ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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211『女好き、ビッグ・マムのお茶会』

「…ていうか、その話を聞く限りだとサンジは連れて行かれないんじゃ?」

 

その後も諦めずにぽんぽん飛んできた特ホロを、千切っては投げ千切っては投げを繰り返し、未だ図星を突かれて顔を赤くしているペローナちゃんを抱き締める事で大人しくしてもらった。

私の方が身長低いから今みたいに膝立ちしないと胸の中に迎えられないけど、抱き締められる事の方が多い私からすれば今はかなり至福の時である。それに……私の腕の中で頰を染め、上目遣いで睨んでくるペローナちゃんをなんていうか知ってる?私は知ってる、これ、天使ってやつだ、間違いない。

 

「ペコムズは確かに私達への敵意を無くしました。それに今もまだこの地に、更に言えば今向かっている“くじらの森”にて療養中です」

 

「療養中?」

 

「ペコムズの他にもう1人…カポネ・ギャングベッジが居たって言っただろ、そいつがビッグ・マムの命令に背いたペコムズを処分しようとしたんだ」

 

ちょっと待って、そこで喋るとちょっとくすぐったいよペローナちゃん!今は離してあげないけど!

 

「油断していたペコムズを背後から襲ったベッジは、その勢いでおれ達を()()したんだ」

 

「包囲?ペコムズが倒れたのなら、もうベッジしか居なくなるよね?」

 

「ベッジも、当然の様に悪魔の実の能力者だったのです。これはベッジが自分で言っていた事ですが、彼の能力は『シロシロの実』の城人間、私達が見た限りだと彼は自分の体を“要塞化”出来る上、その体内は正しく城の様になっていて人を何百人も収容出来るみたいでした。斯くいう私達も相手を悪戯に刺激する訳にもいかなかったので招待されるがまま彼の体内にお邪魔しました」

 

シーザーは海楼石入りの槍であっさり無力化されたそうで、チョッパーやブルック、そしてサンジもベッジの体内から現れた沢山の人間に銃口を突きつけられ、倒れたペコムズにも矛先が向きそうだったから従うしかなかったそうだ。

因みに、ベッジは後先考える事が出来るタイプらしく、ナミさんやペローナちゃんには一切の手出しをしなかったみたい。だけど2人ともベッジ城に招待はされたのでサンジ達と共に中へ入ったようだ。まぁ、サンジ達と別れる方が危険だろうし、その判断は間違っていないだろう。

 

で、そこでベッジからサンジにとある『招待状』が渡される事になる。それこそが今回サンジが居なくなった理由にも繋がるとか。

それは、ビッグ・マムの開く「お茶会」の招待状。だけどそのパーティーのメインイベントは()()()

 

「新郎は“ヴィンスモーク家の三男”サンジ。新婦は“シャーロット家の三十六女”プリン。ベッジはそう言ってたわ」

 

「ヴィンスモーク…?サンジってそんなカックイイ名字だったんだ。いやそんな事よりも、サンジが結婚って…」

 

「サンジさんも当然納得が行く話では無かったのですが、どうやらその縁談を持ちかけたのはサンジさんの親族の方らしくて」

 

サンジの親族?ゼフの事?

 

『違うよ、サンジと()()()()()()()()親族』

 

「……そういえば」

 

 

***

 

 

《知ってんの?サンジ君。でもこれ北の海(ノースブルー)の発行って書いてあるわよ》

 

《ああ、俺、生まれは北の海(ノースブルー)だからな、みんなにゃ言った事無かったか?》

 

《生まれは北で育ちは東?どうして東の海(イーストブルー)に?》

 

《まぁ俺の話はどうでもいいさ、こいつは(ノース)では有名な話なんだ。童話とは言ってもこのノーランドって奴は昔実在したって話を聞いた事がある》

 

(何か今露骨に話を逸らされた気がする。…気のせい、かな??)

