ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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242『女好き、牢内にて』

食事も終わり、案の定何1つとして口に入れられなくてお腹が空いている私は、この城の地下にある牢屋に一旦放り込まれていた。

 

「あー……お腹すいたぁ……」

 

どうやらこの牢屋はそんなに機能していないみたいで、私以外に収監されている人は1人も居ないらしい。別の場所にメインの牢獄でもあるのかな?

じゃあどうして私はここに放り込まれたのかって事だけど、それは多分監視を私1人に集中させたかったからだろうと思ってる。だって……パッと見ただけでも100は越える数のチェスみたいな兵士達が私の居る牢屋の外をウロウロしてるんだもん。

確かに結構広いスペースだからそれだけ居ても窮屈そうには見えないけどさ、過剰過ぎない?こちとら海楼石で縛られてるんだよ?……あ、縛られてなかったね、これ、普通の縄だった。

 

まぁ、そんな訳で別に力を封じられてる訳でもなく、いつでもここから脱出する事は可能なんだけど……なんせ力技でしか脱出方法が思い浮かばないから困っているのである。

柵をこじ開けてたら絶対兵士達に見つかるし、見つかったら倒さなきゃいけないからね。無駄に騒ぎを起こす事はあんまりしたくないし。

それに……あの人もちょっと厄介なんだよね。

 

「うーーむ……」

 

チェス兵士の中に1人だけ混ざっている体躯の大きな女性……美人だから気にはなるけど、ぶっちゃけ兵士達と比べても遥かに実力が高い。

チェス兵士だけなら騒がれる前に全員倒せば良いんだけど、あの人が居るとそういう訳にもいかないからなぁ。戦って負ける事は無いけど、時間は稼がれるだろうし。

 

でもまぁ、別にいっか。明日の結婚式が始まるまで大人しくしていれば良いだけで、そこからは騒ぎとか幾らでも起きるから私も強引に脱出出来るし。

 

「案外大人しいな、気分はどうだ?女王イリス」

 

「最高だよ、美人に話しかけられたからね」

 

そんな風に現状の整理をしていると、この場においては1番厄介な人物が檻越しに声を掛けてきた。

さっきも思ったけど、兵士達と比べても体躯や実力どちらもずっと上で、あと美人。

 

「随分と余裕そうだが、貴様の処遇は明日の結婚式後にママが直々に決める事となっている。能力も使えない今、碌な抵抗は出来ないだろう。殺処分となっても不思議ではないぞ?」

 

「そうなんだ、私、殺されちゃうんだ。だったら嫁になってくれない?ほら、どうせ死ぬんだから1日くらい良いでしょ?」

 

「頭大丈夫か?」

 

ガチトーンで言われました。

大丈夫に決まってるじゃん!むしろ平常運転だよ!

 

「女好きで有名なのは知っていたが、自らの命が脅かされてる状況でもブレないとはな。その点に関しては認めてやるが、私が貴様の嫁になる事はない」

 

「最初はそう思うかもしれないけど、一回嫁になってみてよ、幸せにしてみせるよ?」

 

「檻に閉じ込められてる奴が言うセリフか?」

 

「檻の中でも外でも私は変わらないよ、だから気にしないで!」

 

ぐっ!と握り拳を作りながらドヤ顔で話せば、彼女はあからさまに呆れた態度で大きくため息を吐いて目を細めた。

おっと、これはジト目というやつですね?大好物ですありがとうございます!

 

「この状況でそこまで楽観的になれる程肝が据わっているのは認めるが、もしかして気付いていないのか?」

 

「ん?何が?」

 

「貴様が捕まっているという事は、恐らく近くに居るのだろう貴様の大切な嫁とやらも直ぐに捕らえることが出来る。まず、生きては帰れないだろう」

 

ふむ……確かに近くに居るのは間違ってないけど、楽観的に考えているのはどうやらビッグ・マム側も同じらしい。そもそも、私を捕らえた時点で勝った気になっているのが甘い、甘過ぎる。

オーブンもそうだった様に本当に良く勘違いされがちだけど、麦わらの一味は私1人のワンマンチームじゃないのだ。

みんな、油断して舐めた考えで勝てる程弱く無いよ?

