弱過ぎるメンタルもだいぶマシになったので投稿を再開したいと思いますが、頻度は不定期になってしまうかもしれないです。なんとか4日に1話を維持したいですね。
「イリスちゃん!その姿……何かあったのか!?……!!コゼットちゃん……!?」
「サンジ……!医者を呼んできて!それか連れて行った方が速いかな……!?でも、あんまり動かすのも良く無いかもしれないし、あ、チョッパー呼んでこようか!どこに居るのかは分からないけど、探せば……!!見聞色もあるし、きっと見つかる筈……!」
頭が回らない。駆け付けてくれたサンジもコゼットちゃんの状態を見て言葉を失っている様で、ギリ、と歯を食い締めていた。
「──まずは、落ち着こう、イリスちゃん。焦る気持ちは分かる、だけど騒いでしまえばコゼットちゃんの身体に響くかもしれねェ」
「っ……そう、だね」
「医者はすぐに呼んでくる。……ごめん、俺があいつらを煽ったせいだ。責任は俺にもある」
サンジはそう言って何処かへ走って行った。
……サンジに責任なんて、ある訳がない。こうなる事に気付かなかった私を気遣ってるのかな。私だけが悪い訳じゃないって励ましてくれたのかな。……相変わらず、優しい人だね。
言葉通りサンジはすぐに医者を呼んできた。着いて行きたかったけど治療の邪魔はしたくないから、大人しくサンジと待つ事にする。
そうだ、シエルとメーアにも報告しないと……。
「なんだ、お前も来てたのか、女王」
「……ヨンジ?」
コゼットちゃんが運ばれて行く所をただ見る事しか出来ず、暫くその場で立ち尽くしていると、扉の近くにヨンジが姿を見せた。
「あの女がそうなったのはお前せいだよ、サンジ。身分違いの女をつけ上がらせた。ニジに会いてェだろ?勿論その犯人だからな」
「……クソ野郎が、てめェらは、絶対にやってはいけない事をしたと気付いてねェのか!」
「あの女は王族のモノだ。自分のモノをどうしようが勝手だろ。メシ炊きくらいは他を雇えば良い」
「オイ!言葉に気を付けろ!……それ以上は、やめておけ」
……サンジは落ち着けと言った。なら、落ち着くべきだ。それにこの城にはまだコゼットちゃんも、レイジュも、シエルとメーアだって居る。
──暴れる訳には、いかない。
だけど。
でも。
「……ニジに会いたいか、って聞いたよね」
「ん?ああ、お前も会いたいのか?ならついてこい」
「言っておくけど、私には腫れ物を扱う様に接してくれるかな。もう限界寸前でさ、大事な人が居なきゃ、もう暴れてる所だよ」
僅かに残った理性で受け答えをし、女王化も解除しておく。もし本当に“暴れて"しまった時に周りの被害を抑える為だ。……壊すのは、的だけで良い。
***
ヨンジに連れられて私達は階段を下り城の地下へとやって来た。目の前には扉があって、中から沢山の人の気配がする、けど……どうしてこんな所まで歩いてこなきゃいけないの。私から会いに行かずとも、そっちが来ればいいのに。
……って、だめだだめだ!思考に余裕が無くなってる……!
「ここは?」
「興味あったろ?ガキの頃は立ち入り禁止だったもんな」
余裕の無い私に代わり、サンジが主にヨンジと受け答えを交わしている。時折私の方を確認している事から随分と気を遣わせていて申し訳ない……けど、こればっかりは抑えられないんだ。
ヨンジが扉を開き、サンジと私が後に続く。
中へ入ると、機械が動いている特有の音や床にひしめく沢山の電線コードなど、見るからに何かしらの研究施設って場所で、その中でも何より目を引くのがそこら中所狭しに設置された沢山の大きなカプセルだ。
爆発寸前だった筈の私でも思わず息を止めてそのカプセルを見てしまうのは……その中に培養液か何かに浸かった“人間"が居たから。
「なんだ……コレは……」
「これが何かって?各国が恐れる「ジェルマ66」の兵士達さ!」
「兵士……っても、こいつらみんな同じ顔じゃねェか……!生きてんのか……!?」
……生きてる。それは間違いない。ここへ入る前に感じた沢山の人の気配、それは全部この
「サンジ、人間は
「!?」
「ジェルマは代々“科学の国"。父もああ見えて優秀な科学者だった。俺達が生まれる前は海外の無法な研究チームに所属し、かのDr.ベガパンクと共に兵器の研究をしていた。……その時ベガパンクが成した偉業こそ、生物の「血統因子」の発見!こいつは1歩間違うと神の領域に達する、いわば『生命の設計図』の発見だった」
……ダメだ、頭に入ってこない。腹が立ってるからっていうのもあるけど、単純に何言ってるのか分からないのだ。いや、理解したくないというのが正しいのかもしれない。
「世界政府はこれを危険視してベガパンクを逮捕。研究チームは解散、いや……政府に買収された……!──だが父は政府の手から逃れ、1人この『ジェルマ』で研究を続けた。命のコピーと改造の研究を。そしてこの地下施設が生まれたんだ!こいつらは全員たった数名の優れた兵士達のコピー!
