「ビッグ・マムを下につけるのは良いけど、向こうには沙彩も居るしそう簡単には行かなそうだよね」
「お前ら口を慎め!滅ぼすぞ!恩人とはいえ調子に乗るな!ママは海の皇帝、「四皇」の1人だぞ!!」
「でもこっちの戦力には「四異界」が2人居るよ?私を除いても「最悪の世代」って称される人が3人居るし、むしろそっちの方が不利じゃない?」
「バカか!女王、お前はサアヤ様の力を知らねェからそう言えるんだ!!あの人がママと共に戦えば最早敵なし、カイドウだろうと相手にならねェって言われてるんだぞ!!」
じゃあどうしてさっさとカイドウをぶっ倒さないのかと聞けば、そもそも沙彩は戦闘に対して消極的らしく、ビッグ・マムと肩を並べて戦ったのはそう多くないらしい。
ビッグ・マムお得意のお菓子納期を過ぎた報復活動には今まで一切参加しておらず、むしろたまに止めに入っているくらいで、基本戦闘に参加するのはよそから侵略行為があった場合のみだとか。
「まぁ、そもそも沙彩は私と全力で戦ったりしないだろうし、対私との戦力に沙彩を期待するのはオススメしないよ」
「何を言っているのかは分からねェが、いずれにせよ黒足はもう結婚から逃げられねェさ。実際に黒足が行っちまった様に、ママのお茶会は絶対に断れねェ…断れば後日」
「あー、それはもう聞いたわよ、関わりのある人の首が届くってやつでしょ。私達、実はもうビッグ・マムの元に乗り込む覚悟は出来てるの、ただ、私達だけじゃそこまで辿り着けない。……ねぇペコムズ、ちょ〜っと私達と取引しない?」
取引、といいつつ私達側から何かを差し出す事は無い。ナミさんの黒い笑顔がそれを物語っている。
ペコムズも顔が引き攣ってるし、なんだかちょっと可哀想になって来た。彼じゃあナミさんに逆らうのは難しいもんね、ちょっとでも逆らおうものなら理不尽パンチ(私の)が飛んでくるし。
「あんた、ベッジにやられっぱなしで良いって思ってるの?」
「いや、オレを殺したつもりだろうベッジのガキ…このままじゃ済まさねェ…!!」
「でも、その体が回復したからって足のないあんたじゃビッグ・マムの所まで帰れないわよねぇ?」
「……ま、まさかお前……オレに敵を誘導しろってのか…!?」
「誘導?何言ってんの、あんたはただ私達の船に乗って帰るだけ。ただ、向こうに着いた時にはあんたを乗せて行ったお礼として報酬をたんまり頂くわ。だってビッグ・マムの本拠地よ?そんな危険な場所へ送っていくんだから多少は色をつけて貰わないと、ねぇ?」
あ、ナミさんの目がお金になってる…。ペコムズはビッグ・マムの元へ帰りたいけど、私達の船に乗らないと帰れない。つまり、多少の重い条件なら飲むしかない。ナミさんはその辺を分かっているからこそこう言ってるんだろうけど、案の定私達にとって得しかない取引となっていた。
ペコムズに私達だけじゃ辿り着けない場所へ案内してもらいながら金を取るって、流石ナミさん、えげつない。でもそんな所もとっても可愛いと思います!