 

とはいえ、私の知らない所で嫁が襲われる可能性があるのは確かに癪に触るよね……。

ううむ……とりあえず今は見聞色で周りを探るしかない、かな。ビッグ・マムとか沙彩の気配が強すぎてイマイチ分かりづらいけど、時間をかければ個人レベルで特定出来るかもだし。

 

「一応言っておくけど──嫁に手を出したらあなたでも許さないからね」

 

「フ、ここは怖がっておけば良いのか?」

 

「はは、怖がる必要はないと思うけど、覚悟だけはしておいてね」

 

なんて言っても、向こうからすれば負け惜しみを吠えてる敗者でしかないけれど。

ここで覇王色なんて出して威圧すれば絶対警戒されるし、オーブンの時の1回で止めておいた方が良い、と思う。

 

「それで、あなた名前は?」

 

「この流れで自己紹介を求めるか?敵だぞ、私と貴様は」

 

「敵対してても挨拶くらいするでしょ?ほら、名前は??」

 

「……なんだか、他の誰に名乗っても貴様にだけは名乗らない方が良いと私の勘が騒いでいるんだが。これは気の所為だと思うか?」

 

「そりゃーもうすんごい気のせいだね!勘が鈍ってるんじゃない?」

 

……みんなが苦労してる中私だけ美女との会話を楽しんじゃってて申し訳ないけど、見聞色を練る以外はする事もないし、ここでこの人を引き留めておくのは悪くない筈。

下手にルフィ達の捜索の応援に行かれたら厄介だ。

 

「それに名前くらい良いじゃん、名乗る事すら出来ないの?あなたは私の名前を知ってるのに私だけ知らないなんてズルくない?」

 

「……ふー。分かった、分かった。貴様とまともに会話をしようと思うのが間違いなんだな。話は通じないと思った方が良さそうだ」

 

「もしかしてだけど虫か何かと同列に見てない?話は通じるよ?名乗らない方がおかしいじゃん!世間一般でもまずは挨拶が基本なんだけど!?」

 

「この場で世間一般を語ってる時点でおかしいとは思わないのか!?」

 

うぐぐ……!!確かにその通りかもしれない……けど!まぁ、いいじゃん、そんな事は!やっぱり名前は大事だし、知りたいし、嫁にしたいもん!!

 

「嫁になってよぉ!!」

 

「想いを募らせる前に少しばかりの恐怖を抱いているが?貴様は今までそうやって強引に女を侍らせてきたのか……?」

 

「まぁ……うん、大体そうかも」

 

「頭のおかしい尻軽の集まりなのか?」

 

「あはは、あなたもそうなるよっ!」

 

パチーン、と渾身のウインクをかましたけど、柵越しの彼女にはガチ引き顔を披露されてしまった。なんで!?

 

──おっと、ついに私が広げていた見聞色に誰かが引っかかったみたい。これは……あれ、ブルック?

 

「んー……?」

 

しかもこれ、この城内に居るっぽい。ペドロも近くに居るのかな、今んとこブルックの気配しか感じ取れないけど。

どっちにしろ良く潜入出来たねぇ、結構警備とか居たと思うんだけどな。

 

「お」

 

今度はナミさんとルフィを見聞色で捉える事が出来た。場所はやっぱりこの城の近くで、シャルリア達を探してくれているのかじっとしてはいないみたい。

うーん……そろそろナミさん達に1回連絡取っておきたいよね。電伝虫も今のところ何故か見つかってないし。

とはいえ、こうも見張りが厳重だと懐に手を入れる事すら出来ないんだけどさ。

 

……そういえば、鏡の世界とやらに入ってるペローナちゃん達の気配って感じ取る事は出来るのかな?異空間って扱いになるのなら、どれだけ覇気の範囲を拡大しても一緒なんだよなぁ。

 

「急に静かになったな」

 

「ん?ああ、ごめんね、寂しかった?」

 

「本当に貴様と話していると頭が痛くなってくる」

 

なるほど、これは脈アリ……ってコト!?

