぞう”の居場所を吐かなかった。で、錦えもん達がここに来た時に国中のミンク族が錦えもんとカン十郎の前に姿を見せて言ったセリフがそれって訳』

 

「へぇ…」

 

それはなんというか、知らないルフィ達はさぞ驚いただろう。この世界においては叶が居たからこうして真相を早くに知る事が叶ったけど、まさか国が滅びかけてまで守り通そうとしていたなんて思わないよね、普通。

 

「彼だけじゃなくて、錦えもんとモモの助も来てるよ。その2人とも知り合い?」

 

「いや、知り合いではない、いわば同志達だ」

 

侍組、一国の王に同志とか呼ばれてるけど。ぶっちゃけあんまり気にしてなかったけど、錦えもん達って実は偉い立場なのかな?初めて2人を見た時に直感で感じた2人は親子には見えないって私の勘も、もしかしたら結構的を得ていて今回の話に繋がってきたりして。

よし、もし私の勘が当たってたらナミさんにちゅーしよう。そんで当たってなかったらちゅーしよう。どっちに転んでもちゅーだ!!ヨシ!!

 

 

 


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