ブロギーともう1人の巨人の決闘はかなり激しい物だった。
お互い少しのミスで命を落としかねない様な攻防、しかしその胸の内にあるのは憎しみでも怒りでもなくただ純粋な『こいつにだけは負けたくない』という誇りだけだ。
私と一緒に見ていたウソップも同じ感想を抱いたらしく、すぐにこの場を離れようとするナミさんとは考え方が違った。
いや、考え方というよりは…これこそがウソップの目指す物だからだ。
「イリス、ウソップも今のうちに離れるわよ!ここに居て巻き込まれでもしたら…」
「おれはもう少し見てる!正にこれなんだ、おれの目指す“勇敢なる海の戦士”ってのは!おれはこういう誇り高い男になりてェ!!」
「…ふーん…」
ナミさんはそんなウソップに呆れた顔でため息を吐きつつも、その場に座った。
ウソップの夢を仲間として汲んだナミさんは、やっぱり良い女だと思う。え?私の正妻ですが何か?
「こんな戦士達の暮らす村があるんなら、おれはいつか行ってみてェなァ…!」
エルバフだっけ。そこに行けば彼らみたいな強い戦士がわんさか居るのだろうか…。
…何だろう、確かにわくわくするね。
そしてついに、決闘が終わる。
その数何と7万3千466戦回目の、7万3千466引き分けだと言う。
「ガババババババ!…ドリーよ!実は酒を客人から貰った…!」
「そりゃいい!久しく飲んでねェ、わけてくれ!ゲギャギャギャ!」
2人ともどんな笑い方やねん。
「…はー、凄かったねナミさん」
「凄いのはわかるけど、誇りってのは自分の命を賭けてまで守る物なのかは分からないわ…。私なら誇り何かより、自分の命やあんたを守りたいけどね」
「あっはっは!それは嬉しいね、嬉しすぎて抱き締めたいくらいだよ。…でも、それがナミさんにとっての“誇り”なんだよね」
「!…そうね、私にとっての譲れない物がそうであるように、彼らには彼らの譲れない物があるって訳か」
「そうだぞナミ、男ってのはそういう生き物なんだ。イリスはよくわかってる!」
私女なんだけどね。
「ガバババ!どうだお前ら、エルバフ最強の戦士の戦いぶりは!」
「迫力満点だったよ、互いの闘志がここまで伝わって来るなんて凄いね!」
「ガババババ!!そうだろう!!」
戻ってきたブロギーがそう言う。
酒はもうドリーに渡しているようだ。
「…でも、巨人族か…」
さっきの戦いを見て思った事だけど、やっぱり体が大きいってのはそれだけでプラスになるんだなー。
「ブロギー師匠!おれもいつかあんた達みてェな勇敢なる海の戦士になるぜ!」
「巨人にか」
「そうじゃねェよ!」
ビシ、とウソップが突っ込む。
「エルバフの戦士の様に誇り高く生きて行きてェと思ってるって事だ!」
「ガババババババ!そうか!!俺達ァよ、てめェらより寿命が長ェ分余計に名誉ある死を望む。財産も人の命も…いずれは全て滅ぶもんだ。だがエルバフの戦士として、誇りを滅ぼす事無く死ぬ事が出来たら、そりゃ“名誉ある死”だ。その誇りはまたエルバフの地に受け継がれる永遠の宝なんだ」
「誇りは宝か…!」
こりゃ、ウソップはもうエルバフにゾッコンだね。目がキラキラしてるよ。
その時、また火山が噴火した。
周期早くない?動物達もよくこんな頻繁にボンボコいってる山の近くで生活できるな。
「ガバババ、決闘の合図か…!今日は景気がいいな!」
「行くの?さっき戦ったばかりだけど…」
「なに、互いに条件は同じだ!ガバババババ!!情け容赦の無い殺し合いに言い訳などしては名が腐るわ!」
うっ、言い訳を良くする私としては耳が痛い!!
