酒場
「ーーーこの「モックタウン」は…海賊達が落としてく金で成り立つ町だ。海賊達は稼いだ金を湯水の様に使ってってくれるからな、ケンカや殺しは“日常”だが無法者達も町の人間には滅多に手を出さねェ、金があろうと接待する者がいなきゃ楽しめねェだろう?」
私達は酒場を見つけ出す事に成功して、そこのカウンターで店主のおじさんに話を聞いていた。
「だけど、ほんとやな感じよこの町」
「ワハハッ…そう思うのがまともだろうな、だが生憎まともな奴の方がこの町では珍しい、4日もありゃ
「4日か…じゃ、2日も居られないわね…。ねぇおじさん」
「オォイ!おっさんっ!」
「オイオヤジィ〜〜っ!!」
ルフィとその隣に座る男が同時に店主を呼ぶ。
「このチェリーパイは死ぬほどマズイな!!」
「このチェリーパイは死ぬほどウメェな!!」
「ん?」
「ん?」
え〜…ルフィと隣の汚いおっさん真逆のこと言ってるんだけど…。
「ぷはーっ!このドリンクは格別にうめぇな!!」
「ウエエッ!このドリンクは格別にマズイな!!」
「…お前頭オカシイんじゃねェのか」
「てめェ…舌オカシイんじゃねェか」
次第にバチバチと火花散らす睨み合いが始まった。ルフィを除く私達は呆れ顔だ、何でそこまで意見が食い違うのか…。
遂にはお土産勝負も始めてるし。おれは肉50個!とか俺はチェリーパイ51個!とか…ならおれは肉60個!俺はチェリーパイ80個!
…何だコレ。
「「何だお前やんのかァ!!?」」
「ルフィ!約束したでしょ!?ケンカはダメよ!」
「ほら!私よりルフィの方がケンカっ早いでしょ!!ね!?ね!?」
「あんたは黙ってて!」
はい…。
「おめェ…海賊か…!?」
「ああ、そうだ!!」
「懸賞金は」
「3000万!」
私も3000万でーす。私の首1つで豪遊出来るじゃん!これが新手の生命保険って奴?私が死んでもナミさん達はお金に困らない…!なんて言ったら本気で怒られそう。
「3000万!?お前が…??そんなワケあるかァ!ウソつけェ!!」
「ウソなんかつくかァ!本当だ!!」
これから本気でケンカが始まりそうだって時に、店主がチェリーパイ50個を袋に包んでケンカ相手の大男に渡した。おおファインプレー!
「ホラホラ、店の中で乱闘はゴメンだぜ、てめェはこれ持ってさっさと帰んな!」
男は意外にも大人しくチェリーパイを受け取り、金を払って去っていった。
だが、その男とすれ違いにまた一波乱が起きそうな男が入店してくる。
「“麦わら”を被った男と女の“ガキ”の海賊がここに居るか?」
「べ…!ベラミーだァ!!」
ベラミーって奴、どう見てもルフィと私を御所望のようだね。…顔見ても誰だかわかんないや、何処かで会ったっけ?ていうかベラミーってあのホテル貸し切ってる奴でしょ?もしかして勝手に入ったから怒っちゃった感じ?
「へェ…お前らが…?3000万の首か……“麦わらのルフィ”、“女好きのイリス”」
おう…そうやって呼ばれると気恥ずかしいな…。
それから一言だけ言わせて欲しい…あなた、物凄い小物臭溢れてるね。オーラまで小物臭あるよ、うん。
「何?あんたに用なの?」
「キャハハ、有名人は困るわね、イリスちゃん」
ベラミーはカツカツと歩いてきて、さっきまで大男が座ってた席に座る。ていうかこいつも大概デカイわ、何だこの世界。
「俺に一番高ェ酒だ、それとこのチビ共にも好きなモンを」
「…ああ」
ルフィは適当に飲み物を、私は何だかこのベラミーとかいう奴が第一印象で気に食わなかったから遠慮しておいた。
「見て、あいつらさっきの…」
「ん?」
ナミさんが目線だけで知らせてくるので私も見てみると、サーキースを筆頭にぞろぞろと店に海賊が入ってきた。
しかも満席だと分かれば先に座ってた客を大きなナイフで斬り倒して席を確保している。…何だこいつ、順番待ちすら碌に出来ないクズじゃん。
てことは、その親玉らしいベラミーも当然アレな人物なんだろうなぁ。
「ホラ、お待ちどう」
コト、とルフィとベラミーの前に酒を出てきた。
「まァ飲め」
「おお、ありがとう。なんだ、良い奴だな」
んな訳あるかい。
腹に入る物くれたら良い奴認定するのいい加減やめた方がいいと思う!
