ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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233『女好き、爆発寸前』

「えっと、狭くない……ですか?」

 

「うん、あっ、やっぱり狭いかも、落ちそうだからそっち寄るね」

 

暗い部屋の中、1つのベッドで同衾(意味深)しているのは何を隠そう私とコゼットちゃんである。

背中側に空いている人1人分程度のスペースは見ない事にして、慣れた手付きでコゼットちゃんに擦り寄り足を絡ませた。

 

「あ、あの、寄りすぎでは……」

 

「ううん、私太いからこれくらいは寄らないと落ちちゃうんだよね」

 

「イリスさんが太いのなら私なんてどうなっちゃうんですかぁ!」

 

いや、コゼットちゃんも細いでしょ……。あ、でもコゼットちゃんには私と違ってたわわなぽよんがあるか……私と違って!!!

 

 

──どうしてこの様な素敵過ぎる状況になっているのかというと、明日ビッグ・マムの所へ向かう予定のジェルマの馬車に私も乗って行こうという事になったからだ。

普通なら乗せてくれる筈もないが、そこら辺はレイジュが上手いことやってくれるらしい。

で、一夜を過ごす訳だから寝床が必要になってくるんだけど、そこで白羽の矢が立ったのがコゼットちゃんの自室だった。というか、私がお願いした。

他にも大量に部屋は余っているそうだけど、折角のチャンス、1人寂しく夜を過ごすのなんて勿体ない!と思ったという訳である。

 

「でも、だからと言ってコゼットちゃんも無防備過ぎるよね……私と同じベッドで寝るのを許可するなんてさ」

 

「そ、それは……!」

 

「私って自分で言うのもなんだけど、手を出すのは早いよ?同じベッドで一晩中だなんて、我慢出来ないと思うなぁ」

 

後ろを向いているせいで私にはコゼットちゃんの背中しか見えないけど、ぴっとりと頬をくっつければ明らかに速い心拍の音が。

一応、ちゃんと意識はしてくれてるみたいで嬉しいって気持ちが湧いて来る。本当に今からでも押し倒してやろうかこの美少女め……!

 

「……その、嬉しかったんです」

 

「ん?」

 

「私の作ったものを、美味しいって言ってくれて」

 

そりゃあ、あれだけのものを出されたら誰だって美味しいって思うでしょ。アリゴとかコンフィがそんなに好きじゃないって人ならともかく、私は凄く美味しいって思ったし。

 

「味見の際にはシエルもメーアも美味しいって言ってくれるんですが……同じ料理人同士、情けとかかなって思ったりしちゃって。も、勿論、そんな事は無いって分かってますよ!2人はちゃんとダメな時はダメだって言ってくれますし!……でも、やっぱり不安で」

 

「コゼットちゃん……」

 

「だから、凄く嬉しかったんです。……料理人として、食べてくれる人を幸せにするのはとても誇らしい事ですから。……だから、ありがとうございます、イリスさん」

 

そうして私の方に体を振り向かせたコゼットちゃんの表情を見て、私は少しの間息を止めた。

緊張からか上気した頬や、潤む瞳、そして、あまりにも美しいその綺麗な微笑みに見惚れたのだ。

 

「綺麗だね」

 

ずっとコゼットちゃんは可愛い系だと思っていたけど、これ程までに綺麗な表情も出来るんだと感じて、話の脈絡なんてお構いなしにただ心の声だけがポロリと漏れた。

途端、より頬を染めるコゼットちゃんの顔をもっと近くで見たくて、よじよじと体を動かし真正面から見つめ合える位置まで上った。

 

「私、コゼットちゃんの事まだまだ過小評価してたのかも。料理の腕も凄くて、優しくて、可愛くて、綺麗で。……ねぇ、もう1回言うけどさ……私の嫁になってよ」

 

「っ……か、感謝はしてますよ!でも……!」

 

「それでも、私はコゼットちゃんが欲しい。……雰囲気に流されるのはイヤ?将来に繋がる事だし、もっとじっくり決めたい?なら、安心して。私はあなたを絶対に幸せにしてみせるから」

 

こうなればもう押せ押せだ。なんとしてでもコゼットちゃんには嫁になって貰いたい。私を好きになって貰いたい。押しすぎは逆効果かな、とかもっと冷静になるべきかな、とか色々ぐるぐる頭の中を回るけど……もう止められそうにもなかった。

 

「嫌なら嫌って言ってくれてもいい。でも、絶対に振り向いてもらう。絶対に好きになってもらう!コゼットちゃんから料理を取り上げたりしないし、ここを離れられないのならその意思もちゃんと尊重する!」

