ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

242 / 251
235『女好き、話し合いの結果』

地下を上り城の1階まで戻ってきた私は、コゼットちゃんの弱々しい気配を頼りに歩を進めていた。一応サンジには声を掛けてきたが、あのメンツの中に残してきたのはちょっと申し訳ないかもしれない。

とはいえ、今のサンジには『人質』の効果は薄いし、仮に喧嘩を売られたとしても簡単にやられる事は無い筈だ。

 

……それにしても、ニジやイチジのあの考え方は何なの。まるで人を思いやる感情とかが抜け落ちてるみたいで、とんがりヒゲ親父がどんな教育をしたのか凄く気になる。にしてはレイジュは優し過ぎるけど。

あと、母親はどうしたのかな?まだ父親しか見てないけど。

 

そうこう考えていれば、いつの間にか治療室らしき部屋の前まで辿り着いていた。

 

「あ……イリスさん」

 

「2人共……来てたんだ、って、来るよね……」

 

そこには既にシエルとメーアが居て、2人共瞳に涙を募らせ、浮かない表情で身を寄せ合っていた。厨房での雰囲気から2人とコゼットちゃんの仲の良さを知っていただけに何ともやらせない気持ちになる。

 

「ごめん……間に合わなかった」

 

「イリスさんが謝る事じゃないわよ……。こんなの、王族だからって許されていい筈ない!」

 

「うん、私もシエルと同じ気持ち。……餓死させてあげようかー?」

 

中々に物騒な事を言うメーアに苦笑するシエルだが、否定の言葉は出てきていなかった。

王族直属の料理人は3人しか居ないし、その3人は仲が良いんだからその内の1人に酷い事をすればストライキされるのなんて目に見えてるだろうに。もしかして自分達の料理人が3人しか居ないというのも知らなかったんじゃないだろうか。ていうかそもそもその3人しか居ないというのも元を辿ればあいつらが悪いんじゃ?どうせ今回のコゼットちゃんにやった仕打ちと似た様な事を他の人にもやっていたに違いない。

 

「私、サンジ達の親と話をしようと思ってるんだ」

 

「え、ジャッジ様と?」

 

「話って言っても脅迫に近い感じでね。ただの八つ当たりでここまで酷い仕打ちを受ける様な職場にいつまでも嫁を勤めさせていられないでしょ?“話し合い"でコゼットちゃんを連れて行くのを許してもらえる様持っていくよ。……で、ここで相談なんだけど、2人も一緒に来る?」

 

「海賊〜?」

 

「そ。って言ってもシエル達にはご飯を作ってもらいたいだけなんだけど。海賊の船に乗るだけで海賊になってほしい訳じゃないんだよね。そりゃあ危険は付き纏うけどさ。だけど2人だってもうあの人達にご飯を作ってあげる気はないんでしょ?」

 

私の言葉に2人は迷う事なく頷き、だけど海賊船に乗る、という内容に関しては即答出来ない様でうんうんと唸っている。

 

「海賊の船に乗るのが難しいなら、叶……あー、頼りになる人に頼んでどこかの島に送ってもらうとか?そこで新生活を始めても、2人の料理の腕なら問題ないと思うよ。ドレスローザとかアラバスタ、後はウォーターセブンとかがオススメ」

 

「んー?私達、海賊船に乗る事に関してはそんなに抵抗ないよー?」

 

「海賊船とは言っても、イリスさんのとこならって前提はつくけれど」

 

あれ、そうなの?てっきりその事で悩んでるのだとばかり思ってたんだけど……。

 

「その船に乗っちゃうと、いよいよシエルと2人きりになれないでしょう?」

 

「メーアとの時間が絶対減っちゃうし〜……」

 

「な、なるほど……?」

 

2人だけの世界ってやつが減るのが嫌って事だよね?ううん……その辺は私には無い感覚だけど、好きな人と一緒に居たいって気持ちは凄く良く分かる。

だったら2人は……ドレスローザかな?気候とか考えても過ごしやすい島だし、愛と情熱と平和の国ならこの2人にはぴったりだと思うからね。

 

「ただ、少しの間は私達の船に乗って貰わないといけないかもしれないから、2人には長いかも知れないけど2日は我慢してもらえるかな?」

 

「いいわよ、ここに居るより全然良い。それで、出発はいつになるのかしら?料理長が回復してから?」

 

「コゼットちゃんには悪いけど、回復を待ってる時間は無いんだ。ただうちには凄く優秀な船医が居るからそういう意味でも早めに出発した方が良いと思う。だから支度の方は今からお願い、私達が出発するタイミングで迎えに来るから」

 

「はーい」

 

