ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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214『女好き、深夜の特訓、天賦の才』

それにしても、である。

 

さっきのナミさん……普段とのギャップというか、なんか色々凄かった。流石に狙ってやってた訳じゃ無いだろうし、今夜は朝まで盛り上がれそう。

 

寂しがってる正妻を一旦放ったらかしにするという苦行を成し遂げてしまった私は、現在こんな夜更けに人目のつかない森の中へと進んでいったシャルリアとキャロットを追って、見つけた今も後方から様子を伺っていた。

2人は、周りの木がそこだけを避けているかの如く開けた場所へと足を運ぶと少し距離を離してお互い構えを取り合っている。……まさかとは思うけど、こんな時間に特訓でもしているのだろうか。そりゃあ、目の前の光景が全部教えてくれてはいるけどさ。でもはっきり見えているのは私が暗闇耐性を倍加出来るからであって、恐らく2人は満足にお互いの顔すら見えてないんじゃないかと思う。

 

「……はぁ!」

 

動きも無いようだからそろそろ姿を現そうかと思っていたその時、シャルリアが勢いよく地面の皮を踏み込みキャロットとの距離を詰めた。それに対してキャロットは慌てる事もなく冷静に動きを見つめ、シャルリアのパンチ……と見せかけた本命の払い蹴りを軽く後ろに跳び退く事で回避してみせた。

 

「フェイントをかけるなら、本命の攻撃に意識を集中させるのはダメだよ?『本当はそこを狙ってるよ』って教えてる様なものだから」

 

「っ……はい!」

 

「じゃあ、次は私の番!」

 

それだけ言った次の瞬間、シャルリアの首筋には獣グローブから生えている鋭利な爪がそっと添えられていて、シャルリアは大きく目を見開いて両腕を上げて降参の意を示した。

タネも仕掛けもなく、キャロットがやったのはただの高速移動である。シャルリアが認識できない速度で詰め、人体の急所を的確に突く。相手との速度の差が圧倒的かつ、今が夜中で視界が制限されているからこそ出来る荒技……なんだけど、一体2人は何をやっているんだろう。

なんて、考えるフリを入れる。まぁ普通に考えればシャルリアがキャロットに頼んで特訓をしているって所だろうけど……どうしてキャロットなんだろ?

 

「…申し訳ありません、先程の速度でもう一度お願い出来ますか?」

 

「うん!ゆティア、何か掴めた?」

 

「……いえ、残念ながら、まだ目に頼ってしまいますわね」

 

どうしてキャロットを誘ったのかは分からないけれど、内容自体は単純な戦闘と、見聞色の覇気の特訓をやっているみたいだ。

それにしてもシャルリア、もう見聞色を習得するにおいて最も大切な事を理解しているみたい。というのはずばり、『視覚を意図的に閉じる』事である。見聞色っていうのは言い方を変えれば“心の目”だから、普段通りに目を使っているようではいつまで経っても習得は出来ない。まぁ、私の場合は視力倍加を使えるから視覚と見聞色の二刀流も出来るんだけど。

 

「ハキ……だっけ?ゆティアは、シャルリアはどうしてハキを覚えたいと思ったの?それに、恩人の仲間のシャルリアに戦い方を教えるのは良いけど、私はハキを使えないよ?」

 

「ふふ、簡単な事で御座いますわ。私が覇気を習得したいと思う理由は……仲間達の、私の主人の足枷になりたくないから。後者の理由はあなたの戦い方を間近で見てみたかったから、ですね。イリス様や叶様方からはこれから先もご指導を受けたいと思っていますが、あなたとはこの地を離れてしまえばお別れ……に、なるかもしれませんので」

 

