「ほうほう、そうでありましたか!これは失礼、てっきり敵船かと……」
「ガオ!そうじゃねェ、アレは俺が敵から奪ったモノだ。中にお土産のお菓子がたっぷり詰まってる。サプライズなんだ、ママには報告するな」
「あ〜〜!素敵ですね!分かりました!」
レイジュ達と別れてすぐ、私達はチョコの匂い漂う甘い島へと辿り着いていた。船の事はペコムズが上手く誤魔化してくれているみたいで、チェスの『ポーン』の様な格好をした兵士とその様に話している。
兵士もペコムズの言葉を疑うつもりは無いのか素直に信じ、ささっとその場を離れていった。
人の目を気にする必要が無くなった途端、ルフィとチョッパーがそそくさと船を出て島の内部へと走っていく。制止する間もないし……とはいえ、あの2人にとってはこの島は天国みたいなもんだし、仕方ないか。
なんたって遠目で見ても分かるけど、街は家や街灯、その他の殆どがチョコレートで出来ている様なのだ。甘い物好きのチョッパーや、そもそも食べ物に目がないルフィを止められる筈もない。この場にミキータが居れば、彼女も2人と一緒に街へ繰り出してたかも。
「お前ら、適当な服に着替えろ、ガオ!出来るだけ一般人に紛れられそうな普通の服がいい」
「分かった、メイド服とか?」
「普通って知ってるか?」
冗談なのにマジなトーンで返された……、そこまで常識が無いと思われてるのだとしたら普通にショック。普通に。
と、いう事で普通の服に着替えてみた。以前のメイド服が特別だっただけで、普段から私達はそうそう変な格好など(フランキーを除く)していないけど。
「どう?イリス、海賊に見える?」
「初デートでおめかし頑張った可愛すぎる子に見える!」
「そう?ありがと」
そういうナミさんの格好は、肩紐付きの紅色ジャンパーミニスカートの下にフリルのついた白いシャツを着込むとかいう、ナミさんの様なボンキュッボンが着れば犯罪レベルになってしまうコーデで、ぶっちゃけムラっとくる。しかも髪型は空島で見た二つ結びのおさげだし、少女の様な可愛さもあって堪らない。
私は普段通りラフなTシャツ、ショートパンツスタイルだ。色は上が白で下が黒。私が着るなら可愛さとかよりも動きやすさで選ぶのが1番だと思う。普段と同じなら変装にならないかもしれないけど、まぁ私は子供っぽい見た目だし、変に着飾らない方が目立たな……子供違うから!
「ったく、なんだってこんな服着なきゃならねェんだ……趣味じゃねェんだよ」
ぶつぶつ言いながら寝室から歩いて来たのは、ティアードデザインの白いトップスを着て、下には足首までの黒色をしたスキニーパンツを履いたペローナちゃんだ。出来る大人な女性って風貌で、普段のゴスロリ風ダークファッションじゃ無い為とても新鮮である。すっごく可愛い。ちなみに服装に合わせて髪型もローポニテになっており、ペローナちゃんの特徴でもあるふわふわの髪が首を動かす度に揺れてて抱き付きたい衝動に駆られている。はぁー可愛い。
「ナミもイリスもペローナも素敵〜!可愛いよ!」
お前もじゃい!と声を大にして叫びたい衝動に駆られる……!キャロットめ……さては己の可愛さに気が付いていない??
キャロットは薄緑色を基調としたフリル付きのワンピースに身を包んでいて、真ん中を白黒の縦縞が3本走っている。フリルの所は他とは違い濃い緑色となっていて、意外にもキャロットの持つ綺麗な金髪と程よくマッチする色合いとなっていた。
「ねね、どうペコムズ、うちの嫁可愛くない?」
「何言ってんのよ、あんたも可愛いでしょ」
「惚気なら別のとこでやってくれ。それよりもホールケーキアイランドまでは後1日はかかる。保つ筈だった食糧はそっちの船長が全部食っちまったから、代わりに食糧買って来い」
む……目的地まで後1日か。ゾウを出てからもう一週間近くは経過してるんだ……。
「……」
なのに、シャルリア達からの連絡はまだ来ていない。ただ伝える程の進展が無いってだけなら良いけど……敵地だから最悪の事態が頭をよぎってしまうし……はぁ、もうこっちから連絡しようかな。
「イリス、気にしても仕方が無いわよ。確かに心配だけど……今の私達にはどうする事も出来ない。だから少しでも準備を整えてシャルリア達と合流しましょ?」
「ナミさん……うん、そうだよね、ごめん、ありがとう!もう大丈夫!」
心配なのに変わりはないけど、ナミさんの言う事は正しかった。後発の私が心配で一杯になっていては上手く行くものも行かなくなるかもしれない。普段通りの気持ちで臨まないと変なとこで足元掬われるかもだし。
気持ちを切り替えて私達はルフィ達に続き街へと繰り出した。まぁ、ペコムズが居るから今は隠れて街中を覗き込んでいるだけだけど。
それに今更だけど、服装を一般人っぽくした所でナミさんもペローナちゃんもキャロットも素材が良すぎるから結局目立つんじゃないかな……。
「それにしてもライオン、なんだこの島、人種も何もあったもんじゃねェ」
ペローナちゃんが少々驚いた様にそう言うので見てみれば、確かに色んな人種が街を歩き、異種族同士で仲良く語り合っていた。中には結婚もしているのか友達とは思えない距離感で接している組も存在している。
「その事か。簡単に言やァ、それこそがママの夢なのさ、世界中の全種族が差別無く暮らせる国……いや、この世の全てだ」
「この世の全てって、なんだかワンピースみたいだけど」
「それ程価値のあるものにしてェのさ、ママは。もはやここはただの国じゃねェ、大国だと思え!俺らが目指しているホールケーキアイランドの周りには34の島が点在し、それらを34人の『大臣』達が治めている。その海域の総称は“
「へぇ……え、全て!?」
家とか街灯がチョコなんだなぁっていうのは分かってたけど、その全てがチョコとまでは予想出来なかった……!