レイジュには悪いけど、ジェルマの人達には1度痛い目を見て貰わないとね。ていうか、レイジュも連れて行けば良いんだけど。

王族直属になれる腕前のシェフが全員居なくなるのは相当苦痛になる筈だ。普段から当たり前だとふんぞり返って、自分の機嫌1つで暴力を振るう事すら厭わない奴らはこれを期に思い知れば良い。美味しいご飯は1日の糧だと……自分達が“メシ炊き"と呼んだ人がどれだけこの城に貢献していたのかを。

 

生活レベルというのは上げてしまうと下げるのが難しいと聞く。私だって最近サンジが居なくなってその事を痛感していたんだから、今後のジェルマを思うといい気味だ。

なんてほくそ笑んでいると、治療室の扉が開いて医者が数人出て来た。どうやらコゼットちゃんの治療が終わったらしく、状態の説明を聞くかどうか問われたのに対しては迷いなく頷いた。

メインで治療を担当していた医者以外は何処かへ去って行き、残ったその人と一緒に私達は治療室へ入って行く。その際に聞いた所、命に別状は無いとの事で3人でホッと胸を撫で下ろした。

 

「……コゼットちゃん」

 

だが、そんな安堵もコゼットちゃんの姿を見ればたちまち崩れ去ってしまう。弱々しくベッドに横になっている彼女は、顔は包帯やガーゼなどで手当てされ、左眼と唇しか外気に触れていない。両腕はギプスで固定され、当面は1人でご飯すら食べる事も出来ないだろう。……まして、料理をするなんてのは。

 

まだ意識を取り戻さないコゼットちゃんのベッドの横に用意されていた椅子に座り、腕に巻かれたギプスにそっと触れる。

……ニジめ、本当にどんな思考回路をしていればこんな事が出来るの……?

 

「顔の方は時間と共に解決するでしょう」

 

「……顔の方“は"?」

 

口を開いた医者に対し、ギロリと睨む様な視線を向けてしまう。この人は悪くなく、むしろ精一杯処置してくれた功労者なんだからこんな態度を取るのは間違っているのは分かっているけれど……。

 

「はっきり申し上げますが、お察しの通り、腕は両方とも全治の見込みがありません。動かせる様にはなっても、間違いなく後遺症がついて来るでしょう」

 

「は……」

 

「まず、両腕ともに粉砕骨折なのも原因ではありますが、更に悪い事に腕神経叢を損傷しています」

 

わんしんけいそう……。詳しくはないけど、腕の神経って事は……何となく分かってしまった。

シエルとメーアが堪らず口に手を当てて俯き、お互い身を寄せ合って震えている。2人共分かってしまったのだ、コゼットちゃんにはもう、料理をする事が……。

 

「損傷の状態はかなり深刻で、恐らくどの名医でも完治をさせる事は……不可能でしょう。『再生』でもしない限りは──」

 

「再生……」

 

叶の魔法なら、どうだろう?どこまでの治癒力があるのか分からないけど、正攻法で治療する方法が無いのならもうそれ以外に頼るしか無いのだから。

 

「自然治癒でもある程度は回復する見込みはありますが、動かせるレベルまでは達しないでしょう。……私も医者です、最後まで諦めませんが、可能性はほぼゼロに等しいのだと覚悟しておいて下さい」

 

「……、」

 

自然治癒でも良いのなら、私の能力が適応されれば……。

私が、この力を誰かに分け与える事が出来たなら……。

 

「……っくそ……!!」

 

願っても、私の能力は人に分け与える事は出来はしない。

 

私はこの時初めて、自身の能力が不便だと思った。

 

 

 

 

***

 

 

 

ジェルマ王国、王城のとある一室にて、私はある男と机を挟んで椅子に座り向き合っていた。

男の方は頬から汗水を垂らし、呼吸も不規則、どこからどう見ても極度の緊張状態なのに対して、私は傲岸不遜に足を組み、腕置きに肘を付いて頬を手の甲で支えている姿勢だ。

更に、覇王色も抑えずに垂れ流している。気の弱い人ならこの場に居るだけで卒倒するだろう。

 

「──それで、話とはなんだ、女王イリス。我が城へ侵入した事実には目を伏せる……今は忙しい時期なんだ、要件があるのなら後日にしてもらいたい」

 

「勘違いしてもらっちゃ困るね、ヴィンスモーク・ジャッジ。あなたは譲歩する立場に無い。私がその気になれば……お望みのお茶会とやらが開催される前に『ジェルマ』の悉くを滅ぼす事も出来るんだよ?」

 

目の前の“ジャッジ"が分かりやすく肩を跳ねさせてみせた。この人に取って今回の政略結婚はそれ程価値のあるものなのだろう。

……まぁ、その結婚式も後で潰すけど。

 

