23『女好き、クジラに飲まれる』
「ほんと死ぬかと思った…いや!ナミさんだけは死んでも守る!」
あの無風の海を何とか凌ぎ切った、というか逃げ切った私達は、あいも変わらず嵐に打たれていた。
「…わかった、やっぱり山を登るんだわ」
「リヴァース・マウンテンを?」
海の知識などが全くない私でも、やはり船で山登りは出来るイメージが湧かない。
ナミさんを信用してるけれど…どうするのかという疑問は残る。
「さっき
四つの海とは、まずここ、
名前の由来はそのままで、その方角にある海がそうなのだ。
「その四つの海流は運河を駆け登って頂上でぶつかり、
「ふーん、ルフィ、わかる?」
「要するに不思議山だろ?」
「それ」
「それ、じゃないわよ…」
それくらいの認識でも問題ない筈だ。
何たって今から行くのは
「不思議山が見えたぞ!!」
「で、でっかーーっ!」
もうすぐ
ナミさんの言ってた通り、運河の入口には海流が勢いよく流れていてあそこに上手く入ることが出来れば船だって山を登ることができるだろう。
途中舵が海流の力に負けて折れ、船が上手く入口に入らず岩にぶつかりそうになったが、そこはルフィがゴムゴムの風船で船と岩の間に入って無理やり軌道を修正してくれたお陰で事なきを得、何とかリヴァース・マウンテンに入れた。
「おおっ!」
四つの海流が合流している所は噴水みたいになっていて、メリー号はそこで軽く浮いて何なく海に着地する。
と、いうことは…!!
「見えたぞ!
ルフィが嬉しそうに笑う。何かうちの船長の笑顔ってほんと嬉しそうなんだよね。
「よーし!行けーー!」
私のテンションもアゲアゲである。ナミさんの子を見つめる親のような温かい目はこの際見なかったことにしておこう。私はナミさんと夫婦の関係である筈で、まさか母娘なんかでは決してないからである。断じて。
「おい、何か聞こえたか?」
「えー?風の音でしょ、さっきから聞こえてるよ」
ゾロが変な事を言い出すので、深く考えずに軽く返しておく。
確かにさっきからブオオオオオみたいに聞こえてはいるけど。
「ナミさん!前方に山が見えるぜ!」
「山?そんなハズないわよ!この先の“双子岬”を越えたら海だらけよ」
何か
「……確かに山が見えるね…大きく口も開いてるし…」
…ん?
「いや、これ山じゃないよ、クジラだ!クジラが道塞いでる!!このままじゃメリー号とぶつかるよ!!」
「「ええっ!?」」
風だと思ってたのもクジラの鳴き声だったようだ。くそ、ゾロにそれ見たことかとドヤ顔された。
「どうする!?戦うか!」
「バカね!戦えるレベルじゃないでしょ!?」
クジラと言えばその巨体をまず想像するだろうが、今回のクジラはそれ所ではなかった。
聞いたことないだろうか、前世の日本で噂されていた話だと、古代にはメガ何たらという巨大鮫が居たそうな。
今回のクジラはその鮫よりも遥かに大きなサイズを誇っているのだ。近くに来てしまったらもう壁にしか見えない。
「左に隙間がある、あそこから抜けられそうだ!舵折れてるが、何とかならねェか!?」
「よし、私も手伝うよ!まずは折れたとこを二倍に伸ばして力をかけ易くしよう!」
「でかしたイリス!よし、ここまで伸びればだいぶマシだ!」
ふぐぐ!!と取り舵を回そうとするが、流石に強い流れに乗ってある事もあってかなかなか動きそうもない。
だめだ、このままじゃぶつかってーーー!!?
ドウンッ!!
「!!?」
「た、大砲!?」
ぶつかれば終わりだ、と言うところでメリー号の前方から大砲が放たれ、クジラに直撃した。
狙撃手はルフィ。彼はかなり満足といった顔を浮かべていらっしゃる。
確かに大砲を撃った反動で船の勢いはかなり減速し、クジラにぶつかりはしたが大した衝撃もなくメリー号の頭が吹っ飛んだだけで済んだのは良かったかもしれない。
「クジラの反応ないよ!今のうちに逃げよう!!オール漕いで!」
「了解ッ!」
気付いていないのか、何の反応もないクジラの横を通り過ぎようとオールを全力で漕ぐ。
「あれ、ナミさんどうしたの?そんな所でへたり込んで」
「メリー号の船首像に当たりそうだったから避けただけよ、気にしないで」
「なるほど!」
危ない危ない、メリー号の頭は結構重たいんだからそんな物がナミさんの上に落ちてきたら…。
…と言うことは結構危なかったのか…。
・・・・・・。
「このクジラがァーー!!ナミさんに当たってたらどうするつもりだァ!!」
「おれの特等席に何してくれてんだァ!!」
私は跳躍して蹴りを、ルフィはゴムゴムのピストルでクジラの目を殴った。
「「アホーーーーっ!!!」」
流石にクジラも無視する訳には行かなくなったのかメリー号に視線を合わせる。
「上等だよ…!かかってこォい!」
「あんたはもう黙ってて!」
「おふ…」
ぎゅっとナミさんに抱き締められた。ナミさんや、私の扱いをよく心得ておりますな…。
「お、おい…クジラの奴、口開いたぞ…!」
