「アラバスタという国を知ってる?」
「ううん、聞いたこともない」
ビビの言葉にナミは首を振る。
ちなみにイリスは既にミキータのそばを離れてナミに膝枕をして貰っている所だ。自由過ぎるが大人しくはなったので周りも良しとしている。
「
「昔は?」
「ここ数年、民衆の間に“革命”の動きが現れ始めたの…。民衆は暴動を起こし、国は今乱れてる。だけどある日私の耳に飛び込んできた組織の名がーー“バロックワークス”」
バロックワークス。先ほどまでイリス達がよろしくしていた相手であり、ミキータの所属していた組織の名だ。
ミキータはそこを裏切った形である為か、少し罰が悪そうに顔をしかめる。基本的に仲間思いな彼女故の表情に、横目で見たナミやビビは意外そうな顔をしたがすぐに元に戻して話を続けた。
「どうやら、その集団の工作によって民衆が唆されている事が分かった。でも、それ以外の情報は一切が閉ざされていてその組織に手を出す事も出来ないーーそこで、小さい頃から何かと私の世話を焼いてくれているイガラムに頼んだの…」
髪を巻きまくった、ルフィ曰く「ちくわのおっさん」。
今この場には居ないが、彼もビビと同じくバロックワークスへ潜入していたのだ。
「…何とかその噂のしっぽだけでも掴んでこのバロックワークスに潜入出来ないものかと…そうすればきっと、我が王国を脅かす黒幕とその目的が見えてくる筈だから」
「…私が言えば、王女様には不服かもしれないけど、例え潜入したからと言って黒幕が誰かは分からないと思うけれどね。私だって
「え?そうなの?でも…私はイガラムと一緒にどちらの情報も掴んだんだけど…」
「はぁ!?あなた達、どんだけ奥まで探ったのよ!!」
ミキータが驚くが、これには理由もあった。
当然、わざわざバロックワークスの社長の名を知ろうなどと思う社員達はいない。何故ならその行動だけで“死”が確実に近づくからだ。
だがビビにとって、何よりもその2つの情報は欠かせなかった。例え自分の命を掛けてでも知る必要のある情報だったのだ。
「目的か…。でも、バロックワークスの目的なら“理想国家”を作る事なんでしょう?……あ、…まさか」
「そう、
「なるほどね、そういうことか…。これでやっと話が繋がった、内乱中ならお金も無いか」
「私はお金が無くてもナミさんを幸せにしてみせるっ!」
「はいはい、私もあんたとなら何処でも一緒に居られるわよ」
微妙にズレた事をいうイリスにナミが軽く返答する。
「でもよ、その黒幕って誰なんだ?」
ルフィが気軽に尋ねた質問に、ミキータとビビは慌てて止めに入る。
ミキータに関してはその恐ろしさを間近で感じていた筈だ、当然と言えば当然と言える。
「
「キャハハっ、そう、絶対に教えないわよ。まぁそもそも私は知らないんだけど」
「はは…それはごめんだわ、なんたって一国を乗っ取ろう何て奴だもん。きっととんでもなくヤバい奴に違いないわ!」
「ええそうよ、いくらあなた達が強くても、王下七武海の1人…“クロコダイル”には決して敵わない!!」
……………。
………………。
「言ってんじゃねェか…」
ゾロの呟き虚しく、近くの建物を見上げればビビとMr.9を爆撃したラッコと鳥が顔を見合わせて空へ飛んでいった…。
「ちょっと何なの!!?今の鳥とラッコ!!!あんたが私達に秘密を喋ったって事報告に行ったんじゃないの!!?どうなの!!?」
「ごめんなさいごめんなさい!!つい口が滑っちゃって…」
「“つい”で済む問題か!!その一言で何で私達まで道連れにされなきゃなんないの!!」
がくんがくんと鬼の形相をしたナミがビビの胸ぐらを掴んで揺らす。
そこせいで膝枕されているイリスもがくんがくん揺れているが。
ミキータも
「しちぶかいかー。面白くなりそうだね!ルフィ、ゾロ!」
「あぁ!」
「悪くねェな」
「あんたは黙りなさいっ!」
ぱしん、と膝の上で横になっているイリスの頭を叩く。
「とりあえず、これで俺達4人…いや、そこの女も含めて5人
「何かぞくぞくするなー!」
「クロコダイルを倒せば美女をゲット出来るイベントとか無いかなー?」
「…こいつら、ほんとバカぁ……」
がく、と項垂れた事でナミの顔が正面から見える様になったイリスが手を伸ばして顔に手を添える。
「だいじょぶ、ナミさんは私が守るよ。心配しないで」
「…あんたは私の事となると無茶するから余計心配なのよバカ」
しかし、その言葉で緊張も解れたのかふっと笑みを見せるナミ。
「イリスちゃん、私の事も守ってくれるんでしょ?」
「もちろん!ミキータの事も…王女様も絶対私が守るよっ」
それにしてもこのイリス、饒舌である。常に酒を飲んでいれば敵なしじゃないのだろうか?