例えば他の国とかもそうだったりするのかな?アメ大臣なら街はアメで、クリーム大臣ならクリームで、みたいな。甘い物が好きな人からすれば天国じゃん……!
「だが、窓ガラスはキャンディー大臣、柱はビスケット大臣の管轄だ。勿論それらにもチョコレートでコーティングがされているが」
「ペコムズ!私チョコレート大好き!食べていいの?」
「ああ、この町ではチョコは好きなだけ食っていい……が、屋根の瓦チョコは法に触れる。雨風が凌げなくなるからな。それから柱や建物などの私物、公共物もダメだ」
キャロットが「じゃあ何なら食べられるの?」と言いたげに首を傾げた。でも確かに、好きなだけ食べていいとは言ってもかなり制限……というか細かい法令がある様だ。
考えてみれば当然で、本当に好きなだけ食べていいってなったら街はめちゃくちゃになるだろう。
まぁ、所々に生えている木の形をしたチョコなどは流石に大丈夫だろうから、それらの法をしっかり守ってもたっぷりとチョコレートを味わう事は出来そうだけど。
「俺は顔が差すから船に戻っているが、チョコは大好きだ!土産を頼む!」
「うん、買えたらね」
「食糧を調達するついでだろ、ガオ!……ん?そういえば麦わら達は何処に居る?」
「ルフィ達ならもう街に行ったよ」
買えたら、とか含みのある言い方をしたのはこれが理由だ。あのルフィが先行して突っ走って騒ぎを起こさない訳がなく、チョコを買う所か食糧調達を出来るかどうかも怪しい所なのだ。
慣れてる私達やそういう事を気にしないキャロットはともかく、ペコムズはその事実に大層慌てて声を荒らげた。
「街に行ったって……あの格好のままか!?お前らを俺が連れてきたとバレたら俺ァどうなると思う!?慎重に動け!」
「大丈夫大丈夫、場所なら直ぐに分かるよ」
「……そうか!お前の見聞色なら!」
そうペコムズが納得しかけた直後、街の方面から『カフェ食い事件だーー!!!』と大きな声が聞こえてきた。それと同時にペコムズの顔からサッと血の気が失せていく。
「あっちだね!」
「フザけんな!!お前らの船長の尻拭いでわざわざカカオ島に降りたんだぞ!?」
ペコムズの言う事は尤もなんだけど、ルフィの行動は誰かが縛れる様な物じゃないし。船員の私がこういうのもなんだけど、仕方ないというかね?
「最悪戦闘になるかも。そうなったらナミさん達は下がっててくれる?」
「イヤよ。さ、行きましょ」
私の申し出を笑顔で断ってナミさんは歩き出した。ペローナちゃんも呆れた顔で続き、私の手を引っ張ってくる。
……もしかして私の嫁って、可愛さだけじゃなくて格好良さも兼ね備えているのでは?なんて、知ってるけど。
ていうかペローナちゃん、自然に私の手を取って先導してくれてるんだよね。服装も普段と違ってスッキリした格好良い感じだからなんか……なんかこう、クる。
少し変なテンションになりながら歩を進める事数分、『カフェ食い事件』とかいう珍重な事件の現場に辿り着いた私達は、他の野次馬達に紛れて事の中心の様子を観察する事にした。
「わ、ルフィ達だ……!」
「本当に
「今回はルフィだけじゃなくてチョッパーもだけどね」
チョッパーは甘い物が大好物だから……とはいえ、今回はかなり食べてしまったみたいだけど。
ルフィもチョッパーもどう食べたらそうなるのかってくらい体が風船の様に膨らんでいる。ルフィはゴム人間だからまだ理解出来るけど、チョッパーは……これも甘い物の力なのかな。
さて、ここからどうしようかな。ルフィとチョッパーは食べ過ぎでその場を離れられないらしいし、『器物破損』の容疑で警官の様なおじちゃんに連行されかけてる。放っておいてもあの2人なら大人しく連行される事はないだろうけど、そうなってしまえば騒ぎになるのは避けられないし、結果として私達の正体がバレてしまう。せっかく侵入って形を取っているのにその意味が無くなるのは出来るだけ避けたい事態だ。
「待って、チョコポリスさん!」
「ん?」
どうしたものかと頭を捻っていたその時、上空から顔のついた絨毯に乗って1人の女性が現れた。
そのままふわりと地面に降りて、その女性も優雅な足取りで地に足をつけ警官の方へ歩いて行く。
ていうか、ちょっと……!!あの女の人……!!!
「か、可愛い……!!」
ふわふわの肩甲骨あたりまで伸びてるツインテールに、くりりと綺麗な瞳。あどけなさを残す鼻筋に、ぷっくりと吸い付きがいのありそうな唇。
可愛すぎる……私の嫁達にも劣らない逸材……!!まさかちょっと寄っただけの島で出会えるなんて!
袖口や裾、襟にフリルのついたカットソーを着て、下半身はダボっとした……ええっと、なんだっけ、アラジンが履いてそうなやつ。なんたらパンツって言うんだけど名前忘れちゃった。まぁそれを履いていて、最低限の可愛さも付与しているけどどちらかと言えば動きやすさ重視って感じの格好をしている。
どちらにせよ、可愛い事に変わりはない!名前もまだ知らないけど、とにかく嫁にしよう!