ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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22『女好き、煙に巻かれる』

突然ですが、ピンチです。

何がって、ナミさんを探しに町へ繰り出し数十分、辺りの人の気配は無くなるわ豪雨は降るわで散々だった所に、顔の怖いヤンキーみたいな海軍に行く手を阻まれたからです。

 

「…そこ、退いて欲しいんだけどね。こんな雨だし…嫁が心配なの」

 

「安心しろ、すぐに一緒の牢屋にぶち込んでやる」

 

「あっ……そッ!!」

 

ダッ!と距離を詰めて飛び蹴りを放つ。このまま吹き飛んだ隙に逃げればいいと思っていた私の思惑は、その男の体を私の蹴りがすり抜けた事で無意味となったのだが。

 

「な…!悪魔の実の…!?まさか、あなたがスモーカーか!」

 

「ほう、俺を知っているなら話は早ェ。大人しくしょっぴかれるんだな」

 

「ばーか!すり抜けちゃったから結局道は通れてるよーだっ!」

 

そのままスモーカーに背を向けて走り出す。

何で攻撃が通用しなかったのかまではわからないけども、面倒そうな能力者とわざわざ正面切って戦う必要もない。

 

「ほォ…俺から逃げられると思ってるのか?女好き…」

 

「はっ!?そんなのアリ!?」

 

私が高速で走っている後ろを、スモーカーは下半身を煙に変えて空を飛びながら追いかけてくる。

しかも結構速い!なんだこいつ!

 

「くっ、新調して小太刀になった我が技をくらえっ!十倍灰(じゅうばいばい)去羅波(さらば)!」

 

「フン、下らねェ」

 

いやぁーー!!やっぱり攻撃がすり抜ける!

もう戦うなんて考えるのはやめよう!ここは逃げに徹しないとまずい!

 

全・倍加(オールインクリース)!!からの、神背・倍加(ヒューマインクリース)!!」

 

「なっ…!?」

 

「どっちがー?」

「本物でしょー?」

 

“私”と目を合わせて左右に分かれて逃げる。

逃げるだけでここまで全力を使わされるなんて…。

 

「この町は危険だね…、早くみんなに知らせないと」

 

どうやら“私”を追ってくれたらしいスモーカーに安堵しつつ、効果が切れるまで能力はそのままにしておくことにした。

 

私はみんなを探すため、スモーカーに見つからないよう慎重に行動する。

そうして数分後、ようやく誰かに追われているのか猛ダッシュしてるルフィ達を見つけた。

 

「ルフィー!サンジー!…って、なんで“私”まで…!?ま、まさか…」

 

「おーい!イリスー!」

 

ルフィ達の後方に目をやると、案の定スモーカーが追ってきていた。

いやいやさっき逃げたばっかなんですけど!!?

 

「あ、ごめん私!後はよろしく!」

 

そう言って時間制限で消えていく分身を憎たらしく思いながらも、こうなってしまってはしょうがないと腹を括る。

 

「てめェ女好き…!今度は本物か!?」

 

「泣きたいけど本物だよ!!ちくしょう!」

 

「イリスちゃん、知り合い?」

 

「さっきちょっとね!!」

 

だけどやっぱり相手の能力は捕縛に特化しているようで、ルフィが煙に捕まってしまった。

 

「うわっ、何だこれ!?」

 

「ルフィ!この、離せ!」

 

ルフィを掴んでる腕を攻撃してもやはりすり抜けて意味が無かった。

最も、神背・倍加(ヒューマインクリース)が切れてる事でお察しだとは思うが全・倍加(オール・インクリース)もとっくに切れてるので殴ったところでダメージはそんなに与えられないのだが。

 

「お前らが3000万ベリーだと…!?」

 

「ぐっ…!?」

 

私も同じように掴まれて拘束される。

私達の攻撃は当たらないのに、相手の攻撃は当たるなんてずるい!

 

サンジの蹴りにもどこふく風と言うように無視している。

あのサンジの蹴りを無視できるのは、どう考えてもヤバいヤツだ…。

 

「うぐ…!」

 

そして、私とルフィはスモーカーの両腕で地面に頭を押し付けられ身動きが取れなくなってしまった。

 

「お前らも、悪運尽きたな」

 

押さえつけられてるせいで何をするつもりなのかは見えなくて分からないけど…ロクでもないことなのは確かだ…!

 

「そうでもなさそうだが…?」

 

「!!?…てめェは…!!」

 

な、何!?何が起こってるの!?

いきなり知らない人の声が聞こえたと思ったらスモーカーが驚愕の声を上げてる。

 

「…、政府はてめェの首を欲しがってるぜ…!」

 

ちょっと、政府に追われてるって相当ヤバイ人なんじゃないの!?

 

「なァ!!?」

 

そして、その声の主が現れた瞬間を狙っていたかのように突風が吹き荒れる。

それはスモーカーが私とルフィから手を離してしまう程の規模で、二人揃って飛ばされてしまった。

 

「ルフィ走れ!島に閉じ込められるぞ!バカでけェ嵐だ!!」

 

「うぇっ、落ち着いて観光も出来ないのこの島は!?」

 

急いで走ってきたゾロに引っ張られるように私とルフィは走る。

サンジも近くにいるね。よし、今の突風ではぐれたとかは無さそうだ。

 

何とかメリー号に辿り着いた時には、既に島と船を繋ぐロープが切れかかっていた。上にはウソップとナミさんが待機していて私たちを急かす。

 

「イリス!早くしなさい!最悪他の男どもは置いてきてもいいから!」

 

「「アホかてめェは!?」」

「んナミさんの為ならこのサンジ、何でもしますっ!」

 

ルフィがメリー号に手を伸ばし、私達はルフィに掴まって一緒にメリー号に戻ってきた。

 

