ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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223『女好き、毒、食す』

ゾウを発ってから数日が経過したある日の朝、食糧などを保管する倉庫の方からナミさんの悲鳴が聞こえ、全速力でその場に駆けつけた私を待っていたのは倉庫の前でへたり込んでがくりと項垂れているナミさんの姿で。

 

「えっと……ナミさん?なんか色々察しちゃったけど、どうかした……?」

 

「……何もないのよ」

 

「あー……」

 

数日前、ペローナちゃんが獲ってくれた魚達は、サイズも大きく数もそれなりにあった。とはいえ、これからビッグ・マムの拠点としている島までどれだけ掛かるか分からない以上は無駄遣い出来ないという話になったので、1人1人食べる量が制限されていた。実際、ここ数日は嵐が続いていてとてもじゃないけど釣りとか出来る状態じゃなかったし。

……まぁ、いずれこういう事が起きるかもとは思っていたけどね。そんな生活に耐えられそうもない男が1人この船に乗ってるし……。乗ってるっていうか、(トップ)というか。

 

「またペローナに獲って貰うのが1番だけど……」

 

「この時間はまだ寝てるもんね」

 

ペローナちゃんは朝に弱く、一味の中では誰よりも遅く起床する。遅い時は昼の3時とかに起きてくるけど、眠たそうにしてるペローナちゃんも可愛いんだよねぇ、これが。

 

私が起こせば恐らく動いてはくれるだろうけど、間違いなく機嫌が悪くなる。それに、気持ちよさそうに寝てるペローナちゃんを起こすのはかなり躊躇われるし。

とはいえ、食材が無いのは困るからなんとかしなければいけない事に変わりはないんだけども。

1番良いのは釣りかな?まぁ、釣りは釣りで大変だが……。というのも、この辺りの海域が猛暑だからである。新世界の海はちょっと進めば夏だとか冬だとかを繰り返す。近くにある島が夏島か冬島か、はたまた春島か秋島かというのが影響するらしいけど、詳しくは忘れた。とにかく春夏秋冬がデタラメな海、それが新世界なのだ。

話は戻るけど、今は丁度運悪く猛暑の海域で、空から燦々と降り注ぐ太陽光が私達をジリジリと襲っているので、どうしても甲板に立たなくちゃいけない釣りなどの作業は苦痛で仕方がないという訳である。私は暑さ耐性を上げれば無問題だけど。どや。

それに問題はただ暑いってだけでもないんだよねぇ。

 

「とりあえず、ルフィには働いて貰うわ」

 

「コックとして?」

 

「仕事増やす気?勿論、釣りで、よ」

 

ゆらゆらと立ち上がったナミさんが般若の顔でルフィの元へと歩いていくのを見送り、静かに合掌する。ナミさん、ルフィを殴る時は覇気使えてるのか?と思うくらい強烈なのお見舞いするからね……。ゴム人間が痛がる覇気無しのパンチって何……??

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……なァ、イリス、ナミって覇気使えるんじゃねェか……?」

 

「否定出来ないけど、もう1回強烈なの喰らいたくなかったら手元と視線の先に集中してね」

 

あァ……。と、普段の姿からは想像もつかない程元気の無いルフィが舷に腰掛けながら釣竿を揺らす。その顔は原型を留められない程ボコボコにされており、ちゃんと前は見えているのかな、とか心配してるのかしていないのか微妙な感想が心に浮かんできた。

 

現在釣りをしているのは私とルフィだけで、ナミさんとキャロットには日陰で涼んでもらっている。チョッパーはペコムズに付いてて、ペローナちゃんは言わずもがな。

 

「あちィ……イリスは暑く……あ、そういえば、それも倍加出来るんだったな……」

 

「まーね、中々厳しい日照りだけど私には影響無いかな、頑張れ!」

 

「……」

 

グッと親指を立てれば、でこぼこの顔でも分かるくらいげんなりした顔になった。

釣りの成果次第では昼飯は抜きだし、晩も無い可能性が高い。最悪叶に連絡を取って食糧を届けて貰わないといけないかもしれないし……倉庫、鍵閉めないとなぁ。

 