ウソップが白目向きながら泣くと言う芸当を披露している間にもクジラは次の行動に移る。
「こ、これ吸い込まれてない?」
「どう見ても吸い込まれてるだろ!!」
とてつもない程巨大なクジラが吸い込む力と言うのは凄まじく、みるみる内に船はクジラへ飲み込まれていく。
その勢いは、軽く足を滑らせたルフィが船外に放り出されるくらいの速さで飲み込まれている程だ。
「…ってルフィ!!」
「うわあああ!!?」
バッと腕を伸ばしてクジラの歯を掴んでいたから、ルフィは大丈夫だろう。
問題は私達だ。飲み込まれても直ぐに死にはしない筈だ。何が何でもナミさんは守り通してみせる。
***
「…って思ってたんだけど…」
何だこれ…。
飲み込まれたと思ったら、何故かそこは海の上だった。
「何これ?」
「夢だろ」
「じゃあ目の前に見えてる島と家は?」
「……。幻だろ」
「じゃあ、これは?」
「「大王イカだ!!!」」
ウソップはゾロの、ナミさんは私の後ろに隠れたが、突然出てきた大王イカはロープに固定された銛3本で一突きにされて家に引きずられていく。
「人は居るみてェだな」
「ここから出る方法を知ってる人なら助かるんだけどね」
「待て、家から人が出てきた…!」
怪しすぎる家から出てきたのは、まるで花が開いたかのような髪型をした男性だった。何といえばいいのか、孔雀の広げた時の羽を横に倒して後頭部にくっつけたような感じだ。うん意味わからん髪なのはわかった。
「……!」
「………」
………。
「なんか言えよてめェ!!」
目は合ったのだが一向に口を開かず、ビーチチェアに座って新聞を読み出したので流石にサンジが突っ込みを入れる。
「や、やるならやるぞこの野郎!こっちには大砲があるんだ!」
ウソップがビビりながら威嚇する。何せ相手がどんな人物なのかがさっぱりわからないのだから対応の仕方がわかんないのだ。
「……。やめておけ…死人が出るぞ」
「………!!…へェ、誰が死ぬって?」
「私だ」
「お前かよ!!!」
「あっはっは!!」
芸人でしょサンジと孔雀さん!!だめ、お腹捩れる…ッ!
話が出来るくらい落ち着き、この場所についての情報を教えてもらった。
まず、ここがクジラの腹の中なのは間違いないらしいのだが普通に出口はあった。ここはクジラの胃袋の筈なのだけど…あんな風に扉何か作っちゃって平気なのだろうか。
そして、この男の名はクロッカス。双子岬の灯台守をやっているそうだ。
「なるほど、じゃあとにかく出口に向かおう。ルフィの事も気になるし」
「あァ、そうだ…なっ…、ッなんだ!?」
急にクジラが揺れだしたのか、海と思っていた胃液が荒れ、船も同じように揺れだす。
さっきからハプニング続きで疲れてきたよ…。しかも急にくる奴ばっかり…。
「始めたか…」
「何を!?」
ていうかこれだけの揺れでよく冷静で居られるよねこのじいさん。
「このクジラが、
「…!」
何故そんなことをしているのかはわからないが、その説明には納得が行く。確かにこのクジラの額には物凄い数の傷があったし、空へ向かってブオオオオオっと叫んでいたのはその痛み故か。
「そうか!…それが狙いかあのジジイ!体の中からこのクジラを殺す気なんだ」
「んな訳あるかい」
パシーンとウソップを叩いてツッコミをお見舞いする。
「いてェなイリス!今の何倍だ!?」
「倍加してないよ。でもウソップの説はないと思うよ。確かにこのままじゃクジラは死ぬけど、わざわざこんな回りくどい殺し方しないでしょ」
人を疑うより、信じた方が気持ちがいいって歌があった筈だ。
いや、私はそんな人間ではないけれども、前世の記憶がそう言っているのはクロッカスがそんな事をするとは思えなかったのだ。
「何にせよ脱出は最優先だ、とにかく今は漕げ!」
「そうだね!」
どれだけオール使うんだよ…と思いながらもうんしょうんしょと出口の扉まで漕いで行く。
「…ん!?なんか扉の向こう騒がしくない?」
「気にしてる場合か!おい誰かあの扉開けてきてくれ!」
ゾロの言葉の直ぐ後でドカン!と扉が開けられる。
勿論タイムラグがなさ過ぎるのでゾロの言葉を聞いた人が開けた訳ではないし、何なら船用ではなく、その横にある人用の小さな扉が開かれたのだが。
「ああああああああああ!!!?」
「ルフィ!!」
どうしてクジラの内部にいるのかという疑問はこの際置いておいて、扉の向こうから物凄い勢いでルフィが飛んできた。
そして、そのルフィに押し出されるように出てきた二人組に目を向ける。
「……すんごい美女いるじゃん!」
ザブーン!とルフィを含めた3人が胃液に落ちた。
何があったんだと思う程の勢いで扉が開かれ人が吹っ飛んできたのも、やはりクジラが額を岩にぶつけていたからだろう。
「あ、ルフィを助けないと!」
「俺が行く…!」
「美女は俺が!」
そう言ってゾロとサンジも胃液に飛び込んでいった。
…こういう時、能力者って本当に役立たずだよね…。