「決まりだね、私達はペコムズを護衛して最後に報酬を貰う。ペコムズは私達を利用して元の場所へ帰る。そうと決まればメンバーを決めよう!」
「わぁ…面白そう…!」
「キャロット、遊びじゃないんだ」
「あぅ…ごめんなさい…」
ワンダに注意されてしゅんとなっているキャロットも可愛いなぁ。
ともかく、ペコムズはこの提案を断る事が出来ないからこれで私達の案内役は確保されたし、先行組と後発組の案は使えそうだ。
その後、ルフィは出発を早める為にペコムズの治療を急がせようとチョッパーを呼びに療養所を慌てて出て行った。
ルフィが出て行って一気に外が騒がしくなり、ローの声もしたので私とナミさんも外へ出る。そういえばローの仲間、ベポ達はくじらの森で居たんだからここに居るのは当然か。
「ローの仲間は個性的だね、動物が居たり巨人が居たり」
「てめェらにだけは言われたくねェ」
だよね、私も言ってて思った。
冗談もそこそこに、同盟を結んでいるローにもサンジの現状を報告する。ローからすれば訳が分からない話ではあるけれど、サンジを連れ戻すまではカイドウとドンパチやるのを少し待っていて貰わないといけないし。
「──という訳だから、カイドウ組とビッグ・マム組で分かれて行動しようと思うんけどさ、どうかな?」
「黒足屋を連れ戻すのに少数で向かうのは分かるが、カイドウの居場所については検討がついているのか?」
「え?」
……そういえば知らないっけ。物語的に、とかメタっぽい事を言っちゃうと、錦えもんがカイドウの名前に反応した事からカイドウは“ワノ国”に居るだろうと推測は出来るけど…。
「居場所も分からねェ以上、下手には動けねェ。だが、俺達がカイドウに狙われるのは時間の問題だぞ、暫く身を隠せる筈だったこの「ゾウ」も奴らに場所が割れちまってる。次は俺達が狙いだとしても、また攻め込まれたらこの国は一体どうなる?」
ローの言う事も尤もだ。怒ったカイドウが自ら攻め込んでこないとも限らないし、そうなれば対カイドウの戦力をこの地に残したとしても戦場になるのは避けられない。その上、一度戦闘が起きてしまえばローの言っている様にこの国は……いや、国だけじゃない、そこに住むミンク族だって今度こそ命が危ないだろう。
だけど、サンジは必ず連れ戻す必要がある。明日雷ぞうに会いに行く予定だし、その時にでも錦えもんに確認してみよう。
「うお〜〜っ、優しいな〜〜!!ガルチュー!ゆガラ本当に海賊かァ!?」
「助けてくれた上に気遣いまで…ありがとう!!」
「うお〜〜ん!!」
ローの言葉に感激したのか、気が付けば周りをミンク族に囲まれていたみたい。そんな騒ぎを聞きつけたネコマムシが宴を始めたり、宴の雰囲気を真っ先に察知していたルフィがいつも通り肉を要望し始めたり、どうやら今夜も騒がしくなりそうだった。
***
お酒と物理的に距離を離されていた宴も、天に星が輝く頃にはすっかり収まって、今では風と寝息が奇妙なハーモニーを奏でている。あれ程の喧騒が嘘みたいに静まり返ったこの場所で、私はふと誰かがこの場を離れる気配を感じ取って目を覚ました。
宴の気分そのままで寝る時は今みたいに外でそのままって事も珍しくは無く、その際に問題となる寝具は気のいいミンク族が是非にと柔らかい草布団を与えてくれて、かなり寝心地が良かったものだから野宿も全く苦にはならなかった。
「……シャルリア?…と、キャロット、かな?」
いつの間に仲良くなったんだろう、と思いながら立ちあがろうとすると、私のお腹へと背中側から抱きしめる様に回された腕に力が込められた。
「……どこ行くのよ」
「あ…ナミさん…」
弱々しく私の首筋に顔を埋めながらそう言われて、私の中の色んな何かが爆発しそうに暴れ回るけど死ぬ気で堪える。さわさわとお腹を撫でたかと思えば、そのまま服の中に手が入ってきた。
「んっ……」
「あんたには沢山嫁が居て、みんな平等に愛したいって思ってるのは分かってる。あんたの夢の為にもまだまだ嫁は増やすべきだし、私も勿論、手伝うわ。でも……今は、私とあんたの時間でしょ?」
「な、み、さん……、ぁ…っ」
指の腹でおヘソの回りをゆっくりと撫でられ、変な声が出そうになるのを唇を噛み、更に口を手で覆う事で防ぐ。
「ちゅ…」
「っ…」
軽く首筋に吸いつかれて、ナミさんの小さな舌が首を這っていく。普段は感じない感触に対するほんの少しの不快感と、それら全てを吹き飛ばしてしまう程に大きな幸福感と快感が全身を駆け巡って私の思考能力を奪い去ろうとする。
攻撃は舌だけに留まらず、おヘソを撫でていた手はゆっくりと上へとあげられ、自慢できそうも無い小さな膨らみをそっと手のひらで包み込まれた。
「イリス……このまま最後まで、ダメ?」
「……っ、だ、ダメ……ぁっ、んっ」
答える為に口を開いた瞬間、胸に添えられていただけの手が少し乱暴に動き出した。
ナミさんめぇ……!声を聞く為に私が返答せざるを得ないお願いをしてきたなー…!!