「じゃあ師匠、頑張って!!」
「おォウソップ!今度こそ奴をブチのめすつもりだぜ!!」
そう言って大きな足音をたてながらブロギーは決闘へ向かった。
本当にさっきやったばっかりなのにまたするんだね。まぁ、それくらいの頻度でやらないと7万3千466戦とか無理か…。
「じゃあ私達もそろそろ船へ戻りましょう。
「そうだね、みんなを待って策を練らないと」
「なら、ルフィ達の所へ行かねェか?もう1人の巨人族と一緒に居るんだろ?戻っても誰もいねェし、そっち行った方がいいぜ絶対」
こやつ、もう1人の巨人族と話がしたいだけだな。
でも言ってることは間違ってないね、確かにそりゃそうだ。
「じゃあ行こっか。ナミさんは私から離れないでね、恐竜とか当たり前のように出てくるんだから」
「当たり前でしょ、ちゃんと守りなさいよ」
そう言うわけで、ウソップを先頭に真ん中をナミさん、最後尾を私が務める事になった。
何故この順なのかと言うと単純に私が一番後ろにいた方が何かと対応できるからだ。ナミさんが中央なのは一番安全だから。
「お、おいイリス!おれの事も守ってくれるんだろうな!」
「勇敢なる海の戦士に助太刀何て恐れ多くて出来ませーん」
「い、イリス〜…」
泣いちゃったよ海の戦士。
私は呆れた顔をしつつも、いきなり横から飛んできた恐竜を殴り飛ばして仕留める。
「恐竜ってそんな片手間で倒せるような生き物だっけ?」
「はは、こんなのルフィもゾロもサンジも出来るよ」
所詮獣だし…。
「ん?おいイリス、ナミ、あれルフィじゃねェか?」
「ホントね。私達と同じ事をビビが考えたのかしら」
ウソップが指差す方を見ると確かにルフィが手を上げてこちらを見ていた。
……いや不自然過ぎるわ。
「おーいル…ぐぇっ、何すんだイリス!」
「まぁまぁ、落ち着いてよ」
ルフィの元へ駆け寄ろうとするウソップの首根っこを掴んで止めると、ナミさんもどうしたの?と首を傾げた。うーーーーん、可愛い。
「あれ、ルフィにしては静か過ぎない?」
「……!!言われてみれば、そうね」
普段のルフィなら、私達を見つければおーーい!とか言って向こうから寄ってくるくらいの人柄だ。
こんなただ手を上げて、しかも不動の姿勢でジッとしていられるようなタイプではない。
「…確かにおかしいぜありゃ、ぴくりとも動きやしねェ」
「でしょ?…そこで考えたんだけど、あそこまでルフィそっくりなもの、作れるとしたら何だと思う?」
「そうねぇ…まず一番に思い付くのは…何かしらの能力……あ」
「そう、能力の可能性が高い。それに…その方が辻褄が合うよね、何たって私とナミさんは
能力者のね。
…流石に何の能力かは分かんないけど…。姿形そっくりの模型を作り上げる事が出来る能力って何?例えばカキカキの実のお絵かき人間とかそんな感じの奴がいるの?
「とにかく、あのルフィは無視して先へ進もう。ビビ王女達と合流した時にルフィがいれば…私の考えはほぼ正解だよ」
「ええ、そうと決まれば早く行きましょ。ほらウソップ早く」
「ええい急かすな!つまりこの島の何処かにお前らを殺そうとするようなやべェ奴らが居るって事だろ!?よーしイリス、先頭を許す!」
「知らないよ、後ろから狙われても」
「行くぞナミ!イリス!!男ウソップが殿を務める…!!これこそが勇敢なる海の戦士の第一歩なのだ!」
なんて扱いやすいんだ。
足は震えてるけど前へ進むウソップにナミさんと共についていく。
そうして森を歩き続け、ルフィ達が居るだろう所までやってきた。
「あ!おいイリス!これ退けてくれ!!動けねェんだ!」
「え、どういう状況?」
そこはブロギーの家と同じような穴ボコだらけの大きな岩があり、ルフィは何故かうつ伏せの状態で下半身をその岩に潰されていた。ゴムだからあれでも平気なんだろうけど…。
「いや、でもこれで確定したねナミさん」
「ええ…、3人ともよく聞いて。この島に
「キャハハっ、追手はともかく、どうして能力者だと?」
「それがーー」
私達はさっきのルフィ模型を3人に説明する。
ルフィだから違和感に気付いたけど、ゾロが木にもたれかかって寝てるような姿だったら間違いなく騙されてた筈だ。
「…なるほど。どう思う?ミス・バレンタイン」
「キャハハ、その情報だけでもわかるわ。追手の正体は…間違いなく『Mr.3ペア』ね」
2人が神妙な面持ちで話す。
Mr.3か…、しかもペアとなると、またミキータの様なパートナーがそのミスターにもいるのだろう。
「Mr.3とやらの能力は何なの?」
「Mr.3は、“ドルドルの実の”
ミキータが顎に手を当てながら答える。
スタイルいい美人だから似合うね、そのポーズ。
「彼のペアは“ミス・ゴールデンウィーク”。見た目は…イリスさんよりは大きいけれども幼い女の子よ、だけど見た目に惑わされないで、彼女の能力は『カラーズトラップ』」
カラーズトラップ…いやそんな事より女の子だって?これは一目見たい!可愛いセンサーが反応してるんだッ!!
