ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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232『女好き、再会のコック』

そんなこんなで、歩くたびに揺れるコゼットちゃんの腰回りを撫で回す様に見つめている事少し、私にとっては一瞬と言っても過言ではないくらいの体感速度でサンジの居る3階の客間の前へと辿り着いていた。

一応周りに人が居ない事を確認し、コゼットちゃんと頷き合って扉に手をかけた時、不意に中から声が聞こえて動きを止める。

 

「──損ない──、息子──ちゃいない」

 

んん?イマイチ良く聞こえないけど、この声はサンジじゃないよね?サンジが書き置きを残した上でとはいえ、一時的でも私達の元を離れた理由が分かったりするかな?

 

ぴったりと耳を扉にくっつけ、コゼットちゃんにも静かにしてもらう様お願いして聴覚倍化を使用する。こんな所誰かに見られちゃったら言い逃れ出来ないくらい不審者だけど、生憎私には精度の良い見聞色がある。付近に人が居ない事は確認済みなのだ。

 

「おい、なんだこれは」

 

「手が大切だと言っていたな、丁度よかった」

 

ガチャン、と音が聞こえたと思えば、直後にサンジの声も聞こえてきた。その次の声の主はさっき途切れ途切れで聞こえた人だと思うけど……誰だろ?見聞色で見る限りだと、部屋の中には3人居るっぽい。

 

「天竜人の奴隷達が付けている“首輪"を知っているか?飼い主から逃げると首ごと爆発するって代物だ。そいつも同じだ、この島から出ようとすると両腕が吹き飛ぶ様になっている」

 

──!!嘘でしょ……!?どういう状況なの!?話を聞いただけじゃ、サンジの両腕に爆発するリングが付けられたってくらいしか分からないけど、そもそも何がどうなったらそうなるの!?

 

「ビッグ・マムが気を効かせて貸してくれたんだ。鍵は彼女が持っている。──まァ、それ以前に我々ジェルマがお前を逃がしはしないがな!結婚はしてもらうぞ!」

 

「ッ、フザけんな!外せ!」

 

「ダメよ!無理に取ろうとしちゃ!」

 

あれ?今聞こえた声……レイジュだ!中にはレイジュも居るんだ、それはラッキーだよね!

……っと、誰かが部屋を出て行こうとしてるみたいだ。堂々としていても良いけど、王族であるサンジに対する態度からして結構偉い人っぽいから万が一を考えて天井に張り付いて隠れる事にした。勿論、私の我儘で連れてきたコゼットちゃんを抱いて。

 

「くれぐれも逃げ出そうなどとは考えない事だ。その腕が大事なのならな」

 

「うるせェ!とっとと俺の視界から消えやがれ!」

 

サンジにそこまで言わせるなんて相当だなぁ、と思いつつ天井から見下ろしていると、中からそれなりに大きな体をした尖った髭の大男が姿を現した。顔の上部分はカブトの面で隠れて目元も良く見えないし、ぶっちゃけ知らないおっちゃんって感じだ。

 

それにしても、サンジの腕に爆弾をしかけるなんて許せない。そんなの夢を潰してるのと同じことだし、クズのやる事だよ。その場にレイジュが居るって事も気になるし……でも、レイジュはそんな人には見えなかったんだけどな……。

 

「……行ったね。あの人誰なの?」

 

「あの方は……ヴィンスモーク・ジャッジ様です。サンジ様のお父様、ですね」

 

「あいつが……」

 

それは、親が子供の夢を奪おうとしてるって事だ。

私は前世の記憶が薄いという事もあって『親』への情も薄いけど、普通、親子というのは想い合っているものだと思う。いや、そうじゃなくちゃいけない。少なくとも子供の夢を自分の私利私欲の為に台無しにする様な事をしていい筈が無い!