 

 

***

 

 

──みたいな事を2年前に話した事があったっけ。

 

「サンジ、私達と出会ったのは東の海(イーストブルー)なのに生まれは北の海(ノースブルー)だって言ってたよね」

 

「サンジさんは北の海(ノースブルー)出身なのですか?ならば東の海(イーストブルー)へ移る為には“赤い土の大陸(レッドライン)”を超える必要があった筈ですわ」

 

「あー…そっか、確かにそうだね」

 

東の海(イーストブルー)北の海(ノースブルー)はシャルリアの言う通りあの馬鹿でかい大陸が二分に分けている。戻る為には私達も通った“リヴァースマウンテン”を通るか、それこそ一周くるりと回ってくる必要がある。そりゃあ、偉大なる航路(グランドライン)を海路にしなければ一周するのは時間をかければ問題ないのかもしれないけど、それでも家族の引っ越しにしては度が過ぎていると思わざるを得ない。

まぁ、サンジの家庭の事情は気にしても仕方ない事だけど。

 

「その上、“シャーロット”ってのはビッグ・マムの姓だ。四皇の中でもビッグ・マムってのは、自らの子供を餌に広い種族との関係を築いて海賊王を目指しているんだ。ヴィンスモークが何かは知らねェが、ビッグ・マムにとって取り込むに値するだけの存在って事になる」

 

「へぇ、詳しいね、ペローナちゃん」

 

「そりゃあ、いつかお前が戦うかもしれない相手の事を調べるのは当ぜ……ナニこっ恥ずかしい事言わせてんだ!!」

 

「それは理不じ……ぶへぇっ!?」

 

ごん!とペローナちゃんの頭が下から突き上げられて顎に直撃した。

舌が…舌が千切れる…!!

 

倍加すれば痛くないかもだけど、それをしちゃうと今度はペローナちゃんにダメージを与えてしまう…!それだけは許せないからこうして甘んじて痛みに耐えるしかない……!!

 

「それでもサンジは最初は断ってたんだ、だけど相手がおれ達に聞こえない様にサンジに何かを耳打ちした途端、急に態度が変わって…」

 

「いたた……きっとそいつがサンジにとって最悪の条件を突き付けたんだろうね。それが何かは分からないけど」

 

「ええ…。その後、私達はサンジ君のおかげでベッジの体内から逃げ出す事が出来たんだけど、その時サンジ君に渡された手紙がコレよ」

 

そう言ってナミさんは懐から一枚の折り畳まれた紙を取り出してルフィに渡した。

 

「それをサンジ君は、わざとベッジが内容を読み取れる様に書いていたのよ。書いてある事もよく分からないし、何か意図があるとしか思えない」

 

「…分からない?」

 

ナミさんの言葉に反応したのは意外にも叶だった。これが原作通りに進んでいるのならば、叶が違和感を覚える事もない筈。つまり今、何か変化が起きているという事になる。

ひょっこりとルフィの後ろから紙を覗き込んだ叶が、驚き…というよりは疑惑に染まった表情でそれを読み上げた。

 

「『野郎共へ、女に会ってくる。必ず戻る』……ここまでは、見覚えがあります。その()ですが、これはイリス、あなたに宛てられた内容ですね」

 

「私?」

 

「はい、とにかく読みますね。──『イリスちゃん、可愛い子が俺を待っているから結婚してくる』……との事です」

 

……なるほど、そう来たか。

叶が困惑しているのも、ナミさんが良く分からないと言っているのも当然で、わざわざ私宛にこんな内容の追記を残す必要なんて無いのだから。……普通はね。

 

ここで少し前の話を1つ。

ドレスローザのコロシアムで、私は叶との戦闘中にサンジと電伝虫で話をしている。その時私は『ビッグ・マムが相手だろうとみんなを守る』と言った。つまり、私のこの言葉をサンジが愚直に信じてくれたのだとすれば……この手紙の意味は……!!

 

「私がビッグ・マムの所へ攻め込む為のキッカケ…!!()()()()で動く理由を作ったんだ!」

 

「そういう事なら、色々と納得が行くわ。イリスは既に世間から『四異界』と呼ばれている存在、そんな人が同格の『四皇』の元へ殴り込むには相応の理由が必要だもの」

 

ただサンジを迎えに行くというのは『女王』には似合わない。きちんとした理由を作る事によってサンジは私が動きやすい様にしてくれたという訳だ。

勝手に周りが決めた立場とはいえ、その影響は無視できるものじゃない。手当たり次第に気に入らなければとにかく攻め入る存在だなんて認識されてしまえば、同じ『四異界』である“狂神”と同じ様な扱いを受けるかもしれないのだ。そうなってしまえば、完全な私事になるけど今後私の嫁になってくれる人が減るかもしれない。サンジはそこまで考えてくれているのである。

 

私の立場を気にしつつ、きちんとSOSを送ってくるあたり流石サンジは咄嗟の機転が効く人だと思う。ていうか、ビッグ・マムの所には沙彩も居るからその為に私を誘い出した可能性もあるよね。サンジ…良くそんな事ぱっと思い浮かぶなぁ…。

 

「だとすると、ベッジに見せる様に書いたのはその内容の証人が必要だからか。遠回しな果たし状じゃねェか」

 

