ビッグ・マムが居るという謁見の間は、どうやらこのケーキみたいな城の上層に位置しているらしい。縦に長いこの城を登るのは一苦労だし、エレベーター的な物を新設して欲しいとちょっぴり思いながら歩いていると、大柄な1人の男が不思議そうな顔で近付いてきた。
「お前らは……ジェルマか?それにしては数が少ない様だが……。む?何故女王がここに居る?」
「それならさっきそいつに話した。これからビッグ・マムにも伝えるが、そういうお前は誰だ?」
「俺はオーブンだ。シャーロット・オーブン」
……シャーロット?それって確か、ビッグ・マムの姓だった様な……。てことは、この人はビッグ・マムの息子なのかな。
「経緯は知らないが、あの女王を捕らえた事は評価出来る。我々の間でも目の下のタンコブの様な存在だったからな。サアヤは強いが腰も重い、面倒ごとには首を突っ込まんだろう」
腰が重いって、前なんか確認の為だけにドレスローザまで来てたけどね。王華の事になると積極的になるのは前世組共通なんだなって改めて感じるよ。
「どうせなら麦わらのルフィも捕まえて来たらどうだ?そこのマヌケの様に捕らえられるかもしれんぞ」
「生憎だが、こいつを縛っている縄は海楼石を含んでいるんだ。そんな貴重なモンを何個も持ってねェ」
「……そうか、まァ、いいだろう。だが他の仲間……いや、元仲間の居場所は吐いてもらうぞ。今更庇う様な関係でもあるまい」
「それは構わねェが、現状で何人捕らえてるのかは教えて貰えるか?必要の無い情報を与える気はねェんで。俺とお前はまだ他人だからな」
お、ナイスサンジ、これでビッグ・マム側がシャルリア達に危害を加えているかどうかの確認が取れる!
……って言っても、下手に情報を与えたく無いのは当然向こうも同じで、オーブンは睨む様にサンジと私を交互に見やった。
怪しまれるだけなら良いけど、これで私を縛っている縄の事に勘づかれでもしたら厄介だ。これは……賭けに出てもいいかも。
「ちょっと、離して!」
「っ?」
能力は使わず、素の力だけでぶんぶんと腕を振ってみる。2年間の修行でそのままでもかなり強くなった私だけど、残念な事に覇気を使わないとレイジュの腕すら振り解けない様だ。まぁ、今回はそれでいいんだけど。
ていうか、素とはいえ今は女王化してるからね、間違っても能力使用しちゃったらとんでもない惨事になるのは目に見えているし。
「私だけにしてくれるんじゃなかったの!?ルフィ達には手を出さないって約束だったよね!!」
「……そうだったか?悪ィな、イリスちゃん、良く覚えてねェ」
「ッ……この!!」
見たか、この即興茶番劇!
ぶっちゃけそんなに演技は上手い方じゃないけど、咄嗟に合わせられるサンジが天才過ぎて緊迫感は出せている筈。
更に、逆上して力任せにレイジュの手を振り解く……感を出し、更に更に話の通用しないサンジを押し退けた……感も出し、そのままオーブンに向かって蹴りを放った。
当然だが、能力は使用していないのでいとも容易く蹴りは掴んで受け取められ、そのまま吊るす様に持ち上げられた。
「くっ……!降ろしてよ!」
「お前らが本当にこの女と縁を切ったのか、ここで確かめてやる」
そう言って、オーブンは更に高く私を持ち上げ、胸の高さまで私の頭が来た瞬間に躊躇いもなく顔面を殴打してきた。
「ッ……!」
「イ……っ!……っ、……ぐ、!」
思わずといった風に叫びそうになったサンジだが、レイジュが目で牽制して止めてくれた。
私の演技に対して咄嗟に合わせてくれたサンジだけど、どこまでが私の狙いかまでは把握出来ていなかったみたいだね。まぁ、鼻とか口から血をダラダラ流してるだろうし、防御力も倍化してないから普通に大ダメージって事でサンジも慌てたんだろうけど……実際は痛みは無いんだよね……痛みは。
「ほう?今ので悲鳴1つも上げないか。流石はうちの優秀な妹と同じ次元に立っているだけはある」
どうして痛くないのか、それは簡単で、単に『痛覚耐性』を倍化しているからである。
普段は気付かぬうちに死に至る危険性があるから使用しない倍化だけど、こういう限定的な場面では役に立つ。勿論、死なない様に気を付ける必要があるけど。
「………」
「完全に信用する訳ではないが、まぁ、良いだろう。ただし、こいつはこのまま連れて行く。治療する事は許さん」
「ああ」
治療は許さない、か。
……ふふ、残念!ある程度のレベルまでは自然治癒力を倍化させて治しておくね!だって普通に能力使えるんだし!
「それで、今は何人捕らえているんだ。まさか天下の四皇のお膝元に侵入した鼠を未だに1匹も捕まえる事が出来ていないなんて事はないだろ?」
「……そのまさかだ、情けない事に、未だにこの女王しか捕らえる事は出来ていない」
!!
