「…というわけ、わかった?イリス」
「王女はー、みすえんずでー!可愛い!見つけたら好きにしていい!」
「そうよ!さぁ行くのよイリス!ゾロ!」
「んで俺まで…」
とばっちりじゃねェか…とボヤきつつも従うゾロ。下手に今のイリスを刺激する訳にもいかないからだ。
「ちょ、ちょっと待ってください、好きにすると言っても相手は一国の王女です!先程の様な事は…」
「うん、わかってる。さっきの様に王女様を気持ち良くすればいーんだよね!」
「えっ違」
「じゃねーーー!!」
残されたイガラムは静かに涙を流し、ナミは彼の肩にそっと手を添えつつも隠れてガッツポーズをした。何を隠そうこの女、イリスのハーレム女王の夢を正妻として支えているのだ、こんなチャンスを逃す手などあるものか。
そして、その王女様の元へ追いついた頃にはMr.5とミス・バレンタインがビビに攻撃しようとする瞬間だった。
ちなみに、Mr.5の能力はボムボムの実の全身爆弾人間であり、能力自体はかなり強力な物である。今もビビに対する攻撃手段として選んだのは自身の鼻くそをほじって指で飛ばすという訳の分からない攻撃なのだが…それ一つをとっても彼は爆弾へと変換させることが出来るのだ。
「死ね…!
大層な名前だが、絵面はただの鼻くそ飛ばしである。
「そんなモン王女様に向けるな!!」
イリスは
Mr.5の鼻くそはせり上がった大地に阻まれ、ビビへ届く事はなかった。
「あなたは…!?あ、道が!」
しかし、爆弾鼻くそに直撃することは逃れたが地面を踏み抜いた衝撃は凄まじく、ビビの逃げる道を近くにあった岩が崩れてきて塞いでしまう。だがもちろんその様な事を考慮するイリスでもない。
「畜生っ…!何てしつこいの、こんな時に!」
ただ、ビビはまさか先程まで敵だったイリスとゾロが助けてくれたと楽観はしなかった。
第三勢力が突然現れ、自らの逃げ場も失ったと考えるビビは何とか場を凌ごうと捨て身でイリスへ突撃する。
「あ、うえんずでー!…?ビビだっけ?」
「っ!何でバレて…!」
この時、ビビは間違いを犯した。
一つは、間違いなく勝てるはずも無いイリスへと突撃してしまった事。もしイリスが本当にビビを倒そうと考えていたのなら、この行動は悪手でしかない。
そして最大の間違い…それは今のイリスの状態を、普段のイリスと比べて鑑みなかった事だ。
つまり、どうなるかと言えば、こうなる。
「んちゅーーーっ!!!」
「!!!!!??」
手順はナミの時と全く同じ。その方法でビビを抱いたイリスが今度は王女であるビビにも暴走キッスをくらわせたのである。
「んふふ〜、
「んーーー!んーー!っ、ぁ」
必死の抵抗虚しく、無理矢理に口を犯される様は最早犯罪行為そのもの。イリスの見た目がアレな為絵面はマシなのだが…暴走キッスをくらわされてる本人からしてみれば絵面だとか見栄えだとかはどうでもいいのだ。
「キャハハっ!中々楽しそうな事してるじゃない、私も混ぜてよっ!」
「は、ぁー、ふぃー、いい汗かいたぜ…」
ミス・バレンタインがその隙を突いてMr.5の爆風を使って空高く飛ぶ。イリスはその事に気付いてはいるが…大して気にした様子もない。何なら放心してるビビの顔を見て満足げにうんうんと頷いてる始末だ。
「キャハハ!覚悟なさいっ!爆風にも乗る私の今の
「イリスー、危ないぞー」
傍観中のゾロも子供の面倒を見る父親の様な事を言い出した。最早考える事をやめているのだ。
「聞いてるのっ!?いい!?私の能力は1キロから1万キロまで
「ん?」
何か空から声が聞こえるな、しかも女の。くらいのノリでイリスは顔を上に向けた。そこには丁度自身の体重を1万キロにまで増加させたミス・バレンタインがイリスに向かって降下している所だった。
「え……すっごい美人だ…」
「ちょ、何で避けないの!?1万キロよ本当に!潰れるわよっ!?」
全く動じない所か、あ、パンツ見えたー。とか言ってる今のイリスは相当ヤバい奴だった。
攻撃をしてる側のミス・バレンタインが動じてるくらいにはイリスが動く気配がない。
「よっ、と、ビビはこっちね」
ひょい、とビビを隣に下ろすと、両腕を出した。それはさながら天空から落ちてきた少女を横抱きで迎えるポーズの様に、落下するミス・バレンタインを受け止めようとしているのだ。
「なっ!?」
「バカめ…気でも狂ったか」
これにはゾロも声を出して驚き、Mr.5は勝ち誇った笑みを浮かべる。
ミス・バレンタインも何が何だか分からないではいるけれど、向こうからやられてくれるのなら楽でいいとそのままイリスへと落下し…激突した。
凄まじい音が鳴り響く。
1万キロの重量を誇る物体が空高くから落下したのだ、その衝撃、パワーは計り知れない…普通ならば、イリスは無謀者のレッテルを貼られて死亡していただろう。
ーーーだが、何度だって言おう。今日のイリスには、そんな事
「もう…ビビもあなたも、自分から来るなんて大胆なんだからっ」
「は…?」
愕然とするミス・バレンタインを、何事も無かったかの様に受け止めているのは他の誰でもない…イリスである。
ミス・バレンタインは自分の能力が誤作動でも起こしたのかと考えたが、そうではない。能力は滞りなく1から100まで綺麗な工程を結び終えイリスへと直撃している。その証拠にイリスの足は地面へとめり込んでいるからだ。
そう…イリスは1万キロの人間を、まるで風船を受け止めたかの様に軽くキャッチしたのだ。
「かわいーね、レモンのピアス似合ってるー!かわいーし、美人!すたいるもいいね!…私の嫁になってよ」
「キャ、キャハハ…!誰が…!!んっ!」
「んちゅーーーっ!!」
そうして本日3度目の強引キスが炸裂した。
ビビ同様に必死にもがくが、力でイリスに敵うはずもなく為されるがままとなってしまう。
その上質の悪い事に3度目ともなるとイリスのキスは上達の兆しを見せており、元からナミの思考能力を奪えるほどの上手さ、2度目はビビを放心させる程までに成長し…そしてそれは3度目となる今回も同じ事だった。
「ふぁ…」
「ふぅ…もう一度聞くよ…、嫁になって」
「ふ、ふぁい……♡」
攻・略・完・了!
