「あんた……そんな事があったのに良く耐えたわね。王華と沙彩のおかげかしら」
「正直、1人だったらレイジュを残してジェルマは潰してたかも」
……今でも許した訳じゃない。コゼットちゃんの腕は、チョッパーやローに見せれば違う答えが返ってくるかもしれないが、とにかく現状では打つ手が無い程の状態なのだ。……いや、例えこの世界の誰もが治せなくたって、私は決して諦めてなるものか。何が何でも治療法を見つけて完治させるんだ……!
「それで、サンジはどうするんだ?ヒゲのおっさんとイワちゃんが危ねェんだろ?」
「その事だけど、私が口を挟んでも大丈夫かしら」
こほん、と可愛らしく咳払いをしたレイジュが小さく主張する。止める意味も無いので頷いて返せば、レイジュは1度お礼を言って続きを話した。
「カマバッカ王国といえば、かの有名な『奇跡の人』エンプリオ・イワンコフが王を務める国でしょう?なら、そっちは大丈夫ね」
「どう言う事?」
「ジェルマが総力を上げれば結果は分からないけれど、現状、彼の国を侵略する程の戦力は私達に無いわ。正確に言えばそこに戦力を充てる余裕がない、かしら。お茶会が控えてる以上、向かわせられるのは兵士達だけ……それくらいなら簡単に追い返せるでしょう?」
あー、確かにそうかも。頂上戦争で共闘したイワンコフって男……男?はそれはもう強かった。
革命軍らしいし、サボともルフィのお父さんとも面識があるんだよね。ロビンはイワンコフはあんまり基地に居なかったって言ってたっけ。
「ビッグ・マム海賊団に関しても同様に、今は戦力を分散出来ない状況にあるわ。お茶会があるというのもそうだけど……女王、あなたの存在ね」
「そういえばサンジもそんな事言ってたね」
「更に、超彩のサアヤ、彼女の存在も大きいわ。普通ならばビッグ・マム側だけどどうやら彼女はそうじゃ無いみたいだから」
と言う事は、人質を取ってる様で取ってないって事になるんだね。主力を送り込む余裕がないから兵士くらいしか送らなくて、その人達では人質を倒せない、と。
とはいえ、脅すと言う事は既に人質をいつでも攻撃出来る場所に潜伏している可能性が高いと言うことにも繋がる。あまり楽観視し過ぎるのも問題だし……、あ、そうだ!
「立場的にも私から情報を与えるのは間違ってるけど、良いよね!話もしたいし」
そうにやりと笑って電伝虫を取り出した私を見て、レイジュは首を傾げるのだった。
***
─海軍Gー5、軍艦内部─
「──まったく、あの人は……!」
「どうした、またえらく荒れてるじゃねェか、たしぎ」
「!……いえ、先程“協力者"から連絡があり、
「ほォ……“協力者"……まァ、そう言うことにしておいてやる。良い様に使われるのは癪だが、その情報は
「はっ!」
***
「……あなた、本当に海賊なの?」
「海賊だよ?ちょっと顔は広いかもしれないけど」
目の前で普通に海軍側と連絡を取った私を見て、レイジュは呆れた様に目を細める。
「勘違いしてもらっちゃ困るから言うけど、誰の前でも海軍と連絡を取ってる姿を見せる訳じゃ無いからね?ここに居るのが仲間とレイジュだけだからそうしたんだし。それに、海軍って言っても1人だけだよ」
一応、周りに護衛としてジェルマの兵士達が佇んでいる訳だけど、彼らには聞こえない声量で喋ったから大丈夫だろう。仮に聞こえていたとしても数人だけだし、少数のトンチンカンな訴えには誰も耳を傾けない筈だ。
「私の前でするのは問題じゃないのかしら?」
「さぁ?でも、嫁にすると決めた人に隠し事をしたくないってのはあるかな。ここで私が切れる最良の手が『海軍と連絡を取る』だったから、レイジュの前だからって躊躇いたくないし」
「へぇ……徹底してるわね、女王」
徹底してるというか、自然とそうなるだけなんだけど。
好きな人に隠したい事って言えば、カッコつけた時に噛んだりする様なカッコ悪い事だけど、多分ナミさん達は可愛いって言ってくれるんだろうな。私だってそう思うもん。
「これで人質の件は一安心だね。念には念を入れてお茶会では沢山暴れちゃおうか!そうすればそれこそ人質を攻撃する為に割く戦力なんて無くなるだろうから」
「程々にね。あんたが沢山暴れるって事はその分周りにも被害が及ぶんだから」
「勿論、ナミさん達を巻き込んだりする訳ないじゃん!」
暴れるって言っても会場を積極的に破壊するって意味じゃないし。……とはいえ、どんな流れになるかは分かってないからそうならないとも限らないけど。
