ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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220『女好き、五手に分かれて』

「終わったよー」

 

空から下降しながら、ふりふりと手を振ってみんなの集まる場所に着地する。まず初めにペローナちゃんがずんずんと歩いてきて、「ん」と体を横に向けた。

 

「はは、うん、分かってるよ」

 

ひょい、と横抱きして、1度自分の身に寄せる様に抱き締めるとペローナちゃんは満足気に息を吐いた。

あ、叶戻ってる。王華も居るね。……あれ、近くに縄でぐるぐる巻にされて気絶してるのって、まさかカン十郎?何したんだろ、錦えもんも複雑そうな顔してるし。

 

「えっと……聞いても良い感じ?」

 

「ごめんイリス、みんなには説明してるから私はちょっと外しても良い?せっかくだから叶と色々話したくって」

 

「ああ、そうだね、私こそごめん、調子乗って(シエスタ)使っちゃった」

 

「ほんとだよ、今度の修行は厳しく行くから覚悟してなよ?」

 

うぐ……もしかしてまた能力使用禁止で一戦とかするのかな…あれ嫌なんだよね、能力禁止ってなったら覇気を使うしかないし、そうしたら私より覇気の扱いに長けてる王華が活き活きしちゃうもんなぁ。

 

まぁ、今回は私が悪いし甘んじて罰は受けよう。叶と2人で少し離れた所まで離れていく王華は幸せそうだし、お詫びとしてまた今度、何も無い日にでも女王化して実体化させてあげようかな。

 

「……それで、カン十郎がどうかしたの?なんか頭にタンコブ出来てるっぽいけど」

 

「それが……」

 

なんだか話しづらそうなナミさんが、王華から聞いた内容を丸々私に伝えてくれた。

どうやらカン十郎は所謂スパイらしく、私達の敵でもあるワノ国の『将軍』の命令で情報を横流しにしていた様だ。

ジャックが2回も記録指針(ログポース)に示されないこの地に辿り着けた理由はカン十郎のビブルカードを持っていたから。そして、そもそも侍組が離れ離れになったのもカン十郎が仕組んだ事だったとか。

 

「……ま、待つでござる!ジャックとやらがカン十郎のビブルカードを持っていたというのは、今となっては調べ様が無い事で御座ろう!先に叶殿から聞いた話、拙者には俄かに信じ難い事実……!」

 

「うーん……だよねぇ、怪しさはあるけど、仲間を疑うのは難しいし」

 

錦えもん達の目の前でカン十郎が何かしたとかならともかく、今回はそうじゃない。カン十郎が裏切り行為を働いていたのだとしても、仲間である錦えもんは信じられないのだろう。

 

「この件は一旦保留にしない?ほら、叶から詳しく話を聞いた方が良いだろうし。錦えもんが信じられないのも当然だと思うけど、叶だってそんな事で嘘をつく人じゃ無いからさ」

 

「う……む、そうでござるな……」

 

「……いや、待て。そいつが本当に『将軍』の回し者なら、連絡手段はなんだ?ジャックがそいつのビブルカードを持っていたのなら、そいつも誰かのビブルカードを持っている可能性があるんじゃねェのか。それがなくとも電伝虫の1匹くらいは懐に忍ばせていてもおかしくはねェ……」

 

なるほど……ローの言う事も一理あるよね。

逆に言えば、何も無ければカン十郎の疑いが晴れる可能性も……。

 

「──少々、酷な事を言うようですが、仮にそれらが見つからなかったとしても彼が裏切り者では無いという事実にはなりませんわ」

 

「どういう事?」

 

「先程叶さんから教えて頂いた彼の能力は“フデフデの実”。体のどこからでも墨を出す事ができ、描いたモノを実体化させる事が可能。……ならば、伝書鳩なども証拠を残さず生み出す事が出来るのではないでしょうか。しかし、紙までは墨で作れないと思いますので……」

 

そこまでシャルリアが言って、ローが結論に気付いたのか口を開いた。

 

「連絡用の紙を持っていればクロ、そう言う事か」

 

「し、しかし、カン十郎はそれ程遠くへ飛べる様な鳥は描く事が……!」

 

「自分の実力を隠すのは密偵の基本だ。その上それが『絵』なら更に容易になる。右利きなのを左利きだと偽れば、それだけで稚拙な絵が出来上がるだろうからな」

 

「ぅぐ……」

 