「ハ、あのグルマユコックも面倒な事しやがる」

 

ペローナちゃんの言葉にゾロがそう反応し、私はまた考え込む様に顎に手を当てる。

確かにこれって遠回しも遠回しだし、なにより面倒なんだよね。まるでギリギリまでビッグ・マム側に私の介入を知らせたくないって感じにも見える。

 

「ビッグ・マムのお茶会は“強制参加”も同然なんですよ、かの四皇から招待が届いたが最後、受取人は死ぬ気で参加しなくてはいけないんです」

 

「へぇ…それってやっぱりビッグ・マムが怒るから?」

 

「簡単に言えばそうですけど、怒った後の行動が最悪なんです。例として話しますが、これは例え話でも何でも無く、実際に起きた出来事ですので心して聞いてください。特にイリス、あなたは王華より純粋で無垢なので特に気を張って」

 

え、叶の中で私ってそんな評価だったの!?褒められたというよりは子供っぽいって事を言いたいんだよね?王華より子供っぽい??心外なんだけど…!!

 

「ある所に、1人の貿易商の男が居ました。優しい妻に結婚を間近に控えた娘、家族にも恵まれて幸せな毎日を過ごしていたんです。そこへ、貿易先の1つであるビッグ・マムから“お茶会”の招待状が届きます。男は喜びました、何故ならビッグ・マムのお茶会に招待されると言う事は錚々たる顔触れ達とお近付きになれるということだからです。貿易を職としている男にとってはなりふり構わず飛びつきたい誘いだったのですが、彼にとって……いえ、彼らにとって不幸だったのはそのお茶会の日が娘の結婚式の日と被ってしまっている事でした。当然男は悩みましたが、長い悩みの末、娘の結婚式を選んだんです」

 

ごくり、誰かが唾を飲み込む音が聞こえた気がした。もしかしたら私だったのかもしれない。それだけこの場は今緊迫した空気で包まれていた。

 

「ビッグ・マム側にお茶会へ参加できない旨を丁寧に書面に綴り、後日、無事に娘の結婚式も終えた男はいつもの様に仕事をしていました。結婚式後に遠方の貿易先へと向かい、帰ってきたのは5日後。そこで男はいつもならお菓子等の輸入側になるビッグ・マム側からとあるモノを受け取って欲しいと頼まれ、四角にラッピングされた箱を2個受け取ります。ビッグ・マム側の担当はニタニタと下衆な笑みを浮かべながらこう言います。『ママからのプレゼントだ、いつも世話になってるお礼だから金は要らねェ、くれてやる』。男はずっしりと重たい箱を受け取って、本日中の仕事を終わらせて帰宅しました。そこでふと、違和感を覚えます。……あれ?いつもなら出迎えてくれる妻はどうしたのだろうか」

 

ぶる、と体が震えた。

そもそもその話し方なんなのと文句を言ってやりたい所だけど、読めてしまった結末に声が喉を通らない。叶が気を張れと言った意味が、ようやく実感として理解できたのだ。

 

「その時、家に焦燥気味の娘の旦那が姿を見せてこう言います。『お義父さん、あいつがここ数日家に帰ってこないんです。どこに行っているか知りませんか』。流石に男は気付いてしまいました、先程受け取ったプレゼント箱、その数と、“人の頭くらいの重み”。……この悪夢の様な予想が外れていてくれと願う男を嘲笑うかの様に、それぞれの箱の中から出てきたのは……と、いう話です」

 

「……酷ェ事するもんだ、ビッグ・マムってのは」

 

「ああ、因みに実話というのは半分嘘です」

 

『は??』

 

フランキーの言葉に反応した叶に対し皆の声が綺麗に重なる。…ん?半分?

 

「この話は私が適当に作りましたが、招待を断ったが最後、後日大切な人の首がプレゼントと称して送られてくるのは本当です。つまり、私の話も強ちデタラメじゃないかもしれないという事です」

 

……だとしてもその作り話する必要あったかなぁ??実は私の反応を楽しんでいたとかじゃないの??

 

でも、ビッグ・マムのお茶会を断ればどうなるのかは理解できた。きっとサンジもそういう類の脅しを受けたに違いない。そして彼にとってそれだけ大事な存在といえば……『バラティエ』、もしくは『カマバッカ王国』。

 

…ビッグ・マム。魚人島の為にぶっ飛ばしておきたいとは思ってたから、攻撃するのに罪悪感を覚えなくていいような人で良かったよ。

 

 


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