「え!?」
「ルフィ!!」
やはりと言うべきか、ルフィが酒を1杯飲んでる最中にベラミーは彼の後頭部を掴んでカウンターテーブルにルフィの顔面を押し砕いた。
おー、そんなことしたら店主怒るよ、あとルフィも。ついでにゾロも。私?そんなもんナミさんが抑えろって言ったんだら抑えるに決まってるじゃん!
「何のマネだ…!?下っ端」
「その質問にゃあ…お前が答えろよ」
すぐ様ベラミーに刀を向けて臨戦態勢を取るゾロ。
てかゾロに下っ端って言ってるのが笑える。どう頑張ってもこの男じゃゾロに勝てるとは思えないんだけど…。
「ぞ、ゾロちょっと待ってよ!まだこの町で何も聞き出してないのよ!?」
「うるせェ!!売られたケンカを買うだけだ!!」
「ね?ミキータ私の方がずっと我慢出来るでしょ?」
「キャハハっ、流石イリスちゃんね、偉いわ」
ドヤ顔でゾロを見ると彼は青筋をたてて目元をぴくぴくさせていた。気持ちいい〜、これが…“勝利”か…。
ルフィもすぐに立ち上がって顔の切り傷を拭う。
「よォし…覚悟出来てんだな、お前」
「オオ!?あいつらベラミー相手にやる気だぞ!わっはっはっは!やれやれ!!」
周りの客やベラミーの手下共もケンカを煽ってる。あーあ、こうなったら止まらないよね…。
「ハハッハハハ!!こいつはケンカじゃなくてテストさ!来い、力を見てやる…」
「っ……」
だ、ダメだってそんなの。まるで格上かの様に話してるけど…どう見てもルフィの方が強いよ!雰囲気っていうか…まぁ一目で分かるくらいに力量差あると思うんだけど…!危うく吹き出す所だった…!
ナミさんもこれは抑えられないと思ったのか、ここだけでも情報を集めようと声を張り上げる。
「ルフィ!!待って!!ねぇおじさん、私達“空島”へ行きたいの!何か知ってる事ない!!?」
「…!??」
ナミさんの言葉に、何故か酒場全体が静まり返る。…ん?何かおかしな事言った?
「ウソでしょ……?」
「何言った今…あの女」
「?…だから、“空島”へ行く方法を…」
「……ぷ」
「「「ぎゃあっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!ハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」」」
「?」
酒場全体が大きな笑い声で包まれる。何だこいつら…ナミさんが何か変なこと言ったの?それにしても人の女をゲラゲラと笑ってくれるね…。
…おっと、クール、クールになれ私…!ひっひっふー!ひっひっふー!
「“空島”だと……!!うわっはっはっは!!勘弁してくれ!!」
「……何よ…!!だって、
「ロ…ロ…
ナミさんの顔がぼっと羞恥の色に染まる。
…え、今の顔可愛い。可愛いんだけど…、めっちゃ可愛いんだけどォ…。
「お、オイオイ…ルフィ、何とかしろコイツ、死人が出るぞ」
「イヤだ、おれはイリスを怒らせたくねェんだ」
「もう手遅れかもしれねェから言ってんだろうが!!」
「きゃ、キャハ、私に任せて、何とか抑えてみるわ」
そう言って私を後ろから抱き締めるミキータ。
最近ナミさんもミキータもこうして私の心を落ち着かせようとよくするんだけど……1つ言わせて貰うね、ソレ、効果バツグン。
…それでも爆発寸前だけどね、これ以上刺激しないでよほんとギリギリだからさ。
「ハハッハハハハッハハハ…!!オイオイ…参ったぜ。お前らどこのイモ野郎だよ…、そんな大昔の伝説を信じてるのか?空に島があるって?ハハハ…!一体いつの時代の人間だよ…」
ベラミーが喋り出す。まぁそんな陳腐な煽りじゃびくともしないけど。何たって私の後頭部にはフカフカぽよんがあるからね!!