 

このままだと勢いでキスまでしかねないな、と感じ取ってぎゅっとコゼットちゃんの首に腕を回して抱き締めた。

会って1日も経っていないけど、コゼットちゃんの魅力は沢山知っている。これから先、もっと沢山の事を知りたいし、伝えたい。

 

「私は、ハーレム女王になるのが夢で……!沢山の女の子を嫁にして、毎日幸せに過ごしたい!」

 

「え、えっと……」

 

コゼットちゃんの困惑気な声が聞こえる。そりゃそうだ、口説くのだとしたらこれ程逆効果な台詞はそうはない。

でも、これが私の本音なんだ。これが私の目指しているものなんだ!みんな、私の夢を知った上で嫁になってくれた……こんな身勝手な私を受け入れてくれた。だからコゼットちゃんにも、取り繕った言葉だけ投げ付けるなんて事はしたくない。

 

「その毎日の中で、私の食べるご飯はコゼットちゃんに作って欲しい」

 

「っ……」

 

「だからコゼットちゃん……私にして!私は、コゼットちゃんの作るご飯を毎日食べたいから!!」

 

そう言って、ちょっと苦しいくらいに抱き締める腕の力を上げた。これ以上私から言える事は何も無い。言いたい事は全部言った、だって率直に言っちゃえば、あなたに惚れたので嫁に来て、だから。

これでダメならまた別の方法を考えるけど、今回の訪問中に嫁になってもらうのは無理だろう。……次にいつ会えるかも分からないし、その間にパートナーを作っていないとも限らない。もしかしたらこれが最後のチャンスかもしれないんだ……。

 

え、そう考えたら凄く怖くなってきたんだけど。これもう押し倒して色々やっちゃう?それとも攫っちゃう?私海賊だし、それくらいするよね普通。……なんて、コゼットちゃんの意思に反する事は死んでもしたくないけど。

 

「イリスさん……」

 

「……!」

 

少し震えた声と共に、おずおずと私の背中に彼女の細い腕が回された。それが抱き締め返してくれたのだと脳が理解するのに少しかかったけど、これはつまり、そういう事で良いんだよね……!

 

「私、まだ分かりません。会ったばかりですし、それに私は王族直属の料理人という名前だけなら立派で大層な肩書きを持っていますが、一般人ですよ、海賊の嫁になるのは勇気がいります」

 

「あ、うん……そう、だよね」

 

「だ、だから……!これからもずっと、私の作る料理を美味しいと言ってくれませんか……!そうすれば、勇気なんか無くたって私は、あなたのそばに居たいと思えます……!」

 

「……!」

 

まだ、好きまではいかないその感情。でもコゼットちゃんが発する言葉にはその感情の芽を感じ取れて……。

口角が上がる、心の底から激しい感情が湧き上がって来て、抑えきれそうにもなかった。

 

「言うよ……!毎日、毎回言うよ!美味しいって、好きだって言う!……っ、ありがとう、コゼットちゃん!大好き!」

 

「はい……私も、きっとあなたを好きになります」

 

「うん……っ!」

 

……なんか、凄く嬉しくて……安心したからかな?眠くなって来た……。

ふわぁ、今日はもう寝てしまおう。そして明日になったらコゼットちゃんともう1度ちゃんと話し合って、私達について来てくれるのか聞いてみよう。

シエルとメーアを置いていけないなら2人も連れて行くし、それでも難しいなら……また、いつでも迎えに来るから。

 

 

幸せ夢見心地、今日は王華との特訓も休みにして、この余韻に浸りながら寝よう。

素敵な人が嫁になってくれた時のこの嬉しさは、やっぱり何回味わっても薄れる事は無いなぁ、なんて感じながら。

 

……ただ、呑気に。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『……ス!!』

 

「……、ん」

 

不意に誰かに呼ばれた気がして、軽く身じろぎをする。そこで違和感を覚えて薄らと目を開ければ、寝る直前まで抱き締め合っていた筈のコゼットちゃんが居なくなっていた。

 

「あれ……コゼットちゃん……」

 

『イリス!!!!』

 

「ぅわ!!!?な、なに!?王華!?」

 

突然脳内に響く大爆音に寝ぼけ眼から一気に覚醒へと引っ張り上げられた。

ていうか、何をそんなに慌てているんだろう。もしかして寝過ぎた?出発の昼前過ぎてる感じ……?