「……で?ニジは何処にいるの?」
「まァ待て、今来ている。話を戻すが、あらゆる国々がウチの軍隊を恐れると同時に憧れ、欲しているのはこの為さ。そりゃそうさ、強くて従順!こいつらは死を恐れず裏切らない様プログラムされてる。死んだら補充すればいい、
「もういいよ、その話。クローンだかなんだか知らないけど、命は命でしょ。その人達1人1人にちゃんと気配はある、ただの人形からは発する事が出来ないものだよ。……と、まぁそれは置いといて……遅かったね、どっちがニジ?」
漸くこの場に姿を見せたのは、赤髪と青髪の男2人だった。どちらもぐる眉だからサンジの血族には違いないだろうけど。
「ニジは俺だ、なんだ女、何か用か?」
「コゼットちゃん、私の嫁なんだよね」
「え」
私の言葉に1番驚いていたのはサンジだった。昨日まではまだ嫁じゃなかったから、サンジ的には嫁にしたいと思ってる人、くらいの認識だったのかな?コゼットちゃんが天使すぎて昨日の内に嫁に来てもらったんだよね。
……だけど、私にとって“嫁にしたい人"と“嫁"は同じなんだよ。私とコゼットちゃんの関係が昨日から変わっていなかったとしても、ニジのした事は到底許せるものじゃない。
「嫁?ハハ、何を言ってるんだ、お前は女だぶッ!?」
「……ははっ!やっと暴れられるよ!結局私は説教なんかより、殴って発散するのが向いてるからさぁ!」
言葉の途中で顔面を殴られたニジが宙を舞う。それを追う様に走り、落ちて来たニジの髪を引っ掴んで床に叩きつけた。
「誰の女に手を出したのか、その身を持って味わわせてやる!」
「がふ……っ!貴様……!その強さ、その容姿……女王だな……!?サンジを助けに来たのか?なら、俺には手を出さない方が良いぞ、
何か素っ頓狂な事を言っているニジの顔をもう1度床に叩きつけ、ぐりぐりと押し付ける様に力を込める。そして更に数回同じ様に叩きつけを繰り返し、無理矢理背筋させる様な形で髪の毛を掴んで上半身だけ持ち上げた。
「それ、脅しのつもりなの?だったら血が流れる前に指示を出すあなた達を全滅させれば終わる話じゃん、私とあなたの力は同等じゃないんだよ、なのになんでそんなに自信ありげなの?人質程度で埋まる差じゃないでしょ?しかもさ、その顔なに?なんでヘコんでるの?腫れてよ。コゼットちゃんは腫れてたよ、凄い腫れてた。だったらあなたも腫れるでしょ?おんなじ目にあってよ、じゃないと仕返しにならないじゃん」
潰しても潰しても、ニジの顔は血こそ出せど腫れ上がる事は無かった。
こいつらの体も何か科学的に弄られているのか、機械を殴ってる感じとでも言えばいいだろうか、攻撃した箇所は凹むだけだ。だからこそ、今の私にとっては腹立たしい。
「……もう顔はいいや」
どうせいくらやってもヘコむだけなら、これ以上はやるだけ無駄だ。流石に潰しすぎちゃうとあるのかどうかも分からない脳に到達してしまうかもしれない。殺すのは嫌だし、頭を狙うのはやめてあげよう。
掴んでいた髪を離すと、ニジは力無く床へ倒れ伏した。成る程、痛覚はちゃんとあるんだね、それは良かった。
「次はこっちだよ、当分は粋がれないね?でも仕方ないか、あなたのした事を考えればこれくらいはね」
うつ伏せで倒れているニジの肘を足で押さえつけ、その先にある手首を持った。
私が何をしようとしているのかを理解したのか、サンジが慌てた様に声をかける。
「ま、待ってくれイリスちゃん!それは、やり過ぎじゃ……」
「やり過ぎ?そうかもね、この人はやり過ぎた。やってはいけない事を……やり過ぎたんだよ。……ごめん、本当は分かってるんだよね、サンジの言いたい事。怒りが治った時に私が後悔しない様に止めてくれてるんでしょ?ありがとう、やっぱりサンジは優しいね。うん、優しい。……でも」
