くそ!ミス・バレンタインが登場しておれば…!くそ!あともう少しなのに!!(血涙)
「バレンタインデー?」
メリー号内のダイニングにあるテーブルに座り、私はナミさんと二人で話をしていた。
「そう!バレンタイン!それは女の子が、好きな女の子への想いをチョコに乗せてプレゼントする素敵な日なの!!」
「へぇ、それで私にチョコを?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれましたっ!これはルフィ、ゾロ、サンジ、ウソップの分ですとも」
ほいほいとテーブルにチョコ入りの四角くラッピングされた箱を置いていく。
「好きな女の子にチョコをあげる日なんじゃないの?」
「チッチッチ、これは義理チョコだよ、お世話になってる人や友達にあげるチョコ。そして〜〜こ〜れ〜が〜、ジャン!!」
ドン!とテーブルに一際大きなハート型の箱を置く。
「本命チョコ、ズバリ、ナミさんの為に私が愛情99%と残り1%のカカオで作った物で御座います!!」
「そ、そう…ありがとう」
ちょっとナミさんの顔が引きつってるのが気になるけど、まぁ受け取って貰えた訳だし良しとしよう!
「ルフィ達にも渡してくるね!あ、ナミさん、食べる時はちゃんと私の事を想いながら、そう…私を食べるつもりでしっかり味わって食べてね!!」
「はいはい、早く行ってきなさい」
「はーい!」
バタバタと忙しなく出て行く私の後に残されたナミさん。
「はぁ…」
ポケットから取り出した小包を見つめて呟いた。
「…私もバレンタインは知ってるんだけど…渡しそびれちゃったわ…。どうしよう」
ダイニングには、一人の少女のため息だけが響くのであった…。
***
「ルフィーー!」
「お、イリスー!何だ?」
何時もの様にメリー号の頭に座っていたルフィが一番に目に入ったので手を振って駆け寄ると、ルフィは座ったまま背中を倒して仰向けの状態で私を見る。
「へへ、これ、なんだ?」
「食いもんか?」
「そうだよ、正解早すぎ!」
やっぱり匂いとかでバレるのかな?箱に入れてるんだけど…。ま、ルフィだから仕方ないか。
「はい、チョコ」
「くれるのか、ありがとなイリス!ナミには渡したのか?」
「勿論、ナミさんを置いてルフィに渡す訳ないでしょ、誕生日とかならまだしも」
「ししし!そりゃそうだ」
びょーんと伸びてきた手にチョコを乗せて、今度はサンジを探しにみかん畑まで行ってみるとやっぱりサンジはそこに居た。
「やほ、サンジ。今日もみかん警備?」
「イリスちゃんか、あァ、ナミさんのみかん畑は俺が責任を持って守る!」
「頼もしいね、じゃあお礼にはい、チョコ」
「お、ありがとうイリスちゃん。ナミさんと一緒に作ってくれたのかい?」
「え?ううん、残念だけど私一人だよ。何?まーだナミさんを狙ってるの?」
そう私が冗談で言うと、サンジは慌てて首を振る。
「いやいや、そうじゃないんだ。ただーーー」
「なんだここに居たのか。おいイリス、ちょっと稽古に付き合ってくれ、相手が欲しい」
既に汗だくなゾロが私にそう声を掛けてきた。
稽古に付き合えって…もう休んだ方がいいと思うんだけど。
「サンジじゃ駄目なの?」
「そいつとじゃ実戦になるだろ」
「それに俺は今恋の警備で忙しいんだ、マリモ野郎に付き合ってるヒマはねェ」
「ンだとこのヘボコック!!」
「やんのか緑マリモ!!」
バチバチと視線の間に火花が散る二人にため息をつく。
たまーにこうして喧嘩になってる二人だけれど、本当に仲が悪いって訳じゃないから喧嘩する程仲が良いって奴だろう。
「その様子じゃ私が稽古相手になる必要もなさそうだね、はいゾロ、チョコ」
「くれんのか、甘ェもんは苦手なんだが…」
あ、ゾロは甘い物が苦手だったのか…。うーん、確かにそんな感じのイメージはあるな。
「そうなの?ごめん、そういう日だから形だけでも受け取ってよ、捨ててもいいからね」
「おいマリモ野郎、イリスちゃんからのチョコを捨てるくらいなら俺に寄越せ」
「誰も食わねェとは言ってねェだろ、それにてめェにやるくらいならルフィかナミにやるよ」
再度睨み合いを始めた二人を放ってウソップを探しに行く。
あ、そう言えばさっきサンジが言いかけてた事聞くの忘れてた…。また今度でいいか。
「ウソップはどこかなー、…この時間帯だから、こっちかな」
メリー号を横から見た時、前後に比べて低い位置に設計されている船の中央部、ミッドシップはメインマストがそこから伸びているとは言え
そこでウソップはよく道具の開発を行っており、私も時々見学させて貰っているのだ。
そこへ足を運ぶと、やっぱりウソップはそこで弾の製造を行なっていた、流石狙撃手。
私が近づくとウソップは目に当てたゴーグルを外して手を上げた。
「今日も精が出るね」
「まァな、準備は念入りに行なっておかねェと、いざと言う時に逃げ……大物を狩れなくなっちまうだろ?」
何か本音が聞こえた気がする。
「はい、これチョコ」
「お!そういや今日はバレンタインか。いやー、まさかおれがチョコを貰える日が来るなんてなァ」
「はっはっは、崇めたまえ」
ははーとノリに乗ってくれる彼はやはり良い人だと思う。
「それで、ナミからはもう貰ったのか?」
「え?そこはあげたのか、じゃないの?」
私がそういうとウソップははぁ、とため息をつく。
「イリスがナミにあげてるのか何て聞くまでもねェだろ…。で、どうなんだ?」
「貰ってないよ?だってナミさんバレンタイン知らなかったし」
「は?」
何故か疑問の表情を浮かべるウソップ。
何だその反応は、確かに私も内心驚いてはいたけどもそこまで顔には出なかったけどな。
「いやいや、でもよ、ナミの奴…昨日チョコ作ってたぜ?」
「は!?」
今度は私が疑問…というか驚愕の表情を浮かべた。
どういう事?バレンタインは知らなかったけどたまたまその日チョコ作ったとか…そんな事ある?
