ナミさん達が買ってきた食糧を倉庫に収め終わった頃、トイレの方からチョッパーの皆を呼ぶ声が聞こえて小走りでその場へと向かう。
トイレに呼ぶってどういう状況なんだろうと思いつつ辿り着けば、チョッパーがトイレ内の床に“彫られた"文字を指差していた。
「『ひきかえせ』……って、引き返せ、だよね」
「これペコマムシが書いたのか?」
「それは分からないけど……、……うん、近くにペコムズの気配を感じられない。誰かに連れ去られたか、もしくは不測の事態に襲われて、慌ててこの文字を残して逃げたか」
なんにせよ、ペコムズはもうこの船には居ないという事だ。つまり、私達は唯一の案内人を失ってしまった事になる。
「引き返せって事は、引き返さなきゃ何か起きるぞって事だ」
「だね。じゃあこういう時どうするのが1番だと思う?
にんまりと、答えは分かっていながらルフィに少し演技かかった口調で問えば、ルフィはいつもの様に気負いなく自身ありげな表情で頷いた。
「進んだら何かある、みんなそれをしっかり覚えとけ!──進むぞ!面白くなってきた!」
『オー!!』
元よりサンジを連れ戻しにきた私達にとって『引き返す』という選択肢は無い。それにその事を抜きにしたって、うちの船長は来るなと言われたら行くタイプの人間である、ここまでお膳立てされてて進まない訳が無かった。
「……正気?お茶会を邪魔すればママが黙っていないわよ」
「黙っていなくてもいいよ、黙らせれば良いんでしょ?」
「それが簡単に出来るのなら、ママは世間から“四皇"だと呼ばれていないわ」
「簡単に出来ないことをやってのけるから、私は世間から“四異界"だと呼ばれてるんだよ?」
それに、沙彩も居るからねぇ。敵に回るのならばまだしも、まず味方になってくれるだろうし。
あ、でもビッグ・マムって今世での沙彩の母親なんだよね。じゃああんまり戦ったりしちゃうと沙彩的には複雑な気持ちになってしまうかも……。
「進むのは分かったが、これからどうするんだ。ペコムズの話を聞いた限りだと、私達の目指すホールケーキアイランドの周りには34の島が点在してるんだろ。そいつらの監視網を潜り抜けながらどうやって中心に近付くんだ」
「最悪の場合は、本当に乱戦になっちゃうかもだけど……ねぇプリンちゃん」
「この状況で普通私を頼る?教える訳ないじゃない、あんた達なんか兄様や姉様達にボコボコにされればいいわ」
まぁ、だよね。仮にも誘拐されてる立場で脅されてる訳でもないのに口を割ったりはしないか。
かといって本当に脅したりとか出来る訳もないし……。
『ふっふっふ、こんな時の為の私じゃあないかな?』
あ、そうか!私達が知らなくても王華なら知ってるんだ。
普段は過度な干渉をしてこない王華だけど、こうして私達が本当に困った時なんかは原作の知識を活かしてフォローしてくれるからかなり助かっている。拝んでおこう。
なんであれ、ありがとう、余計な戦闘を避けられるのは凄く助かるよ。
『気にしないで、私だって沙彩とお話したいしさ』
そういう訳で、残念ながらプリンちゃんの手は借りられなかったけど、この世界においては反則級の知識を持った王華に道案内して貰える事となった。
その事をみんなにも伝えて、操舵の方は私が担当する事に。
ちなみにプリンちゃんとキャロットは意味が分からず首を傾げていたけど。プリンちゃんは王華を知らないし、キャロットも一目見たくらいだろうから仕方ないんだけど。
「ええと、次の島が見えたら
「うん、そうだね」
ナミさんは魚人島で新世界でも通用する
今回私達がホールケーキアイランドへ真っ直ぐ向かう為にはその3本の針を上手く使いこなす必要があるらしい。王華が言うには、ホールケーキアイランドに上陸しても色々罠が待っているらしいけど……それは上陸してからなんとかすればいいだけの事だ。
で、1番最初に指針となるのは『2』の針で、この針が差す方向へと舵を切れば良いらしい。
『1』とか『2』とか言うけど、結局どの針が『1』で『2』で『3』なのか、というのはその針自体に書いているらしい。一応識別番号みたいなのはあったんだね。
「イリス、面舵お願い。3時の方向へ」
「サンジの方角に行くぞ!面舵いっぱーーい!!」
「それは回し過ぎじゃないかな……」
ここで前世では得られなかった知識をドヤ顔で披露しようと思う。
面舵っていうのは船の進行方向を右に向ける事で、逆に左に向ける事は取り舵というのだ!『面舵いっぱい』は言葉の通り目一杯舵を右に切る事、『取り舵いっぱい』はその反対である!