ボキン、と嫌な音が私の手に伝わった。ニジの腕が本来曲がらない方向に向いている。
……確かに私は、ここまで人を執拗に痛め付ける事は好きじゃない。大抵はカッとなっても殴って倒せばスッキリする。でも、今回は許せないんだ。いや、許しちゃいけないんだと思う。
「そっちの2人は黙って見てるけど、邪魔はしないって事で良いの?」
「フ、その程度で我らジェルマが屈するとでも?ニジを無力化したと思っている時点で貴様は我々を甘く見過ぎている」
赤いやつ、多分イチジがそう言った直後、私の足元からニジが
かなりの速度で拘束から脱し、更に姿を消す何かを使用している様で何処にもニジの姿が見えない。
「下らないね、目で見えなくたって何処に居るのかくらい分かるから」
気配まで消せている訳じゃないニジが背後から忍び寄って来ているのを察知して、不意打ちするつもりで飛びかかって来た奴の顔面に振り向きざまの裏拳を叩き込んだ。
その勢いで吹っ飛ぶ前に足を掴んで引き戻し床に叩きつければ、効果が切れたのか消えていた姿が現れる。
「甘く見てるのはそっちじゃない?反撃っていうのは勝負が成り立つから出来るものであって、あなたと私の間にはそもそも勝負が成立しないんだからさ」
バキ!ともう片方の腕も踏みつけてへし折り、脇腹を蹴り飛ばしてイチジ達の前へ転がした。足は攻撃していないんだから立つことくらいは出来るだろう。意識があれば、だけど。
「痛め付けるのはそのくらいで勘弁してあげる。だから質問に答えて」
「……なんだ」
床に倒れ伏したままニジが口を開く。体の作りは普通ではなくとも痛覚自体は存在する様で、まだ起き上がってくる気配は無い。
「どうしてコゼットちゃんをあんな目に遭わせたの。しかも攻撃してるのは顔と腕だけ……!明らかに狙ったよね!!」
勘弁してあげるとは言ったけど、質問している間にもさっき見たコゼットちゃんの姿を思い出してつい語気が荒くなる。返答次第では本当に……抑えられなくなるかもしれない。
「サンジ程度に粋がられて、腹が立ったからだ。顔と腕は、殴る前にあのメシ炊き女が……そこだけは止めてくれと俺に指図しやがったから、狙ってやった、それがどうした……?」
「……それがどうした?本気で言ってるの……?」
何もおかしな事は無い、とでもいう様に自然に、ニジは私の質問に対して真っ直ぐに返答をくれた。
ただ真っ直ぐに、当たり前に。
……だからこそ、どこか不気味で、腹が立つ。
「もういい、あなたには……ううん、あなた達には何言っても一緒みたい。レイジュとサンジは優し過ぎるくらいなのに……兄弟って言っても天と地程の差があるんだね」
「当然だ、だが、レイジュと俺達ではそれ程差は無い。貴様の言う様に文字通りの天と地の差があるのはそこにいる“出来損ない"だけだ」
「あー……あなた、イチジだっけ?あなたもアホなの?私が言ってるのは……っと、何言っても一緒なんだった。じゃ、子供がダメなら親と話すよ」
まぁ……サンジの腕に爆弾仕掛ける様な親と話しても一緒かもしれないけど。
何も進展がないようなら『ジェルマ』は潰せば良い。見捨てられない人間もサンジを除けばレイジュとコゼットちゃん、後はシエルとメーアくらいだし、潰した後でうちの船に乗せてもらえる様ルフィに頼み込めば良いんだ。
そうと決まればあのおっさんを探しに……の前に、まずはコゼットちゃんの様子を見に行こう。治療は流石にまだかかっているだろうけど、命に別状が無いかとか、腕は後遺症も無くちゃんと完治するのかとか色々気になるから……。