「だが、1人は手傷を負わせた。髪の長い女だ、恐らく麦わらの一味と関係している筈だが……」
「恐らく?」
「最近船に乗ったのか、見た事のない顔だった。……見た事がないというのも自信は無いが……」
だったら、それは十中八九シャルリアだ。捕まえる事が出来ていないという事は、傷を負いながらも上手く逃げられたって事だし。私達に連絡が無かったのは電伝虫がその際に壊れたからだろう。きっとブルックとペドロも同じ様な状況の筈だ。
見た事ないという自分に自信が持てないのも、それは相手がシャルリアだから。色んな意味で有名だからね、シャルリアは。
「オイオイ、そんなんで本当に大丈夫なのかよ。俺の結婚式が潰されるのは勘弁してくれ」
「なら、貴様の持っている情報を寄越すんだな。不甲斐ないのは認めよう。トドメも刺せず、無様にも逃したのはこの俺自身の責任だ。だが……お茶会にはママも参加する。女王を無力化した今、残り滓の麦わら達は大した脅威ではない」
脅威ではない、か。麦わらの一味の最大戦力は、自慢になるけど私が飛び抜けてるとは思う。だけど、だからと言って私におんぶに抱っこな人達じゃない。たまにこうした勘違いをする人が出てくるけど、あのルフィが弱い訳ないでしょ?
「その麦わらのルフィなら、今は恐らく森の方に居るんじゃねェか?ここに来る途中でそっちから戦闘音が聞こえたんだが」
「……随分と曖昧だな」
「ああ、すまねェな。あいつがこの島に辿り着いている事は知っていてもどこに居るかまでは把握してねェんだ。女王は向こうからうちの城に来てくれたんでね、捕えるのも楽だったって訳だ」
うわぁ、情報だけ引き抜いて話を終わらせるなんて、エグい……!流石サンジだ。私を捕まえたんだから良いよね?みたいな雰囲気出してるけど、そもそも私も捕まってないし……。
「なら、今後も引き続き麦わら共の情報を探るんだな。女王1人で釣りが来るとはいえ、残りの奴らが侵入者だと言う事に変わりはない」
「ああ、こっちもいい迷惑だ、結婚式までにはケリをつけようと思っている」
いい迷惑だ、お前らが。ケリをつけてやる、お前らに。って事でしょ、これ。私だから分かるけど、オーブンはまさか自分達に向けて放たれた言葉だとは夢にも思ってないだろうね。擦り寄ってる様に見せかけて悪意満点じゃん。
……まぁ、それはいいとして。
いつになったら私はこの逆さ吊りから解放されるの?いい加減頭に血が昇ってちょっと辛くなってきたんだけど。
しかも殴られた顔から結構血が出てるんだよね、主に鼻とか。乙女の顔面じゃ無くなってきてるから、こういうとこ嫁に見られたくないじゃん。今だとレイジュとかさ。
「そろそろ女王を返してくれるかしら?ソレはビッグ・マムへの贈り物なの」
「いや、そう言う事なら俺も同席しよう。女王は俺が持つ」
えぇ……。これ、ビッグ・マムと昼食食べてる時もずっとこのままって事?
いや、流石にずっと逆さ吊りにはしておかないだろうけど、早く解放されたい!こんな事になったのは私が身体を張った作戦を実行したからとはいえ、嫌なものは嫌なのだ。
「……!……!」
オーブンに気付かれない様に全力でサンジとレイジュにアイコンタクトを送ってみる。なんとかして!なんとかして!と自業自得の現状の割に人任せだった。
「あ、あー……とりあえず、担いだらどうだ?その方がお前も楽だろ?」
「今も特に苦ではない。大丈夫だ」
……よし、こうなったらミキータの真似をするしかない!やり過ぎちゃうと気付かれるから……2倍だけ!
「……なんだ?」
私が密かに行った能力によって、オーブンが眉を寄せる。
恐らく現在奴の腕には、さっきまでと比べてきっちり2倍の負荷がかかっている事だろう。……まぁ、ただ自分の体重を2倍にしただけなんだけど。
普通なら間違いなく気付かれる行動だが、今回に限ってはそうではない。何故ならオーブンは今、海楼石の縄で私の能力は封じられていると思っているからだ。……って言っても、サンジの言ってる事を完全に鵜呑みにしているって訳ではないだろうからさっきも言った様にやり過ぎはダメだけどね。
それでも体重を2倍するのは結構な変化がある。ある意味これも賭けになるのだけど……。
「……成る程、やはりこの女は危険だ」
結果としては賭けに勝ったみたいだけど、なんか勘違いしてるのかな?私の体重が重くなったって発想には至っていないのならいいんだけどさ。
そして、変に勘違いしているオーブンはサンジの言葉通り素直に私を担ぎ直して歩き出した。
なんだかよく分かんないけど、ラッキーなのに変わりはないし、いっか!
なんだこれ(笑)