ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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26『女好き、酒に呑まれる』

イリス達が酒を飲まされて眠った後、イガラッポイの元へ3人の男女が姿を見せる。

 

3人のうち2人はMr.9とミス・ウェンズデー。そして残りの1人はナミと共に飲み比べをしていたシスター。正体を『ミス・マンデー』という。

中々のゴリマッチョ体格で、イリスとは何もかも正反対な女性だろう。

 

「ウップ…よく飲むよく食う奴らだわ。こっちは泡立ち麦茶で競ってたってのに…!」

 

「ミス・マンデーか」

 

ここに集った4人が、実質この町の賞金稼ぎ達を仕切っているのだ。

しかし、その内の2人…ミス・ウェンズデーとMr.9だけは浮かない顔をしていた。

 

「ねぇMr.8、考え直さない?あの人達は見逃してあげて」

 

「そうだ、彼らはそんな悪い奴らじゃない!」

 

「…仮にそうだとしても、我々の責務から逃げればどうなるか…。知らない君たちでもないだろう」

 

Mr.8の言葉にうっと言葉を詰める2人。

彼らには彼らの事情があり、自分の気持ちを押し通すことに意味など無かった。

 

「それはそうと、Mr.8、わざわざ“歓迎”をする必要はあったのかねェ?あんな弱そうなたった6人のガキにだよ…!?」

 

「ふむ、まぁ落ち着け。とりあえずこれを見ろ」

 

「「なっ…さ、3000万ベリー!?」」

 

そう言ってMr.8はルフィとイリスの手配書を取り出して3人に見せると、そこに書かれた3000万の数字に3人共が驚き声を上げる。

何せ偉大なる航路(グランドライン)に来たばかりの弱小海賊だと思っていたのだ。まさかそんな船に2人も3000万が潜んでいるとは思うまい。

 

「こっちの小さい方に関しては、私もこの身で味わった。あれが3000万かと言われれば交戦をしたわけではないからわからんが、海賊共の力量を見かけで判断しようとは、愚かだな。ミス・バン…べ…ゴホン、マ〜〜マ〜〜♪…ミス・マンデー」

 

「め…面目ない。…だがまァ…もう片は付いている。社長(ボス)にもいい報告が出来そうだ」

 

「さっそく船にある金品を全て押収、奴らを縛り上げろ!殺してしまうと3割も値が下がってしまう。政府は公開処刑をやりたがっているからな」

 

何やら物騒な会話が繰り広げられてるが、その言葉通り上手く事が運ぶ様な事はないだろう。

…何故なら、その“弱そうなガキ”の内の1人が、この会話を聞いていたからである。

 

「…なァ、悪いんだが、あいつら寝かしといてやってくれるか、昼間の航海でみんな疲れてんだ…」

 

月を背に、刀を翳して姿を見せたのはゾロだ。

そんなゾロがいつの間にか部屋を抜け出していた事にようやく気付いた町人…もとい、賞金稼ぎが慌ててMr.8に報告しているがもう遅い。

 

「貴様…!完全に酔い潰れたハズじゃ…!」

 

「剣士たる者、いかなる時も酒に呑まれる様なバカはやらねェモンさ」

 

だが、そんなゾロにも誤算はあった。それは正に今隣に現れた幼女の事である。

 

「…っひく、しょうだぞ!っ、おええーっ、酒は、飲んでも呑まれるな!…ひっく」

 

「おま…!イリス!?ばか、お前は寝とけ!冗談抜きで酔ってんだろォが!」

 

「うるしゃい、酔ってませーん!べろべろ〜」

 

どう見ても酔っているが、本人から言わせると酔ってないらしい。

ゾロははぁ、とため息をついてMr.8に向き直る。

 

「…ここは賞金稼ぎの巣、意気揚々と偉大なる航路(グランドライン)へやってきた海賊達を出鼻からカモろうって訳だ…!」

 

周りから続々と賞金稼ぎが集まってくる。

それぞれ銃や剣を構え、いつでも戦闘に入れる。そんな状況だ。

 

「賞金稼ぎざっと100人ってとこか。相手になるぜ、“バロックワークス”」

 

「!!!?き…貴様、何故我が社の名を…!!?」

 

「んぁ〜?バロックワークしゅう?」

 

「いいからてめェは黙ってろ…」

 

中々締まらないゾロだが、バロックワークスと言われた賞金稼ぎ、それからMr.8に続く幹部勢は驚愕の表情を隠し切れていない。

 

「昔俺も似たような事をやってた時にお前らの会社からスカウトされた事がある。当然ケったけどな。…社員達は社内で互いの素性を一切知らせず、コードネームで呼び合う。勿論社長(ボス)の居場所、正体も社員にすら謎、ただ忠実に指令を遂行する犯罪集団“バロックワークス”。へへ…秘密だったか?」

 

「…!!こりゃ驚いた…!我々の秘密を知っているのなら消すしかあるまい…。また一つ、サボテン岩に墓標が増えるな…!」

 