お別れになる、と断言しなかったのは私がキャロットを狙っている事に気付いているからだろう。

……それにしても、シャルリアはやっぱり才能がある。キャロットの戦闘なんてミキータとのアレしかなかった筈なのに、それだけで戦闘スタイルや強さを大まかに把握してキャロットを指名した。この地を離れればお別れになるのはキャロットだけじゃないのに、それでも彼女を選んだのは自分の目指すスタイルに1番近かったからというのもあるのだろう。

 

「では続けてお願い致します。……っ、ふぅ…!」

 

「!」

 

「えぇ……」

 

思わず引き気味の声が出てしまった。

視線の先では、シャルリアが右手を前に突き出してそれを左手で支える様な構えを取っている。手の平は開かれ、まるでそこからビームやら弾やらが飛び出すみたいな姿勢だ。……というか、実際そのつもりだと想う。だって、突き出してる右の手の平に集まって来ているのだ……()()が。

 

もうね、流石にドン引きするしかない。嫁に対して引くなんてどうかしてるけど、こればかりは仕方が無い。だっていくらなんでもそれは早すぎるし……ねぇ?

 

シャルリアがやってる事は私の覇銃(ハガン)の手の平バージョンだ。覇銃は、1本の指に覇気を集らせる事でそこから圧縮された覇気の弾を撃ち出すというもの。だけど一点に覇気を集中させるのは至難の技で、流石のシャルリアもそこまでにはまだ至っていない……が、手の平レベルなら出来てしまっている。

私はまだ教えていないし、叶やミキータも見聞色しか教えていない筈。つまり、アレはシャルリアが独学で覚えたという事で……うん、どれだけ考えても『シャルリア、パない』って感想しか出てこない。

 

まだ慣れていないからか、手の平に集まった覇気を十分に制御する事は出来ていない。あれでは撃ち出しても弾にも光線にもならず、放射状に短い射程の覇気を放つだけになってしまうけど、きっとシャルリアはそれすらも理解している。

慣れていないのは百も承知、今使える手札でどれだけの事が出来るのか、彼女はそれを模索しているのだ。

…いやそれにしたって武装色の覇気を拙くも扱えてるのはおかしいんだけどね??

 

「──ふっ!」

 

『何かある』とまでは分かっても、武装色の覇気に詳しくないキャロットではどう警戒していいのかも分からない筈だ。だからこうして先程と同じく一瞬で距離を詰めようとする。

だけどそれは悪手であり、シャルリアにとっては好機であった。キャロットの動きを目で追えなくとも関係ない、要は攻撃が当たれば良いのだから。

 

「……っはぁ!!」

 

瞬間、シャルリアの掌から放射状に武装色の覇気が放たれた。今のシャルリアでは満足に覇気を制御する事が叶わなくとも、彼女はそれを逆手にとって自身の手札として扱ってみせる。

圧縮させられないなら、拡散すればいい。

弾として撃てないのなら、纏めずに広範囲に撃てばいい。

そうする事で、例え相手の動きが見えていなくともただタイミングを合わせるだけで攻撃は当たるから。

 

「っきゃ!」

「…っ!?」

 

射程は短くても、前方に大きく広がる形で撃ち出されたその攻撃をキャロットは避ける事が出来ず後ろへ吹き飛ばされ、シャルリアも自身の放った砲撃が予想よりも大きな規模だった事もあり踏ん張りが効かずにキャロット同様後ろへと飛ばされる結果となった。

 

「全く、向上心があるのは良いけど怪我には気をつけてよね!」

 

2人が背を木に叩き付ける前に飛び出し、両手を巨大化させ、腕の長さも倍加させ2人へ伸ばして受け止める。結構な衝撃だったし、あのまま木に激突して2人共昏倒なんてしてたら……うっ、想像しただけで気分が……、見に来て正解だったみたい。

 

「い、イリス様……!何故ここに……いえそれより、申し訳御座いません!お手を煩わせてしまって…!」

 

「謝るのもお説教も後、今はじっとしてて?体だるいでしょ?」

 