「サンジと一緒に寛いでたら急にダイニングから締め出されたから間違いねェよ、匂いもチョコだったしな」
「そ、そうなんだ…。…何で言ってくれなかったんだろ?」
私に言えない事だったのかな。でも、チョコを作ってた事を隠す理由って何があるの?うーーん。
「ちょっとナミさんに聞いてくるよ、こう言うのは本人に突撃するのが一番早い!」
「おう、頑張れよ」
手を振ってウソップと別れてダイニングに戻る。
しかし、そこにはもうナミさんの姿は見当たらなかった。
「あれ?どこ行ったんだろナミさん。ま、いっか、探せばすぐ見つかるよね」
お風呂かもしれないし、自室に戻ってるのかも?
そう思った私は、船中を見回ってナミさんを探す事にした。どうしてもチョコの事が気になって待てないの!
30分後ーーー。
「…と、言う訳なんだけどナミさん知らない?」
「見てねェな」
「俺も」
結局どれだけ探しても見つからないので、これはすれ違いにすれ違ってるなと感じた私は一旦サンジとゾロに尋ねてみる事にした。
ちなみに二人はまだ喧嘩していたのだが、よくそんな派手な技繰り返して船を傷付けずに喧嘩出来るな、と感心してしまったよね。
「えー…本当に見てない?ナミさんの匂いはここからするんだけど……みかん畑のせいかな?」
「そうじゃねェか?」
「そうそう、俺は何にも知らないぜ、イリスちゃん」
なんだこいつら、怪しいな。
これはみかん畑に侵入する必要がありそうだ。
「サンジ、ちょっとそこ退いてよ、私みかん畑に用があるんだよね」
「えっ!?いや、た、例えイリスちゃんでも、ここ、このみかん畑だけは入れる訳には行かないんだ。ごめん」
絶対みかん畑に居るじゃん…。
こうなったら手段何て選んでやんないっ。
「え?何だってゾロ…え!!?ヘボコックの作った料理が不味すぎた!?今日の昼ごはんが!?へェーそう!!」
「は?嫌俺はんな事言って…オイ待て!言ってねェぞアホコック!!」
「うるせェこの緑マリモが!!誰の料理がクソ不味いってェ!?」
しめしめ、また喧嘩始まったね。二人には申し訳ないけど…私も急用なのだよ。
この隙にこっそりと畑には侵入させてもらいますよー。
何か凄い衝突音を奏でてる二人をすたこらさっさと通り過ぎてみかん畑に入る。
4本しか生えてないにも関わらず、外からは丁度死角になってる位置にナミさんは体育座りで縮こまっていた。
「ナーミーさん!」
「っ!え、い、イリス!?な、何で…サンジ君とゾロはどうしたのよ!」
「あっはっは、奴らは私の敵じゃないって事だね。瞬殺だったよ…」
ある意味で。
「それで、どうしてナミさんは、二人に頼んでまで私から逃げるの?さっきは普通に話してたのに…私何かした?」
「…してないわよ」
ぷい、とそっぽをを向くナミさんの隣に腰を下ろす。
じーっと見つめると次第に顔を赤くしていき、最終的に足に顔を埋めた。
「…耳がガラ空きですなー、あーん」
「うひゃっ!?」
ぱく、と真っ赤に染まった耳にかぶりつくと、ナミさんはバッと顔を上げて私を睨んできた。顔真っ赤だから全く怖くない所か可愛いんだけどね。
「チョコ、作ってるんだよね、私の。くれないの?」
「……分かってるんだけど…」
顔は赤いまま、バツが悪そうに言葉を濁すナミさんを見て珍しいな、と思う。
「チョコは…イリスの言う通りよ、ちゃんと用意してるの」
ポケットに手を入れて、次に取り出した時はその手にチョコが入ってるのだろう小包が握られていた。
「でも、何だか急に恥ずかしくなっただけ…。情けない理由だけど…」
そう言ってまた俯いてしまったナミさんを見て思う。
…これ、私と同じ状態になった?