まぁつまる所、『いっぱい』は急な方向転換くらいにしか使わないから今回に限っては回し過ぎなんで、私はナミさんの指示に従って3時の方向へゆるりと回した。
ぶっちゃけ、うちで1番操舵が上手いのはフランキーなんだけど、今は居ないからなぁ。
『島に近付く前に次の島へ方向転換する事で、敵の監視網をすり抜けられるんだよ』
「へぇ、流石、詳しいね」
『まぁね、好きだったから。……だからこの大好きな世界で、大好きな人達と……美咲達と、過ごしたいんだ』
「……そうだね」
美咲は、王華にとって初めての嫁だ。それと同時に私にとっても大恩ある人物である。なんたって彼女が王華に『ハーレム』の道を示していなければ、私はこうしてナミさん達と幸せに旅する事なんて出来なかっただろうし。
だから私も美咲の事は出来るだけ早く助けてあげたいと思っているし、その時がくれば全力で王華をアシストするつもりだ。
「次の島が見えるまでは少し距離があるみたいだから、私はご飯を作ってくるわ。もうルフィに作らせる訳にはいかないから」
「あ、うん、ありがとう。デザートはチョコが良いんだけどなぁ」
「なんであんた達がその航路を知ってるの……って、私を見るな!作る訳ないでしょ!」
それは残念。
でもいずれはミキータとの合作とか食べてみたいよね、絶対美味しい、間違いない。
***
王華の案内もあって、ホールケーキアイランドまでの航海は殆ど滞りなく順調に進んだ。残念ながら少しも滞らなかったって訳にはいかず、夜は冷気で飴で出来た海が固まったり、その飴を求めてやってきた数え切れない程の海アリ達に襲われたりとなんやかんや面倒な事態は起きたけど。
「おお、これが……!」
「着いたぞ!ホールケーキアイランドだ!!」
カカオ島を発ってから丸1日、私達はついにホールケーキアイランドへと辿り着いた。
目の前に大きく聳えるケーキで出来たかの様な島にキャロットとチョッパーが歓喜の声を上げる。ここにビッグ・マムと、それから沙彩が居るんだ……!
島というより、本当にホールケーキの集合体みたいな感じだ。沢山のホールケーキが所狭しとひしめき合って、中央に一際大きなホールケーキが聳え立っている。恐らくあそこにビッグ・マムが居るんだろう。
「ナミさん、どうやらあの岬が唯一警備網が届かない場所らしいよ。ホールケーキアイランドの南西の海岸、だって。……ああでも、安全じゃないらしい。王華もそこしか岬を知らないだけだって」
「警備網が届かないのに安全じゃないの?それって普通に届いてるから安全じゃないんでしょ」
まぁ色々気にはなるけど、敵の本拠地に降り立つんだから安全な訳が無いよね。気を引き締めて進む様にしないと。
……それに、未だに連絡が届かないシャルリア達の事も気になる。
「これだけの間連絡が来ないのは明らかに変だわ、ブルックもついてるし、シャルリアも下手な動きはしないと思うけど……」
「ペドロも居るよ!」
「私も無事だって信じてはいるけど……どうしても浮き足立っちゃうっていうか」
「嫁の事になるとお前はいつもそうだろ」
それはそうだけど!
私達は海岸近くに船をつけ、錨を下ろしてから上陸した。
む?地面がなんかふわふわだ……。
「うめェ!地面が固い生クリームだ!」
「メレンゲね、この島もお菓子だらけなのかしら」
地面がメレンゲかぁ、卵の使用量半端じゃ無い事になってそう。
と、そんな事より今はサンジとシャルリア達だよね。シャルリア達に関してはこっちから連絡しても良いんだけど、丁度潜入中だったら電伝虫の鳴き声で気付かれてしまうし、まずはちゃっちゃとサンジを連れ戻す必要がありそう。
肝心のサンジの居場所だけど……。
『それに関しても私に任せてくれる?沙彩と早く合流する為に持ってる知識はじゃんじゃん曝け出すよ!』
「うん、お願い!」
王華がサンジの居場所を教えてくれるのなら、とにかく私が先行してサンジの所に行くのが良いと思う。一応今は大人しいプリンちゃんに関してはナミさん達に任せておけば大丈夫だろうし。
「ねぇナミさん、私、単独でサンジの居る場所に向かっても良い?」
「え?……そりゃあ、あんたなら1人で行動しても滅多な事にはならないと思うけど、場所は分かる?」
「うん、王華が知ってるみたい」
そうと決まれば早速行動開始だ。私が1人先行し、ナミさん達はとにかく地道に進む。
この南西の海岸は目の前の森を抜けた先にあるらしく、ナミさん達が先へ進むのなら当然この森を突っ切らなければいけない。その中で色々罠が潜んでいるらしいのだけど、あんまり教えすぎるのはルフィの望む所じゃないので王華も『色々あるから気をつけて』とだけしか言わなかった。
シャルリア達もそうだけど、一旦離れ離れになるナミさん達の事も心配になる……!でもこれは仕方ない、私が私である以上は嫁を心配するのはやめられないから……!!くっ……!!