ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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225『女好き、絶体絶命』

「レイジュもサンジを探してるなら、私達と一緒に行かない?」

 

「え?」

 

いや、え?じゃなくてさ。

サンジのお姉ちゃんだけど、そんな事は関係無く嫁にしたいと思えるだけの美貌と、私の素性を知っていて命を助けようとする優しさ……もうね、逃したら絶対後悔する。

 

「正直に言っちゃえば、嫁になってくれない?」

 

「……ふふ、やっぱり貴女、面白いわ」

 

「あなたはやっぱり綺麗だね。で、どうかな?」

 

「とても残念だけど、私には貴女の嫁は務まらないし、その余裕も無いの。悪いけれど他を当たってくれるかしら」

 

じゃあね、と私の答えを聞かずにレイジュは来た時同様ひとっ跳びでカタツムリの船へと帰っていった。あんなスカートでは軽く跳躍しただけでも中が見えてしまいそうなのに、何故だかレイジュのは鉄壁の守りを誇っている。まぁ、いずれ脱がせば見える事だけど。

 

「……お前、ビッグ・マム海賊団のペコムズだろう?何故麦わらの一味と一緒に居る?」

 

「今更だな、ガオ!こっちにゃこっちの都合があるんだ、いちいち話す事はねェ!まだ俺とお前らの間には何の縁もねェんだからな!」

 

「確かにそうね、一先ずここでは何も見なかった事にするわ!今騒ぎを起こして弟の結婚が破談になっては事だもの。お互い、慎重に行きましょう」

 

「何がどう“事”なのかは知らないけど、先に謝っておくね、それ、破談になるよ」

 

私達が行くし。

と、不敵に笑っておいた。

 

「あなたとはまた近いうちに会いそうだし、その時には嫁になってね!」

 

「……ふ、それは貴女次第よ、小さな女王さん」

 

小さな、か。まだまだ夢は遠そうだ。

でも、私次第って事はこれ、脈アリかナシかで言えばアリでしょ!?いやまぁ、無くってもどうにかしてアリにするんだけど。

 

“じゃあね”と軽く手を振ってレイジュ達を乗せる船は去っていった。

サンジを連れ戻す時とかに立ち向かって来ないことを祈ろう、せっかく嫁に出来そうなんだから。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「────ふぅ」

 

「ほう、珍しいな、緊張していたのか?」

 

どの口が言うのか、とレイジュはヨンジへちらりと目を向けた後、直ぐに視線を戻した。

ツー、と汗が頰に流れ、無意識のうちに強張っていた体を何回か深呼吸する事で和らげていく。

 

「……やっぱり、『女王』は噂通りの()()ね」

 

「フン、その辺の毒で死にかけていたがな」

 

「そうね、死にかけていたわ。……だけど、それはつまり死んではいないと言う事よ」

 

ぴく、とヨンジの眉が跳ね、直後に怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「あの毒はヨロイオコゼの表皮に含まれるモノ。本来なら、死にかけるんじゃない。死ぬわ」

 

常人ならば舐めただけで即死。巨人族でも口に含めば即死。あの毒はそれ程の劇薬だった。

だが、レイジュが彼女を“怪物”だと評するのはそれだけが理由では無い。

 

「それに、あの子……あれ程の毒素を喰らっておいて、体内で中和しかかっていた」

 

「何だと?」

 

「恐らくだけど、私が助けなくとも本来の回復力だけでヨロイオコゼの毒は綺麗さっぱり無くなっていたでしょうね」

 

そこまで言われてヨンジはようやく目を軽く見開いた。巨人族ですら即死する毒を体内で消し去る寸前だったというのだから当然の反応ではある。が、2人はまだイリスを過小評価している。そもそも、中和しかかっていたのではなく、わざと毒素が消えないラインを保っていたのだ。その気になればあれ程の毒でも瞬時に治療する事が出来るのがイリスの食べた“バイバイの実”の恐ろしい所なのである。

 

「ヨンジ、悪い事は言わないわ、あの子を敵に回すのだけはやめておきなさい」

 

「なんだ、怖いのか?確かに厄介な相手かもしれんがな、我々が総力を掛ければ敗北は無いだろう。懸賞金が10億を超えているとはいえ、所詮は小娘1人だ」

 

「……はぁ。忠告はしたわ」

 