「皆さん、心配なさらず!」
「え、あんた何やってんの…」
と、その時今まで出てこなかったイガラムが姿を見せた。
ナミが呆然としている様に、何故かビビの服とよく似た衣装を着用して、髪の毛も同じ様に後ろで束ねてポニーテールに、顔にも化粧をふんだんに使うというとんでもない見た目でだが…。
そして腕には5体の人形を抱えている。
因みに、ポニーテールにしたからと言って髪がストレートになっているかといえばそうでは無く、纏めた髪は何段にもカールされているのだが。
「うはーっ、おっさんウケるぞそれ、絶対!」
そんなイガラムを見て大笑いするルフィ。イリスはビビを見つめて目の保養をしていた。
「いいですか、良く聞いて下さい。
確かにラッコと鳥は誰かが不祥事を起こした際、必ずすぐ様姿を見せた。
「参考までに言っておきますが、今でこそ“七武海”である彼に賞金は懸かっていませんが…
「ん?何だそれ」
「こいつをウチまで送ってくれとよ」
「あ、そういう話だったのか、いいぞ」
「8000万って
「8000万かー!腕がなるね!」
ナミは涙を流し、イリスとゾロ、ルフィは能天気にわくわくしている様子だ。ミキータに関してはちょっと放心してる。
だが現実問題として、懸賞金額8000万とは相当な額だ。
アーロンは
その上七武海ともなると目に見える脅威は尋常ではない為、ナミやミキータの反応が普通であり、残りの3人はどこかおかしいのだ。
「では王女、アラバスタへの『
「え…?エターナルポースって何!?」
ぽんと会話に出てきた単語にナミが反応する。この辺りは流石航海士だろう、落ち込んでいようと聞き流しはしなかった。
「ん?ご存知ないか、言ってみれば『
へぇ、とナミは納得する。航海士にとっては…ひいてはこの一味全体にとってもかなり重要な情報だろう
「いいですかビビ王女、私はこれからあなたに
そうして、イリス達はイガラムを見送る為に彼が用意していた偽装船が用意されている海岸へとやってきた。
イリスに関してはほぼ寝かかっていて、ミキータに背負われている状態だ。
何故ミキータなのかといえば、彼女は自分が触れた物の重量操作も可能としているので背負っているイリスの体重を軽くする事で他の誰よりも軽々と運べるからであった。これこそが彼女を『運び屋』と言わせた所以でもある。因みに本人は役得だと喜んでいた。
「では…皆様、王女をよろしくお願いします」
「おっさんそれ絶対ウケるって!」
「誰にだよ」
まだ笑ってるルフィにゾロが突っ込む。
「王女、過酷な旅になるかと思いますが…道中気をつけて」
「ええ、あなたも」
「ビビ王女…!きっとあなたの手で、王国を救うのです!」
最後はビビと握手を交わして船に乗り込み、アラバスタへと出航したのだった。
「……行っちまった、最後までおもろいおっさんだったなー」
「あれで結構頼りになるの」
「キャハ!私が言うのも何だけど、あなた達の信頼関係は嫌いじゃないわ、恐怖やお金で繋がる我が社…いえ、
「へェ、あんたって結構ロマンチストなとこあるのね」
何て、他愛もない話をしながらこの場を去ろうと背を向けた時ーーー。
ドォォン!!!
「!!?な…バカな、もう追手が…!?」
後ろで大きな爆発音が響き、振り向けばそこは火の海となっていた。
ーーイガラムの乗る船が