……そもそも、そんな事は親で無くともやっちゃダメだけど。

 

内心で怒りを募らせながら、静かに床へと着地して目の前の扉を開く。中に居る2人が突然の訪問者に驚いている隙にお邪魔して、抱いているコゼットちゃんにそっと扉を閉めてもらった。

 

「や、久しぶり、サンジ」

 

「イリスちゃん……!?驚いた、もう来てたのか」

 

「……?どういう事?」

 

驚いてはいるけど、それは私が来た事にではなく予想より早く辿り着いていた事に対するもので、そんなサンジの反応を訝しんだレイジュが軽く首を傾げて顎を摘む。

 

「それに、あなたはコゼットでしょう?何故女王と一緒に……というか、抱かれているの?」

 

「イリスちゃんの事だ、今更聞くまでもねェ。最初の疑問にはこう答える、イリスちゃんは俺が助けを求めたから来たんだ」

 

「あれ、喋っちゃうの?」

 

「レイジュには隠すつもりはねェんだ、この人は信用出来る」

 

親との関係は最悪だけど、姉であるレイジュとはそれなりに腹を割って話せる間柄の様だ。「信用出来る」って言われた時のレイジュも一瞬嬉しそうな顔浮かべてたし……いや、可愛すぎない?

 

「フフ、そう簡単に信用して良いのかしら?父さんに指示されたからとはいえ、その手錠を付けたのは誰だったか、もう忘れた?」

 

「そうそう、それに用があるんだよね、ちょっとごめん」

 

綿の様に軽いコゼットちゃんをゆっくり降ろして、サンジの手に付けられた錠に触れる。

 

「“倍化"」

 

「あら」

 

2年前、シャボンディのオークション会場でケイミーちゃんが捕まってしまった際に彼女の首輪を外した時と同じ方法で手錠を外した。つまり、倍化させて普通に手から引き抜いた。

無理矢理取れば爆発する様な物だったとしても、私の能力から言わせて貰えば関係ないのだ。流石に海楼石入りだと厳しいけど。

 

「あと、これ付けたのレイジュって言った?この錠、サンジを抑えるにしては余りにもお粗末だね?」

 

グシャ、と手に持つリングを握り潰し、ぽいっとレイジュに投げ渡す。

 

「見ての通り、それに爆発する仕掛けなんて施されてない、ただの手錠だよ。あのジャッジって人が本気でサンジを縛ろうとしていたのなら、こんな手錠は用意しない。じゃあ、何処かで手錠のすり替えが行われたとしか考えられないよね、その上すり替えるのが可能な人物は1人だけ……なんて、誰もが分かる事を勿体ぶっても仕方ないから言うけど……レイジュ、手錠をすり替えたのはあなたでしょ?」

 

「さて、どうかしら」

 

「認めなくても良いよ、私はそう納得するから、私の中ではそれでこの話はお終いだし」

 

それに、レイジュがサンジの事を大切に思っているのは間違いないし。そんな彼女が爆発する手錠なんか付ける訳がない。

 

「……随分信用されてるみたいね、私が女だから?」

 

「否定はしないけど、1番はサンジが信用してるからかな。サンジがあなたを信じるなら、サンジを信じる私も信じる。これじゃ足りない?」

 

確かに私は女好きだし、ハーレム女王を目指している。だけど、それとは別に私は海賊で、サンジの仲間だ。その人が信じる事は自分も信じたい……船長のルフィもそうするだろうし。

 

「……やるわね、そうやって数多の女性を口説いてきたのかしら?」

 

「え?」

 

「あら、無自覚?……いい仲間を持ったわね、サンジ」

 

「ああ、だから俺は帰る、まだ船から降りる気はねェんだよ」

 

別に鈍感キャラって訳じゃないんだけど、レイジュが何に対して私に魅力を見出したのか本気で分からない。サンジも分かってるみたいだし、後ろで控えてるコゼットちゃんも同じだ。

 

「今の会話で口説いてるとこなんてあったかなぁ……」

 

「“信じる"って言葉は決して軽くないの。言葉に出しても、その重みは決意の有り様で大きく変わるわ。だからこそ、あなたの真っ直ぐな言葉は胸に響く」

 

「イリスちゃんは基本真っ直ぐだからな、色んな紆余曲折を経ても絶対に元の道に帰ってくる。そんなイリスちゃんだからナミさん達も付いていくんだ」

 