「そういやルフィ、そのカッコどうしたんだ?ボロボロじゃねェか」
「ああ、さっきすっげー強ェ奴と戦って来てよ、勝てたけどギリギリだったんだ」
ルフィでもギリギリだったんだ……。でも、流石に四皇とはいえそんな下っ端は居ないハズだから……、
「強い奴どころじゃないわよ、四皇の幹部よ、幹部!“3将星"って人達の1人を倒して来たの」
「……嘘でしょう?四皇の幹部を単騎で撃破したというの?そちらのお嬢さんが何か手を貸したとかも無く?」
「何もしてないわ。手伝える事はあったけど、ルフィが要らないって言うから」
「まぁルフィだし、それくらいしそうだよね」
なんて軽く言った私だけど、後から聞いた話、原作でルフィはその幹部に1人で勝利は出来なかったらしい。ナミさんの協力があってなんとか倒したんだとか。
「覇王色の覇気を
「あー、私の女王化みたいな感じだね」
女王化に関しては覇気を纏うだけじゃなくて他にも色々やってるし、そんな私が言うのもなんだけど、覇気を纏うというのは簡単な事じゃない。
武装色は覇気さえ習得すれば纏う事自体は案外楽な方だし、見聞色はそもそも纏うものじゃない。その中でも覇王色は特に扱いが難しいのだ。
率直に自慢するけど、私は覇王色を扱う天才だと自負している。私だからこそ、あれ程上手く覇王色を自在に操っているんだ。
……だから正直、普通にやってのけちゃったルフィには複雑な気持ちだったり。うぐぐ……流石は主人公……!
「覇王色を纏うって面白ェなァ、新しい“ギア"が試せそうだ、ししし!」
しかもこれ、すぐにもっと強くなりそうだなぁ。
まぁ、いっか。ルフィが強くなるのは歓迎するし。その分嫁を守る事に専念出来るからね。
「しかし、これからどうするんだルフィ。イリスちゃん1人ならともかく、お前とナミさんも猫車に乗って大胆にビッグ・マムの所まで行くつもりか?」
「面白そうだね、それ」
「面白くないわよ、あんたは黙ってなさい」
はい……。
「当初の予定では、私達はサンジ君を連れ戻すだけだった。だから滞在するつもりは無かったんだけど、そう簡単には行かないんでしょ?だけどサンジ君の言う通り私とルフィまで一緒に行ってしまうと目立ち過ぎるから……そうね、電伝虫は?」
「持ってるよ」
「じゃあ、それで合図をして。お茶会まで私とルフィは近くで待機しているから。勿論、シャルリア達を探しつつね」
ナミさんの最大限私に配慮してくれた提案に頷き、少し不満そうなルフィに苦笑しながら猫車に乗り込む。途中まで一緒に乗っていく事も考えたけれど、それじゃあ2人が近くに居るってバレちゃうかもだし。
2人と軽く言葉を交わして別れ、ホールケーキシャトーへと再び猫車を走らせた私達は、それ程時間をかける事なく目的地へと辿り着いた。
道すがらは喋る草花だったり木だったりと、まるで異界にでも迷い込んだ様な気分だったけど……って、私が言うのもおかしな話か。
「11時半……なんとか間に合ったわね」
「昼ご飯をビッグ・マムと一緒に食べるんだっけ」
「ええ、その時に父達が遅れるって事も伝えるわ」
そしてどうやら護衛の人達は中について来れない様で、城の内部に進むのは私達3人という事になった。
それから……。
「本当にごめんな、イリスちゃん。痛くないか?」
「大丈夫……ていうか、ちょっと緩すぎじゃない?」
後ろ手で両手首を紐で縛られています。というのも、私が普通に中へ入るなんて出来る筈がないので、仲間を裏切ったサンジがビッグ・マムへの手土産として私を献上する、というシナリオを決行する為だ。
海楼石の縄で縛っているという設定にするらしいが、実際はただの縄だし、私も女王化は解除しない。背丈が変わっているのはゴリ押して誤魔化そうと思う。
「代わりなさい、サンジ、私がやるわ」
「わ、悪い……頼む」
そもそもどうして自分が縛ろうと思ったのだろうか、サンジが女の肌に傷が付くような真似ができる訳ないのに。
まぁ、縄で縛られたくらいじゃ痕も残らないけどさ。
そんな訳で“裏切られたコーデ"となった私は、若干の項垂れ感を醸し出してレイジュに腕から伸びる紐を引かれ、歩いていくのであった。
この時、サンジに対して悲しそうな目を向けるのがポイント。
城に入る際、兵士には当然問い詰められたけどそこはサンジが上手くカバーした。私を裏切ってジェルマに付くって遠回しに言った時の演技はそれはもう凄かったし、なんなら本気で悲しくなったけど!