「よしっ!出航!!」

 

ルフィの合図で船を出す。

とてつもない嵐だから波は大荒れ、船は有り得ないくらい揺れているのだが…。あんまり酔わないタイプでほんと良かった。

 

 

 

 

「あの光を見て!」

 

「ん?」

 

船を進めて少し、ナミさんが島の灯台を指差す。

 

「あれは…“導きの灯”って灯台。あの光の先に

偉大なる航路(グランドライン)”の入口がある。…どうする?」

 

「…くぅ〜!よっしゃ!行こう、ナミさん!」

 

「で、でもよイリス、何もこんな嵐の中を…なァ!」

 

ウソップが例の如く怯えているが、まぁ何だかんだ言いながら腹を括る事ができる人なのは知ってるから放っておこう。

 

「それじゃ、偉大なる海に船を浮かべる進水式でもやろうか!」

 

「おー、それっぽい!よっし、じゃあ私から…!」

 

サンジが樽を持ってきたので、上に脚を乗せる。あ、これ高いわ。ちょ、高いわこれ。

 

「あっはっは!イリス足震えてんじゃねェか!はっはっは!」

 

「うっさいわルフィ!ギリギリなの!」

 

進水式ってよく知らないんだけど、この場合はとにかく自分の最終目的…つまり夢でも言えば良いのだろう。良かった、メリー号にシャンパンぶつけるような事にならなくて。

 

「私は、ハーレム女王になる為に!」

 

「俺はオールブルーを見つける為に」

 

「おれは海賊王!!」

 

「俺ァ大剣豪に」

 

「私は世界地図を描くため!」

 

「お、おれは…、勇敢なる海の戦士になる為だ!!」

 

それぞれが決意を胸に、樽に足を乗せる。

 

『行くぞ!!偉大なる航路(グランドライン)!!』

 

6人で割った樽に決意を誓い、私達は海賊達の墓場へと船を進めるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

偉大なる航路(グランドライン)の入口は、山よ!」

 

「山!?」

 

船内でナミさんがテーブルに地図を置きながら言う。外は嵐なので今後の方針を中でゆっくり決めるのだ。

地図はみんなで囲んでいるテーブルの上なので、誰からでも見える位置にある。

 

「導きの灯が差してたのは間違いなくここ

赤い土の大陸(レッドライン)”にあるリヴァース・マウンテン」

 

「ほへー、アトラクションみたいな名前だね」

 

「何呑気なこと言ってんだ、そこ山だぞ」

 

「違うわよ、ここに運河があるでしょ」

 

運河…?って何だっけ。人工的に作られた川とかそんな感じだったっけ。

 

「運河!?バカ言え!運河があろうと船が山を登れるわきゃねェだろ!」

 

「それはそうだけど、ナミさんが言ってるんだからそうなんだよ」

 

ウソップの尤もな疑問にそう返しておく。

…この世界の海がどうなっているのかまだイマイチ分かってないんだけど…地図を見るに普通に南に渡れば偉大なる航路(グランドライン)には出れそうなのに、どうしてわざわざ山であるリヴァース・マウンテンを経由するんだろう?

 

「イリス、顔に出てるわよ」

 

「えっ」

 

慌てて頬を抓ると、ナミさんは笑った。

 

「嘘。でも疑問に思うのはわかるわ。どうして海を渡って直接偉大なる航路(グランドライン)に行かないのか、それはね…」

 

「あれっ!?嵐が突然止んだぞ!」

 

「おー、ほんとだ!」

 

外へ出ると、確かに嵐は収まり空は快晴の青に包まれていた。

ラッキーと思いナミさんを見ると、何やら焦った表情を浮かべている。

…これ、絶対何かダメなヤツだね。

 

「しまった…“ 凪の帯(カームベルト)”に入っちゃった…」

 

「カームベルト?」

 

船が通ってきた所を見てみると、向こうはまだ嵐だった。

まるで違う世界にでも迷い込んでしまったかのような異質さを感じる…。あ、私にとっては実際違う世界だったね。

 

「イリス!早く帆を畳んで船を漕いで!嵐の軌道に戻すの!!」

 

「よしきた!ゾロ、オールになって!」

 

「てめェ前から俺に恨みでもあんのか!!」

 

いや、きちんと突っ込んでくれるのが嬉しくて。

 

「ふざけてないで早く!今この船は南へ流れちゃったのよ!」

 

「ということは、偉大なる航路(グランドライン)に…?」

 

私の疑問にナミさんは答える。

 

偉大なる航路(グランドライン)は、更に2本の海域にはさみ込まれて流れている。

それこそが正にこの無風の海域“ 凪の帯(カームベルト)”なのだ。

 

「要するにこの海は…!」

 

結論を聞く前に船がまるで地震でも起きたかのように揺れる。

地震と言ってもここは海の上、そんな事はあり得ないのだが。

 

「な、なにが…?」

 

揺れが治ったので辺りを見渡す。

そこには、言葉で表すことすら躊躇われる程の無数の海王類達で溢れていた…。

メリー号はその中の巨大な海王類の頭に乗っているようだ。地震はそのせいか…!

 

「な、ナミさん…これって…」

 

「そう……海王類の…巣なの……大型のね」

 

つ、つまり、このルートで偉大なる航路(グランドライン)に向かおうと思えばこの数の海王類を船で避けていかなければ行けないのか…。

 

「…よし!嵐に戻るぞォー!!」

 

「「うおおおおォォオ!!!」」

 

この時ばかりは私もゾロもサンジも、ルフィやウソップ、それにナミさんだって全力でオールを漕いだ。

必死に嵐の中へ戻った時には、大荒れの波に安堵するという謎の気持ちを抱いたのだった…。

 

 

 


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