話は纏まったとは言い難いけど、とりあえずカン十郎の持ち物検査をする事は決定した様だ。

調べるのは錦えもんや雷ぞうで、本来ならば仲間である彼らにさせるのは正しくないらしいけど、彼ら侍組が自分でしっかりケジメを付ける為に任せたみたい。

……まぁ、もしこれで何も見つからなかったらそれこそ私達は土下座でもしなくちゃ割りに合わないと思うけど。

 

「……おっと」

 

時間としては10分経ったか経ってないかくらいだろうか、(シエスタ)の効果が切れてしまい、同時に私の中へと王華が戻ってきた。不意に体が小さくなったので、ペローナちゃんを万が一にも落とさない様にしっかりと抱き締める。

 

そうして、戻ってきた叶も含めてみんなで錦えもん達の検査を見守る事数分、錦えもんが一瞬、跳ねる様な声を上げて震える手で白紙の巻物を取り出した。

 

「……これで分かったでしょう。彼はワノ国の『将軍オロチ』から送り込まれた密偵、あなた方『赤鞘』の敵です」

 

「……そんな、バカな……!いや、紙ならば持っていてもおかしくは…!それにあの時、カン十郎も拙者達と共に死に掛けて……」

 

目に見えて狼狽えている錦えもん達に、叶はふぅ、と軽く一息ついて杖を軽く振った。その際に発生した紫色の光がカン十郎の体に纏わりつき、やがて溶ける様に消える。

 

「叶殿、何を……!」

 

「今のは弱体化の魔法です。イリスや王華に分かりやすく説明するならば、『デバフ』ですね。彼は強者ですので、身体能力を低下させて貰いました」

 

「出た、使い勝手の良すぎる魔法」

 

「そうでもありません。これは完全に無抵抗の相手にしか効果を発揮しないので、逆に戦闘中では私の扱える魔法の中でも最弱クラスですよ」

 

あー、それなら確かに使い所を見極めるのが大変そうかも。

相手を無力化してから弱体化させたって、もう倒してるんだからあんまり意味ないもんね。

 

「錦えもん、雷ぞう、モモの助、あなた達は変わらず彼を信頼し、仲間として接してあげて下さい。カン十郎は確かにあなた達を裏切っていますが、それは彼がそうする道しか知らなかったからです。……だから、あなた達が望むのならば、その事実を知った上で彼を受け入れ、そして救う事が出来ます」

 

「……!!」

 

「上辺だけの仲じゃなくなった時、きっと彼は生まれ変わりますよ。空の器が満たされれば、満たされたモノによって変わる事が出来るのが人間ですからね」

 

とはいえ、錦えもん達も苦労する事になるだろう。何せいきなり仲間だったカン十郎が裏切り者だと発覚し、それを暴いたのが会ったばかりの魔女なのだから。信じたくはないけど、一応、証拠も出ている。ジャックがこのゾウまで辿り着けた事と言い、裏切り者が居る可能性は十分にある。

 

結論としては、錦えもん達は叶の提案を受け入れる事にした。あくまでも自分達はカン十郎の味方だと、そう言い切ったのだ。

それを聞いた叶は満足そうに頷いて、カン十郎を含めた侍組をとても優しい目で見ていた。何だかんだ言ってやっぱり叶もお人好しで、とても優しい人だと思った。

 

 

という訳でその話は一旦の纏まりを見せた。

カン十郎の扱いはワノ国組の叶や侍達に任せるしかないが、それとは別の問題として、イヌアラシや錦えもんはモモの助が『象主(ズニーシャ)』と会話出来たという事実が気になっているみたいだった。

 

象主(ズニーシャ)の意思など、考えた事も無かった……!ましてや話が通じるとは……」

 

「それに、ゆガラ……さっきの姿といい、覇気といい、一体どれ程の強さを秘めておるのか、全く想像もつかんぜよ」

 

「まぁね、嫁を守る為に誰よりも強くありたいし」

 

実際、あの2年間は色々と強烈だった。お陰で自分でも驚く程力はついたけど……正直、安城さんの能力を知った今だとまだまだ油断出来ないって感じてる。

今日も難しそうだけど、明日からはまた王華部屋にお世話にならないと。

 

「まーイリスが強ェのは今に始まった事じゃねェし、このゾウも味方になったらすげェな!」

 

「気楽な……ゴロニャニャ!」

 

「じゃ、おれ達出発するから食糧いっぱい分けてくれ!」

 

そう言ってルフィはどこから持ってきたのか自分の背丈以上はあるリュックを取り出してイヌアラシとネコマムシの前に置いた。

食糧はまだバルトロメオ達がくれたのが船にあった筈だけど、くれるというのなら喜んで貰っておこう。食べる物は幾らあっても困らないし。

 