 

『ごめん!さっき思い出したんだけど、コゼットってやっぱりONE PIECEに登場してたよ!』

 

「そうなんだ。……まさか、それを言う為にわざわざそんな慌てて」

 

『違うよ!そのコゼットだけど、ONE PIECE好きには結構衝撃的なキャラで……!!』

 

「!」

 

バッと体を起こして王華の話に集中する事にした。王華の声色にかなり真剣さと焦燥が含まれていたから、只事では無いんだろうと察したのだ。

 

『ごめん、説明する前にコゼットの気配探れる!?』

 

「コゼットちゃんの気配を探せば良いの?分かった、すぐに済ませる」

 

この城全域に見聞色を広げるだけなら今の状態でも問題ないけど、詳しく人物まで見ようと思えば30倍では足りないだろう。

ならば、と躊躇なく“女王化"を使用する。これでより鮮明に、更に個人の気配が感じ取れる様に…………、…………え。

 

「コゼットちゃんの気配……あった、けど……どうして、こ、こんなに……()()()()()……?」

 

誰も居ない部屋で、明らかに横たわっている気配。更にその気配はかなり微弱で……今にも死んで……!

 

「イリスさんッ!!」

 

そこへ突然、勢い良く扉を開けてシエルとメーアが部屋に飛び込んできた。2人はベッドで身を起こしている私を確認すると慌てて駆け寄って来る。

 

「料理長が時間になっても戻ってこないのよ!こんな事、今まで1度も無かったのに……!!」

 

「城内でニジ様に連れて行かれる所を見たって話が流れれてぇ!ニジ様、感情的な所があるから!!」

 

「……っ!ごめん、話は後!私ちょっと見てくる!」

 

誰かに見られるかも、なんて事は最早気にしていられない。私は新人に変装すらせず、そのままの格好で2人を置いて部屋を飛び出した。

向かうは1階の隅にある部屋……!如何にも目立たない、悲鳴すら届かない様な……!!

 

「王華!話は分かったでしょ!?こんな状況だけど、原作では何があったの!」

 

『似た様なものだよ!サンジの兄であるニジの八つ当たりで、コゼットは顔の原型が無くなるくらい殴られる!……本当にごめん!私的にも辛い話だったから、あのシーンは忘れる様にしてて……!』

 

「……!恨み言の1つくらい言ってやりたいけど、確かにそんなシーン忘れたいだろうし、こうして教えてくれたでしょ、それだけでも助かるよ!」

 

それに、さっきチラッと見えた時計には10時と示されてあった。コゼットちゃんと同じ時間に起きれていたらこんな事にはならなかった!私も悪い……!幸せに浸り過ぎて集中を欠いちゃったから……!

 

「コゼットちゃん!!」

 

全力で駆け付けたから、道中の床は傷だらけだろうが、そんなのは知った事ではない。

辿り着いた扉を開け、視界に飛び込んできたのは……間違いであって欲しいと願った、倒れ伏すコゼットちゃんの姿だった。

 

「っ……、コゼットちゃ……、ん……?」

 

慌てて駆け寄り、しゃがんでそっと頭を持ち上げて、気付く。

そのあまりにも惨い暴力の痕と、あらぬ方向に曲がり、ぐしゃぐしゃになってしまっているソレ。

それは、コゼットちゃんの両腕だった何か。私を抱き締めてくれた、細く綺麗で、かつ料理の際には力強い、それが。

 

『ど、どうして……!?原作には、そんな描写は……!!』

 

混乱する王華の声がどこか遠くから聞こえてくる様だった。ただ……何かが切れてしまったのだけは、間違いない。

 

コゼットちゃんの可愛くて綺麗な顔は最早見る影も無く、顔中腫れ上がり、歯も欠けている所がある。血が付いていない所を見つける方が難しいくらいで……。

それだけでも、激情を抑えられなくなるというのに……!!!よりにもよって、腕を狙ったのか……!!この子の大好きなモノを、奪ったのか……!!!

 

「っ、誰か、誰か!!医者は居ないの!!?」

 

怒りでどうにかなってしまいそうだけど、早く治療してもらないと命が危ない。兵士が沢山いるのなら、その分医者だってそれなりに居るはずだ。とにかく今は早く医者に診てもらわないと……!!

 




腕はともかく、顔の描写は原作通りです。ONE PIECEにしては珍しく女性キャラの顔を容赦なく傷付けた描写だったので、当時は結構驚いたものです。ニジもその事に対して罪悪感などを感じる事が出来ない様に改造されてるから仕方ない所もありますけど、イリスにとってはそんな事情どうでもいい事ですね。

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