「まず、もう話は届いてるかも知れないけど、あなたんとこの次男にムカついたからボコボコにしちゃった」

 

「……一応、耳には入っている。ニジを一方的に痛め付けるとは流石は『四異界』だ」

 

「ご機嫌取りは良いよ。それでね、そもそもの私がニジを攻撃した理由なんだけど、ニジが私の嫁に手を出したからなんだ」

 

「……!!」

 

大きく目を見開くジャッジに、余裕な態度を崩さず寧ろ覇気の圧を増やしてみせた。私が言うのも変な話だけど、彼は私の脅威……というか地雷を理解しているみたいだ。

……気になる事はあるけど、今は目を瞑っておこう。

 

「分かって貰えたみたいで何より。本当は今も色々押さえ込んでるんだよね。こうして“話し合い"で解決しようとしてる時点で私もだいぶ理性的だと思わない?……ただ、あなたが私の望む返答をしなかった場合は、この僅かに残った理性がどうなるか保証出来ないけど」

 

「ぐ……、“話し合い"とは言うが……それは最早脅迫に近いな」

 

「私の嫁に手を出したんだから当然でしょ?完治しない怪我を負わせてるんだよ?」

 

最早叶に頼るしか無いコゼットちゃんの両腕は、本来であれば希望なんて持てない程の状態なんだ。既に壊れてしまったものを『再生』するのはいかにチョッパーやローと言った凄腕のドクターでも成せるものじゃ無い。

なんなら、ジェルマ側にレイジュが居なければ私はきっともう暴れていただろう。

 

「私からの要件は3つ。ニジが傷付けた私の嫁である料理長のコゼットは貰っていく。で、ついでに同じく料理人を務めているシエルとメーアも連れてく、というが1つ目。2つ目は、あなたの娘のレイジュを私に下さいってことなんだけど」

 

「……1つ目については承知した、子供達にもこれ以上は手を出さない様に強く言っておく。2つ目に関しては……この場合、レイジュは我々の手から離れお前と行動を共にするという事か?」

 

「そこはレイジュの意思次第かな。とにかく私はレイジュを嫁に貰いたいの。そりゃあ私は出来るだけ一緒に居たいけど、嫁になってくれるのならここに残ってくれても良い」

 

親が居るのなら、娘さんを下さいくらいは言っておかないとね。

まぁ……そもそもレイジュが私の求めに応じてくれてないんだけど。それは今後の頑張りでなんとかするし。

 

「3つ目、これが1番簡単なんじゃないかな?有り体に言えばお金が欲しいんだ。うちはいつでも食糧不足だからお金はいくらあっても足りなくて。その点、あなた達は有り余るくらい持ってるんじゃない?下で見たけど、あんなのを量産するんだから相当資金がある筈だよね。私も鬼じゃ無いから無理は言わないよ、5億ベリーで手を打ってあげる」

 

「5億か……確かに、その程度ならばすぐにでも用意出来る。いつ渡せば良い?」

 

「今すぐでもいいし、お茶会が終わるまで待っても良いよ。それより先となると待ってあげられないけど」

 

お金は大事だからねぇ……うちの船長が原因で大体いつでも食糧不足だし、いくらあっても足りないというか。

 

「なる程、承知した。しかしそれだと1つ困った事になるのだがな」

 

「ふーん……例えば?」

 

「死人に金など贈っても意味ないだろう、そうは思わないか?女王。安心しろ、お前の墓にはお気に入りのメシ炊きも入れておいてやる」

 

ニヤリ、とジャッジが口角を上げた瞬間、部屋を囲う4面の壁が下にスライドして隣接する部屋や廊下が丸見えになった。更に、そこには武装した兵士達が所狭しと犇めきあっていて、イチジ、ヨンジ、それからレイジュの姿も見える。

 

「“話し合い"の結果を伝えよう、女王イリス。我々から貴様にくれてやるものなど何も無い。『ジェルマ』を侮った事を今ここで後悔させてやろう」

 

「……後悔、ねぇ」

 

この状況……やっぱりさっきまでの怯えた姿は演技だったって事なのかな。

……まぁ、その胆力は認めてあげる。部屋の周りに沢山の気配があったせいで私にはバレバレだったけどさ。

 

「ほんと、残念だよ」

 

折角、目を瞑ってやっていたのに。

 

「数を揃えれば敵うと思ったの?」

 

折角、我慢してきたのに。

 

「“話し合い"の結果を伝えるよ、ヴィンスモーク・ジャッジ。もうあなた達と話す事は何も無い、遠慮もしない、我慢は止める。……欲しいものは、全部奪っていくよ」

 

侮っていたのがどっちなのか、その身をもって味わわせてやる。

 

「精々頑張って、せめて“戦い"のステージまでは上がってきてね?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。