この島に入る前にイリス達が見かけた大きなサボテンとは、ただ岩に無数の墓標が刺さっていた為にサボテンの様に見えていただけだったのだ。

 

「殺せっ!!」

 

「もぅ!うるさいなっ!!」

 

「ぐぼぉっ…!!」

 

「んな…っ!?いつの間に…!!?」

 

「俺も忘れんじゃねェぞ」

 

「うわぁっ!?」

「ギャァアーーッ!?」

 

一瞬で100人の集まりの中に移動したゾロとイリスに、銃を撃つ隙も無く次々に倒されていく賞金稼ぎ達。

 

「イリス、お前動けんのか?」

 

「らにがっ?じぇーんじぇんへーき!」

 

「こいつ……やべェ」

 

ゾロは直感で感じとる。

…こいつに酒を飲ませるのはまずい、と。

 

「うおー、じゅうらいらい…!しゃらば!」

 

小太刀を取り出して手当たり次第に乱舞するイリスだが、その動きは普段よりかなりのキレがあった。

イリス自身も語っていた事だが、イリスは対人戦となるとどうしても力を抑える傾向にある。しかし今、酒の力でそんな傾向など何のその。更に言うと能力自体のパワーも上がっているのか明らかに10倍で収まる威力ではなかった。

 

「おいてめェ!俺にまで攻撃飛んでんじゃねェか!」

 

「だいじょぶ…!死なないっ」

 

「そういう問題じゃねェだろ!」

 

何とか衝撃の刃を避けつつ、ゾロも賞金稼ぎを昏倒させていく。そしてあわよくばイリスの意識も刈り取りたいと思っているのだが、ふらふらと不規則に動いているため下手に手を出せないでいるのだ。

 

「…ぅえっ、おええええっ」

 

「お前マジで何しに来たんだよ!!」

 

俊敏に動き回り敵を屠っているかと思えば、次の瞬間には蹲って吐いている。

バロックワークスの社員達も、さっきまでのイリスの強さを目の当たりにした手前、例えこれがどれ程大きな“隙”だろうと迂闊に手は出せない。

 

「イガラッパッ!!」

 

だが、Mr.8は強力な飛び道具を持っている。

彼が普段から手に持っているサックスは、この町が音楽の町だと紹介された為違和感など無かったが…実はそのサックスこそが彼の武器であった。

それに音楽を奏でる様に吹くことによって、口からは音色ではなく銃弾が散弾銃(ショットガン)の様に拡散して発射されるのだ。

 

「…おぇ…っ、何で…?何か気分が悪い…」

 

「なっ…!」

 

だが、そんな攻撃すらも今のイリスには通用しない。というか元々銃弾の類はイリスには通用しないのだ。

それが威力の高い大砲ならまだしも、散弾銃(ショットガン)程度の弾なら倍加でダメージを無視する事ができる。更に今のイリスは10倍の制限がない為どれ程その体が強固になっているのかは未知数であった。

 

「ねーゾロー、ナミさんどこ?ナミさん」

 

「あ、あァ?ナミの奴ならまだ中で寝てんじゃねェか」

 

弾丸の雨に晒された後だと言うのに、まるで気にした様子もないイリス。酒の力は偉大である。

 

「よーし、ナミさんのとこ行ってくるね」

 

自由か!!と社員達の心の悲鳴が一致した瞬間だった。

 

「…と、ともかく、これで相手は1人に絞られたようだ…」

 

イリスがナミの元へ向かった事により、状況はまたゾロvsバロックワークスになる。

だが、彼らは勘違いしていた。例えイリスがこの場から居なくなった所で…彼らに勝機など万に一つも無いのだと、今目の前にいる剣士が自分達では到底敵わない存在だと知る事だろう。

 

…そして場面は、イリスへと戻る。

 

 

 

***

 

 

 

「ナーミーさん!」

 

ひょこ、と宴で騒いでいた酒場に顔を出す。

しかし、そこに居たのは眠るサンジとウソップだけでルフィとナミの姿は見当たらない。

 

「おいおい…目覚めちまったのかい嬢ちゃん」

「これは、オシオキが必要かねェ」

 

中で待機していて外の様子を知らない面々がイリスを囲う。手にはそれぞれ武器を持ち、子供だからと容赦してくれるような雰囲気でもないが…、

 

「ねー、ナミさんは?そこで寝てたよね、天使の顔で」

 

イリスには関係ないようだ。

社員達はそんなイリスの様子を見て状況を理解できていない子供だと勘違いしているが、そうではない。

ただ単に取るに足らない存在なだけなのだ。今のイリスからしてみれば片手を振るえば終わる程度の認識だろう。

 

「仲間の女なら俺達も何処に行ったかわかんねェんだよ、まぁそんなことより、あっちの部屋に行こうじゃねェか、一杯おもちゃあるぞ?」

「さっきのように…私達が相手してあげるわよ〜?」

 

「ねェ、ナミさんは?」

 

