果たして、ナミさんは起きていた。ていうかすっごい顔を赤くしてぼーっとしていた。
最初に見た時は熱が出ちゃったのかと焦ったけど、単に去り際の私とのやり取りをずっと頭の中で反芻していただけの様で。
……それはそれで嬉しいやら恥ずかしいやら昂るやらなんだけども。
何なら色々我慢出来なくなりそうだったから急いでナミさんを抱えてサニー号まで戻ってる所だけども!
「イリス…っ、ちょっと、苦しい…っ」
「あっ…ご、ごめん!」
もしかしたら私は自分が思っている以上に興奮しているのかもしれない。ナミさんを抱えている状態で空を飛んでいるのに、最速で目的地まで向かおうとしていたのだ。
……その上、ナミさんが苦しいと言った後も、それに対して
「イリ、ス……?」
「…ごめん」
もう一度呟いたその言葉はナミさんにはどういう意味で聞こえただろう。少なくとも、私の口が加虐的に歪んでいる事から素直に謝罪の言葉を口に出した訳ではない事は確かだった。
ナミさんを滅茶苦茶にしたいと思う。私の下で虐めて、泣かせて、溺れさせてやりたいと思う。
……今までの私ならこんな考え、絶対に生まれなかった。だって、嫁を相手にこういった感情は抱くべきではないと考えていたから。
でも、そうじゃない。私は我慢すべきではないのだと気付かされた。
別に傷付けて喜ぶタチではない。なんて今更言わなくても分かるけれど、そもそもの話で“私は下には向かない”のだ。
この場合での“下”と“上”とは、言い換えるなら“ネコ”と“タチ”、更に言い換えたならば“受け”と“攻め”だ。
普段、私がみんなとの目合いの中で自然と『受け手』に回っていたのも、単に私が色々と抑えていたからに過ぎない。傷付けない様に、やり過ぎない様に、爆発してしまわない様に、ただ恐れていただけの事。
証拠に、私が『攻め手』としてみんなを愛したのは、ナミさんとの初夜と、後は酔っていてタガが外れている時だけだった。
ゾウの背端に辿り着き、飛ぶのを止めて下へと真っ逆さまに落ちていく。落ちる時間すらも惜しいとばかりに宙を蹴ってブーストを掛け、耳元で響く悲鳴に微笑みすら浮かべていた。
興奮状態であってもこのままサニーへ突っ込む訳には行かないので、甲板に足をつける瞬間に一気に減速してふわりと着地する。
「は…ぁ、はぁ……っは…!あんた、ねぇ…!」
「…ふふ、怖かった?ナミさん。なら良かった、足震えてるし、怖くて力も上手く入らないでしょ?それじゃあこれから何をされたって、抵抗出来ないね?」
「……!……分かってるでしょうけど、私は最初からあんたになら何をされたって構わないと思ってるわよ。1番初めにあんたとそういうコトをした時もそう言わなかった?」
「好きにしてもいい、だったよね。勿論覚えてるよ」
「っきゃ」
ぐい、とナミさんの腕を引っ張って歩いていく。目的地は当然寝室……じゃなく、私達がいつもご飯を食べているキッチン&ダイニングだ。
電気なんて点いている筈も無く、月明かりも碌に入ってこないから真っ暗だった。
ナミさんも予想外の場所に連れて来られたからか、首を傾げて私の居る方を見ていた。暗くて私の顔は見えていないだろうけど。
「まさか、先に腹ごしらえとか言うんじゃないでしょうね?」
「それこそまさかだよ、ナミさん」
「っ!」
ナミさんの足を払い蹴り、宙に体が浮いた所を抱き抱えてそっと床に寝かせ、その上に馬乗りになる。
「今日はね、サニー号の色んな所でシようと思ってるんだ。ここもそうだし、測量室、浴室、見張り台、甲板、いつも通りの寝室でも。そうすれば、この船のどこに居たって思い出せるでしょ?」
「……ふふ、本音は?」
「……素面で我慢しないっていうのが初めてだから、どうすればいいのか分からなくて困ってます」
「まぁ、ミキータなら本気で言いそうだけど、あんたはそういうの気にしないもんね」
興奮のし過ぎで空回ってるのが即見抜かれた訳だけど、今すぐしたいのだという事実に変わりは無い。性交に限らず、今はとにかく彼女と肌を重ねていたいのだ。
暗闇の中でも私にはハッキリと見えているその端整な顔立ちに己の顔を近付けて鼻先を擦り合わせれば、ナミさんはくすぐったそうに身を捩りながらも幸せそうに笑みを浮かべた。
少し顔を離し、頬を優しく撫でて、もみあげを掬う様に何度も何度も弄る。
そうしながらゆっくりと耳元に唇を近付けて、優しく呟いた。
「愛してるよ、ナミ」
「────っ」
びくん、と彼女の体が跳ねた。私だからこそ分かるこの反応の意味する所に激しい征服感と幸福感が湧き起こり、同時に『まだ何も触ってすらいないんだけどなぁ』と冷静に考えている部分もあって。