「ルフィ!出発はまだ待ってくれ、ゾウはジャックに攻撃されてたんだ、怪我してる筈だから治してやりたい!」

 

「おう、分かった!」

 

じゃあ、私達はチョッパーが象主(ズニーシャ)の治療をしている間にペコムズを連れて来るのとちゃんとした班決めをしておこうかな。サンジ奪還組とワノ国組といっても、サンジ奪還組は先行組と後発組で分かれてるから。

 

そんな訳でルフィが全速力でペコムズを背負ってきたんだけど、怪我人に対して遠慮の無いルフィの背はかなり堪えるらしく、ペコムズは背負われてるだけなのに息が切れて大量に汗を流していた。

 

「はァ…はァ……!誰でもいい、変わってくれ!揺れが酷い……!」

 

「頑張って!それで、サンジ奪還組の先行後発はどうする?一応メンバーは私、ナミさん、ペローナちゃん、シャルリア、ルフィ、チョッパー、ブルック、それからペコムズになってるけど」

 

「私のテレポートで先んじて送るのなら、その中だとシャルリア、ブルックでしょうか。後、ついてくる事になるペドロもですね。これで上限です」

 

「……む、私がついて行こうと思っていた事に気付いていたのか、彼の事と言い、その洞察力は凄まじいな」

 

そのペドロの言葉に叶は複雑な表情で苦笑いを返す。叶の素の洞察力も勿論凄いけど、恐らくカン十郎の件もペドロの件もただの原作知識だろうから叶からすればその言葉を素直に受け取る事は出来ないのだろう。

 

「ペドロが来るのは全然構わないけど、シャルリアを先行組にするのは反対しても良い?それか、先行組の出発を明日の朝とかにして欲しいんだけど」

 

「何故……かどうかは聞いても意味無さそうですね、分かりました。では先行組、後発組関係無く、サンジ奪還組のメンバー全員と私で船に乗り、明日の朝に私が先行組を向こうまで送り届けましょう」

 

「ありがとう、うへへ」

 

おっといかんいかん、夜の事を想像したら涎が……。

 

「じゃあ、私達はワノ国ね」

 

ロビン、ミキータ、ゾロ、ウソップ、フランキー、ロー、それから侍組、ミンク組はワノ国か。

ロビンとミキータには出来るだけ気をつけて行動する様にお願いしておかないと……!何たって完全に敵地だし、万が一があったら事だからね。

 

「その事なのだが、せっしゃ、まだこの地に残ろうかと思っているでござる」

 

「残る?このゾウにでござるか?」

 

「うむ」

 

モモの助はゾウに残りたい様だけど、錦えもんはその理由に見当が付かなくて首を傾げている。理由はどうであれ、残るのは良いけど……。

 

「残ってどうなされる?」

 

「どうすればよいのかはわからぬ!されど……叶うなら今一度、話してみたいのだ!象主(ズニーシャ)と、千年を生きたものと!なぜせっしゃの声は届いたのであろうか……よもや、光月家のなにかを知っていまいか!」

 

「でも、立場だけで言えばモモの助って錦えもん達のトップなんだよね?そうそう別行動は取らない方が良いんじゃない?」

 

「いや、いいぞ。私はこのゾウをカイドウの脅威から守らねばと思っていた。どの道一気にワノ国にはなだれ込めまい」

 

私や錦えもんの懸念していた事について、イヌアラシがそう解決案を出した。イヌアラシはここが落ち着くまで残って、後からワノ国へと向かうらしい。その際にモモの助を連れて来るとの事だ。

 

そういう訳で、私達は四手に分かれて行動する事となった。

ゾウ居残り組はモモの助やイヌアラシ、他のミンク族。

ワノ国組は錦えもんを始めとした侍達、カン十郎も。そしてサンジ奪還に参加出来なかった海賊組。

『不死鳥海賊団』探索にはネコマムシとその配下。

サンジ奪還には、私、ナミさん、ペローナちゃん、シャルリア、それからルフィやペコムズ達。

 

サンジ奪還組に関しては先行組と後発組に分かれるし、正確には五手に分かれて、かな?

 

……ただサンジを取り返すだけなら簡単だと思う。でも、ドレスローザでの事もある。……安城さんが何も仕掛けてこないとは考えづらい。ドレスローザでの色々だって、安城さんが噛んでる件が結構あった。直接狙いに来ず、遠回しな嫌がらせみたいな事をしてくる理由は分からないけど……今回も何かしらはあるって覚悟をしておいた方が良いだろう。

 

 


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