「……つってもよ、これ、魚釣れんのか……?」

 

ルフィが見つめる先では、湯気で見えづらい海面がボコボコと音を立てて煮えていた。……比喩じゃないのが新世界の怖い所で、本当にマグマみたく煮えたぎってるんだけども。

嵐という問題は過ぎたけど、今度はこの沸騰海が問題となって釣果は期待できそうもない。

 

「垂らすだけ垂らしてみようよ、もしかしたら釣れるかもしれないし……多分」

 

「多分ってお前……、……お、……おお!?引いてるぞ!」

 

「え!?」

 

こんなマグマみたいな海を泳いでる魚居るんだ……。しかも竿が結構しなってるからかかった獲物はかなりの大きさだと言う事が分かる、これは釣るしかない!

 

「頑張ってルフィ!」

 

「お、おおお〜!!」

 

色々と後がないルフィが必死に竿を引き、徐々に海面に大きな影が浮かび上がって来て、遂に釣り上げる事に成功した。

 

「おっと!」

 

勢い良く釣り上げた魚が、そのままサニー号に叩きつけられそうだったので落ちる直前に受け止める。

うぇ……なんか皮すごいぬるぬるしてる……ぺっぺっ!粘液が口に入っちゃった……!

 

『あ、イリス、そいつ確か皮に猛毒があったから気を付けてね』

 

「遅いけど!!?」

 

『まぁまぁ、落ち着いて。効力はルフィが死にかけるくらいで……後は』

 

「呑気!!大体さ、分かってるのならもう少し早めに言ってくれても」

 

『解毒する為に美女がキスしてくれる』

 

「分かった!自力で解毒しない!」

 

『焚き付けておいてあれだけど、無理はしないでね?サンジの手紙が原作と違うって事は、これから先もどこか変わってる可能性あるし、美女も現れるかどうか分かんないから」

 

とりあえず魚をそっと甲板に置き、どうせならと表面の皮を千切って口に放り込んだ。

 

「……ぅ……っ!」

 

「ちょ……イリス!どんな毒を持ってるかも分からないのに何口に含んでるのよ!」

 

「っ……あはは……ごめん、でも大丈夫だよ。だけど毒はあるっぽいからみんなは食べないようにね」

 

……大丈夫っていうのは嘘だけど。

いやー、思ってたよりずっと毒が強くてビックリしたけど、なんとか自然治癒力を倍加させて毒に対抗出来たかな。毒を摂取する前なら毒耐性を倍加させる事で抑える事が出来るけど、一度取り込んでしまえば耐性上げても一緒だし。

とはいえ、この毒がかなり強烈である事に変わりはない。間違ってもナミさんやペローナちゃん、キャロットの口には入らないようにしないと。

 

「やっぱり毒があるんじゃないの……!ちょっと待ってて、サンジ君の本棚から魚図鑑取ってくるから。絶対もうそれ以上食べるんじゃないわよ?」

 

「うん」

 

それだけ言うと、ナミさんは船内へと走って行った。

 

……これ、ちょっとまずいかな?30倍じゃ追い付かなくなってきたんだけど。少し寒い気もしてきたし……。

 

「ごふ……っ!」

 

急に胃から熱いものを感じて咄嗟に口元を手で覆えば、咳き込んだ拍子に血反吐を手の平にぶち撒けてしまった。

……え、この魚の毒ってマゼランと同格以上なの……?そんな生物が普通に海を泳いでるって、新世界……改めておかしいよね。

 

「イリス!?大丈夫か!?」

 

「あー……うん、見た目よりは平気。でもこれで分かったでしょ?その魚はきちんと調理しないと食べられないからね」

 

「そんな事言ってる場合じゃねェだろ!お前、血ィ吐いてるじゃねェか!」

 