……なんかいきなり褒められた。ちょっと顔が赤くなってくるのが自覚出来るから、サンジ達から隠す様に後ろを向けば当然そこに控えているコゼットちゃんとバッチリ目が合ってしまい……。

 

「ふふ、イリスさんでも顔を赤くされるんですね」

 

「に、人間だし!」

 

結局逃げ場を無くした私は、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべたレイジュに少しの間弄られ続けるのであった。

ただ、私にいじわるしてくるレイジュもとても可愛かったと言う事だけは心のアルバムに残しておく事とする。

 

 

 

***

 

 

 

「……やっぱり、そういう事情があるんだね」

 

サンジと合流出来たからハイ終了、と言う訳には当然いかず、そもそもどうしてベッジの誘いに乗ったのかを確認した所、初めに予想していた通り『バラティエ』と『カマバッカ王国』の名前を出されて身動きが取れなくなっていたらしい。

ベッジの前で私宛の暗号の様なSOSを出したのも、私が侵入するまで相手に気付かれない様にして、いざ気付いた時には既に懐に“四異界"が忍び込んでいるという状況となっていて迂闊に行動出来ない様にさせる為だったとか。敢えて気付かせて私を警戒させる為、わざとあの手紙をベッジにも見える様に書いた……と。

 

「時間も無いのに良くそこまで頭回るね」

 

「イリスちゃんが攻めてきている状況だと、幾らビッグ・マムといえども他所ごとに気は回せられねェだろ。そうなればジジィやイワ達に差し向けられる戦力なんざたかが知れてる、そんな連中にやられる程柔じゃねェ筈だ。……イリスちゃんを利用した形になったのは、本当に申し訳ねェと思ってる、ごめん」

 

「利用くらい気にせずしてよ、毎日の美味しいご飯やおやつのお礼はいくら返しても尽きないんだからさ」

 

「!ああ、ありがとう……!」

 

一味の中でサンジの役割はコック兼戦闘員だけど、私はただの戦闘員だし。むしろこういう所でばしばし使ってもらわないとただのお荷物だ。

 

「サンジの事情は分かった、今すぐ動くのは難しいって事も。……でもこっちもちょっと困った事になっててね、私達より先にこの島に乗り込んだシャルリアとブルック、それからペドロと通信が繋がらなくて……」

 

「ペドロまで来てんのか!……ん?そのシャルリアって誰だ?」

 

「ほら、2年前のオークション会場で私が蹴った人いるでしょ?クリーム色の髪した美人の……」

 

「……ああ!あの天竜人の綺麗なお姉さん!そうか、ドレスローザに居たのか、良かったじゃねェか、イリスちゃん」

 

「うん!他にもモネとベビー5、それからレベッカちゃんって子も嫁に……って、その話はまた今度聞いてもらうとして……さっき言った3人と連絡が取れないの、サンジは何か知らない?」

 

私の言葉にサンジは長く眉を顰めて唸った後、申し訳なさそうに頭を振って不承知の意を見せた。ここに来たのはサンジもつい最近の筈だし、知らないのも無理はない、か。

 

……きっと大丈夫、ブルックはあれで結構頼りになる人だし、ペドロも強い気配だった。シャルリアだってぐんぐん強くなってるし、大丈夫……!

 

だったら私は私の出来る事をやらなくちゃいけないよね。人質を取られて身動きが取れなくなっているのは分かったから、とにかくそっちに戦力を回せないくらい暴れてやれば良いんだ。

ビッグ・マムを倒してしまえば解決するかな?

 

「結婚式、というかお茶会、だっけ?それっていつあるの?」

 

「明後日の10時からよ、私達がビッグ・マムの城へ移動をするのは明日の昼前ね」

 

どうせなら結婚式を壊すって感じにしたいって思いもあるし、ビッグ・マムと戦うのは明後日まで待とうかな。

……いやだって、結婚式を壊さないとプリンちゃんはサンジの婚約者ってイメージが払拭出来ないじゃん。プリンちゃんを正式に私の嫁として迎える為にも、この日付は譲れないもんね!

 


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