2人を掴んだまま腕の長さを元に戻し、まだ動けそうなキャロットはそっと降ろして、覇気を放った事で全身の力が抜けているシャルリアを横抱きする。

覇気は制限出来れば全開で使用しても問題ないけど、ただ垂れ流すだけだと今みたいに1発で体力が持っていかれるのだ。その辺は今後の練習次第でどうとでもなるんだけど。

 

「キャロットも怪我ない?直撃してたよね?」

 

「ううん、大丈夫!それよりシャルリア、さっきのどうやったの!?凄いっ!バーって手から出してたよね!?」

 

どうやらキャロットは直撃する寸前、咄嗟に腕でガードを行っていた様だった。証拠にその腕が少し怪我しているみたいなので、戻ったら叶を起こして治療をお願いしよう。

 

「落ち着いてキャロット、今のは武装色の覇気って言う技術だよ。まぁ…『硬化』どころか『放出』まで会得しちゃってるのは私もどうかと思うけど」

 

「あれもハキなんだね!…ん?そういえばイリスはどうしてここに?」

 

「どうしても何も、私の嫁が2人揃ってこんな時間に森の中へ歩いて行ったら気になるでしょ?」

 

「申し訳御座いません……」

 

キャロットは「嫁?2人?」と首を傾げていたけどスルーしておく。頭を動かす度にぴょこぴょこ動いてるうさ耳が可愛すぎて舐め回したい。

 

「シャルリア、分かってるとは思うけど、もうこんな危ない事を私抜きでするのはやめてね。強くなりたいって気持ちは分かるけど、あなたが傷付く所は見たくないの」

 

「はい……」

 

「見聞色の覇気は制御を間違えても捉えられなくなるだけ。でも武装色は違う、それはシャルリアも分かってるでしょ?便利な力は同時に凄く危険で、一歩間違えれば大怪我もあり得るんだからさ。……次は無いよ、もし、言いつけを破ったら……分かるよね?」

 

シャルリアがどれだけ泣いて謝ったって解放してあげない、三日三晩キャッキャウフフ(私だけ)コースにご招待しちゃうからね。

とまぁ、今までの反省を活かして少し強気に言ってみたんだけど、何故かシャルリアは私が想像していた以上に顔を青褪めさせて目尻に涙を溜めてこくこくと震えながら頷いていた。あるぇ?なんか思ってた反応との差異がありすぎるんだけど…。

 

「わ、私、もう二度とこの様な事は致しません…!ですから、どうかお捨てにならないで…!」

 

「えぇ!?なんか反応が大袈裟だと思ったらそんな事考えてたの!?す、捨てない捨てない!あり得ないから!!さっきの意味は、言いつけを破ったらシャルリアが嫌という程犯してやる〜みたいな、そんな感じだから!」

 

「え……?」

 

シャルリアは天竜人時代の事を負い目に感じてるから、余計に私の言葉がそう聞こえたのかもしれないけど……はぁ、そんな事を私がする訳ないのに。

 

「この際だから言うけど、私があなたを捨てるのだとすればそれは私が死ぬ時だし、私は天寿を全うするまで死なないから一生そんな未来は訪れない。だから大丈夫だよ」

 

「あ……、重ねて、申し訳御座いません…!イリス様を、疑ってしまって…!……でも、本当に……良かった、です」

 

それだけ言うと、安心したのかシャルリアは私に抱かれたまま眠ってしまった。元々覇気を全放出させた直後だという事もあって疲労も限界に近かったのだろうし、このままみんなの元まで帰って横にさせてあげよう。

 

 

 

そうして私はさっきまで居た俠客団(ガーディアンズ)の居住地までキャロットと戻り、寝ている叶を起こしてキャロットの腕とシャルリアを治療して貰ったのだった。

ちなみに、いきなり起こされた叶は結構不機嫌だった。うん、本当にごめん…。

 

 

……さて。

起きてるかな、私の正妻(プリンセス)は。

 


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