あのルフィですらオロオロしている所を見るに、今の私はかなり弱って見えるみたいだ。まぁ、汗びっしょりの血反吐どばぁだから仕方ないのかもしれないけど、最終的には女王化で治癒力を100倍すれば良いだけだからそう気にする事でもない。

 

「イリスっ!やっぱりその皮猛毒がある!ほら、このページ、サンジ君のメモが……って、あんた、血が……!」

 

「うぅ……本当に心配かけてごめん……」

 

戻ってきたナミさんからもそう言われ、ちょっと無鉄砲過ぎたかな……と今更ながらに思う。

美女にキスされたいが為に毒喰らって、しかも治す気はないって、そりゃあ心配かけるだろう。とにかく事が済んだら謝り倒すしか無さそうだ。

 

「っとと……」

 

「ちょっと……!ルフィ!チョッパー呼んできて!」

 

「おう!」

 

ふらつき、がくんと膝を折って尻餅をつく。慌ててナミさんがルフィに指示を出し、その場で私を寝かして、頭の下に自身の膝を潜り込ませて膝枕の形を取った。どの体勢が私に取って1番効果があるのかを知り尽くしてるナミさんらしい手際の良さだ。

 

「ほんと、大丈夫だよ?……この後、なんか美女がキスしてくれるんだって」

 

「それとあんたが毒にかかる事になんの関係があるのよ!」

 

「なんか……解毒がどうとか……」

 

「……はぁ、もう……!」

 

大きくため息をついたナミさんが、諦めた様に項垂れて私の前髪を撫でる。心配かけて申し訳ないって気持ちは勿論あるけど、これはこれで役得だ。

 

それに、毒の侵食と治癒を繰り返してるからか毒に対する耐性が急速的に上がってる気がする。この魚の毒はかなり強烈だったけど、段々と苦しみが薄れていっているのだ。完全に毒が体内から居なくなられるとそれはそれで困るんだけど……。

 

「……ん?雪?」

 

「雪は雪でも、あの雲は甘み雲だから“わたあめ雪”ね」

 

まーたよく分からない天候って事かぁ……。マグマみたいな海域は抜け出したのかな?

 

 

「プルルルルル!!」

 

 

「んん……今度は何?」

 

「電伝虫が何か受信したみたいね、普段と鳴き声が違うのが気になるけど……」

 

と、そこへチョッパーを連れたルフィが戻ってきて、もう怪我の具合は大丈夫なのかペコムズも一緒に歩いて来た。

 

「警告念波をキャッチしただけだ、ビッグ・マムのナワバリに入った。お前ら、隠れるか変装をしろ」

 

「それよりイリス、お前平気か!?いつもはそんな拾い食いみたいな事しねェのになんで食っちゃったんだよ!」

 

とたとたと駆け寄って来たチョッパーがテキパキと私の症状を確認していく。チョッパー曰く、猛毒なのは間違いない上に今は対処法が無いから打つ手がないとか。解毒薬を作る為の材料が足りないみたいで自分を責めていたけど、元々の原因は私だし万が一でも死ぬ様な事にはならないのだからそんなに気にしないで欲しい……ていうのは無理だよね。

 

「まぁ……起き上がるのはだるいけど、今すぐどうこうって事も無いから大丈夫。それより……前方から何か気配を感じるんだけど……、結構大人数だし、大型の船とか迫ってない……?」

 

「ああ、なんか来てるぞ!かたつむりみてェな船だ!」

 

「!……あれは、ウチの偵察船(タルト)じゃねェ……!まさか……!!」

 

……良く分かんないけど、かたつむりの様な船がサニー号の進行方向に居るって事だよね。となると、状況的に考えてその船にキスで解毒とかいう素晴らしい行為をしてくれる美女が居るって事だろう。

 

『──こちら「ジェルマ」、麦わらの一味の船と見受ける』

 

船の方からそんな声が聞こえて……って、ジェルマ66(ダブルシックス)?という事はサンジも居るのかな。

ん??となると先行組を送り込んだ意味が無くなっちゃうんじゃ……!?

 

 


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