「もう…!だめだってばぁ……!」
「…そこまで言うなら、止めてあげてもいいわよ?」
「ほ、ほんと…?」
「ええ。ただし……私が満足するまでキスしてくれたら、ね」
一体どんなとんでもない条件が出てくるのかと思えば、私にとっても得でしかない内容でちょっと肩透かしをくらった気分だ。
ナミさんが服から手を抜いてくれたので、くるりと寝返りをして視線を合わせる。
「……っ」
その瞬間、私はこの条件で受けた事を後悔する事となった。
熱っぽい息を吐く唇、ほんのりと赤く上気した頬、目尻に涙を浮かべた潤んだ瞳。
……ナミさん、すっごく“そういうコト”のスイッチ入っちゃってるんじゃないだろうか。キスだけだと思ってたけど、その“キスだけ”が私の理性を奪い去っていくんじゃ……。
と、愚かにもそんな風に考えていた。
そんな私を見てナミさんは軽く目を伏せて言葉を紡ぐ。
「あんたと再会してから私、ずっと我慢してたわ。しらほしの時も、パンクハザードの時も、あんたと行動を別にしてからも……。こんな場所であんたを脱がす事は出来ないって、本当は分かってる。あんたが今、私にこんな事を求めてないのも……分かってる。だから……キスだけでいい…我儘は言わないわ、1回だけで良いから」
普段よりずっと弱々しい声色でそう言ったナミさんが、こつんと私の額に自分の額を重ね合わせた。
……何を後悔なんてしてるんだ、私は。
熱っぽい息を吐く唇?ほんのりと上記した頬?目尻に涙を浮かべた潤んだ瞳?“そういうコト”のスイッチ?…違う、全然違う!これは──
ナミさんとは2年越しの再会を果たしてからというもの、キスこそ何度かすれ、体を重ねるまでは至っていない。そのキスだって片手で数えられる程でしか無い。
だからこれは、ナミさんの不安の表れなんだ。私のナミさんに対する想いが減っていないか、そう不安になっている。いや、不安にさせてしまった。
勿論私のナミさんに対する気持ちは減ったりなんかしないし、なんなら増えてるくらいだけど、それを伝えるのを怠っていたのは私自身だ。
嫁にしたい人が沢山いて、実際なってくれる人も沢山居る。その子達みんなに私は幸せになって欲しくて、同じくらい愛を捧げたくて…結果、ナミさんに甘え過ぎてしまってこのザマ。
……なら、私がするべき事は決まっている。
「……ごめんなさい」
そう言った後に軽く口づけして、顔を離す。覚悟を決めた私の内心を知らないナミさんは、そんな私の言葉を聞いて何かを諦めた様に弱々しく微笑み一筋の涙を流した。
私のナミさんを想う気持ちが減ったって勘違いしてるんだろうし、そう勘違いさせてしまったのは私が悪い。でも……ナミさんもどうしてそう思っちゃうかなぁ!私、2年前からずーーーっとナミさんに対して素直に好き好きオーラ全開だったと思ってるよ!?
「ん…っ!」
「っ…イリ……んぅ…!」
勝手に諦めてるナミさんの涙を強引に袖で拭い取ってキスをした。勘違いしてるのなら、再び思い知らせてあげる。私がどれだけあなたの事を好きなのか、私がどれだけあなたを求めているのか。
だけど、それでも私はハーレム女王を目指してるから。
さっき気配を感じてしまった2人が気になっているのも事実。でも、ナミさんに何もしないって訳にもいかない。何より私がこの人を滅茶苦茶にしてやりたいんだ。
「さっきシャルリアとキャロットが森の方に歩いて行ったからちょっと行ってくる。戻るのがいつになるのかは分かんないけど……寝ずに待ってて。……言っとくけど、お願いじゃないからね、これは私が、
「……!!」
初めて私がナミさんに対して“命令”した事で、ナミさんの瞳が大きく見開かれた。今夜は長くなる、寝かせる気なんてさらさら無い。
「覚悟、決めたよ。ナミさんが不安に思うなら、私はもう遠慮しない。やりたい様にやらせて貰う。……返事は?」
「っ……うん…!」
やっぱり私の正妻は賢いと思う。たったこれだけの言葉で私の意図を理解してくれたんだから。……だからこそ甘えちゃうんだけど。
ていうか、なに?『うん』って。可愛過ぎか?
若干後ろ髪を引かれながらも決めた事だと腹を括って起き上がり気配が動いた方向へと向かう。
……今回はナミさんだったけど、ペローナちゃんも条件は同じだし、そもそも不安にさせる行動がダメなのだから私自身が変わらなくちゃいけない。
はは、覚悟を決めておいてなんだけど、早速ちょっと不安になってきた……。