強引にキスをするだけで堕ちるとは、何てチョロインなんだろう。いやそうではない、今のイリスのカリスマは普段の時とは別次元に位置する。
酒に呑まれる事でイリスが普段抑えている欲望をこれでもかと表に出しているだけで、何のしがらみも無ければイリスという女はこれほどの煩悩を常に抱える怪物なのだ。
何せ本人が肝心な所でヘタれてしまう為に、ナミとすらも初夜以降は進展がないくらいだ。
「これで残るはてめェだけみてェだが…やるか?」
「ぐっ…オイ、ミス・バレンタイン!この事は直ぐに
「ボスー?だいじょーぶ!私が倒してあげる!」
「一生ついてくわ!」
「ミス・バレンタインーーーッ!!!」
Mr.5の絶叫が木霊した…。
果たして誰が予想出来ただろうか。ミス・バレンタインといえばMr.5と同じく『任務達成率100%』を誇るオフィサーエージェントの一角。
そんな女を相手にして、手を下す事なく無力化…自分の囲いに引き込むなどと。
これでMr.5は1人残された形となった。
ゾロと1対1でも勝てない彼には、この状況を打破する方法はない。その上…更にこの場を
「ゾローーーーーッ!!!」
ルフィだ。彼は鬼気迫る表情でこの場にやってきたかと思うとゾロに対しての怒りを爆発させる。
「おれ達を歓迎して美味いもん一杯食わせてくれた親切な町のみんなを…1人残らずお前は斬ったんだろ!!?」
「……はァ!?そりゃ、斬ったがよ…」
「お前はそんな薄情な奴だったのか!!絶対許さ…!おっ…うぐっ!」
起き抜けのルフィにはそう見えたのかも知れないが、実際は賞金稼ぎをゾロが返り討ちにしてただけなのだが…。
そんなやり取りはどうでもいいのだと、場の雰囲気が乱された事に腹を立てた
「ルフィ、うるさい!誰を斬ったとか、そんな事今関係ある!?」
「イリス!まさかお前まで町のみんなを…」
「うるさーい!!折角イチャイチャしてたのに、邪魔するな!!」
ドゴッ、と地面から顔を上げたルフィの頭を踏みつけて再度埋めさせる。仲間にする事とは思えない。
「オイルフィ、そのままでいいからよく聞け、実はな…」
「バカ共が…隙だらけだ…!
「うるせェな!!!」
哀れMr.5。ゾロの説明を邪魔してしまったせいで片手間に斬られて倒れ伏す。
イリスはその間にビビとミス・バレンタインの元へ戻った。
***
ゾロがルフィに説明をしている間に、ナミはこの場に合流しビビは放心から意識を取り戻した。
果たしていつまで酔いが続くのか、未だにテンションのおかしいイリスにビビは頰を染めながら距離を取る。
「まさかそっちの女も堕としてるとは思わなかったわ…あんた、名前は?」
「本名はミキータよ、『運び屋』ミキータなんて呼ばれてたわ」
「ミキータ!ん〜、かわいーっ!」
「キャハハっ、ありがとう、あなたの方が億倍…いや、倍だなんて表現はおこがましいわ、私とは比べ物にならない程可愛いわ!」
そんなミキータを見てナミはため息をつく。
「何をすればこんなベッタベタに好かれる訳?もうみんなにこうすればあんたの夢なんか簡単に叶うでしょ…」
「「夢?」」
首を傾げるミキータとビビ。ナミは2人にイリスの目指す理想郷を話した。
「ーーという訳、わかった?」
「つ、つまり私は…イリスちゃんの嫁の1人に選ばれたって事…!?キャ、ハハ…っ!最高ね!」
「お、応援だけしておくわ…はは」
両者の反応は似たような物だったが、出てくる言葉は真逆だった。
ミキータはイリスにべったりくっつき、ビビは立場もあってか自重している様な雰囲気である。
「で?あんたはその…何だっけ、バロックワークス?を裏切ってもいいわけ?」
「率直に言えば、良くないわ。間違いなく命を狙われるでしょうね」
「返り討ちー!」
そんなイリスにため息をついて、ナミは話を変える。
「所で王女様?私、護衛隊長とあなたを救出する代わりに10億ベリーを貰うって契約を結んでるんだけど…」
「…助けてくれた事は例を言うわ、ありがとう。だけどごめんなさい…それはムリなの」
「どうして?王女様なんでしょ?」
「それはーーー」
そんなナミの疑問にビビが口を開いた。
丁度誤解が解けたルフィと、疲れ切ったゾロが話に加わる。
そしてイリスはミキータの腰を撫でる。もはやセクハラジジイのような行動をし始めたイリスに対しても寛容なミキータ。彼女も相当アレな人種かもしれない…。