ふっふっふ……がっつり話続けるかぁ!?

 

「お取り込み中失礼します、スムージー様!早急にお耳に入れたい事が……」

 

「──ん?なんだ、どうかしたのか?」

 

「え」

 

ここから怒涛のトークラッシュで一気に雰囲気あげあげやっほいと洒落込むつもりだったのだけど、後もう少しの所で兵士に呼ばれ離れてしまった。

 

いやしかし、しかしである。

 

「……よっし、あの兵士の人、本当にありがとう……!」

 

会話と引き換えに今、私はスムージーという名前を知る事が出来たのだ!わーい!これからの会話でどう巧みに聞き出そうかと思ってた所だから凄く嬉しいよ!良いプレゼントをありがとう……!!

 

名前からしてやっぱりスムージーもビッグ・マムの子供なんだろうね。明らかに周りの兵士とは一線を画しているし。

ビッグ・マムは凄い巨体のお婆ちゃんってイメージなんだけど、娘達があんなに綺麗なら若い頃とかもうすんごかったのかなぁ。

 

「ま、それはそれとしてっと」

 

ここで一旦気持ちを切り替え、離れたスムージーの声が聞こえる様に聴力を倍化させ、対象へと意識を集中させる。さっき兵士の人は急ぎでって言ってたから、この情報は聞いた方が良いと判断したのだ。

私の能力を警戒していれば喋らないだろう事も、能力を封じていると思い込んでいる今は関係の無い事である。

 

 

「──それで、どうしたんだ」

 

「はい、たった今、城内に隠れ潜んでいた麦わらの一味の1人、“ソウルキング"ブルックの存在を確認致しました!そして同じくペドロというミンクも確認済みで御座います!」

 

……!ブルックとペドロ……!

 

「その言い方だと、未だに捕らえる事は出来ていない様だな」

 

「申し訳ありません、その通りです。意外に素早くて……。ただ、ペドロについては現在タマゴ男爵が追跡中との事ですので捕まるのも時間の問題かと」

 

「ふむ、そうか……ならソウルキングの方は私が対応しよう。あまり長い間好き勝手にされてママの怒りを買いたくはない。ただ、この場から動くのは私だけだ、残った者は全員で“女王"を見張っておけ」

 

「は!」

 

そんな感じで兵士と話し合った後、スムージーは足早にこの場を後にした。折角名前を知る事が出来たんだからもう少しゆっくり話をしたかったけど、仕方ないだろう。

 

さて、そうこうしている内に見聞色の索敵範囲もだいぶ広くなって、今はジェルマの所まで気配を感じ取れる様になっているんだけど……どうやらジャッジ達はもう意識を取り戻している様だ。もう一回刈り取ってやろうかこんにゃろう。

気になるコゼットちゃんは……うん、まだ眠ってるみたい。シエルとメーアも近くに居るね。

 

ちなみにだけど、王華と沙彩の気配はあえて探らなかった。

探る必要ないかなって思ったのもあるけど、折角ゆっくり話せているんだから気配を探るだけとはいえ茶々を入れたくなかったから……。

 

「はー……脱出しちゃおうかなぁ……」

 

居なくなったら直ぐに気付かれるだろうけど、こうも何もしないというのもねぇ。

どうせ騒ぎになっているのなら、今からブルックの応援に行くのもアリかな?

 

「うん、行っちゃうか」

 

今まで大人しくしていたのが無駄になっちゃうかもしれないけど、これ以上じっとしておく意味もないし。

じゃあ、出来るだけ発見を遅らせる為にもこっそり脱出しちゃおっと。

 


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