「彼女の絵具に触れた人を暗示に掛ける事が出来る能力よ。だけど、悪魔の実じゃないの。詳細までは知らないわ」
「ビビ王女は?」
「ごめんなさい、私もそこまでは…」
うーむ、そりゃそうか、
「…あれ?そう言えばカルーは?」
「さっきから姿が見当たらなくて…。一人でこのジャングルに入っていけるとも思えないし…」
ふと、ビビ王女のペット的な存在の超カルガモの姿が見えない事に疑問を抱き尋ねると、どうやら彼女もさっきから気になっていたようだ。
あの子結構可愛いんだよね、何事も無ければ良いんだけど…。
「…あっ、…ならドリーさんのお酒に爆薬を仕込んだのは…!?」
「な、何の話だ…!?」
爆薬!?ウソップじゃないけど、私もそれは詳しく聞きたい。
「そうだ!誰かがおっさん達の決闘を邪魔したんだ!だからイリス、この岩どけてくれ!!」
バンバン!と地面を叩いてもがくルフィだが、その岩大き過ぎない?持てるかな…。
「じゃあ、もしかして今ドリーは…腹ん中爆発したってのにブロギー師匠と戦ってんのかよ!?そんなのあんまりじゃねェか!100年も続けた決闘だぞ!」
その瞬間、決闘中のドリーの体が“不自然”に大きく傾いた。ブロギーはその機を逃す事なく、ドリーへ斧を叩きつけ…勝利する。
「…っ、酒の爆薬だけでも許せないってのに……今ドリーが体制崩したの、外の介入だよね。…よし、ルフィ、何としてでもその岩は退ける。だから邪魔者はルフィとウソップがぶっ飛ばして」
100年も続けた彼らの“誇り”に泥を塗りやがって…!彼らにとって、その一勝がどれ程の重みなのか分かってないんだ!!
「お、おう!この勇敢なる海の戦士に任せろ!」
「絶対ぶっ飛ばしてやる!!俺はもう怒った!!」
「キャハハ、ぶっ飛ばすって言っても相手はMr.3ペアよ、大丈夫?」
「あんたは知らないでしょうけど、こいつはバカみたいに強いから心配いらないわ」
そう言えばミキータはルフィの実力を知らないのか。Mr.3だとかドルドルだとか知らないけど、ルフィの敵じゃないでしょ。
でもミス・ゴールデンウィークだけは置いといて下さいお願いします。
「よーっし、…でもこのままじゃ絶対持ち上がらないよね」
じゃ、お決まりの
「じゃーん」
「え」
「キャハハっ、どうしたのイリスちゃん、カッコよくもなれるのね!」
ビビ王女とミキータの前では初披露だからポーズ取ってみた。ふふん、ビビ王女に至っては驚いて声も出ないか。ふっふっふ。
「じゃ、行くよー。……ふんぬッ!!」
うごぉ…!!お、重たぁ…い…!!
「ふぐぐぐぐぐ!!!」
もう能力と力と神経とその他諸々全てを両腕に注ぎ込んで全力で持ち上げる。
すると、徐々に大岩が持ち上がりルフィは急いで下から這い出た。
「ふぉーーー…!」
息を吐くと同時に下ろすとズドーーンッ!と音を響かせる。だって重たかったもん!凄く!
「いやー、助かったっ!ありがとなイリス!」
「いいけど、何でこんな岩に挟まれてたの…」
腕千切れるわ。
とりあえず
「終わったか!?じゃあ早くブロギー師匠達のとこへ行こうぜ!この事を早く知らせねェと…!」
「その必要はねェ」
ジャングルの木々の間から誰かが歩いてくる声が聞こえる。
次から次へと何なの…。
そう思っても仕方ないので目を向けると、そこには全身キズだらけのカルーを掴んだMr.5が居た。
「カルー!?」
「こいつにてめェらの居場所を吐いてもらおうと思ったんだが…一向に喋らねェから探すのに骨が折れた……って何だと!?何故てめェらまでここに居る!?」
ビシッと私やナミさんを指差すMr.5。
今だからわかる事だけど、私達が見たルフィはろう人形だった訳か。
つまりMr.5の中では、私達何人かは既にあの能力に捕まってる手筈だった訳だ。
「あんな見え透いた罠に引っかかる訳ないでしょ、で?私達の前にのこのこ姿を見せたあなたは、わざわざ倒されに来てくれたのかな?」
「…チッ、今は退いてやるか…!こいつは土産だ!」
ポイ、とカルーを投げて再度ジャングルの中へと消えていったMr.5。
忙しない人だな。
「ルフィ、今のうちだよ!あいつを追いかけよう」
「そうね、Mr.3のもとへ逃げた可能性が高いわ」
私の提案にビビ王女が同意してくれた。
このまま追いかけてってMr.3共々潰してやろう!
…あ、ミス・ゴールデンウィークには手出し禁止で、よろしく。