その時ーーイリスから放たれる圧が変わった。

社員達は武器を構えようとするが、上手く体が動かない。何か…得体の知れない物に心臓を握られているかの様な錯覚に陥っていた。

 

「だ、だから…知らねェって…」

 

「ねェ、ナミさんは?」

 

この瞬間、社員達は理解した。この子供は…おかしいのだと。

明らかにガキだ。このまま大勢で囲んで殴れば…負ける筈もない。だけど…動く事が出来ないでいる。

それはイリスから放たれる圧が原因なのだが。

 

「ねェ…ナミさんはどこ?さっきから聞いてるんだけど…どこにやったの?」

 

「ひ、…ひぃっ!?な、何だよお前!何なんだよ!」

 

「ほ、本当に知らないのよ…!」

 

「…そっかァ…。何で知らないの?ここに連れてきてよ」

 

納得したと思えばこの理不尽だ。今のイリスに文章が成立する会話を求める事は意味がない。

すなわち、この状況で彼らが助かるには…ナミ本人をここに連れてくるか…。

 

「そ、外で見たぞ…!き、北の方に走ってったのを見た!」

「お…俺も!」

「私もよ!」

 

「ほんとっ?ありがと!じゃね!」

 

嘘をつくか。彼らは後者を選択し、まんまとイリスをこの場から離す事に成功したのだ。

…だが、それだけだ。残った彼らは、1人残らず床へ座り込み体を震えさせる。

それ程、イリスの放つ圧とはとんでもない物だったのだ…。

つまり、酒怖いって話である。

 

 

「ナミさんこっちって言ってたなー、あれ、でもこっちってさっき私が居たとこだよねぇ…ゾロ、嘘ついたのかな」

 

もはや手当たり次第である。

 

「もうちょっと北行ってみよ」

 

ゾロによって倒された社員達などに目もくれず、何なら存在自体感知してないのか踏み越えて進む。踏み心地の悪いマット感覚だ。

 

「ナーミさん、ナーミさん、ナーミーさーん」

 

ゆらゆら体を揺らしながら夜道を闊歩し、女の名前を呼び続ける幼女。こういうのを何と言うか知っているだろうか。そう、ホラーである。

 

途中、巨大なカルガモを2人組が追っかけてる現場に遭遇したが、前しか見てないイリスがその存在に気づく事はなかった。

 

 

「…わかったわ、おたくの王女、ひとまず助けてあげる」

 

「あーーーッ!!!ナミさん!!!!」

 

暫く歩けば、目的の人物がそこにいた。

この時、ナミは割と大事な話をしていたのだが…勿論そんなことを気にするイリスではない。

ミス・ウェンズデーが実はアラバスタ王国という所の王女だとか、イガラッポイがその護衛隊長だとか、何やかんやでバロックワークスの組織に王女様が追われてて今殺されそうになってるだとか…目の前の事にしか意識が向かない今のイリスには、説明しても意味など無い。

 

「げ…厄介なのが来やがった」

 

それを見て顔を引きつらせるのはゾロとMr.8、もといアラバスタ王国王女、ネフェルタリ・ビビの護衛隊長イガラムである。ナミはそんな2人の反応に首を傾げるも、何故か見たこともない程上機嫌なイリスの方に興味を抱いて感じた疑問を抑え込んだ。

 

「どうしたのイリス、何かやけに上機嫌じゃない…っの?」

 

そんな風に軽く手を振りながらイリスに近付いたナミの足が地面から離れ倒れそうになる。それは、イリスが軽く足を払った事により起こった。

 

「よっと……ふ、ふふふ、やっと見つけた…ナミさん」

 

地面に背中から衝突する前に、イリスはしゃがみながらナミを横抱きの姿勢で支えた。横抱きと言ってもイリスは全・倍加(オールインクリース)を使用していないし、しゃがんだ体制である為ナミの足は地についているのだが。

 

「い、イリス…?どうし……んっ!!?」

 

「んむーーーっ!!ちゅーーっ!!」

 

「「んなァ!?」」

 

何とイリスはその状態でナミにキスをお見舞いしたのである。

これにはナミ本人は勿論のこと、行く末を何となく見ていたゾロとイガラムもびっくりだ。

 

「ん〜〜♪ちゅ、はむ」

 

「〜〜〜〜ッ!!?」

 

しかもイリスは普通のキスでは飽き足らず、その舌で強引にナミの唇を押し開けて口内へと侵入した。突然過ぎて何が起きているのかまだ状況が掴めていないナミがとりあえず離れようと顔を掴んで離そうとしたり、胸を叩いたりしても反応が無い。

 

「ん…ぅ、ふぁ」

 

もう全てを諦めたナミは、別に嫌じゃないんだから良いじゃないという意識に切り替え、というか切り替えるしかなくなり、腕をイリスの首に回した。

更にその事で気を良くしたイリスのキス攻撃は、この後イガラムとゾロが止めに入るまで続いたのだった…。

 


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