ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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オリキャラが2人登場し、次話で名前も出てきますが、彼女達は王華や安城さんの様にストーリーに直接関わりがある訳ではありません。


230『女好き、厨房にて』

「あ、私……そろそろ仕事に戻らなくちゃ」

 

「もう?まだ20分も休憩してないと思うんだけど……」

 

「一応仮にも料理長の立場なので、仲間達より多く休んでる訳には行きませんから」

 

責任感も強いコゼットちゃんがそう言って部屋を出て行こうとするので、ここでお別れは勿体ないと思って手を掴む。

それにちゃんと聞きたい事もあるし。

 

「引き止めてごめん、だけど聞きたい事があって」

 

「サンジ様の居場所ですか?」

 

「あ、それも確かに知りたい!……けど、それとは別件で。コゼットちゃん、シャルリアとブルックと、あとペドロ、この3人の名前を何処かで聞いたことない?えーっと、シャルリアはクリーム色の長い綺麗な髪をした美女でペドロは喋るジャガー、ブルックは骨なんだけど」

 

シャルリアを除いた2人のキャラ濃いよねホント。特にブルック……。知らない人に説明する時、もう骨としか言いようが……あ、アフロも目印にはなるか。

 

コゼットちゃんは暫し唸り、右上を見たり顎を指で摘んだりと考えてくれていたが、どうやら聞き覚えはない様で申し訳無さそうに眉を下げて首を振った。

 

「すみません……名前自体は聞いた事あるんですけど、きっとそういう事ではありませんよね?」

 

「あ、うん、気遣ってくれてありがとう」

 

シャルリアやブルックは名前だけでもそれなりに有名だけど、コゼットちゃんはきちんと言葉足らずな私の質問の意図を理解して返事をくれた。本当に優しいというか、悪く言えば甘いというか……。一応私、侵入者なんだけどね?まぁ、そういう所は素敵だと思うけど。

 

「そうだ、仕事に戻るのなら私もついていって良いかな?」

 

「え?それは……うーん、流石に見つかってしまう様な……」

 

「新人調理師として潜入する!」

 

「む、無理があると思いますけど……!」

 

でも、ここでコゼットちゃんと離れちゃったらもう仲良くなれない気がして……。意地でも接点を作りたいって考えるのは仕方ない事だと思うんだ、うん。

 

「どうしてもダメだって言うのなら、無理矢理ついていく」

 

「何一つとして譲歩出来ていませんよ!?それに、制服も無いと思いますし……!」

 

「新人だから見学しておく!」

 

「そういう問題でもないと思うんですけど……!!……えーっと、どうしても、ですか?」

 

「うん、どうしても!だってコゼットちゃん、可愛いし。絶対嫁に来てもらうから!」

 

幸い……って言葉にするのは極めて癪だけど、私は身長が少しだけ、少しだけ!低い。つまり、新人や見習いとして行ってもそれ程不自然じゃないだろう。……不自然じゃないのだ、ないったらない。

 

「流石に厨房の仲間達には話す必要がありますけど……王族の方々は気付かれないかもしれませんね」

 

「……?」

 

王族には気付かれない。そう言ったコゼットちゃんの表情は、なんだか哀愁めいたものが漂っている気がした。

気にはなるし、コゼットちゃんが哀しいのならば首を突っ込んで解決してあげたい。だけど今はあれやこれやと抱えている状況である事には違いなく……。

コゼットちゃん同様、私も哀愁めいたオーラを漂わせて1つため息をついた。

 

「じゃあ、案内しますね」

 

「うん。あ、でもちょっと待って」

 

見聞色の覇気で部屋の外に人が居るかどうか確認しておかないとね。

本当は覇気を消耗してるから、疲れるし使いたくはないんだけど……まさかコゼットちゃんの部屋から一緒に出て行く所を誰かに見られる訳にはいかないだろう。

新人だと誤魔化すし、基礎的な内容を教育中だったと言えばなんとかなるかもしれないけど念には念を入れるべきだ。

 

「……よし、誰も居ない!お待たせ、もう大丈夫だよ」

 

「?はぁ……」

 

覇気の概念を知らないからか、私の言動に首を傾げて部屋を出るコゼットちゃんに遅れないよう私も続く。

 

厨房へと向かっているのだろう道すがら、コゼットちゃんの後ろ姿を凝視していて気付いたのだけど、びっくりするくらい歩行中の姿勢が良い。王族お抱えの料理長っていうのはこんなスキルまで身に付けないといけないのかと感心する程である。

 

「コゼットちゃんってその歳で料理長だけど、実際ここに勤めて何年目なの?」

 

「今年で8年目です。かつての料理長の方に腕を見込んで頂いたのが15歳の時でしたから」

 

勤続8年かぁ。それで料理長っていうのは普通に凄いのではないだろうか。しかも王族お抱えの。

……あ、味見とか、してもいいよね??普通にコゼットちゃんが作った料理を食べたくなってきた……。

 

ナミさんやペローナちゃんの作る料理は当然最高なんだけど、こと料理の腕となると流石にサンジに軍配が上がる。私達はそんな一流どころではない腕のコックが作った料理を毎日食べていたのだから、急に食べられなくなったら舌が物足りなくなってしまうのだ。あの2年間の修行の時ですら、時たまに思い返して涎を垂らすくらいはしていたのだし。