この世界には2人の『女王』と呼ばれる女が存在する。

1人は『四皇』ビッグ・マム。

そしてもう1人が、『四異界』イリス。

懸賞金だけで見るならば、イリスはビッグ・マムの足元を掴んでいる程度であり、実際の彼女もパッと見は人当たりの良さそうな娘でしかない。

が、舐めてかかっていい相手な筈がないのだ。仮にも単騎で当時の海軍大将『青キジ』を撃破する事ができ、あの頂上戦争で獅子奮迅の大立ち回りを繰り広げる事が出来る存在で、かつ……それは2年前の事なのだ。

2年間消息を絶った麦わらの一味が、ここに来て活動を再開した……その2年の間に何があったのかはレイジュには計り知る事は出来ないが、ただ遊んでいたという訳では無いのは間違いない。つまり、2年前よりも更に強くなっている可能性が高い。

そうなってくれば、10億という指標は当てに出来ないというのに……。

 

はぁ、とレイジュは再度ため息をついた。自分達ジェルマが崩壊するのは構わない……いや、むしろそうなれば良いと望んでいる節すらある彼女だが、その事に優しい心を持った『弟』が巻き込まれないかと危惧しているだけだ。

……実際の所、その弟が『女好きの女王』をこの地に呼び寄せたのだと言うことを、彼女は知る由もないのだが。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

そして、時は数日間遡り──。

ここ、ホールケーキアイランドへと叶の能力で先乗りを果たした3人はそれぞれ別行動を取っていた。

目的は勿論、サンジの事に関する情報収集と、あわよくば真の歴史の本文(リオ・ポーネグリフ)の写しを取ること。更にはイリス達がホールケーキアイランドへやってくるまでの土台作りだ。

 

3人の内の1人であるシャルリアは、船を安全に停める事が出来る様にと何処か条件の良い岸を探して森へとやってきていた。人の良い町人に貰った地図では、この森を抜けた先にサニー号を上手く隠せそうな岸辺がある事が記されていて、現地を確かめる為にこうして足を運んだのだが……。

 

「困りましたわ……此処は一体、何処でしょうか」

 

何を隠そう、絶賛迷子中であった。

『聖地マリージョア』を飛び出してから2年、ジャングルの中を駆け回って獣と命懸けの戦闘などをした事もあれば、深い森の中で迷子になり死にかけた事もある。故に、森の中を歩く事に関しては多少の自信もあったのだが。

 

「……あら、おかしいですわね、ここには確か、さっきまで開けた道があった筈なのですが……」

 

何度も歩き回っていればある程度道を把握する事は出来る筈なのだが、何故かシャルリアはこの森の脳内マップを作る事が出来ないでいた。

例えば開けた休憩に適している空間地点で、目印として柔らかい地面に木の枝を刺したりしていたのだが、次にその場所を訪れてみれば刺さった木の枝も開けていた筈の空間も何処にもなく、所狭しと木が並んでいたりする。

 

「……これは、もしかしなくとも、敵の罠に嵌ってしまったのでしょうか。現状から見て、木などが動き道を変えているのは間違いないでしょうし……方向感覚も狂わされますわ」

 

そしてそれは、かなり不味い状況だと言うことを意味している。森で迷子になっているだけならばまだ救いはあった。だが、これはそうではない。

この森自体が……シャルリアをこの地に閉じ込めようとしているのだ。

 

「……となると、下手に動くのは却って危険。必要の無い体力消費は控えるべきですわね。幸い、食べ物には困らないでしょうし」

 

木が動いている可能性があるという事だけが異変ではなく、そもそもこの森自体が普通ではない。まず、視界に映る木、地面にある石の一粒一粒、更にはその地面すらも“お菓子"で出来ているのだから。

 

それに、完全に動きを止めるのも愚策だとシャルリアは理解している。森が独りでに形を変えるなどあり得ないのだから、そこには人為的な能力なりなんなりが絡んでいる筈で、現在のシャルリアの動向はその相手に筒抜けになっていると考えるべきであるからだ。

この木々の1本1本に意思が宿っているというトンデモ現象だったとしてもそれは同じ事で、シャルリアが監視されているという事実は変わらない。そんな場所でおちおちゆっくりもしていられない、という訳だった。

 

「いいえ、こんな所で躓いてはいられません。少しでもイリス様のお役に立たなくては。後ろ向きに考えるのではなく、監視されている事を前提に策を練れば良いだけの事ですわ」

 

少し小声でそう呟く。

声まで筒抜けになっているのか分からないので念の為だ。

 