「イリ……んっぅ…!」
「っ、ふ……っん」
ナミさんが口を開いた瞬間に自分の唇で塞いで喋る暇すら与えてあげない。だけど舌を入れる事はせず、ただ強く強引に唇を重ね合わせているだけ。
やがて痺れを切らしたナミさんがちろちろと私の歯を舐め口を開ける様に可愛くおねだりしてきたので、意図を気付いた上で無視をして断固として口は開けないでいた。
「……んぅ…」
明らかに不満気なナミさんも可愛いな、と、キスをしながら頬を撫でつつそう思う。
普段私と致している最中にキスをする時、ナミさんは目を開けている事が多い。理由は私の表情が見たいからだと言っていたけど、今のナミさんはぎゅっと目を閉じていて普段程の余裕も無さそうだ。
そんな事が分かると言う事は当然私は目を開けていて、愛しい正妻の反応を何一つ見逃す事が無い様に凝視しているのだけど。
私が舌を絡ませる気が無いと悟ったのか、ナミさんは寂しげに舌を自身の口内に戻そうとして……、
「っん……!?ふ、ぁ……れろ…っ」
それを追う様に強引に舌を絡ませ、激しくナミさんの口内を蹂躙していく。啄む様に、更に角度を変えながら何度も何度も唇を重ね合わせ、中では舌が激しく暴れ回っている。ナミさんの顔の横に力無く置かれていた左手に私の右手を置き、艶かしく撫でた後、指を絡ませる。
最早ナミさんの口の中は彼女のものか私のものか分からない位に唾液が混ざり合っている事だろう。それでいい、分からなくなってしまえば良いんだ。
私とナミさんという2人の人間の境界線なんてものは、今この時のみ消失して1つになる。そう言うのが過言では無い程、重なり合うのだから。
「っぷは…!…どう?ナミさん、今更言うまでも無いだろうけど、私の想いは何一つ変わっていないでしょ?」
「はぁ……はぁ……、ん……そう、ね」
なんだろう、納得はしてくれたみたいだけど、どこか不満げみたいだ。
キスが足りなかったかな?それならまだまだ沢山するから心配しなくてもいいんだけど。
と思ってもう一度重ねてみたけれど、顔を離した時のナミさんの顔はまだ不満げで、なんなら気付いていない私に対して更に眉が内側に寄ってきている。
「えっと……ごめんナミさん、私、何かしちゃったかな?」
「……何もしてないわよ。…ただ、その……」
『もう、呼んでくれないの?』
そう上目遣いで言われた瞬間、私は下唇を強く噛んで押し寄せる感情を必死に堪えた。我慢しないとはいっても、流石に理性までは飛ばす訳にはいかない。だというのにこの
嫁の為ならば、私は恐らく出来るだけなんだってするだろう。彼女の可愛いおねだりも、結局は叶えてあげるのだけど。
なんというか、身近な人程呼び慣れた呼び方を変えるのは気恥ずかしいものだ。
でも確かに、ナミさんは以前、私がナミさんにしていた敬語をやめた時の様に呼び方に敬称を付けるのもやめないかと言ってきた事があった。
その時からずっと待たせているのだとすれば……うん、それはダメだよね。
所詮私が多少の羞恥を味わうくらいなのだから、それで正妻が喜んでくれるのなら安いものだ。
「……ナミ」
「…ん」
ぽつりと呟けば、ナミさんは……いや、ナミは噛み締める様に瞳を閉じて頬を赤く染める。ただ名前を呼んだだけでこんな幸せそうな反応を返されてしまうと、私の悪戯心にも火がつくというものだ。
「ナミ、ナミ……なーみ」
「っん、ふ……!」
今度は耳元に口を寄せて何度も囁いてみると、ナミは咄嗟に口を押さえて体をもじもじと捩らせた。
とにかく、普段はまだいつも通りナミさんと呼ぶ事にしよう。彼女の期待に応える為にも常から呼び捨てで呼んであげるべきなんだろうけど、これはこれで夜が盛り上がる材料にもなる。朝起きた時『ナミさん』呼びに戻っていれば当然ナミは不満に思うんだろうけど、ま、その時は恥ずかしいからまだ当分このままで、とかなんとか誤魔化すとでもしよう。彼女相手にそんな誤魔化しが通用するかはともかくとして。
その後、私がナミを心ゆくまで堪能したのは最早語るまでもないけれど、その際のナミのおねだりが非常に上手かった事だけはここに吐き出しておこうと思う。
まぁ、可愛い『おねだり』が原因で必要以上に張り切ってしまった私のせいでナミは途中で気絶してしまったんだけど。
……気絶した後も昂りが収まり切らずに彼女の体を弄んだ事は、言わない方が賢明なのかな……でも私は悪くない、何をしていても可愛いナミが悪いのだから。
イリスがナミの事呼び捨てにしてるの違和感ありすぎて……(笑)
2人の距離が更に近付いたのは間違いないですね!これ以上は近過ぎて合体してしまう……いや、意味深ではなく!