私も、カヤの時にこうなっちゃった事あるよね、私の場合はずっと攻めて攻めてしてたから、急に受け入れて貰えたのが恥ずかしくなったんだけど…ナミさんの場合は違うよね、攻めてないし。
多分、私からのアタックを跳ね返してばかりだったのに対して、アーロンパークの出来事を経てから晴れて私の正妻になった訳だし…その事で慣れない心境に戸惑ってるのかな…?あの夜もそうだったし、どっちにしろ可愛いよね。
「それじゃ、貰うね」
「あっ、ちょっと!」
ナミさんの手の中にある小包を掠め取り、頬擦りする。んー!ナミさんからのチョコ何て勿体無くて食べられるかどうか…!
「えへへ、油断大敵…!これはもう私の物だからね」
そそくさとポケットに入れようとすると、ナミさんが私の腕を掴んで止める。
「…い、今食べて。私もあんたから貰ったチョコ…食べるから」
「…!」
そ、そそ、そうきたかーー!
私に取られた事でちょっと吹っ切れたのか、強引さが増した様な気がする…!
「じゃあ、一緒に開けよう!せーので、ね」
「ええ…、ん、良いわよ」
「よーし、それじゃ、いくよー!」
「「せーの!」」
ナミさんは箱の蓋を、私は小包を括る紐を外して、お互い同時に開封する。
「えっ、ナミさんもハート型だ!同じだね!」
「イリスもね。まぁ、あんたに関しては箱の形で分かってたけど」
ナミさんからのチョコは、小さな一口サイズのハート型チョコが10個ほど。
私も同じ様に食べやすさ重視のハート型チョコを数十個入れていたのだ。
早速一つ口に入れてみる。…ん!これは…!
「みかんの香りがする!」
「…まぁね、ほら、さっきあんたも言ってたじゃない。食べる時は私の事を考えて…とか何とか。私もそれを意識した…というか、そんな感じ…」
「!!な、ナミさん…っ、大好きだーーッ!」
ぎゅっと抱きつくと、ナミさんは少し体を捻りはしたがそれだけで抵抗は一切しなかった。私はその事で更に気を良くして、ナミさんの持つ箱の中からチョコを取って彼女の口元まで持っていく。
「あーん!あーん!」
「どんだけあーんしたいのよ…。…、あーんっ」
ぱく、と私の指からチョコが無くなる。その際、ナミさんの唇が私の指に触れた衝撃で軽く昇天しそうになったがそれは気合で乗り切った。
「お返し、ほら」
「あーん!…ぺろぺろぐへへ」
「ちょっ!チョコを食べなさい!」
ナミさんの指をぺろぺろしたら怒られちゃった。でも仕方ないよね、舐めたいものは舐めたいの。
「…へへへ、でも本当にナミさんとこうやってらぶらぶになれるなんて、…いや思ってはいたけど、何だか夢みたいだね」
「少しの謙遜も無いところがあんたらしいわ…。でも、そうね…私も、まさかアーロンから無理やり私を奪ってくれる人が現れるなんて思ってなかった。しかもこんな小さいのに」
「小さいは余計!」
ぷんすかと怒ってみせると、ナミさんは少しだけ吹き出して隣に座る私の頭に顔を乗せてきた。
…身長差が悔しいけど…これはこれで良いポジションだよね…?
「そう…小さいは余計ね。どれだけ小さくても、私にとっては大事な人だもの」
「っ…な、ナミさん?」
なんだなんだ…?さっきまでの恥ナミさんは何処に…??
「ね、約束してよ。あんたがこの先、どれだけの女を口説こうとも…あなたの正妻は変わらず私だって」
しかし、そんな真剣なナミさんが言った内容に私は拍子抜けしてしまった。
だって、そんな事は当たり前だ。私がナミさんを正妻にするって決めた時から…私が死ぬまでずっとナミさんには正妻で居てもらうつもりだったのだから。
「…そんなこと?約束なんてするまでも無いけど、誓うよ。何があっても」
そう言って笑い合い、お互いの頬に軽くキスを交わした。
来年も、再来年も、この先…本命チョコを渡す人数がどれだけ増えようとも。
私の正妻はナミさんなのだと…改めて自分自身の心に深く、深く誓った。
「ずっと好きだよ、ナミさん」
「私も、好き。…大好き、イリス」
…ナミさんにとって、大好きという言葉は重い筈なのに…。敢えてその言い回しを選んでくれた事に感謝と、少しの誇りを感じて今度は唇にキスを落とした…。
私も、大好きだよ、ナミさん。
今後も書くことがあるかもしれません、番外編。せっかくの1年に一度ネタ何ですから使っていかないと!