(森が動いている事、そして、私に監視がある事。この事に私がまだ気付いていないと思わせましょう。見た所枝を刺した地面はそう遠くまで動けないようですし、恐らく“動けて"いるのは数10メートルだけ……ならば、まだ目印として役には立ちます)

 

ならばとシャルリアはまた歩行を再開した。立ち止まって考えるのは不審に見えると思ったからだ。

歩きながらもシャルリアは頭を動かし続けていく。

 

(私が麦わらの一味だとは流石にまだ伝わっていない筈ですので、恐らくこの妨害は侵入者である私を外に逃がさない為のモノ。となると、優先的に防がれるのは岸へと続く道になるでしょう。逆に言えば、防がれた道の向こう側を目指せば良い)

 

優先的に岸への道を防ぐとはいっても、その方向へ進む道を全て無くす事は無い、と考える。理由としては、あくまでも監視者の目的はシャルリアを森の中で彷徨わせ続ける事。絶対に塞がっている道などという分かりやすい目印を残す筈がないのだ。

つまり、迷ったフリを続けながら、時折開く岸方面への道をこれまた迷っているフリで通れば、出れるかどうかはともかくとして少しでも目的地へ近づく事が出来るのである。

 

「ふむ……ここも行き止まりですか。ならあちらに行ってみましょう」

 

付近に木の枝を刺し、自然と目的地に近付く道を歩いて行く。時には来た道をわざと戻ったりしながら、気付いていないとアピールする事も忘れない。

 

それを何度も繰り返し、日が傾いて来た頃──遂に、沢山の木々の向こう側に深い青色が見えてきた。

“海の近くまで来たとシャルリアが気付いている"事に気付かれたくないシャルリアは、顔はそのままで視線だけを海へ向けた。

 

(ここまで来れば、木が移動する前に走り抜ける事は可能ですが……それは得策ではないですわね。地図通りの海岸があるのを確認出来ただけ僥倖でしょう、深追いは首を絞めるだけになります、か)

 

シャルリアは、海岸に辿り着けばゴールという訳では無い。ブルックやペドロ達と合流する為にもこの森を抜け出す必要があるのだ。

幸いな事にこの瞬間までシャルリアが異変に気付いているという事を相手はまだ気付いていない。だが、この場で一気に海へと走れば流石に気付いてしまうだろう。

最終的に気付かれるのは仕方ないとしても、それは戻る時がいい筈だ、とシャルリアは考える。

 

そこまで考えてシャルリアは1つため息をついた。いや、つくフリと言った方が正しいか。迷った挙句、帰り道が分からなくなり途方に暮れる様子を演出しているのだ。名女優も顔負けな自然体の演技で物憂げな表情を浮かばせて、仕方なしに足は動かす……と見せかけ、帰り道を歩いて行く。

 

「……え?」

 

──だが、帰る方向へと振り向いたシャルリアの視線の先に広がっていたのは、明らかに異常な光景だった。

 

「くすくす、あなた、侵入者ね?」

 

「ネズミ一匹だけか?報告にあった数と合致しないが……まだ付近に隠れているだけなのか」

 

シャルリアへと近付いてくる2つの影、それを避ける様にして先程まで巧みに道を塞いでいた木々達が、まるで重役を出迎える騎士達の如く横へと逸れ、1本の大きな道を作り上げていた。

 

「オーブン様、フランペ様、この森に侵入したのはあの者だけで御座います」

 

「そうか、では速やかに残りの2人を探し出し、私に連絡しろ」

 

「はい!オーブン様!」

 

オーブン、と呼ばれたのは、まるで燃える火を現しているかの様な髪型をしたガタイの良い男。消去法でフランペというのはその隣に“浮かんでいる"女の事だろう。

 

「っ……」

 

更に、2人の名を呼んだのは人ではなく近くに生えている木だった。最悪な事にシャルリアが最初に思い浮かんだ『木に意思がある』というトンデモ現象が正しかったのだ。

その上、シャルリアをただ迷わせて餓死等を狙っていた訳でもなく、この2人が現場に到着する為の時間稼ぎだったというのだから目も当てられない。つまり、どれだけシャルリアが演技をしようともこの結末は変わらなかったという話だ。

 

「さて、見た所大した実力も無さそうな貴様がどうやってこの地に侵入したのかは分からんが……近くに大事なイベントも控えているのだ、死んでもらおう」

 

そしてゆらりと、オーブンの手に熱が宿った。

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