つまり何が言いたいかというと、それ程の腕を持つ可能性があるコゼットちゃんの料理は、今の私にとって喉から手が出てそのまま引っ掴んで胃袋に引き摺り込みたいくらいには求めてやまない物だという事で。

 

「私、新人だから食べて貢献するね!」

 

「出来るだけ目立たないで居てくれると助かるんですが……」

 

「目立たず食べるよ!」

 

そういう訳じゃないんですよねぇ、みたいな視線を受けながらも華麗に受け流しておく。そもそも、会ったばかりの懸賞金10億程ある海賊相手に警戒心が無さ過ぎるのが悪い。そりゃあ極悪非道な真似の1つや2つされた所で文句は言えまい。例えば摘み食いとか、ぽよんをチラ見とか。

 

 

 

 

そうして、幸いにも誰に見つかる事なく厨房へと辿り着いた私は、まず緊急で集められた料理人を前ににっこり笑顔で立っていた。

集められた人達は当然困惑した表情を浮かべており、集めた張本人であるコゼットちゃんに何やら意味ありげな視線を送っている。

 

「ご紹介に預かりました、イリスです!味見役の新人なので摘み食いしてても怒らないで下さい!」

 

「摘み食いに関しては皆で全力で阻止していきましょう!」

 

コゼットちゃんを含めた料理人の人数は3人。かなり少なくも感じるが、王族の人達の為だけに作ると考えたら普通くらい……なのかな?いや、やっぱり少ないような……後、何故か全員女性である。

 

「あのー、料理長?新人って、休憩までその様な事一度も口にしてないですよね?それに私の目がおかしくなっていないのであれば、彼女は『女王』イリスなのではないですか?もしかして……かの有名な女王の嫁入りでもしました?」

 

やっぱり突然だからこの人達には気付かれちゃうよね。それに正体まで一瞬でバレたし……。10億の手配書は油断出来ないなぁ……。

 

ていうか、私の嫁になってもらうのって女王の嫁入りとか言われてるの?語呂だけでそう言われてるんだろうけど、その言い方だと私がどこかに嫁ぐみたいじゃん。それは絶対イヤなんだけど!

 

「してません!ここを捨ててどこかになんて行けませんよ。イリスさんについては、その、詳しく説明する事は出来ないと言いますか……でも!私達に危害を加える事は無いと思いますので!」

 

私のせいで必死に説得させる事になってしまって申し訳ないけど、コゼットちゃんの手料理は絶対食べておきたい!必要な我儘は意地でも通すのが私だからね……!胸を張って言えた事じゃないけど!!

 

「料理長がそう言うのなら別に良いですけど、そこに居るのは仮にも10億の賞金首ですよ。異例の船長越えを果たしている一騎当千の怪物、その気になれば私達なんて挽肉も同然なんです」

「そうですよ〜、料理長は美人だから大丈夫かもしれませんけどぉ、私なんかいつ殺されたって仕方ないんですから〜」

 

といいつつ、なんやかんや緊張感は無さそうな料理人達。確かに私は自分で言うのもなんだけど高額賞金首だ。今みたいに押さえ込まず、戦闘時の要領でオーラを放出させればこの場で意識を保っていられる人はまず居ないだろう。でも、ここに居る2人共本当の意味で恐がってはいないと言う事が雰囲気で分かるのだ。

私の身長とかもあるんだろうけど、2人共コゼットちゃんを信用しているという事だ。

 

「分かってそうだけど一応言っとくね、あ、言っておきますね、先輩方!私から先輩方に何か危害を加えようって気は一切ないです!それに、確かにコゼットちゃんは凄く可愛いけど、あなた達2人も劣らず可愛いよ、嫁に来る?」

 

意識して変えようと思った敬語も速攻で面倒になって元に戻す。思えば敬語なんて当分使ってないなぁ。最初の頃はナミさんにだけ敬語だったけど……。

 

「えっと……受け答え失敗しても殺されたりしないですか?」

 

「ちゅーはするかも」

 

「……一応パートナー居るんで、それだけはその、許して貰えませんか?」

 

おっと、この人は既に相手持ちだったか。そりゃあそうだ、成人はしてそうだし、普通に生きていれば恋人の1人や2人……。1人や、2人……。

 

「……こ、ここ、コゼットちゃんもこ、ここ、ここ……!」

 

「料理長に恋人は居ませんよ、浮いた話も今まで聞いたことないですね」

 

「た、確かにそういった経験はないですけどぉ!もう少しオブラートに包んで下さい!それに、私はあなたに彼氏さんが居るのを始めて知ったんですけど!」

 

その発言に厨房内で軽く笑いが起き、反面、私はホッとため息をついた。

 

よ、良かった……これでコゼットちゃんに恋人が居たら泣き喚いてしまう所だった。

 

それにしても、上司と部下って関係だけじゃなくしっかりと個人個人での信頼関係も結べているからかかなり雰囲気が良い。普通、上司の独り身を弄ったり笑ったりは出来ない筈だし。

 

「仲良いんだね、みんな」

 

「そうですね、入れ替わりも最近は無かったので、7年は一緒にやってますから」

 

仲が良いと言われたコゼットちゃんは少し得意げにそう返した。でもそうじゃないというか……どれだけ長い歳月を掛けようが、職場内で良好な関係を築き続けるのは難しいって聞いた事あるし。それを考えればこの雰囲気の良さは一重にコゼットちゃんの人柄が齎しているのだろう。

あー……余計に嫁になって欲しいって気持ちが強くなるぅ……!!

 


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