「
凄いコンプレックス抱いてるのかってくらい喋るなコイツ。
「“夢”の理由なんざ今に全て解明される!!呆れたぜ…お前らをテストして“新時代”への
長くベラベラ名前に負けず喋ったと思ったら、最後急にルフィを持ってた酒瓶で殴った。…?でも今のタイミング、ルフィなら躱して1発パンチ返すくらい出来たと思うけどな。
そのままルフィは殴り倒されて床に仰向けになった。
「てめェみてェな軟弱なヤロー共が海賊でいるから、同じ海賊を名乗る俺達の質まで落ちちまう!!」
周りの奴らも倒れたルフィに向かってグラスを投げつけたりしていた。
「ヘッヘヘヘ…出て行きなウジ虫共、酒がマズくならァ!」
「その通りだぜ!ヒャヒャヒャ!」
「出てけ出てけ!この町から消え失せろ!!」
そう言って私達にも酒瓶を投げてくる客共。小物臭ぱない。
「ハッハッハッハッハッ…おいベラミー!店中が「ショー」を希望してる様だぜ?」
「ハハッ…そりゃお安い御用だ…!ハハッハハア!!」
「ルフィ!ゾロ!イリスも!約束はもういいから早くあいつらブッ飛ばして!!」
お、ナミさんからOK出た!
よーし、とミキータから離れて腕をぐるぐる回すと、ルフィから私とゾロに声がかかる。
「イリス、ゾロ。…このケンカは、絶対買うな」
「え?…がっ…!?」
「イリス!!」
ルフィの言葉がいまいちよく分からず硬直すると、横からベラミーではない別の誰かに蹴り飛ばされた。
くそー、あれか!?こんな海賊って呼ぶ事すら勿体ないような奴らのケンカを買うってことは、自分達も同じレベルに成り下がるって事だから買わないってこと!?…高みを目指すルフィからすれば、こんな奴らのケンカを買ったなんて汚名にしかならないって事か…!
「っもう…わかったよルフィ、ただし後で美女探し手伝ってよね」
「おう、わりィ…ッ!?」
ルフィも正面のベラミーに蹴り飛ばされて壁まで吹っ飛ぶ。
ゾロも近くの奴に頭を掴まれて床に叩きつけられた。
それからもリンチは続く。女性陣には攻撃が届いてないから良かった…。ああ…痛い…けどなんだろう、思ってた程ダメージ無いというか…。もしかして、倍加の限界上がってる?ていうか私も女性なんだけど???
「あぐっ…!」
どっちにしろ反撃できないリンチに変わりはないんですけど!!
「イリス!!…!ちょっとあんた達ねぇ!」
「ナミさん!私は大丈夫だから…っ、下がってて!」
「ハハハ、そうだぜお嬢ちゃん、利口だぜコイツら。敵わねェ敵と悟ったのさ…強ェ者に立ち向かわねェ…みっともねェ決断だがな…!」
「そうだぜ、サーキースの言う通りだ!せっかくのショーなんだッ!引っ込んでな!」
その時、1人のベラミー海賊団が酒瓶を投げた。
そいつに当てる意思があったのかは知らないけど、それは真っ直ぐに…真っ直ぐにナミさんの頭へと吸い込まれる様に飛んでいき…。
ガシャンッ!!
「いっつ……、あ」
「あ」
「あ」
「あ」
ルフィが、ゾロが、ミキータが、そして酒瓶を当てられたナミさんまでもが思わず声を漏らしていた。
ルフィは顔から汗を大量に流して、ゾロは視線を落ち着かなく彷徨わせ、ミキータはナミさんを後ろに下げて血の出てる頭の止血を始めてる。
ただ、私以外の一味はみんな思う事は1つだった…。
『あ、あいつら死んだ』